【ラブライブ!】穂乃果「もうひとりじゃないよ」
- 2020.04.02
- SS

放課後、練習が終わった後部室で着替えを済ませ帰る準備をする
海未「最近は随分気合が入ってますね」
穂乃果「そうかな?」
ことり「うん、見てるこっちまで頑張らなきゃって思えるぐらい」
穂乃果「う~ん、やっぱり嬉しくて。メンバーも九人になって応援してくれる人も増えてきて徐々に認められてきてるんだなって思うとつい気合が入っちゃって」
穂乃果「それに何より楽しいから、こうして九人で一緒にいられるのが」
私たちは今スクールアイドルというものに取り組んでいる
この学校が無くなるのが嫌で何とかしたいと二人の幼馴染とたった三人で始めた活動
今では学校を救いたい、アイドルをやりたい、そんな仲間たちが集い九人になった
それに伴うように応援してくれる人たちも増えてきて……
そしてついに廃校を阻止することが出来た
学校を守れたのだ
絵里「恐らくそれはみんなが思ってるはずよ。ね?」
絵里ちゃんが尋ねるとみんなが頷いてくれる
希「そんなの当り前やん。同じ想いを持った九人が集まったからこそここまで来れたんやと思うよ」
花陽「そうだよね、私もそう思うな」
真姫「希の言う通りね。この仲間に巡り合えて良かったって思えるもの」
希「おぉ、真姫ちゃん素直やん」
真姫「べ、別にたまにはいいでしょ!」
希「うん、いいと思うよ」ニヤニヤ
真姫「な、なによ」
傾いた太陽の西日に照らされた部室でのいつもの光景
本当にみんなと居ると楽しい
こうやって自然なままいられるから
ことり「もう暗くなってくる時間だし早く帰ろう?」
希「それもそうやね」
そうしてみんな部室を後にする
だが、ひとりだけその場から動こうとしない人がいることに気付いた
穂乃果「にこちゃん、帰らないの?」
にこ「……私は少し残るわ。ちょっと荷物の整理とかしたくて」
穂乃果「それなら穂乃果も手伝うよ、一人じゃ大変でしょ?」
にこ「大丈夫だからあんたは先に皆と帰りなさい」
穂乃果「でも……」
にこ「いいのよ、自分でやった方がどこに何があるか分かっていいじゃない。好意だけ貰っておくから」
それでも不服を目で訴える
にこ「……まったく、ほら帰った帰った、作業が進まないでしょ」グイグイ
穂乃果「ちょっとにこちゃん!?」
そのまま追い出されてしまった
バタンと扉が閉まる
にこちゃん、なんだか変だ
トボトボと歩きながら考える
さっきだって一切会話に混ざらずその場から動こうとしなかったし
最近はなんだか常に一歩引いているようなそんな感じがする
まるで何かに怯えるように
海未「穂乃果遅いですよ」
穂乃果「ごめんごめん」
みんな昇降口で待っててくれたみたい
海未「一緒じゃなかったんですか?」
穂乃果「荷物の整理をしたいから少し残るって」
絵里「確かにちょっと荷物も多いしね」
花陽「それならみんなで手伝うのに」
穂乃果「うん、手伝うって言ったんだけど自分でやった方がどこに何があるか分かっていいからって追い出されちゃった」
真姫「まあその気持ちも分からなくはないけど」
穂乃果「……」
凛「穂乃果ちゃん?」
希「え?」
穂乃果「ごめん、みんなは先に帰ってて」
そう言って走り出す
背中からは廊下は走るなと海未ちゃんと絵里ちゃんの声がする
それでもスピードを落とすことなく走る
にこちゃんがすごく気になって
すぐにでも会いたい気分
様子が変でずっと気になってた
今ひとりにしちゃいけないような、そんな気がして……
穂乃果「はぁはぁ……」
部室の扉はきっちりと閉ざされている
息を整えようと少し立ち止まるものの中からは物音一つ聞こえない
穂乃果「にこちゃん……」
気味が悪いくらい静かだ
なんだか音を立ててはいけないような気がして動きがゆっくりになってしまう
雰囲気に飲まれてしまっているみたい
そっと扉に手を掛ける
そしてゆっくりと扉を開ける
沈みかけの太陽の光だけで明かりもついていない
その中にピンクのカーディガンの後姿を見つける
どうやらパソコンに向かっているようだ
こちらに気付く様子もなく先ほど同様に微動だにしない
一歩一歩ゆっくりと近づいていく
穂乃果「にこちゃん?」
すぐ後ろまで来てから声を掛けた
そんな私の声を聞いてびくりとその小さな体を震わせる
そしてこちらに振り返ることなく返答する
その声は少し震えている
やっぱり変だ
いつものにこちゃんじゃない
穂乃果「にこちゃん!」
肩を掴み無理矢理にこちらを向かせる
にこ「っ!」
穂乃果「……どうしたの?」
振り向いたその目には涙が浮かんでいた
穂乃果「そんな訳……」
にこ「用がないなら早く帰りなさい」
穂乃果「嫌だ」
にこ「お願いだから早く帰りなさいよ」
穂乃果「泣いてるにこちゃんを一人になんてできないよ!」
にこ「泣いてなんか……」
それ以上を口にする前に強く抱きしめる
誰がどう見たって泣いている
でもそれを自分で否定してほしくない
何かあってのことなのだろうから
にこ「私は泣いてなんか……」
穂乃果「ぎゅー!」
無理矢理に言葉を遮る
それ以上は言わせない、絶対に
にこ「ごめん、もう大丈夫だから」
そう言って私から離れる
にこ「このことはすぐに忘れて」
穂乃果「話してはくれないの?」
にこ「ごめん……」
穂乃果「どうして……」
穂乃果「ひとりで閉じこもってちゃ悲しいよ」
穂乃果「だからもうしないで……。私がいるから、何かあったら呼んでよ!」
にこ「……」
穂乃果「ね?お願い」
にこ「ごめん……」
それだけ言って部室を出ていく
ひとり明かりのない部室に取り残される
太陽も沈みきってもう真っ暗だった
このままこの暗闇に飲み込まれてしまいそうな感覚に陥る
逃れるように私も足早に部室を後にした
家に帰ってから考える
一体何があったのかを
放っておけるわけがない、大切な仲間なんだから
穂乃果「にこちゃんプライド高いからなぁ」
決して人前で泣くことはしない
人を笑顔にさせるアイドルが泣いていちゃ意味がないから
そんな強い信念、すなわちプライドを持っている
にこちゃんらしいんだけどね
そんなにこちゃんだからひとりで泣いていたんだろう
プライドを傷つけたくない、そんな気持ちで
あまり言いふらすようなことをするとにこちゃんのプライドを傷つけることになる
それはできないよ
にこちゃんとも仲良くしたいもん
でも仲間なんだから頼って欲しいよ
何かあったなら相談してほしい
ひとりじゃないんだから……
穂乃果「私のこと思い出してよ……」
なんてつぶやく
私だってにこちゃんのことすごく尊敬してるし頼りにしてる
ああ見えてとっても面倒見もいいしにこちゃんのこと大好きだもん
確かに私じゃ頼りないかもしれないけどそれでも頼って欲しいよ
そんなことを考える今日の夜の星はとてもきれいだった
部室での暗闇が嘘のように星が輝いている
アイドルである前に一人の人間なんだから
そんなときは誰かと一緒にいればいい
誰も馬鹿にしたりそれを貶すことなんてしないから
言葉が見つからなくても一緒にいるだけでいいんだ
それだけで気持ちも楽になるはずだから……
だから何とかしてあげたい
仲間がいるんだって
ひとりじゃないんだって
分かって欲しい
支援
穂乃果「希ちゃん、絵里ちゃん少しいい?」
早速行動に起こす、それが私のやり方
色々考えたりは苦手だからやるだけやってみる、ただそれだけ
希「別に大丈夫やけど」
絵里「どうしたの?」
穂乃果「にこちゃんのこと色々教えてほしいの」
今まで親交はあまりなかったとはいえ同学年の二人なら私の知らないことも知っているかもしれない
少しでもにこちゃんのことを知りたいのだ
絵里「希ならまだしも私は……」
穂乃果「何でもいいの!私にこちゃんのことしっかり理解してあげられてないような気がして」
穂乃果「だからお願い!」
頭を下げ二人に懇願する
絵里「顔を上げて、穂乃果」
希「そうそう、そこまでせんでも構わんよ」
希「穂乃果ちゃんなりの考えあってのことなんやろ?」
穂乃果「うん……」
希「ウチらが答えてあげられる範囲なら何でも聞き?」
そう言って二人は優しく微笑む
そんな二人を見て私もなんだか安心する
穂乃果「ありがとう二人とも」
絵里「それで穂乃果は何を聞きたいの?」
穂乃果「にこちゃんが一年生の頃にやってたって言うスクールアイドル活動のこと詳しく聞かせてくれる?」
希「もちろん構わんよ。でもこれはあくまでウチらから見た話しやからね?」
穂乃果「うん」
そう断りを入れてから話し始める
~~~~~~~~~~
四月、入学して間もなく部員勧誘を始めた、だから多分私たちの学年の人ならみんな知ってると思うわ
目立ちまくりやったからね
そして穂乃果ちゃん達みたいにとにかく必死に毎日毎日同じ時間、同じ場所で勧誘を続けていた
すると最初は誰も見向きもしなかったんやけどにこっちの人柄もあってか何とか五人集まったんよ
そうして立ち上げたのが今のアイドル研究部ね
そして念願のスクールアイドルになったにこっちはそれからもひたすらに頑張り続けた
部活が出来たからって終わりではなく自分たちがステージに立つためにって
そうして迎えた最初のライブ
お客さんこそ少なかったもののあの時のにこっちはほんまに輝いてた
本当に自分のやりたいことが出来た喜びが見てるこっちにまで伝わってくるようやった
でもにこっちは自分の努力が足りないからだと更に練習に力を入れるようになっていって
でも周りのみんなはそんなにこっちについていけなくなった
いくら頑張ってもその努力が報われないから頑張る意味が分からなくなってしまったんやろうね
にこっちは自分がアイドルとしてステージに立ってより多くの人を笑顔にしたいって言う向上心に満ちていた
でもほかの子達はアイドルは好きでも自分たちが辛い思いをしてまでステージに立とうとは思えなかった
アイドルに対する情熱の方向が違った
一人、また一人とにこっちの元から去っていきにこっちは一人になった
それでもにこっちはひとりでもステージに立って頑張り続けていたんやけどある時からぱったりとライブをやらなくなった
丁度A-RISEが世間に出てきた頃やったかな
A-RISEを見て当然憧れも持ったんやろうけど自分には無理だと心が折れてしまったんやと思う
ずっとひとりやった
それでもみんなの前ではいつでも笑顔で……
でもウチはそれが見てられなかった
前のような輝いた笑顔とはまるで違う上っ面だけの笑顔
みんなのために自分が笑顔でいること、それがにこっちなりのプライドやった
そんなにこっちの想いを知っていたからこそ見ていられなかった
自分で自分を苦しめているようにしか見えなかった
そしてウチは逃げてしまった、にこっちから
えりちと生徒会を始めて忙しいなんて理由で
最後まで支えてあげられなかった
穂乃果ちゃん達を見てこの子たちならにこっちも心を開いてくれるんじゃないかって
自分の罪の償いも込めて穂乃果ちゃん達をにこっちに接触させた
少し賭けだったところもあるけどね
辛い思いを知っているにこっちが再び笑ってくれるかは本当に分からなかったし
でも穂乃果ちゃん達のおかげであの時の笑顔を取り戻せた
そして再びアイドル活動を始めたのを見て私の心も晴れた
それから色々あったけど穂乃果ちゃんがアイドルをやめるって言ってμ’sが解散になってもにこっちは活動を続ける道を選んだ
それはやっぱりそれだけアイドルが大好きで続けたいって思えたからだと思う
一度は挫折しても今度は続けようとした
それはやっぱり穂乃果ちゃん達がいたからこそだったんだと思う
まああの時は凛ちゃんと花陽ちゃんがついてきてくれたからっていうのもあるだろうけど
ラブライブっていう目標が無くなっても諦めることなく仲間に声を掛けて続ける道を選んだ
とにかくにこっちのアイドルに対する熱は昔よりも大きくなっている
何がにこっちをそこまで駆り立てるかまでは分からないけど
後悔と恐怖、その二つにね
後悔って言うのはずっとアイドルを続けていればっていうこと
にこっちの身体能力は決していいとは言えない
今もついていくのは結構きついと思う
正直言うとウチだって結構きついからね
だからこそずっと続けていればみんなの足手まといになることはなかったんじゃってどこかで思ってるんやと思う
その分人一倍練習はしているみたいやけどね
それにそうしていればもっと早くみんなに出会えたかもって
何が怖いのか?
それは今が楽しすぎること、やと思う
正直それはウチも少し感じてるし
いつまでも今みたいにはいられない、残された時間はそんなにないから
だから時が流れていくのが怖い
いつか来るみんなとの別れが怖い
そういうのを感じてるんやと思う
にこっちの熱い想いについてきてくれる仲間との別れ
この先またそんな人たちと出会えるかなんてわからないから
そんな感情をどうしていいのか分からないんやと思うんよ
~~~~~~~~~~
穂乃果「後悔と恐怖か……」
二人に教えてもらったことを考えてみる
難しい話だなぁ……
それに今まで知らなかったにこちゃんのことを聞いて心の中にはとてつもない罪悪感が生まれてしまった
アイドルに対する情熱は私の想像以上で……
あの時の私の言動でどれだけ傷つけてしまったのかは計り知れない
この気持ちも後悔というのだろうか?
でもにこちゃんの後悔は分からない
当たり前だ
自分以外の人の気持ちが完璧に分かるなんてありえない
ずっと一緒だった幼馴染のことですら全然理解できていなかったんだから
そんなこと私は考えたこともなかった
でもいつかはやってくる
だからって今から怯えているのは私の性に合わない
それは単に子供なだけなのかもしれないけど
もちろん行き当たりばったりというわけにもいかないんだろうけどどうもそういうのは苦手で
後先考えずに行動してしまう
結果良かったこともあれば悪かったこともある
そうやっていつも海未ちゃんやことりちゃんを巻き込んで……
海未「急にどうしたんですか?」
穂乃果「え?」
目の前には海未ちゃんとことりちゃんが
穂乃果「いつの間に!?」
海未「ついさっきですが」
ことり「なんだかすごい考え込んでて私たちにも気づかなかったみたいだから声かけなかったんだけど……」
穂乃果「そう……」
海未「?」
ことり「何かあったの?」
穂乃果「うん……」
この二人に聞いてみようかな
穂乃果「二人はこれからのことって考えたことある?」
穂乃果「うん、そんなに先じゃなくてもたとえば来年のこととか」
ことり「来年?」
穂乃果「にこちゃん達が卒業した後私たちってどうするのかなって」
海未「そうですね、そろそろ考えた方がよいのではと思ってはいたのですが……」
ことり「なんだか実感がわかないっていうか、よく分からないの」
穂乃果「二人でもそうなんだね」
私なんかよりも大人な二人でもそうみたい
なんだかそれを聞いて安心しちゃう自分がいる
穂乃果「じゃあさ、今楽しい?」
少し別のことを聞いてみる
ことり「ことりも!」
海未「最初は慣れないことばかりで大変でしたが」
ことり「今じゃもうみんながいない世界なんて考えられないってぐらい楽しい」
ことり「だから先のことも考えられないのかも」
穂乃果「それって今が楽しすぎて環境が変わるのが怖いってことなのかな?」
海未「恐らくそうなんでしょうね」
穂乃果「そっかぁ、でも私はまったく分からないや」
穂乃果「でもきっとにこちゃんもそんな気持ちなのかも……」
ことり「にこちゃんかぁ……」
穂乃果「なんだかにこちゃんの気持ちが分からなくて」
海未「でもそれって当たり前のことじゃないですか?」
海未「自分以外の人の気持ちなんて普通わかるはずないじゃないですか」
穂乃果「そうなんだけどさ、にこちゃんの気持ちを分かってあげないといけないなって」
ことり「う~ん、やっぱり難しいよ」
穂乃果「だよねぇ~」
それでも何も聞かずに私の話を聞いてくれる
一緒に悩んでくれる
穂乃果「それってどういうこと?」
海未「分からなくても受け入れてあげればいいんじゃないでしょうか」
海未「確かににこはああ見えて色々考えているようですし、それならそれでいいんだと受け入れてあげるだけで十分なんじゃないでしょうか」
穂乃果「受け入れるか……」
ことり「さすが海未ちゃん。海未ちゃんはいつも私たちのことどんなことでも受け入れてくれるもんね」
穂乃果「確かに。でも受け入れるってどうすればいいの?」
海未「そこまでは何とも……。ただ何でも鵜呑みにすればいいというわけではないですし」
海未「私は穂乃果とことりだからこそ受け入れられるんだと思います」
ことり「信頼してくれてるってこと?」
海未「簡単に言えばそうなのかもしれませんね」
そういう海未ちゃんの目はどこまでも真っ直ぐで文字通り一目見ただけで信頼できるって思える
当然ことりちゃんもだ
海未「そうですね……何もすべてを分かってあげようというわけではありません。相手の考えの根底にあるもの、それさえわかれば大丈夫だと思います」
海未「穂乃果だって私たちのこと信頼してくれてますよね?でもさすがに何でも分かる、とまではいかないでしょう?」
穂乃果「うん、確かに」
ことり「でもなんとなく考えてることが分かるっていうのは海未ちゃんの言う考えの根底がある程度分かるからってこと?」
海未「そういうことなんでしょう」
穂乃果「なるほど……」
穂乃果「なんとなく分かったような気がする。ありがとう二人とも!」
海未「お役に立てたのならそれで」
ことり「そうだよ、穂乃果ちゃんのためなら何でもするから」
穂乃果「ほんとにありがとう」
それだけ言って駆け出す
向かう先は三年生の教室
思い立ったら即行動だ!
声を掛けつつもすぐにその姿を見つける
ピンクのカーディガンで分かりやすいや
でもその姿は昨日見た悲しげな姿とはまるで違っていた
にこ「わざわざ三年生の教室まで来て何の用よ?」
穂乃果「にこちゃんとお話ししたいなって思って」
にこ「な、なんでまた」
穂乃果「いや~にこちゃんのアイドルに対する情熱というものを教えてもらえたらな~なんて」
にこ「そ、そう?」
穂乃果「いろいろ教えてくれる?」
にこ「まあそういうことなら……」
穂乃果「ありがとう」
にこ「じゃ、じゃあ花陽や凛も呼びましょう?ついでだしあの子たちにもね」
私と二人きりになるのを防ごうとしてる?
やっぱり昨日のことを気にしてるのかな?
穂乃果「うん!もちろんだよ」
とりあえずここはにこちゃんに合わせよう
穂乃果「にこちゃんってすごいんだな~」
にこちゃんから長々と話を聞いた
にこちゃんの想いもなるべく理解できたと思う
考えの根底にあるもの、分かった気がする
でもそれによって自分の行動でどれだけ傷つけてしまったのかも分かってしまった
これじゃあ信頼してもらえなくてもしょうがないかもって思っちゃうぐらい
一度失った信頼を取り戻すのは大変っていうけど何とかしなくてはいけない
まだ課題は山積みかなぁ
でも後は私が受け入れるだけ
にこちゃんが私に心を開いてくれればいいんだけど……
それよりも根本的な部分がまだだった
穂乃果「なんで泣いていたのか……」
希ちゃんが言っていた後悔や恐怖のせい?
う~ん、やっぱり難しいなぁ
まだにこちゃんのこと分かりきってないのかな?
にこちゃんの考えの根底にあるものをもとに考えてみる
そんなアイドルになるために努力して
高いプライドを持っていた
何よりも自分がアイドルであることを一番に考え行動する、それがにこちゃんの考えの根底にあるもの
自分の力で努力し続けていた
でも挫折して……
ひとりになって……
そしてまた仲間に出会って
人一倍努力を続けて
そこにあるのは後悔の念
そして未来への恐怖
ではなぜそんな気持ちが生まれるのか
……
凛「何が駄目なの?」
穂乃果「え?」
今度は凛ちゃんと花陽ちゃん、それに真姫ちゃんも
穂乃果「また気付かなかった……」
花陽「大丈夫?」
穂乃果「う、うん」
穂乃果「それよりどうしたの?」
花陽「さっきにこちゃんの話を聞いてる時に忘れ物してたから届けにきたんだ」
穂乃果「何か忘れてたっけ?」
花陽「穂乃果ちゃんお昼食べた?」
穂乃果「そういえばまだだったかも……」
花陽「これ穂乃果ちゃんのお昼でしょ?」スッ
そう言って差し出してきたのは私がいつも食べている菓子パンで
穂乃果「はっ!そうだよ、それは間違いなく穂乃果のだよ!」
花陽「よかった」
花陽「それだけ真剣に話を聞いてたってことだよね」
凛「それより何が駄目なの?穂乃果ちゃん」
穂乃果「え~っと」
この際だし三人に聞いてみようかな
穂乃果「にこちゃんの気持ちが分からなくて」
凛「?」
三人とも頭にハテナマークが浮かんでるみたい
穂乃果「にこちゃんの話を聞いてにこちゃんの考えの根底にあるものが分かった」
穂乃果「でもそこからどうしてある気持ちが生まれてくるのか分からないの」
凛「相手の気持ちになって考えたってこと?」
穂乃果「うん」
真姫「ある気持ちっていうのは聞かないほうがいいのかしら。じゃあ穂乃果はどうなの?」
穂乃果「私?」
穂乃果「考えたことないかなぁ」
真姫「なら考えてみなさいよ。自分ならどうしてそう思うのかを」
花陽「そうだね。相手のことを考えるならまずは自分ならどうかを考えるのが一番だと思うな」
凛「凛はあんまりそういうのは得意じゃないけど自分がされて嫌なことは絶対かよちんやみんなにはしないよ」
真姫「そう、小学校の時とかに言われたことよね。相手のことを考えるならまずは自分のことを考えるって」
穂乃果「なるほど……」
確かにそうかも
海未ちゃんとことりちゃんと話してた時も思ったけど自分は先のことなんて考えたことなかったかもしれない
いつまでもこんな時間が続くんだってどこかで思ってたのかも
穂乃果「ありがとうみんな。少し考えてみるよ」
これからのことか……
三年生が卒業しちゃったら今みたいに九人ではいられないんだよね
なんだかいまいちピンとこないけど
寂しいな、とは思う
一人でも欠けたらやっぱり違うから
この寂しいっていう気持ちが恐怖につながるのかな?
今が楽しいからっていう気持ちが大きすぎて
アイドルが好きっていう気持ちが大きすぎて
私もこの活動を始めてアイドルが好きになった
こんなに楽しいことがあったんだって毎日が幸せで
そんな幸せを失うのは……
確かに怖いかも
にこちゃんは一度失ってる
その辛さが分かってる
だからより怖いって思っちゃうのかな?
ひとりで涙するほどに
そこまで一つのことに強い想いを持っていられるってすごいと思う
そこまで自分が大好きになれるものがあるって幸せなことだと思う
だからこそ失うのが怖い
つまりそういうこと、なのかな?
こういう時こそ自分のことを考えてみようか
私が一番失いたくないもの、大切なものってなんだろう……
そこで思い浮かんだのは二人の幼馴染だった
海未ちゃんとことりちゃん
小さい時からずっと一緒でもう隣にいないなんて考えられない
そんな二人を失う気持ち
確かに辛いし悲しいし
そして何よりも怖い、かも
にこちゃんにとってそれは今のこの時間なのかもしれない
小さい時からずっと憧れ続けて夢見ていたもの
いつも一番にそのことを考えていた
そういう意味でならそれは私にとっての幼馴染達と変わらないかも
にこちゃんが怯えるものはつまりそういうこと……
そしてそれをずっとひとりで抱え込んでいた……
穂乃果「後はそれを受け入れてあげること、にこちゃんには味方がいるんだって分かってもらうこと」
穂乃果「もうひとりじゃないよって教えてあげること!」
にこちゃんの辛い気持ちも私が分かってあげることで半分にできるかもしれない
だから教えてあげなくちゃいけないんだ
誰かに頼っていいっていうことを
穂乃果「まったくにこちゃんは。いつでもそばにいてあげられるんだから」
穂乃果「思い悩んでる時には私のことも思い出してよ」ハァ
ため息が出ちゃう
そんなことを考えてるうちに空が白み始めていた
星が落ち太陽が昇ってくる
─翌日
穂乃果「に~こちゃ~ん!」
元気に声を掛ける
昨日の様子から察するにこの前のことを気にしてるみたいだったから
ばれたら逃げられちゃいそうだから隠すためにね
どうもそういうのは苦手でつい勢い任せになっちゃうけど
にこ「何よ、いちいち騒がしいわね」
穂乃果「そんなことないよ~」
にこ「いやいや」
穂乃果「まあいいや。にこちゃん放課後時間ある?今日は練習ないって言ってたしちょっと聞きたいことがあって」
にこ「今じゃだめなの?」
穂乃果「う、うん。ちょっと忙しくて」
にこ「穂乃果が忙しい?どうせ宿題をやってないとかそんなことでしょ」
穂乃果「そ、そんなことはどうでもいいよ!放課後時間ある?」
にこ「え、え~っと……」
にこ「用件は?それにもよるわよ?私だって暇じゃないんだから」
やっぱり警戒してるみたい
にこ「だから何をよ」
穂乃果「昨日話してくれたことの続きみたいなものを……」
にこ「……分かった。穂乃果一人なの?」
穂乃果「うん。でも昨日みたいに花陽ちゃん達も呼ぶ?」
にこ「わざわざ付き合わせるのも悪いしいいわよ」
穂乃果「そう?」
意外、あっさり二人きりになるのを許してくれた
穂乃果「じゃあまたあとでね。ばいばーい」
にこ「はいはい」
さて、二人きりの場は準備できた
あとは私次第かな
まあ一度や二度の失敗ぐらいじゃ諦めないけど
何とかしてにこちゃんが私たちに頼ってくれるように頑張らなくちゃ!
部室で二人きり
昨日あれだけ話してくれたのににこちゃんの話はまだまだ止まらない
それを聞いていてにこちゃんの想いがどれだけ大きいのかを再確認させられる
だからこそ感じる苦しみも大きくなる
だからひとりじゃなくてみんなで分かち合えばいいんだって知って欲しい
それを教えてあげるのが私の使命
にこちゃんには心の底から笑っていて欲しいから
穂乃果「うん、もちろんだよ」
穂乃果「にこちゃんって本当にアイドルが大好きなんだね」
にこ「当たり前でしょ!」
穂乃果「じゃあ今楽しい?」
にこ「な、何よ突然」
急な質問に狼狽えてる
警戒されちゃうかな?
それならもうストレートにいった方がいいかも
やっぱりまわりくどいことは苦手だ
にこ「この前って……」
穂乃果「お願い、私の話を聞いて」ギュッ
にこちゃんの腕をつかむ
逃げられないように
そして私がいるって分かってもらうために
にこ「それはもう忘れてって言ったはずよ。あの時は何もなかったの」
穂乃果「自分の気持ちを否定しないでよ」ギュッ
にこちゃんを抱きしめる
私のことを少しでも感じて欲しくて
私の熱で少しでも安心して欲しくて
そして固く閉ざされた心の檻を溶かしたくて
穂乃果「嫌だ。私の話を大人しく聞いてくれるまで離さないから」ギュー
にこ「あんたなんかに私の気持ちが分かるわけないでしょ!」
大声を上げる
でも怯んでちゃ駄目だ
穂乃果「そんなことないよ」
にこ「いつでも海未やことりや色んな人に囲まれて何も考えずにのほほんとしてるあんたなんかに何が分かるのよ」
穂乃果「うん、確かに全部は分からなかった。でも少しは分かってあげられることもある」
穂乃果「だから全部一人で背負いこまないで少しは私たちにも分けさせてほしいの」
にこ「偉そうなこと言わないで!」
穂乃果「にこちゃんが苦しんでるって」
穂乃果「想いが大きすぎるからこそ苦しいんだって。アイドルが好きだから、今が楽しいからって」
穂乃果「だから私にも言ってみてよ。その気持ちは共有することで軽くなるよきっと」
穂乃果「それに私でも共有できるはずだから」
にこ「……」
にこちゃんは抵抗をやめて大人しくなった
穂乃果「希ちゃん達からにこちゃんのこと教えてもらった。少しでもにこちゃんのことを理解するために」
穂乃果「当然全部を理解するのは無理だけど。でも考えの根底にあるものさえわかれば気持ちだって分かってあげられるって海未ちゃんが教えてくれた」
穂乃果「だから私なりに考えた。希ちゃんやにこちゃんの話を聞いてにこちゃんの考えの根底にあるものも掴めたと思う」
穂乃果「にこちゃんの気持ち考えたの」
穂乃果「でもその気持ちはみんなで抱えるべきものだと思うんだ。ひとりで悩まないでみんなで悩もうよ」
穂乃果「一緒に悩んでくれる仲間がいるんだから。だから私のことも忘れないで」
穂乃果「……なんて私が言えたことじゃないのかもしれないけど」
穂乃果「謝らなきゃいけないこともあるんだ」
にこ「……」
にこちゃんは俯いたまま何も言わない
穂乃果「にこちゃんには夢があった。あとちょっとで叶いそうってところまで来た。でも私のせいで……」
穂乃果「叶わなかった。にこちゃんの夢をかなえるための努力とか全部無駄にした。プライドを傷つけた」
穂乃果「そんな私に頼ってなんて虫が良すぎるかもしれない」
穂乃果「でもだからこそ頼って欲しいの。その辛い思いを私にも背負わせてほしい。それが私にできるせめてもの償い」
穂乃果「もちろん嫌ならいいよ。でもほかのみんなに頼ることを覚えてほしいの」
穂乃果「本当にごめんなさい」
許してほしいとまでは言わない
簡単に許せることじゃないから
それくらいのことを私はしてしまったんだ
頭を下げる
するとにこちゃんは
にこ「そんなことない」
穂乃果「え?」
にこ「確かに私の昔の夢は叶わなかった。悔しかったわ」
にこ「でも私は穂乃果のことを恨んだことなんて一度もないわよ?」
にこちゃんの口からはそんな言葉が出てくる
にこ「そしてこんなに楽しい時間をくれた。それだけで十分すぎるわ」
にこ「今の私の夢はもう叶ってるの」
にこ「さっきは酷いこと言ってごめん、ついかっとなっちゃって」
にこ「穂乃果には本当に感謝してる」
穂乃果「にこちゃん……」
穂乃果「ありがとう。でもそれだけじゃ私が満足できないから償わせてよ」
にこ「え?」
穂乃果「おいで?言ったでしょ、にこちゃんの辛い気持ちを一緒に背負うって」
にこ「わ、分かった……」
そう言って恐る恐る私を抱きしめる
穂乃果「もう大丈夫だからね?私の前では素直になってね」
にこ「うぅっ……」グスッ
泣いてる
でもあの時とは違う
私がいるんだから
ひとりじゃないから
穂乃果「泣きたい時もあるよね。大丈夫、一人じゃないから。そんな時は誰かと一緒にいればいいんだよ」ナデナデ
穂乃果「言葉がみつからなくても一緒ならいいじゃん。誰かと居るだけで気持ちも落ち着くから」
穂乃果「会いたい時はいつでも呼んで。私じゃなくてもいいから。頼れる仲間が他にもいるんだから」
穂乃果「にこちゃんからは言いにくいかもしれないけどみんな分かってくれる」
穂乃果「にこちゃんのプライドっていうのも分かるよ。人前では泣かないっていう強い意志」
穂乃果「でも自分の気持ちは否定してほしくない。私たちには少しは頼って欲しいの」
穂乃果「もうひとりじゃなくていいんだよ」
穂乃果「もうひとりじゃないから」ギュー
その小さな体はとても暖かかった
にこ「うぅ、穂乃果のくせに、私を……泣かせるなんて生意気よ……」グスッ
穂乃果「もう私たちは対等な仲間なんだから」
穂乃果「にこちゃんだってこんなに暖かい心を持ってるんだもん」
にこ「ぐすっ……」
にこ「ありが、とう……それと、ごめんなさい……うぅ」
穂乃果「大丈夫、頼ってくれるだけでとっても嬉しいよ」ナデナデ
それからにこちゃんは私の腕の中で泣いた
にこちゃんのためにあんまり詳しくは言わないけど
でも心を開いてくれた証拠だよね
ひとりじゃないって分かってくれたんだ
穂乃果「でもできれば私に頼って欲しいかなぁ……なんて」
穂乃果「……冗談。やっぱり絵里ちゃんとか希ちゃんの方が頼りになるもんね」
にこ「……いや、そうさせてもらうわ」
穂乃果「え?」
にこ「私の弱みを見せてあげるって言ってるの」
にこ「だからその……よろしく///」
穂乃果「にこちゃん……」パァァ
穂乃果「うん!」
Fin
希「はい、お疲れさん」
穂乃果「ありがとう希ちゃん」
ことり「にこちゃんすご~い。泣きの演技までできるなんて」
にこ「ふふん、当たり前でしょ」
海未「やっと私の出番が減りました。このくらいでいいんです、このくらいで」
絵里「まあ人によって出番に少しムラがあったような気もするけど」
真姫「短めだしメイン以外はこれくらいでいいんじゃない?」
花陽「今回の主役はあくまで穂乃果ちゃんとにこちゃんだもんね」
凛「そうそう。すっごい良かったよ!」
希「でも演技とは言えにこっちがあんなことやってくれるとは」
絵里「ほんとよね。私もダメもとで書いてみんだけど」
にこ「ま、まあその……にこにーに不可能はないのよ!」
凛「にこちゃん照れてるにゃ」
にこ「そんなんじゃないわよ」
穂乃果「でもあの中で言ったことは本当だからね」
にこ「え?」
ことり「そうだよにこちゃん」
海未「穂乃果だけじゃありません。ことりでも私でもみんな待ってますからね」
にこ「わ、分かってるわよ……///」
希「照れてる照れてる」
にこ「何よ!」
希「いやいや、可愛いよ~」
にこ「茶化すなっ!」
絵里「でもよかったわ。にこがそんなこと言ってくれて」
真姫「珍しく素直よね」
凛「真姫ちゃんが言うの?」
真姫「どーゆー意味よ」
花陽「まあまあ」
穂乃果「とにかく私たちはみんなにこちゃんの味方だからね!」
にこ「うん、分かってる」
にこ「ありがとう」ボソッ
穂乃果「ふふっ」
─原作(作詞)
園田海未
─脚本
絢瀬絵里
─演出
東條希
─撮影
星空凛
東條希
─美術監督
南ことり
─美術補助
小泉花陽
矢澤にこ
─音楽監督
西木野真姫
─編集
矢澤にこ
─キャスト
高坂穂乃果
矢澤にこ
南ことり
園田海未
東條希
絢瀬絵里
西木野真姫
小泉花陽
星空凛
─撮影協力
音ノ木坂学院映画研究部
音ノ木坂学院生のみなさま
─製作
音ノ木坂学院アイドル研究部・映画研究部
楽曲ドラマ化プロジェクト
─監督
東條希
「もうひとりじゃないよ」
END
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