【ラブライブ!】海未「背高泡立は未来の花」
- 2020.03.29
- SS

ことり「はくしょん? それはどんなマカロンなの?」
穂乃果「やっぱりことりちゃんは知らないか。ハクション大魔王はね、マカロンじゃないんだよ。
海未ちゃんは知ってる?」
海未「ええ知っていますよ。くしゃみをするとツボから出てきて、願いを叶えてくれる魔法使いです」
ことり「えっ、そんなすごい人が実在するの?」
海未「実在の人物ではありませんよ。
小さい頃見ていました。突然どうしたんですか、そんな懐かしい漫画のお話なんて」
ことり「なんだあ。じゃあフィクション大魔王だね」
穂乃果「実はね、最近雪穂がハクション大魔王にハマっているんだ」
海未「ブームは繰り返し回っているといいますからね。
昔のよくわからないものが今流行っているのをみるところ、これは真実のようです」
穂乃果「私も一緒に見てたんだけど、それが結構面白いんだ。今度一緒に見ようよ」
海未「いいでしょう。少女漫画なんてものよりはよっぽど健全です」
ことり「少女漫画も、別に普通に健全だと思うけどなあ」
亜里沙「ハラショー! 間違えた、ハクション!」
海未「風邪ですか?」
亜里沙「それが、わからないんです」
海未「大変です。亜里沙ちゃんが未知の病に侵されてしまいました」
雪穂「なんだってそれは大変だ!
ところで海未さん、病にオカされるのオカって、どんな字でしたか」
海未「侵略の侵ですよ。病原体が体内に侵略してくるのです」
雪穂「なるほど覚えやすい。さすが海未さん」
亜里沙「日本語って、難しいよね。亜里沙、シンリャクのシンって言われてもよくわからない」
最近はもう、すっかり亜里沙ちゃんたちもアイドル研究部に馴染んできました。
いつものように、私たちは部室で異国情緒漂うカップに純和風の風味香るお茶を注ぎ、雑談を嗜みます。
ここでは、自分専用のカップを用意することが伝統になりました。
雪歩ちゃんや亜里沙ちゃんも、各々の専用カップを片手に、部室の卓につくのが様になっています。
この冒されるは、冒険の冒だよ」
亜里沙「ボウケン! アドベンチャーのことだね」
海未「それは冒涜の冒ですよ。病気は私のたちの体を冒涜しているのです」
雪穂「海未さんさっきと言っていることが違うよ。
結局、侵略の侵と、冒険の冒は、どっちが正しいんですか」
海未「どちらも、間違ってはいません」
雪穂「さては海未さん、わからないんだ」
海未「そんなことはありません! 私はちゃんと、わかっていますとも」
雪穂「じゃあ正解を教えてください」
海未「ですから、どちらも間違ってはいないのです」
雪穂「じゃあ、私たちはどっちを選べばいいの? どっちでもいいなら、どっちを選べばいいの?」
海未「好きな方を選べばいいんです」
海未「興味を持たないから、好きも嫌いもわからないのです。
まずは何事も興味を持つことです。亜里沙ちゃんのように」
亜里沙「シンリャクってなんのことかしら。きっとイソギンチャクの仲間ね。
病気って、イソギンチャクがアドベンチャーしているんだ。ハラショー!」
雪穂「亜里沙のようにって、あんな風にですか? それはちょっと難しいです」
海未「私たちが選ぶべきなのは、侵と冒ではなく、それを使い分けるか分けないか、なのです」
雪穂「難しいです」
私たちはもうすっかり同じ部の仲間として打ち解けていました。
しかしながら、私にはひとつだけ、気になっている点があります。
それは、わが部のもうひとつの伝統についてです。
確か一年前のちょうどこの時期に始まった試みでした。
亜里沙「先輩禁止、ですか」
雪穂「そんな、だって、先輩は先輩じゃないですか」
海未「私たちの間には、先輩も、後輩も、ないのです」
雪穂「でも海未さんだって、私たちにだけ、ちゃんをつけて呼ぶじゃないですか」
海未「それは……そうでした。では私もこれからは二人を呼び捨てにします」
雪穂「でも海未さんだって、いつでも誰にでも敬語じゃないですか」
雪穂ちゃんの言うとおり、私は誰にでも敬語でした。
そんな私が、先輩禁止と言ってもなんの説得力もないのは、当然のことでした。
私の力が及ばないばかりに、その場ではそれ以上先輩禁止について言及することができませんでした。
困った。ああ、こんなときに絵里がいてくれたら、きっとビシッと言ってくれるのに。
非力な私が、今選ぶべきなのは、先輩と後輩を使い分けるか分けないか、なのです。
今日は卒業式以来の部室の大掃除の日です。
練習はお預けにして、部員みんなで部室を整理します。
亜里沙「ハラショー! あ、間違えた、ハクション!」
穂乃果「きっと亜里沙ちゃん、誰かにうわさされているんだよ」
亜里沙「え、どうしてそんなことがわかるんですか?」
穂乃果「ふふふ。あのね、自分が知らないところで自分のうわさをされると、人はくしゃみが出るんだよ」
亜里沙「ええ! そうなんですか、それは一体どういう仕組みなんですか」
穂乃果「仕組みはわからないけど、そういうものなんだよ。人体の不思議だよ」
亜里沙「ハラショー!」
海未「穂乃果、バカなことを教えてはいけませんよ。亜里沙ちゃん、風邪はまだ治らないんですか」
亜里沙「それが、本当に不思議なんです。私風邪なんて引いてないはずなのに。
この季節になるといつもこうなんです」
亜里沙「え、海未さんこの謎が解けたんですか」
海未「はい。亜里沙ちゃんは花粉症なのでしょう」
亜里沙「花粉症? それって確か、春頃にあるんですよね、今は秋ですよ」
海未「秋花粉というのを、ご存知ないですか」
亜里沙「秋花粉?」
海未「読んで字のごとく、秋の花粉です。
春の花粉は主にスギ等のものですが、秋は別の植物の花粉が飛んでいるのです」
亜里沙「知らなかった。そうか、私は秋の花粉症だったのか。
海未さんありがとうございます! おかげで生まれてから今日までの謎が解けました」
海未「いいえ。そんな大したことではありません。お大事に」
海未「亜里沙ちゃんはなんにでも興味をもって感心します。
背高泡立草というキク科の植物です」
亜里沙「セイタカアワダチソウ? ふむふむ。長いのに不思議とすぐ頭に入る面白い響きですね。
まるでイソギンチャクみたいです」
海未「別名ブタクサとも言います。こちらのほうが短いので馴染みやすいかもしれません」
斯く言う私も、セイタカアワダチソウという不思議な響きに魅せられてしまいました。
セイタカアワダチソウ。セイタカアワダチソウ。
ああ、あなたは一体、どんな花を咲かせるのですか?
凛「はいはーい、お喋りしてないで手を動かして」
穂乃果「凛ちゃんだって、さっきまで奥から出てきた古雑誌読みふけってたクセに」
凛「そんなことないにゃー」
穂乃果「嘘だ嘘だ、私見てたよ」
凛「部長と副部長がナントカカントカで不在の今、リーダーである凛がしっかりしないと。
古雑誌に気を取られるなんてそんな。凛はちゃんと見事にみんなの指揮をとってたよ」
穂乃果「私だって先代リーダーとして言わせてもらうと、リーダーというのはみんなの指揮をとる人じゃない。
率先して行動する人のことだよ」
リーダーと元リーダーが言い合いをしているうちに一年生はテキパキと部室を片していきます。
率先して動く人がリーダーだと言うのなら、雪穂ちゃんか亜里沙ちゃんあたりに変わってもらいたいです。
亜里沙「げほっ、うん……あれ、これはなんだろう」
亜里沙ちゃんはかつてお花が生けてあった花瓶の埃を払い、手に取ります。
以前は窓際に飾ってあったものでしたが、卒業式からずっと使われずにしまわれていたようです。
雪穂「そ、それはまさか……!」
亜里沙「雪穂もそう思う?」
雪穂「間違いないよ!」
海未「ああ、それは昔使っていた花瓶で……」
亜里沙「ハクション大魔王のツボだ!」
雪穂「ハクション大魔王のツボだ!」
海未「違います」
亜里沙「まさか、この部室にあっただなんて」
雪穂「きっとくしゃみをしたらハクション大魔王が現れるよ」
二人は私のほうをチラチラと見ながら会話を続けます。……まずいことになりました。
こういうときに頼りになるにこはもういないし、穂乃果と凛は掃除そっちのけで遊んでいる。
そんなに私のほうを見ないでください! 誰か助けてください!
亜里沙「出てくるぞー。出てくるぞー」
この場にそれが務まりそうな人が私しかいない。
どうすれば……いやしかし、そうタイミングよく、くしゃみなんて出るはずがない。
いや、しまった、確か亜里沙ちゃんは……
亜里沙「は、ハクション!」
海未「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
雪穂「わー! ハクション大魔王だ!」
海未「あなたの願いはなんですか? 私が叶えてあげましょう!」
こうして私は、亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんのハクション大魔王になったのです。
雪穂「肩揉んでくださーい。大魔王様」
海未「わかりました」
亜里沙「お茶淹れてくださーい。大魔王様」
海未「わかりました」
穂乃果「海未ちゃん、私にもお茶ー」
海未「ダメです」
穂乃果「なんで!」
雪穂「疲れた……」
亜里沙「少し休憩してもいいですか、大魔王様」
海未「では給水、五分だけ」
凛「凛もちょっと休もうっと」
海未「ダメです」
凛「なんで!」
雪穂「お腹すいたなあ」
亜里沙「お姉ちゃんに教えてもらって焼いたクッキー持ってきたよ!」
雪穂「わあい。食べてもいいですか? 大魔王様」
海未「仕方ないですね」
ことり「私もお菓子つくってきたの!」
海未「ダメです」
ことり「なんで!」
雪穂「もうすぐテストだね」
亜里沙「どうしよう……勉強しなきゃ」
雪穂「大魔王様、ここ教えてください」
海未「いいでしょう。見せてください」
真姫「海未、私も手伝うわよ」
海未「ダメです」
真姫「なんで!」
亜里沙「海未ちゃん、私、セイタカアワダチソウが見てみたいな」
雪穂「なにそれ」
亜里沙「イソギンチャクだよ。ね、いいよね大魔王様」
雪穂「イソギンチャク……?」
海未「亜里沙も雪穂も、見たことがないんですか? そこいらに生えていると思いますが」
雪穂「じゃあどれがそれなのか、教えてよ大魔王様」
海未「任せてください」
私たちは外へ背高泡立草を探しに赴きました。
もしかしたら、校内にも生えているかもしれません。
こんなとき希がいたら、なぜかどこに何の花が咲いているか全て知っているんでしょうね。
私、まだ一年生との間に少し壁がある気がするんです。
部長として、壁を倒して、壊してあげたいなあ」
アルパカ「フェー」
花陽「うん。そうだよね、わかってる。
……あれ、あれは雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんと……海未ちゃん?」
海未「こういうところに生えているかもしれません。降りてみましょう」
亜里沙「はーい。イソギンチャクっぽいのを探せばいいんですよね」
雪穂「よいしょ。うわっ」
花陽「おーい、三人でなにしているの?」
花陽「へえ。海未ちゃんはすごいなあ」
海未「どうしてですか?」
花陽「ううん。セイタカアワダチソウってブタクサのことだよね。
それなら私の通学路に咲いているのをみたよ」
亜里沙「本当! やったー!」
雪穂「すぐに見に行こう! 海未ちゃん」
海未「はい。花陽、案内してください」
花陽「ダメです」
海未「なんで!」
私としたことが夢中になって練習をすっかり忘れていました。
みんなに怒られて、気合を入れ直して、セイタカアワダチソウ探しは放課後にすることにしました。
海未「ふう、今日はここまでです。さあ行きましょう! 雪穂、亜里沙!」
雪穂「おう!」
亜里沙「おう!」
穂乃果「なんだかあの三人、ものすごく仲良しになったね」
ことり「あの海未ちゃんが、先頭を歩いているよ」
海未「ありました! あれがセイタカアワダチソウです」
亜里沙「あれ全部! すごーい!」
雪穂「うわあ……花粉の温床って感じ」
亜里沙「あ……思い出しちゃった……ハ、ハ、ハラショー!
間違えた、ハクション!」
雪穂「そういえば、花粉症なんだっけ、亜里沙」
亜里沙「最近忘れてたよ。そうだ大魔王様、花粉症を治してよ」
海未「ダメです」
亜里沙「なんで!」
亜里沙「そんなあ、じゃあ私の代わりに摘んできてよ、大魔王様」
海未「私はもう大魔王様ではありません」
亜里沙「そうか……じゃあお願い! 海未ちゃん」
海未「仕方ありませんね。明日学校に持っていきます」
海未「おはようございます」
私がそう言うとみんなもおはよう、と返します。
私はそのまま昨日摘んだ背高泡立草を、ハクション大魔王のツボに差しました。
海未「封印です」
亜里沙「ああ! そんな、大魔王様が」
雪穂「ひどいよ海未ちゃん」
海未「さあ。窓際にでも飾っておきましょう」
亜里沙「あ……それって昨日のセイタカアワダチソウだ」
花陽「みんな揃ったところで、相談があるの」
凛「なに、かよちん」
花陽「そろそろ、先輩禁止にしないかな」
花陽「私たちじゃなくて、一年生のことだよ」
穂乃果「確かに。いつまでもそのままじゃよくないよね」
雪穂「待ってよお姉ちゃん、私そう簡単にみなさんのこと呼び捨てなんて……」
亜里沙「そうです! μ’sのみなさんを呼び捨てなんてできません」
海未「私も以前提案しましたが、このように断られてしまいました。
別に、いいのではないでしょうか?
先輩後輩を分けるか、分けないか。それを選ぶのは彼女たち自身だと思います」
亜里沙「そうです。ここは海未ちゃんに免じて」
花陽「でも……そっか、そうだね。じゃあ仕方ない」
穂乃果「ちょっと待って」
真姫「なによ穂乃果、せっかくまとまったところに」
穂乃果「雪穂と亜里沙ちゃん、海未ちゃんのこと海未ちゃんって呼んでない?」
雪穂「あれ?」
亜里沙「本当だ」
雪穂「いつの間に……」
亜里沙「いったいどういう仕組みですか! 海未ちゃん!」
海未「ふふ。どんなに尊敬する相手でも、自分の言うことを聞いてくれるとなれば油断は生じます。
そのうえ共に野を超え山を超えて育まれた友情。どうしてそんな相手を先輩と呼べましょうか。
仕組みはわかりません。そういうものなんです。人体の不思議です」
ことり「大魔王様ごっこは、そういうことだったのか」
海未「さあ。改めて問いましょう。雪穂、亜里沙、先輩禁止やってみませんか?
あなたたちが選べるのは、分けるか分けないか、なのです」
亜里沙「敬語を、分けるか分けないか……」
雪穂「わかった! 私やってみる。海未ちゃん。……と、ことりちゃん、真姫ちゃん……」
亜里沙「凛ちゃん、花陽ちゃん、……穂乃果ちゃん」
こうして私たちは見事に先輩禁止に成功したのでした。それも合宿なくして!
こんな不甲斐ない私でも……先代を超えることができたでしょうか?
雪穂「混ざってるよ」
海未「知っていますか? イソギンチャクは小さな魚たちを大きな魚から守ってくれるんですよ」
亜里沙「すてき。小さな魚たちの隠れ家なんだね」
雪穂「このセイタカアワダチソウも、私たちが大きくなるまで、見守ってくれるかな」
海未「ええ。きっと私たちの未来を……守ってくれることでしょう」
雪穂「そういえば、亜里沙、花粉大丈夫なの?」
亜里沙「あ、忘れてた……ハ、ハ、ハラショーッ!」
ハクション大魔王は、もう現れない。
※おわりです。ありがとうございました。
なぜか笑ってしまった
ドイツのSSはタイトルですぐに分かるな
そもそもバレバレなものだと思ってやったのにこれじゃオレが騙したみたいじゃん
正直これでは
「故意にドイツと偽り地域表示名を見誤らせて読者を騙そうとした上、他の地域表示を騙り自画自賛を行った、名前欄の仕組みをよく知らないニセモノ」
にしか見えないよ…
実際はお前さん本人にしかわからないけどね…
地域表示の仕組みがわかってないわけじゃなくね
文ひとつひとつから魅力を感じるから中身を理解してないアホでもわかって魅せられてしまう
反省してドイツ様信者になりました
ドイツ様万歳
それだけで十分だ
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