【ラブライブ!】まきちゃんとピアノとμ’s
- 2020.04.30
- 雑談

まきちゃん「……」
まきちゃん「いるんでしょ?」
「あっ。えへへ、バレちゃった」
まきちゃん「穂乃果は静かにしててもわかりやすいのよ」
「まきちゃんにとって、穂乃果は存在感が強いってことだね?」
まきちゃん「強いというより、大きい──かしら」
「おお、尊敬されてるんだ。嬉しいなあ」
まきちゃん「デカい、とも言うわね」
「……あれ、その言い方だと嬉しくない」
まきちゃん「わたしにとって、穂乃果はデカいわ」
「バカにしてない?」
まきちゃん「あなたは自分のデカさを自覚してないからそう感じるだけよ」
「大は大でも、偉大とか雄大とかさ、言い方があると思うなー」
まきちゃん「いいえ、それらは穂乃果に似合わない。穂乃果はデカいのよ」
まきちゃん「いいのよ、それがわたしだもの」
「でも、良かった」
まきちゃん「何が?」
「μ’sを忘れないでくれてた」
まきちゃん「……忘れられる訳がないでしょ」
「まきちゃんが弾いてくれなかったら、穂乃果は気付かなかったよ」
「やっぱり好きだなあ、まきちゃんの音」
まきちゃん「……ただの音よ」
「ううん、まきちゃんの音」
まきちゃん「音で人がわかるなんて、変態的な音感なのね」
「ひどい! こう見えても穂乃果はね、音だけは常に聴き逃さなかったんだよ!」
まきちゃん「じゃあ──この音は?」
「……『ファ』?」
まきちゃん「『ラ』よ」
まきちゃん「どういう音?」
「えっとね、人と人を繋ぐ音!」
まきちゃん「……繋ぐ音?」
「これだけは、ちっちゃい頃からずっと聴いてきたからわかるんだ」
まきちゃん「あまりにも抽象的じゃない?」
「まきちゃんだって──ううん。まきちゃんこそ知ってるはずの音だよ」
まきちゃん「穂乃果って、結構スピリチュアルなのね」
「またバカにしてる!」
まきちゃん「人と人を繋ぐ音が存在するのなら、世界はもっと平和になってるでしょ」
「平和だったよ、少なくとも穂乃果の──μ’sの世界は」
まきちゃん「……そういう話、苦手だわ」
「簡単に言うと、歌って踊って笑える世界は素敵だねってこと!」
「そして、そんな世界は確かにμ’sの中にあったってこと!」
まきちゃん「……なにそれ、」
まきちゃん「……うん、わかった」
「お、わかってくれた?」
まきちゃん「穂乃果は本当にデカい人ね」
「わかってない!」
まきちゃん「わかったってば」
「さっき弾いてた曲だって、正にその音なのに……」
まきちゃん「穂乃果とわたしの音感はすれ違いが生じてるのよ、きっと」
「馬鹿と天才は紙一重──って奴?」
まきちゃん「どっちがどっちなのかしら」
「もー。まきちゃんは素直じゃないから、穂乃果が気付かせてあげる!」
「ほらほらもっかい弾いて、『愛してるばんざーい!』」
まきちゃん「はいはい」
「あー、あー。久しぶりだなあ、声出せるかな……」
まきちゃん「あなたが歌いたいだけじゃない」
まきちゃん「……」
まきちゃん「綺麗なハミングね」
「おや、聴かれていましたか」
まきちゃん「聴かれていた──って立場は、本来わたしの方じゃない?」
「私の鼻歌とは違い、まきの音は聴かせる音ですからいいんです」
まきちゃん「海未まで、わたしの音とか言うのね」
「海未まで、とは?」
まきちゃん「なんでもない」
「……馴染み深い音が耳まで届くと、次の瞬間には詩が漏れてしまいそうなんです」
まきちゃん「だからハミングで我慢?」
「ええ。鼻歌だとしても、これは礼節を弁えていない癖ですね」
まきちゃん「別にいいじゃない。曲が流れれば、勝手に歌うし勝手に踊りもする連中揃いなんだから」
「いや、しかし……。良いのでしょうか、マラカスを振っても……」
まきちゃん「それは、まあ、海未も振りたいなら振れば良いと思うわ」
まきちゃん「その気持ちは、今なら少しわかる気がする」
「ふふ。まきは、出来あがった私の歌詞を一番に歌い上げてくれましたね」
まきちゃん「だって、そりゃそうよ。作曲はわたしにしか出来ないことだったもの」
「最初は戸惑い、恥ずかしながらも──徐々に楽しくなっていったことをよく覚えています」
「いや──忘れられない、と言った方が正しいでしょうか」
まきちゃん「……たまに思うの。ビジネスライクに接していたらどうなっていたか、って」
「初期の作曲勧誘をお断りしていた時のように?」
まきちゃん「そう。そしたら、忘れられない過去から、忘れたい過去になっていたのかしら」
「そうですね。普通の人や普通の団体なら、切り捨てるべき記憶として扱っていたかもしれませんが……」
「それでも私達は、まきの手を取っていたと思います」
まきちゃん「あの時の私はアイドルなんてどうでもいいと考えていたわ」
まきちゃん「そんな私がμ’sをやめると言い出した──としても?」
「ええ。たとえそのような状況でも、まきと真摯に立ち向かっていたでしょう」
「やはりまきは必要な人でしたから」
「私はいつだって真剣ですよ」
まきちゃん「その真剣──でもあるけど」
まきちゃん「わたしが言いたいのは、刀の真剣を人の形にしたような人だってこと」
「なるほど。真剣、真剣……」
まきちゃん「嫌な表現だった?」
「いえ。極力、鋭さを武器にしたくはないので、刀身を納める鞘が欲しいな、と」
まきちゃん「……」
「あ、何か間違っていましたか?」
まきちゃん「ううん、全然」
まきちゃん「海未なら別の時代でも暮らしていけそうね」
「……貶してはいませんよね?」
まきちゃん「海未って、わたしにしては全力で褒めちぎれる数少ない人物なの」
「まきの全力というのは、作曲以外だと非常に分かり辛くて敵いません……」
まきちゃん「それだけわかってくれれば充分よ」
まきちゃん「どれ?」
「貴方がたくさんの想いを奏で、私がたくさんの想いを込めること」
「そのように繰り返された毎日が楽しくて楽しくて、あまりにも素晴らしかった青春を──」
「忘れられない、という表現でさえ、適切ではありませんでした」
まきちゃん「ええ。たぶんわたしも同じことを考えてる」
「……忘れたくないんです」
まきちゃん「そして、忘れられたくない」
「せめて私達だけでも、最後の時まで覚えていましょうね」
まきちゃん「もちろんよ」
「では、遠い先の時代に届くように、私達の音をもっともっと残していきませんか?」
まきちゃん「……つまり?」
「もう一度『START:DASH!!』を弾いてください」
「忘れたくもないあの日の三人へ、今こそ言葉を綴りたいのです」
まきちゃん「うん、付き合ってあげる」
まきちゃん「……」
まきちゃん「ねえ、楽しい?」
「うん、楽しいよ。まきちゃんは?」
まきちゃん「私は……、ちょっとこそばゆいわ」
「あ、ごめんね。もう少し優しく触るね?」
まきちゃん「……その、わたしの髪をいじるの、やめるって発想はないの?」
「うーん……」
まきちゃん「ないのね」
「ピアノを弾くまきちゃんはとっても綺麗だから、もーっと綺麗にしてあげたいなーって」
まきちゃん「あなたの手を借りなくても美貌は足りてるから平気よ」
「んー。じゃあ、やめた方がいい?」
まきちゃん「いや、別に、そうじゃなくて……」
「ダメ?」
まきちゃん「……ことりはずるいわ」
まきちゃん「ずるいわよ。普通のピアニストなら、演奏中に触られた時点で激怒してるもの」
「そっか。それなら、怒られないようなフェザータッチを心掛けるね」
まきちゃん「ことりのバカ」
「ふふ、怒られちゃった」
まきちゃん「ことりはわたしが嫌いなの?」
「んーん、大好きだよ」
まきちゃん「……咄嗟に聞いてしまったことを後悔したわ」
「わたしはね、みんなが大好き」
「大好きなみんなが笑顔でいてくれたら、わたしは幸せになれちゃうな」
まきちゃん「それもずるい」
「ええっ、何がずるいの?」
まきちゃん「ことりは優しすぎるの。いつも自分を差し置いて、人のことばかり気にして」
「……プライドがない、って?」
まきちゃん「有り体に言えばそういうこと」
まきちゃん「本当にそう思ってる?」
「海未ちゃんにもよく言われるもん、ことりはずるいですーって」
「……でもね、プライドって呼ぶのかはわからないけど、わたしは『ことり』も大好きなんだよ」
まきちゃん「よく、わからないわ」
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんの背中を追って、みんなに出会って、いろんなことがあったよね」
「そうしてみんなと触れ合っていくうちに、『ことり』は出来上がっていったの」
まきちゃん「……まるで人格形成みたいに」
「うん。わたしはみんなに支えられて生きてきて、支えられると嬉しくなることを知っているから──」
「大好きでいられる自慢の『ことり』を育ててくれたみんなに、精いっぱい尽くしてあげたいんだ」
まきちゃん「……ねえ、ことり」
「なーに?」
まきちゃん「プライドだらけのわたしに出来ないことを、ことりはずっとやり続けてきたのね」
まきちゃん「プライドがない、なんて言ってしまって、ごめんなさい」
「ううん。まきちゃんは自分が気付いていないだけで、人に優しくしていたこと──わたしは知ってるよ」
「うん」
まきちゃん「ことりに髪を梳かされるの、別に嫌いじゃないから……」
まきちゃん「……お願いしてもいい?」
「うんうん! 任せて任せてっ」
「……なんだかね、うまく言えないんだけど、まきちゃんの髪って触りやすくて、懐かしい感じがするの」
まきちゃん「懐かしい感じ?」
「なんだか昔もこんな風に──あっ」
「ねえまきちゃん、さっきは途中で終わっちゃったから、また弾いてくれるかな」
まきちゃん「……え、またこの状態で?」
「昔を思い出してたら、あの頃みたいに歌いたくなっちゃった。えへへっ」
まきちゃん「いや、だから、触られてると集中力が──」
「『Wonder zone』♪」
まきちゃん「みっ、耳元で歌わないでっ!」
まきちゃん「……はぁ。ことりはずるいわ……」
まきちゃん「……」
まきちゃん「踊るのは構わないけれど、わたしの視界外でやってくれない?」
「あっ、どうして止めちゃうのよ。サビにすら入ってないじゃない」
まきちゃん「思わず手を止めてしまうほどの華麗なステップを見せつけられているからよ」
「今まで散々やってきたことじゃない。今更、何を皮肉めいてるの」
まきちゃん「だって……──ふふ、ずっと真顔で静かに踊ってるんだもの。気にならない方がおかしいわ」
「じゃあ、何よ。笑顔で踊れって言うの?」
まきちゃん「それはそれでシュールだけれど。ふふふっ」
「もう、そんなに笑わなくたっていいでしょ」
まきちゃん「絵里だから面白いのよ」
「……お家に帰らせてもらいます」
まきちゃん「別に嘲ている訳じゃなくて、あの時とまるで変わらないステップを踏んでいるから──」
まきちゃん「その凄さに笑ってしまうの」
「ほんとかしら。全てが皮肉に聞こえるわ」
「……そう? 身体が覚えていただけよ」
まきちゃん「それだけに、真顔の一点張りがどこか浮いていて……。くふ、ふふ」
「また笑ったわね、次は罰を設けてやるんだから」
まきちゃん「さすがに失礼ね、ごめん」
「……まあ、でも、そうね」
「笑顔を維持して踊るのは、今では確かに難しいかもしれないわ」
まきちゃん「技術として?」
「技術──ええ、そういった意味でも難しいと感じるようになったかも」
まきちゃん「それとも情熱を失ったの?」
「情熱──それは未だにあると思う。本気でやろうと思えば出来ることだから」
まきちゃん「なら……、楽しくない、とか」
「いいえ。楽しくないなんてことは、絶対に有り得ないわ」
「心の底から──楽しく身体を動かせる自分自身を、誇りに思ってる」
まきちゃん「だったら、絵里は今でも笑顔で踊れるんじゃないの?」
「ドームの中央で出したありったけの笑顔を、今ここに持ってきてはいけないような気がして……」
まきちゃん「まだまだ不器用ね、絵里は」
「あら、まきほどじゃないと思うけど?」
まきちゃん「似たり寄ったりでしょ」
「……子供の頃のまきは、ピアノを弾いていて楽しかった?」
まきちゃん「ええ、コンクールで一位を取れた時は最高に楽しかったわ」
「でも、二位だと途端につまらなく感じなかった?」
まきちゃん「……二位でも良かった時もあるけれど。そりゃあ一位でないとね」
「私のバレエもそうだったの。とても厳しい世界で、優勝の二文字以外は意味がなくて……」
「最後には楽しくなくなったから、挫折して……。そうしている内に、スクールアイドルの世界を知った」
「コンクールと同じように一位の目標こそあっても、私達のやりたいことを素直にやらせてくれる素敵な世界だった」
まきちゃん「わたしは音楽。絵里はダンスを、ね」
「そして何よりも、私の踊りは元より」
「お祖母さまのように、踊る私を見てくれる人が大勢いること──それが一番嬉しかった」
「楽しく踊ること、廃校阻止、ラブライブ優勝」
「それら全てを一気に叶えてしまって、笑顔で踊る私を見てくれる人がいなくなってしまったから……」
まきちゃん「絵里……」
まきちゃん「……ふふ。絵里ったら力説しちゃって、本当に不器用なんだから。くふふっ」
「あ! 笑った! 三度目よ、三度目!」
まきちゃん「いいわ、絵里。存分に踊って」
まきちゃん「最高の奏者が贈る、最高の伴奏を付けてあげるから」
「……笑わない?」
まきちゃん「一緒に笑ってあげる」
「それがもしも嘲笑いだったら、ジュース奢らせるわよ」
まきちゃん「逆に絵里が笑えなければ、あなたの奢りね」
「……受けて立つわ」
「思い出の『僕らのLIVE 君とのLIFE』をお願い。今度は最後まで」
まきちゃん「ええ」
まきちゃん「……」
まきちゃん「……ちょっと、にこちゃん」
「みんなー! 今日はプリティーニコニーのために集まってくれてありがとー!」
まきちゃん「にこちゃんってば」
「全力全開でっ、キュートでラブリーなニコニーをお届けしますニコーっ! それじゃあ聴いてね、『KiRa-KiRa Sansa」
まきちゃん「大銀河宇宙ナンバーワンアイドルさん!」
「あ、ツリ目の音響さん。しっかり演出してくれないとニコニー困っちゃうニコよ?」
まきちゃん「誰が音響さんよ。演奏の邪魔になるからあっち行ってて」
「え? ニコニーのパフォーマンスを見たくて曲を弾いてくれてたんじゃないの?」
まきちゃん「そんなわけないでしょ!」
「もーう、せっかくまきちゃんだけに激レアニコニーの姿をお披露目しようと思ったのにぃ」
まきちゃん「見たくもないわよ、そんな気持ち悪い姿」
「ぬぁんですってぇ!? ……あ。……ま、まきちゃんったらヒドいニコ!」
まきちゃん「結局ブレてるし……」
まきちゃん「よく言うわ」
「まきちゃんの方こそブレてるんじゃないの~?」
まきちゃん「どこをどう見たらそうなるのよ。至って普通のわたしでしょ?」
「ふーん。そう思いたいならいいけどね」
まきちゃん「はっきり言ってよ」
「じゃあ一言だけ」
「何か迷ってるんじゃない?」
まきちゃん「──え?」
「はい、ニコニーの一言コーナーはおしまいニコ!」
まきちゃん「迷ってるって何? わたしが? 何を迷ってるの?」
「うーん、一体なんなのかしらねぇ」
まきちゃん「なにそれ。教えなさいよ!」
「そう言われたって、あくまで私にはそんな風に見えたってだけだもん」
「迷いがあるのかないのか、知ってるのはまきちゃんだけなんだから」
「ま、天才的な頭脳とやらでしっかり考えることね」
まきちゃん「い、いちいちうるさいわよ! この役立たず!」
「なっ、役立たずって何よ!」
まきちゃん「勿体ぶった言い方して、偉そうにして、不安を煽ってばかりで!」
「はぁ!? まきちゃんが苦しそうにしてたから、ここに来てあげたんでしょ!?」
まきちゃん「く──苦しくなんかないし、誰も頼んでないわよ!」
「……それならどうして哀しげにピアノを弾いてるのよ」
「どうしてまきちゃんはμ’sの曲を弾き続けてるの?」
まきちゃん「……そんなの、わたしの勝手じゃない」
「……あっそ」
「ニコニーは宇宙一かわいいアイドルを目指しているから、かっこいい言葉は投げかけてあげられない」
「自分でどうにかするの。それがアイドルの世界よ」
まきちゃん「見栄っ張りで意地っ張りのにこちゃんに言われたくないわ」
「ぐ、ぐぬぬ。素直じゃないニコねぇ……!」
まきちゃん「にこちゃんだってにこちゃんの癖に……」
「はーぁ。最後までソリが合わなかったわね、まきちゃんとは」
まきちゃん「……ふん」
まきちゃん「わたしは──迷いの答えが見つかるまでピアノを弾く。思うがままに弾き続けてやるんだから」
「そうしたいならそうしなさい」
「ニコニーは──ファンの声援に応えなくちゃいけないニコ!」
まきちゃん「はいはい。さよならにこちゃん」
「みんなが待ってるわよ、音響さん」
まきちゃん「誰が音響さんよ……」
「アンコールの続きと、あなたの帰りをね」
まきちゃん「……イミワカンナイ……」
「──がんばんなさいよ」
「おやすみ、まきちゃん」
まきちゃん「……」
まきちゃん「……」
まきちゃん「……どうだった?」
「うん、やっぱり何回聴いても良い曲」
「9人の気持ちがギュッと詰まってるんやから、当然やね」
まきちゃん「……そう」
「んー。ウチのお墨付きなのに、なんだか不服そうやん?」
まきちゃん「これで正しいのかどうか、自分ではわからなくなってきたのよ」
「正しい曲に聴こえたよ? 音だって一つも外してへんし」
まきちゃん「そうじゃなくって……」
「まきちゃんがみんなを大事に想ってくれてること──」
「ウチには充分に伝わってきたけど、それでも正しくないん?」
まきちゃん「……だって、わたしは」
まきちゃん「後ろばかり気にして、前を向いていない気がするの」
「まきちゃんにとって、それは正しくないことなん?」
「そやなぁ。たとえば、ウチやったら」
「後ろに神様がいる──と思うことにする」
まきちゃん「神様?」
「胡散臭いお話になるかもしれんけど。神様っていうのはどこにでもいるんよ」
「人が大好きだから、良い神様も悪い神様も、人の周りを憑いて回ってて」
「いつまでも後ろから見守ってくれてるん」
まきちゃん「……」
「お、正に『胡散臭い』って考えてる時の顔。絶好のシャッターチャンスや」
まきちゃん「撮らないで」
「ふふ。そんな風に神様がいてくれたら、ウチは手を合わせてお祈りするよ」
「後ろに憑いてくれててありがとう、って」
「その行為が正しいかどうかは置いといて、人間なら一度は神様に感謝するものやん?」
まきちゃん「悪い神様かもしれないじゃない」
「いいんよ、悪い神様でも」
「良い神様が、人を守ることで記憶に残ろうとしているなら」
「悪い神様は、人にちょっかいをかけて記憶に残りたがってるんやと思う」
まきちゃん「そんな神様にも感謝するの?」
「うん、ウチはね。人生は山あり谷ありやから」
「まきちゃんの人生もいろいろあって、今のまきちゃんがいるんやし」
まきちゃん「……確かにそうだけど」
「……ウチがずっと親友を作れなかったのは、悪い神様の仕業だとしたら」
「8人の親友と出逢わせてくれたのは、良い神様のおかげなんやないかな」
「平坦な人生よりも、山あり谷ありの人生を送らせてくれた神様を──ウチは忘れない」
まきちゃん「……希って」
「スピリチュアルやろ?」
まきちゃん「さ、先読みしないでよ」
「考え過ぎも良くないし、考えなさ過ぎも良くない時」
「たまにはスピリチュアルに身を任せてみるのも悪くない方法やよ?」
まきちゃん「今は少しだけ神様に感謝して……」
まきちゃん「それから前を向いてみようと思う」
「うんうん、たっぷり感謝してな。この──のんのん大明神に!」
まきちゃん「ええ、希にもね」
「あらら、ウチのボケがスルーされてもーた」
まきちゃん「ううん、忘れてなんかいないわ」
まきちゃん「希は9人を繋ぎ合わせてくれた女神様でしょ?」
「……あ、改めてツッコまれると、照れるやん」
まきちゃん「──やっぱりわたしはμ’sの曲を弾きたい」
まきちゃん「友達思いの希に、また聴かせてあげてもいいかしら」
「もぉ。やめてよ、その言い方」
まきちゃん「ふふふ。わたしも好きよ、この曲」
「うん。『Snow halation』は9人の曲やから」
「ウチは大好き」
まきちゃん「……」
まきちゃん「ほんと、マラカス好きね」
「だってまきちゃんが弾いてるんだもん。そりゃあ振りたくなっちゃうよ」
まきちゃん「パブロフの犬じゃない」
「え、イヌ? 凛はネコの方が好きだよ?」
まきちゃん「そういう話じゃないわよ」
まきちゃん「凛は曲が流れるとマラカスを振り出す──つまり、条件反射が出来上がっているということ」
「えーと。それって、動いてるネコじゃらしに、どうしても反応しちゃうネコ──ってこと?」
まきちゃん「え? ……合ってるような、違うような」
「だったら凛はネコちゃんの方がいいにゃ!」
まきちゃん「……いや。そもそも、どうしてマラカスなのよ」
「んーと。シンバルはうるさいし、トライアングルは物足りないし、タンバリンはちょっと難しいし……」
「マラカスは簡単で楽しくて──そう! 楽しいから! 楽しいから凛はマラカス係!」
まきちゃん「うん、わかった。もういいわ……」
「──『そこに山があるから』──」
まきちゃん「……ねえ、それって」
「登山家の人は『そこに山があるから』って理由だけで山を登っちゃうんだって」
「不思議だよね。凛からすれば、大した理由や意味があるとは思えないんだけど……」
まきちゃん「なんで苦い顔をしてるのよ」
「……それは山好きの人に聞いてもらいたいにゃ」
「だから、たぶん凛も大した理由じゃないよ。マラカスを振るのは、まきちゃんの音がそこにあるから!」
まきちゃん「今のところ、わたしのピアノに反応してマラカスを振り始めるのは凛だけよ」
「ふーん。ってことは、みんなはリコーダーを吹いたり、カスタネットを鳴らしていたりするの?」
まきちゃん「……凛。さてはあなた、楽器の知識が小学校で止まってるわね」
「そ、そんなことないよ! ハーモニカとか、アコーディオンだって知ってるもん!」
まきちゃん「──って、ツッコむとこはそこじゃなくて!」
まきちゃん「他の人は凛のように楽器を持ち出したりしないの!」
「あははっ。まきちゃんのノリツッコミ珍しいにゃー」
まきちゃん「そうね。隠れてたり、ハミングを始めたり、わたしの髪をいじりだしたり……」
まきちゃん「踊ったり、アイドル気分になってたり、静かに聴いてくれてたり」
「……その中だと、凛は三番目くらいにまともな方だと思うにゃ」
まきちゃん「五十歩百歩よ」
「でも、まきちゃんの音ってスゴいんだね。これだけ人を動かす力があるなんて」
まきちゃん「ただ単に、落ち着きがない人ばかりだからでしょ」
「みんなまきちゃんの音が好きなんだよ、凛も好きだもん」
まきちゃん「……はいはい。ありがと」
「あ、照れてるー」
まきちゃん「凛こそ照れてるじゃない」
「えへへ。まきちゃんが凛とかよちんの友達でいてくれてね」
「本当にね、良かった」
「素敵な音を聴かせてくれて──ありがとう」
まきちゃん「……っ」
まきちゃん「凛らしくない言葉、使わないでよ」
「にゃっ!? り、凛らしくないってどういうことー!?」
まきちゃん「──わたしが一番使いたい言葉なんだから」
まきちゃん「凛と花陽が、友達になってくれて」
まきちゃん「本当に、本当に……」
「……うん」
まきちゃん「──……」
まきちゃん「や、やっぱりダメ。言わない」
「ええー!? 聞きたい聞きたい! 聞かせてよー!」
まきちゃん「……じゃあ、はい、代わりにこっちを聴かせてあげる」
「凛が聞きたいのは『きっと青春が聞こえる』じゃないにゃー!!」
まきちゃん「凛はずっとマラカスを振ってればいいの!」
「続き言ってー! まきちゃんまきちゃんまきちゃーん!」
まきちゃん「言わないったら言わない!!」
まきちゃん「……」
まきちゃん「ごめんなさい、付き合わせてしまって」
「大丈夫。まきちゃんの好きなように弾いていいよ」
まきちゃん「……いつもはすんなり弾けているのに、変よね」
「変、かな?」
まきちゃん「変なの。どうして途中で手が止まるのかしら、こんなことなかったのに」
「感覚を忘れちゃった?」
まきちゃん「むしろ覚えてるわ、覚えてるから弾けないことがおかしいの」
「……それなら、少し休憩する?」
まきちゃん「休憩って言ったって、疲れてる訳じゃないもの」
まきちゃん「弾けなくなったらと思うと恐いし、弾けるまで──」
「がむしゃらに繰り返して成功しても、きっと素直には喜べないと思うよ」
「だから今は落ち着いてみよう?」
まきちゃん「……ん」
「自転車に乗れた時のこと、覚えてる?」
まきちゃん「ええ。あなたに教わったんだから当然でしょ」
「どうやって乗れたか──それも覚えてる?」
まきちゃん「……あなたがいてくれたからに決まってるじゃない」
「ううん、もっともっと大切な理由」
まきちゃん「わたしにとって、それ以上の理由なんか……」
「まきちゃんが自転車に乗るために、絶対に失さなかったもの」
「それはね、まきちゃんの勇気」
まきちゃん「……わたしの?」
「出来ないことを出来るようにって、立ち向かっていく勇気を、まきちゃんは持ってるんだよ」
「出来ないことだらけのわたしだから──その勇気がわかるんだ」
まきちゃん「そんなこと、ないわ」
まきちゃん「出来るように見せかけて、本当のわたしは出来ないことばかり」
まきちゃん「あなたの方がよっぽどたくさんの勇気を持っているじゃない」
「でも。あともうひとつ、まきちゃんが見せてくれた一番の勇気を知ってるよ」
まきちゃん「も、もう褒め合いはいいわよ。恥ずかしいから……」
「ごめんね。最後に言わせて?」
「『花陽』って、自分から名前で呼んでくれたこと」
まきちゃん「────!」
「あれはね、名前で呼んでくれるようになったことも嬉しいんだけど」
「わたし達がよく知っているまきちゃんを、あの瞬間に初めて教えてくれたような気がして──」
「とても、とっても嬉しかったんだよ」
まきちゃん「……」
まきちゃん「……花陽」
「うん」
まきちゃん「ずっと、友達の名前を呼びたかったの」
まきちゃん「けれどわたしは呼べないままだった」
まきちゃん「こんなに、簡単な──はず、だったのに」
まきちゃん「わたしは、弱くて、花陽みたいに──強く、なくて……!」
「……泣かないで、まきちゃん」
「しっかり出来てるから大丈夫だよ」
まきちゃん「違うの。今だって、みんながいないと、わたし……っ」
「花陽も凛ちゃんも、みんなはいつでもまきちゃんの傍にいるから」
「まきちゃんは一人じゃないよ」
まきちゃん「花陽……」
「今ならきっと弾けるんじゃないかな」
「『僕らは今のなかで』。弾いてみて?」
まきちゃん「……」
まきちゃん「……ええ、わかった」
まきちゃん「ありがとう、花陽──」
「うん──」
「わたしの方こそありがとう、まきちゃん」
まきちゃん「……」
「今日は弾かないんだ」
まきちゃん「弾かない、みんなに会ってくるから」
「弾けばみんなが来てくれるのに」
まきちゃん「自分の足で会いに行くの」
「あれだけ怖がっていたじゃない」
まきちゃん「もう怖くないから平気よ」
「みんなは変わっちゃったかもしれないよ」
まきちゃん「わたしだって変わったけれど、変わらないものもあるわ」
「過去なんてどうでもいいって思われてるかも」
まきちゃん「そんなのありえない」
「バカにされる可能性だってあるんだよ」
まきちゃん「もっとありえないわよ」
「──クスクス、まきちゃんは後ろを振り返ってばかりだね──って」
「本当に?」
まきちゃん「みんなはわたしを受け入れてくれるわ」
「ピアノを弾くだけの弱虫なまきちゃんをバカにしない?」
まきちゃん「わたしはμ’sを信じてる」
「音で作り出した幻想に縋っていたまきちゃんなんかがμ’sを信じられる?」
まきちゃん「もちろんよ」
「素直になれる?」
まきちゃん「ええ」
「みんなが大好きって言えるの?」
まきちゃん「機会があればね」
「プライドが邪魔をしてきたら?」
まきちゃん「別に、プライドを引っ込ませたりなんかしない」
「どうして?」
まきちゃん「それもわたしだから」
まきちゃん「必ず受け入れてくれるに決まってるでしょ?」
「きっと怖いよ」
まきちゃん「何が怖いの?」
「受け入れてくれる保証はどこにもないのに」
まきちゃん「あなたはμ’sの何を見てきたの?」
「だって今と昔じゃ全然違うし」
まきちゃん「変わらないものもあるって言わなかった?」
「今から逃げたいよ」
まきちゃん「それでいいの?」
「前に進んだって何もないもん」
まきちゃん「みんなは待ってくれてるわよ?」
「追いつける自信がないよ」
まきちゃん「じゃあ、あなたは誰?」
「わたし──」
まきちゃん「西木野真姫に出来ないことなんてないのよ」
「みんなにたどり着けるかな」
まきちゃん「必ず追いついてみせるわ」
「ずっと前からみんなを見てきたもんね」
まきちゃん「ずっと前からみんなが好きだったもの」
「ピアノでまきちゃんを送り出してあげる」
まきちゃん「あなたに弾けるかしら」
「なんだって弾けるよ、パパにも認められたんだもん」
まきちゃん「そうね──『Music S.T.A.R.T!!』がいいわ」
「いってらっしゃい、まきちゃん」
まきちゃん「いってきます、真姫」
おわり
綺麗にまとまってて好き
中々に凝ってて楽しかったです
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