【ラブライブ!】真姫「彼女は皮肉」

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1: ラブライブ!要素薄(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:17:00.19 ID:tgPBZK6n.net
いつものように座っていた。

在る意味もない、置き物のように。

無機に無慈悲に、一つの風景となって。

存在しない、私。

見えなし私を、彼女は、見つけた。

──風の強い日だった。

──

2: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:17:37.53 ID:tgPBZK6n.net

綺麗ですね。

そう言うと、ごく自然に、ベンチの隣に腰掛ける。

長い青みがかった黒髪をなびかせながら。

高校生、同い年くらいの子。

「あなたは、誰?」

3: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:18:11.46 ID:tgPBZK6n.net

「いえ、すみません。つい、その靴が綺麗だったもので」

「…そう。でも、ありふれたスニーカーじゃない」

「と言いますのも一つの口実で、あなたがまるで見えなかったからです」

「…ならどうして私がわかったのよ」

「そうですね、わかりません」

「…」

4: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:18:44.82 ID:tgPBZK6n.net

「と言いますのも一つの口実で、私が暇だったからです」

「…意味わかんない」

「あなたこそ、どうしてこんなところにいるのです?」

「さあね」

「気になります」

「…忘れたわ、とうの昔に」

「なら、その意味はどこに行ったのでしょう」

「風にでもとばされたのよ」

──

5: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:19:16.15 ID:tgPBZK6n.net

「こんにちは」

「また来たのね」

「ええ、不思議にもここは落ち着くので」

「…ふうん」

「…砂場が楽しそうですね。

 山にトンネルを掘って、水を通しているのですか」

6: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:19:43.82 ID:tgPBZK6n.net

「楽しくないわよ、あんなの。それに汚れるじゃない」

「酷いです。私は小さい頃、よくああして遊びましたよ」

「…汚れても?」

「はい。面倒事は気にかけず、子供ながらに思い切り」

「…私も、遊んだ」

7: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:20:24.19 ID:tgPBZK6n.net

「普通ですよ、子供なら」

「皮肉ね」

「人は、成長しなければならない、皮肉な生き物なんです」

「…人間に生まれてきて損した」

「命さえあるならば、幸せです」

──

9: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:20:59.27 ID:tgPBZK6n.net

「どこに住んでいるの?」

「把握していません」

「何よそれ」

「どこにも住んでいないのかも知れません」

「意味わかんない」

「家の都合で転々と移住しているので、自分の居場所がわからないんです」

「ああ。大変なのね」

10: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:21:26.82 ID:tgPBZK6n.net

「随分と他人事ですね」

「他人事じゃない」

「道徳ですよ。
 確かに他人事ですが、人間なら、その場限りでも関係を築くべきです」

11: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:21:55.15 ID:tgPBZK6n.net

「…うるさい」

「静かです」

「…内容が堅苦しい」

「…おっと、失敬」

──

12: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:22:20.17 ID:tgPBZK6n.net

「泣いているのですか?」

「…うるさい」

「堅苦しいですか?」

「…別に」

「…」

13: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:22:48.02 ID:tgPBZK6n.net

「…雨が降っているだけよ。あなたこそこんな天気なのに何で」

「その雨には理由があります」

「…パパに叱られた。それだけ」

「雷が落ちたのですね」

14: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:23:22.63 ID:tgPBZK6n.net

「はぁ、帰りたくない、いっそこのままここで、無くなりたい」

「駄目です」

「どうしてよ」

「悲しむからですよ。最低でも私が」

「嘘。道徳でしょ?その場限りの関係でも?」

15: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:23:49.69 ID:tgPBZK6n.net

「悲しみます。絶対に」

 見えなくても、しかし存在しなくては駄目です。私がいる限り」

「…そう。でも、酷く自己中なのね」

「…返せません」

──

16: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:27:25.92 ID:tgPBZK6n.net

「あ、段差で転んでしまっています」

「あの段差、気付きにくいのよ」

「かなり痛そうです。大丈夫でしょうか」

「大丈夫でしょ。ほら、あの子の友達」

17: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:28:05.45 ID:tgPBZK6n.net

「なるほど…」

「…」

「私も、同じように人を手当したことがあります」

「……へぇ。

 …でも、馬鹿馬鹿しいと思わない?所詮、うわべだけの友達」

18: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:28:44.42 ID:tgPBZK6n.net

「私は、そうは思いません。

 うわべだけならうわべなりに、その場だけならその場なりに、想い合える。それを私は目指します」

「なぜ?その意味はどこにあるのかしら、風にとばされたりしてない?」

「ただ、美しいからですよ。意味は、私の心にだって、あなたの心にだってあるのです。

 風にとばされるほど軽いものではありません」

19: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:29:10.14 ID:tgPBZK6n.net

「…尊敬するわ」

「皮肉ですか?」

「いえ、本音」

──

20: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:29:41.54 ID:tgPBZK6n.net

「…やっぱりいたのね、この夜中に」

「どうして、わかったのですか?

 自宅からでは私を認識することは出来ないでしょう」

21: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:30:08.62 ID:tgPBZK6n.net

「綺麗だから…?」

「格好はいつも通りです」

「あなたがまるで見えなかったから…?」

「意味わかんないです」

「…話しに来たのよ、理由を。」

「一体何のことです?」

「私が、ここに居座っていた理由よ」

「…ふむ」

22: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:30:48.34 ID:tgPBZK6n.net

「私、昔から友達なんていなかったから、よくここで一人遊んだの」

「一人でですか」

「そう。ブランコや砂遊び。

 で、自分で作り上げた立派な砂のお城を見て、虚しさを感じたの」

「見えもらえな事は、辛いことです」

23: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:31:18.60 ID:tgPBZK6n.net

「だから、虚ろに、まるで姿もなく、ベンチに座っていたら、

 いないはずの私を、彼女は、見つけたの。同い年くらいだったわね」

 『かわいいですね』

 そう言って、砂のお城を指差しながら、風に長い黒髪をなびかせて」

「出会い、ですか」

「そう。彼女との初めての出会い。

 それから、一人ぼっちだった私と毎日のように遊んでくれた。楽しかった。

 でも、その時もつかの間、彼女は突然旅立つと告げて、ベンチから姿を消したの」

「…」

24: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:31:56.71 ID:tgPBZK6n.net

「…幼い私は、いつか会えることを夢見て、毎日ベンチに座って待ったわ。

 晴れの日も雨の日も。

 でもね、そんなのは妄想だから、何年か過ぎて、夢も意味も欠片も残らず風化して。

 自分を鏡に映した時には、輝きを完全に失ったただの置き物になってた」

「とても儚いです。同時に、とても美しいです」

25: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:32:41.75 ID:tgPBZK6n.net

「その場限りの関係は、輝いていたのかしら」

「ええ、きっと」

「あなたは、皮肉なのね」

「私だって人間ですから。

 それはそうと、眠いのです」

「最っ低!真面目に心開いて話したのに!

 道徳は?ついに風にとばされた?」

26: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:33:12.98 ID:tgPBZK6n.net

「…んぅ」

「…はぁ」

「…」

「…ほら、眠らないの、肩に頭が寄ってきてるわよ」

「…」

「…たまにしか、甘えさせてあげないんだから」

──

27: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:33:44.64 ID:tgPBZK6n.net

「私は、明日には、ここを旅立ちます」

「…」

「…」

「…突然なのね。あの頃と同じ」

「…それでこそ、人間は成長できる、皮肉な生き物」

「もう飽きたわよ」

「…はい」

28: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:34:15.29 ID:tgPBZK6n.net

「その…元気でやってよね」

「最後まで、どこか他人事で冷静沈着ですね」

「あら、よく理解してるじゃない」

「そのつもりです。だって、数週間の長い付き合いですから」

「ふうん」

29: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:34:38.53 ID:tgPBZK6n.net

「私からも。健康に気を付けて下さいね。

 では私は急ぎます」

「ありがとう、楽しかったわよ。

 …さようなら」

30: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:35:07.82 ID:tgPBZK6n.net

「さようなら。

 人間は、果てしなく無駄と無意味を繰り返す、滑稽な、皮肉な生き物ですから」

彼女は、あの深海よりも深く広い大空に、彼女が持つ理由と共に、旅立っていくのだろう。

風にとばされていくのだろう。

彼女と出会うとこは、もう二度と、ないのだ。

──

31: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:35:40.97 ID:tgPBZK6n.net

──風の強い日だった。

美しいですね。

そう言うと、ごく自然に、ベンチの隣に腰掛ける。

長く青い髪をなびかせながら。

同い年くらいの女性。

「あなたは、誰?」

「いえ、すみません。つい、ベンチのあなたが美しかったもので」

─Fin─

32: 名無しで叶える物語(魔女の百年祭)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:36:11.71 ID:tgPBZK6n.net

読者感謝
33: 名無しで叶える物語(SB-iPhone)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:39:20.74 ID:W6aoT9cL.net

なんか村上春樹おもいだしたわ
35: 名無しで叶える物語(フンドシ)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:45:33.97 ID:24HMhdpu.net

おもしろかったで
乙です
37: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2016/04/25(月) 23:59:26.88 ID:zwv+gJ2n.net

よかった
38: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/04/26(火) 00:11:34.66 ID:9FgHf64F.net

読みやすくていい
39: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2016/04/26(火) 18:19:45.39 ID:Ji6cgqCs.net

場面転換というか日が変わってるのが少し分かりにくかった
でも悪くなかった

40: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2016/04/26(火) 20:18:43.07 ID:YOje0pqD.net

おつおつ