【ラブライブ!】にこにーは激怒した
- 2020.04.20
- 雑談

にこにーは政治がわからぬ。ついでに言えば経営もわからず法律もわからず微分積分もままならない。
しかし、自分以外の阿呆については人一倍敏感だった。
その日の朝、にこにーは久方ぶりの学校へ赴いていた。今日から三年生である。
理事長「廃校になります!」ドンッ!
にこにー「zzz……」
にこにーは阿呆であった。最上級生の余裕をその小さな体躯に漲らせ、よだれを垂らしてにこにーは堂々と居眠りをする。
委員長「矢澤さん、起きて。朝会終わったよ」
にこにー「にこ?」
衝撃の朝会が終わりを迎えた。
にこにーを起こしたのは委員長(ニックネーム)だった。黒ブチ丸メガネに三つ編みおさげを垂らした女生徒である。
委員長「ちゃんと理事長のお話聞いてた?」
にこにー「もちろんにこ」
堂々と嘘を吐くその目に迷いはなかった。人のいい委員長(ニックネーム)はあっさりと信じる。しみじみと、
委員長「大変なことになっちゃったよねぇ」
にこにー「にこもそう思うにこ」
委員長「まあ来年卒業しちゃう私たちには関係ないけどね」
にこにー「関係ないにこ」
委員長が去っていき、にこにーもようやく周囲のざわめきに気がついた。
にこにー「ちょっと待つにこ。なにかあったにこ?」
モブ「聞いてなかったんですか?」
にこにー「にこ」
モブは珍獣を捕えたかの様な目をした。口元のよだれの跡に戦慄する。
モブ「こ、この学院は廃校になってしまうのです」
モブ「入学希望者の数が足りないのです」
にこにーは息を飲んだ。そんなことがあるのだろうか。にこにーは疑問をぶつける。
にこにー「東京なのににこ?」
モブ「そうなのです。首都ですが、人が足りないのです」
にこにー「国立なのににこ?」
モブ「そうなのです。国立ですが、だれも受験しようとしないのです」
にこにー「共学化はできないにこ?」
モブ「そうなのです。理事長の手腕が足りないのです」
にこにー「なんて愚かな理事長にこ!」
にこにーは激怒した。自分の阿呆を棚に上げ、理事長の愚かさに怒りを震わせる、正義の心だった。
にこにー「呆れた理事長にこ! 生かしておけないにこ!」
単純な女であった。にこにーはなんの策も練らずにひょこひょこ理事長室へ乗り込んでいく。
しかしそこには、一騎当千とも謳われることりロボの警備が!
(・8・)「なにやつちゅん!」
にこにー「やめてにこ! 離すにこ!」
(・8・)「おとなしくするちゅん!」
うぃーん、がちゃん。がちゃがちゃ。
にこにーは呆気なく捕えられ、理事長の前へ突き出されてしまった。
にこにー「にこの名前はにこにーにこ。貴様を倒す者の名前にこ」
(・8・)「こやつ、懐にボールペンを仕込んでいたちゅん!」
理事長「むむっ!? キミ、このボールペンでなにをするつもりだったのですか! 言いなさい!」
にこにー「生徒たちを愚かな理事長の手から救うにこ!」
理事長「ふん。キミがですか?」
理事長は嘲笑した。
理事長「仕方のない子ですね。キミには学院経営の難しさがわからないのです」
にこにー「にこにこにこ!」
にこにーは怒りをあらわにした。
にこにー「よくわからないけど、多分間違ってるにこ!」
阿呆であった。
理事長「私だって努力をしているのです。廃校を阻止するために」
にこにー「結局廃校になるのに、なにが努力にこ」
理事長「ぐぬっ」
にこにーは続ける。
にこにー「東京で国立の高校なんて、廃校にする方が難しいにこ」
理事長「……うぐっ」
にこにー「素人に任せたほうがよっぽどいいにこ」
理事長「ふぇ……」
にこにー「ホントに無能にこ」
理事長「ふぇええ……」グスッ
にこにー「義務教育からやり直したほうがいいにこ」
( ;・8・)「やめるちゅん! 理事長が泣きそうになってるちゅん!」
理事長「ええいもう我慢なりません! 補習です! キミはこれから一年間、放課後に補習を課します!」
にこにー「にこっ!?」
理事長「謝ったって許してあげませんからね!」
にこにー「ごめんなさいにこ! 許してほしいにこ! ちょっとした冗談にこ! 廃校を阻止できるのは理事長しかいないにこ!」
にこにーにプライドはなかった。
理事長「許しません! 早速今日から補習です!」
にこにー「にこぉっ!?」
そんな馬鹿な。今日は放課後にアイドルのライブがあるのだ。にこにーは暴れた。
にこにー「せめて今日だけは許してほしいにこ! 靴も舐めるにこ!」
(・8・)「やめるちゅん!」
理事長「なぜ今日にこだわるのですか」
理事長は静かに訊いた。
にこにー「姉の結婚式があるにこ。ぜひ参加したいにこ」
外道である。
理事長「む、それは本当ですか」
にこにー「子供のときから仲の良かったお姉ちゃんにこ。晴れ姿にこ。とても嬉しいにこ」
理事長「むむむ、それならば仕方ありません」
理事長は純情であった。近頃は涙腺も弱くなり、ちょっとしたドラマで涙ぐんでしまうのだ。
にこにー「そんなことしないにこ。にこにー嘘つかないにこ」
理事長「念のためです。身代わりに友人を置いていってもらいましょう」
ピクリとにこにーの身体が動く。友人、友人、友人…………。
…………。
理事長「どうしましたか?」
にこにー「色とりどりで迷うにこ」
理事長「友人が多いのはいいことです」
にこにー「じゃあ、生徒会長を置いていくにこ」
理事長「生徒会長とも友人なのですか?」
にこにー「にこ。長瀬絵里にこ」
理事長「ふふふ、名前を間違えていますよ。おっちょこちょいですね」
理事長はピュアであった。
理事長「しかし、一人では足りません」
にこにー「なら、委員長も付け足すにこ」
理事長「委員長とも友人なのですか?」
にこにー「にこ。名前は忘れたけど、友人にこ」
理事長「ふふふ、名前を忘れるなんておっちょこちょいですね。しかし、二人でもまだ足りません」
にこにー「なら、出血大サービスにこ。クラスメイト全員を差し出すにこ」
理事長「クラスメイト全員と友人なのですか?」
にこにー「もちろんにこ。にこにーは人気者にこ」
堂々と嘘を吐くその目に迷いはなかった。
理事長「ならばいいでしょう。お姉さんにはお祝い申し上げます。行ってきなさい」
にこにー「にこ! 理事長は世界で5番目くらいに優秀な人にこ!」
しかしクラスメイトたちには事情がわからぬ。
理事長「あなた方は矢澤さんの身代わりなのです」
絵里「どういうことでしょう」
絵里が代表して訊いた。
理事長「彼女は今、姉の結婚式に出ているのです」
絵里「ふむ……」
集団がざわついた。顔を見合わせ、何事かを囁きあっている。理事長は不安になって、
理事長「みなさん、どうしたのですか?」
絵里「理事長」
絵里が代表して言った。
絵里「我々は、彼女の友人ではないのです」
理事長「むむっ!?」
絵里「それに、彼女に姉はいません」
理事長「ななななな!? それはどういうことでしょう!?」
絵里「おそらく彼女は、戻ってきません」
理事長「!?!?」
理事長は泣き崩れた。
絵里「用が済んだのならば、我々はもういいでしょうか。授業があるのです」
返事を待たず、生徒たちは理事長室を出て行ってしまう。残されたのはことりロボ、そして理事長だけだった。
(・8・)「そんなことはないちゅん。理事長は頑張っているちゅん」
理事長「しかし、生徒にはこうして嘘を吐かれてしまうのです」
(・8・)「信じる心に罪はないちゅん」
理事長は政治がわからず、教育も経営もわからず、それでも必死に努力してきたのだった。
しかし、人の悪意には人一倍鈍感であった。
理事長「いいえ、信じる心は悪なのです。疑うのが正当な心構えなのです」
理事長の頬に悲しげな笑みが浮かぶ。
理事長「人間はもともと、私欲の塊です。信じてはならないのです」
(・8・)「理事長……」
理事長「だれも、私の孤独を理解することはできないのです……」
(・8・)「そんなことはないちゅん!」
理事長「ことりロボ……」
(・8・)「なにがあっても、トッリだけは理事長の味方ちゅん」
理事長「……ことりロボぉ!」ボロボロ
理事長は呻いた。ことリロボのガチャガチャした胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
美しき、一つの愛の姿であった。
理事長「……無論、矢澤さんを捕まえるのです」
理事長の目には穏やかならぬ光がぎらぎらとぬめり輝いていた。
理事長は激怒していたのである。必ずやかの邪智暴虐の阿呆を除かねばならぬ。
理事長「ことりロボ、彼女を引っ捕らえるのです!」
(・8・)「了解ちゅん!」
ことりロボは走り出した。廊下に山と積まれた段ボールを蹴散らし、昇降口で靴を履き替えている生徒たちを押しのけ、正門を突き破って校外へ出た。
しかし、そこににこにーの姿はもはや影も形も見えなかった。ああ、ことりロボよ、なんと情けない。私は我が主、理事長のために一人の阿呆を捕まえることも出来ぬのか?
いいや、まだだ。
ことりロボは再び駆け出した。まだ遠くへは行ってないはずだ。まだ間に合うはずなのだ! ことりロボは昇りゆく太陽の十倍速く走った。
にこにー「やめるにこ! 離すにこ!」
じたばた。
にこにーはあっさり捕まった。
(・8・)「おとなしくするちゅん」
にこにー「にこーーーーーーーーー!!!」
その日を境に、理事長はガラリと変わった。人を信じられぬようになったのだ。
教師「理事長、これくらいは大目に見てもよいのではないですか?」
理事長「いいえなりません。廊下は走ってはならぬと決められています」
教師「理事長、そう頻繁に荷物検査はしなくてもよいのではないですか?」
理事長「いいえなりません。なにを持ち込んでいるか分かったものではないのです」
教師「理事長。スカートの丈もここまで長くなくともよいのではないですか?」
理事長「いいえなりません。風紀の乱れは心の乱れですから」
恐怖政治であった。
にこにーの阿呆が引き起こした、音ノ木坂騒乱の時代である。
(・8・)「…………」
理事長「人を信じるのは、悪なのです。恒久の平和は、恐怖によってしか支配できないのです……」
(・8・)「理事長……」
理事長の顔に、最早表情は浮かんでいなかった。もう百年も前に死に時を逃した、泥亀のような疲れを身に宿していた。
理事長の魔の手が少しずつ音ノ木坂を侵食してゆく。
誰もが疲れ果てていた。
誰もが、その学院の腐敗を止めようとしなかった。緩やかな破滅に向けて転がり落ちようとしていた。
ーー彼女を除いて。
穂乃果「もう我慢できないほの! 理事長は愚か者ほの!」
三馬鹿のカルマを背負いしアホ勇者が、今、立ち上がる。
次回 「穂乃果は激怒した」
~~~第一部、完!~~~
注 続きません
続き希望やで
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