【ラブライブ!】ことり「遠い町」
- 2020.04.14
- SS

ことり「そう…だね」
穂乃果「どうしたんだろう?海未ちゃんが待ち合わせに遅れるなんて、ことりちゃん何か知ってる?」
ことり「ううん、私は……」
穂乃果「そうだよねー。電話にも出ないし…もしかしてお昼寝してるのかな?もうすぐ夕方だけど」
ことり「……」
ごめんね穂乃果ちゃん。私、本当はわかってるんだ。海未ちゃんが来てないのは私のせいだって。
昨日私が、海未ちゃんにあんな事を言っちゃたから…
ことり「……」
ことり「…ねえ穂乃果ちゃん、宇宙人っていると思う?」
穂乃果「宇宙人?私にはわかんないなー」
ことり「そう…だよね」
穂乃果「あっ、でも…UFOならさっき見たよ!ほら!」
穂乃果ちゃんは私にスマホの写真を見せてくれた。
ことり「これって…」
ぼんやりと、空に浮かんだ大きくてきれいな町が写ってた。
いくつもの風車がカラカラと回っている、今にも風の音が聞こえてきそうなのどかな町。
見たことは無かったけれど、何度も何度も話に聞いたあの場所だった。
ことり「ウクバール……」
―――――――――
いつからだったっけ。小学生の頃にはもう何回も聞いてた気がする。
海未「ウクバールという町ではいつも風が吹いているんです」
海未「空には大きな塔や小さな塔がいくつも浮かんでいて」
海未「その塔のてっぺんでは黄色い風車がカラカラ音を立てて回っているんです」
海未ちゃんはいつも、そんなお話を私に聞かせてくれた。
私は海未ちゃんのお話に夢中になって、いつか二人でウクバールの町に行きたいと思ってた。
ことり「すごいね、ウクバールって」
海未「…ふふっ」
ウクバールには夢のような世界が広がってる、そんな風に思ってた。
穂乃果「ウクバール…?」
ことり「…やっぱり、穂乃果ちゃんは覚えてないんだね」
穂乃果「覚えて…ない?」
海未ちゃんは穂乃果ちゃんを仲間はずれにしたわけじゃない。
初めは穂乃果ちゃんにもウクバールのお話をしてあげてたから。
小学3年生のころまでは…
海未「それで穂乃果、ウクバールはですね」
穂乃果「…ねえうみちゃん、ウクバールってほんとにあるの?」
海未「もちろんありますよ」
穂乃果「じゃあ…しょうこを見せてくれない?」
海未「わかりました。では、ウクバールがあるという証拠を用意します」
穂乃果「うん!やくそくだよ!」
ことり「……」
でも、なんとなくわかっちゃってた。ウクバールの証拠のものなんてないんじゃないかって。
穂乃果ちゃんだって、悪気があってこんなことを言ったんじゃないんだと思う。
海未ちゃんのお話を信じたかったんだと思う。
だから証拠を見せてほしかったんじゃないかな。
結局、ウクバールの証拠のものなんてなかった。
海未ちゃんは少し気まずそうだったけど、穂乃果ちゃんは約束してたことすら忘れてたみたいで…
私たちの関係がこじれることなんてなかった。
ただ、その日から海未ちゃんは穂乃果ちゃんにウクバールのお話をしなくなった。
海未「ですから、夕方になると大きなサイレンが鳴るんです」
海未「そうすると大人はみんな仕事を辞めて、子どもは遊ぶのをやめて、みんな家に帰るんです」
ことり「…ふふっ」
海未ちゃんのお話は楽しかった。私だけがこのお話を知ってる、そのことがうれしかったんだ。
海未ちゃんを独り占めしてるみたいで。
海未ちゃんはいつもみたいにウクバールの話をしてくれた。けど…
海未「ウクバールの町には階段がないんです」
海未「ですが、たくさんの塔が空に浮かんでいるでしょう?」
海未「だから、塔の天辺に登るには長い梯子を掛けなきゃいけないんです」
海未「素敵な町ですよ、ウクバールは」
ことり「…うん!そうだね」
海未ちゃん「だって、ウクバールは私の故郷なんですから」
ことり「…えっ、故郷…?」
ことり「ウクバールへの…帰り路?」
海未「はい。だってそうでしょう?私は今地球にいます。つまり、ウクバールとこの世界はどこかでつながっているってことじゃないですか」
ことり「……」
ことり「…ねえ海未ちゃん」
海未「何ですか?」
ことり「…ごめんね、やっぱりなんでもない」
海未「ことり?」
でもそんなはずない。だって、私たち幼馴染なんだから。
私は、海未ちゃんがこの音ノ木坂で生まれたことを知ってる。
海未ちゃんのお家で、赤ちゃんのころの写真を見せてもらったこともある。
海未ちゃんは普通の日本人。ウクバールは故郷なんかじゃない。
それを海未ちゃんには言えなかったし、言いたくもなかった。
なんだか夢を壊しちゃいけない気がしたから。
海未ちゃんには、ずっとずっとウクバールを信じていてほしかったから。
海未「ウクバールの町にはいつも風が吹いています」
海未「ですから、ウクバールの町には風車の音だけで遠くにある嵐の進路を言い当てる方たちがいます」
海未「それに、ウクバールの町には風車に合わせて演奏する楽団まであるんです」
海未「そして、ウクバールの町に西風が吹くとサーカスが来るんです。このサーカスがすごいんですよ」
ことり「大人は仕事を止めて、子どもは遊ぶのをやめて、みんなお家に帰るんだよね」
海未「その通りです」
ことり「えへへ…」
いつの間にか私はウクバールに詳しくなった。
学校へ行くときも帰るときも、お弁当を食べてる時も遊んでる時も、二人きりになるといつもウクバールのお話を聞いてたから。
悪い気はしなかった。
私はもう、ウクバールのお話を完全に信じてたわけじゃなかった。でも、海未ちゃんが嘘をついてるとも思えなかった。
もしかしたら海未ちゃんは本当にウクバールから来たのかな。そんな風に思ってた。
海未「それで、ウクバールは…」
それに何より、ウクバールのお話をしてる海未ちゃんはすっごく幸せそうだった。
他の誰も知らない、見たことのない海未ちゃんの顔を、私だけが知ってたんだ。
毎日毎日、海未ちゃんは新しいウクバールの思い出を教えてくれて…
私の頭の中のウクバールの町は、どんどんどんどん広がっていった。
でも…
穂乃果「じゃーねー海未ちゃん!ことりちゃん!」
ことり「バイバイ穂乃果ちゃん」
海未「さようなら」
海未「そうですね。そういえばことり、ウクバールの…」
ことり「そうだ海未ちゃん、明日久しぶりに遊びに行かない?新しくできたケーキ屋さんがすっごくおいしそうだから…」
海未「すみません。明日は予定があって…」
ことり「そう…なんだ」
海未「それでですね、ウクバールのことなんですが…」
ことり「あっ、そういえば数学の宿題できた?」
海未「いえ、まだです。それでウクバールはですね…」
ことり「……」
食べ物のこと、勉強のこと、穂乃果ちゃんのこと、なんでもいいからたまには普通のお話がしたかった。
海未ちゃんは私の大切なお友達だから。
穂乃果ちゃんといるときの海未ちゃんは普通だった。3人でのお話は楽しかった。
でも、私は海未ちゃんと二人きりのときでも楽しいお話がしたかったんだ。
穂乃果「ねえ海未ちゃん、ことりちゃん、この後遊びに…」
海未「…すみません、今日も予定が…」
穂乃果「…そっか」
海未「では…」
海未「……ふふふっ」
ことり「……」
穂乃果「…海未ちゃん、最近すごく忙しそうだね」
ことり「…うん」
穂乃果「でも…何だか楽しそうだね」
ことり「…なんでだろうね」
海未ちゃんはウクバールへの帰り道を探してるんだって。
海未ちゃんはウクバールのことしか考えられなくなってた。
弓道部の練習だってあんまり行ってないみたいだし、宿題を忘れることも増えた。
私だって、海未ちゃんの夢がウクバールにあることはわかってる。
でも寂しいよ。ウクバール以外はどうでもよくなっちゃったの?
私たちのこともどうでもよくなっちゃったの?
海未ちゃんは現実を捨てちゃったみたいだった。
夢の中を生きてるみたいだった。
私は決めた。はっきり言わなきゃダメだって。海未ちゃんはおかしくなってるんだもん。
もし、海未ちゃんの夢を壊すことになっちゃっても…
私は海未ちゃんに帰ってきてほしかった。
このままだと、海未ちゃんが遠いところへ行っちゃう気がしたから
海未「ことり…?話とは何ですか?」
ことり「…あのね、言いにくいんだけど…」
…ダメだ、言えないよ。
もしウクバールが故郷じゃないってわかったら…海未ちゃんはどうなっちゃうんだろう。
ずっとずっと信じてきたものがなくなったら、海未ちゃんはどう思うんだろう。
…きっと悲しいよね。
海未ちゃんの悲しい顔なんて見たくないよ。
海未ちゃんが不思議そうな顔で私を見てた。
…やっぱり言わなきゃ。そう決めたんだから。
私は精一杯の勇気を振り絞って言った。
ことり「…その、ウクバールのことなんだけど…」
海未「…やはり、ことりには気づかれてしまいましたか」
ことり「……えっ」
海未「そうです。とうとう見つけたんですよ。ウクバールへの帰り道を」
海未ちゃんの答えにびっくりしちゃった。そんなことを言われるとは思わなかったから。
海未「長い時間がかかってしまいましたが、これでようやく私は故郷に帰れます」
海未「ことり、あなたも一緒にウクバールに行きませんか?きっとみんなも歓迎してくれますよ」
ことり「そんな…そんなの…無理だよ」
海未「…そうですか。そうですよね。ことりにはこっちの世界での生活が…」
違うよ海未ちゃん。そういうことじゃないんだよ。
ウクバールなんて、ウクバールなんて…
ことり「…ないんだよ」
海未「ことり?」
ことり「海未ちゃん聞いて!ウクバールなんてないの!」
海未「…何を言ってるんですか。ありますよ。ウクバールは私の故郷なんですから」
ことり「…違うよ」
ことり「ウクバールは海未ちゃんの故郷なんかじゃないの!海未ちゃんは音ノ木坂で生まれたんだもん!」
海未「ですが、ウクバールは確かに…」
ことり「海未ちゃんしっかりして!本当はウクバールなんてないの!」
ことり「ウクバールは…海未ちゃんの頭の中にしかないんだよ!」
海未「えっ…?」
海未ちゃんはどうなっちゃうんだろう。
もう、今までの海未ちゃんじゃなくなっちゃうのかな。
でも後悔はしてない。本当のことを言ったから…
ううん、違う。私は嘘をついちゃった。
ウクバールは海未ちゃんの頭の中にしかないわけじゃない。
私の頭の中にもあったんだ。
海未ちゃんから聞いたウクバールの町が。
それが昨日のことだった。
だから多分、今日海未ちゃんが来てないのは私のせい。
今、海未ちゃんはどうしてるんだろう。落ち込んじゃってるのかな。
やっぱり…余計なことを言っちゃったのかな。
でもこうしなきゃきっと、海未ちゃんは現実を見てくれなかったから…
「…ちゃん、ことりちゃん!」
ことり「あっ…ごめんね穂乃果ちゃん。ちょっと考え事してて…」
穂乃果「……」
穂乃果「うん…」
ピリリリリ
穂乃果「あっ、電話…海未ちゃん?」
よかった…もう元気になったのかな…
穂乃果「…のお母さん?」
すごく嫌な予感がした。
穂乃果「そんな…海未ちゃんが…倒れた?」
ことり「…っ!」
ことり「行かなきゃ…海未ちゃんのところに!」
穂乃果「ま、待ってよことりちゃん!」
―――――――――――
ことり「すみません!ことりです!南ことりです!」
海未母「ことりちゃん…」
ことり「海未ちゃんのお母さん!海未ちゃんは…」
海未母「それが…」
海未「」
ことり「海未ちゃん!しっかりして!」
海未ちゃんはただ眠っているだけだった。
海未「すぅー…」
ことり「なぁんだ…よかったー」
海未母「…ことりちゃん」
ことり「あっ、海未ちゃんは大丈夫です!眠っちゃってるみたいですけど、きっとすぐに目を覚まして…」
海未母「実は…海未さんの様子が変なんです」
ことり「えっ?」
海未母「我が子の悩みにも気づかないなんて、私はダメな親ですね…」
ことり「…そんなことありません。海未ちゃんは…」
海未「うぅっ…」
海未母「海未さん!」
ことり「海未ちゃん…」
海未ちゃんが目を覚ました。
海未「夢を…見ました」
ことり「夢…?」
海未「ルクーの夢です。ルクーが私を迎えに来てくれるんですよ…」
まただ、またウクバールの話だ。
ルクーはウクバールの守護神なんだって、海未ちゃんは前に教えてくれた。
大きな大きな、ロボットみたいなウクバールの守り神。
それがルクーなんだって。
海未母「海未さん?何を言って…」
ことり「海未ちゃんしっかりして!それは夢なんだよ!」
海未ちゃん、どうしてわかってくれないの?
お母さんに心配かけちゃうなんて…海未ちゃんらしくないよ。
お願い海未ちゃん、もうやめて
ウクバールのことなんて忘れて…現実に戻ってきてよ…
ことり「海未ちゃんのお母さん!」
海未母「は、はい」
ことり「海未ちゃんの小さいころの写真はありますか!?」
海未母「はい、でもどうしてそんなものを…」
ことり「お願いします!今すぐ必要なんです!」
海未母「…わかりました」
ことり「…いい加減にして!どうしてわかってくれないの!?」
海未「……」
海未母「ことりちゃん、これ…」
海未ちゃんのお母さんが写真を持ってきてくれた。
海未ちゃんのお父さんとお母さんが、生まれたばかりの海未ちゃんを抱っこしてる写真だった。
ことり「海未ちゃんよく見て!ほら!海未ちゃんは音ノ木坂で生まれたんだよ!?これが証拠!ウクバールは海未ちゃんの故郷じゃないんだよ!」
ことり「…お願い海未ちゃん、目を覚まして…」
海未「……聞こえます、ウクバールの風の音が…」
ことり「海未ちゃん?私の話聞いてるの…?」
ことり「それに、風の音なんて聞こえるはずない……!?」
カラカラカラカラ…と風車の回る音が聞こえてきた。
机の上の風車の模型が、風に吹かれてくるくる回ってる。
窓の閉まりきったこの部屋で
バリーン
ことり「きゃっ!」
急に窓が割れて、すごい勢いの風が部屋に吹き込んできた。
割れた窓の向こう側には…
ルクー「……」
ルクーがいた。海未ちゃんから聞いた通りの、ビルより大きなロボットみたいな姿だった。
…どうして?どうしてルクーがここにいるの?
だって、ウクバールなんて全部海未ちゃんの妄想で…
海未「ルクー!!」
ことり「…待って海未ちゃん!」
海未ちゃんは窓から飛び出してルクーの方に走って行った。
ことり「追いかけなきゃ…」
…はぁ、はぁ
海未ちゃん、どこに行っちゃったの…?
早く海未ちゃんを見つけないと…
私は不思議な気持ちだった。どうしてだろう。
悲しいようなうれしいような、自分でも何が何だかわからなかった。
ただ海未ちゃんに会いたくて、ルクーに向かって思いっきり走った。
他の人たちはみんなルクーから逃げてるから…私だけ逆走してる。
流れに逆らって走ってたら、目の前の人にぶつかっちゃった。
「あいたっ!」
ことり「あっ…ごめんなさい!」
穂乃果「…って、ことりちゃん!?」
ことり「穂乃果ちゃん…」
穂乃果「ことりちゃんひどいよ!私を置いて行って…」
ことり「うん…ごめんね、ちょっと急いでたから…」
穂乃果「それより早く逃げようよ!向こうにはおっきな怪獣が…」
ことり「……待って穂乃果ちゃん!何か聞こえない?」
穂乃果「えっ…?ホントだ。何だろこの音…?」
私は海未ちゃんの言ってたことを思い出した。
『ウクバールの町には時計がありません。ですから、夕方になるとサイレンが鳴るんです。すると…』
『大人は仕事を止めて、子どもは遊ぶのをやめて、みんなお家に帰るんだよね』
ことり「もしかして……」
この音がウクバールのサイレンなら、海未ちゃんは…
サイレンの音はどんどんどんどん大きくなって、夕焼けの空に響いた。
「ルクー!」
ルクーを呼ぶ海未ちゃんの声が聞こえた気がした。
その後、急にサイレンの音が消えちゃった。ルクーもいつの間にかいなくなってた。
海未ちゃんも……
あの日から…海未ちゃんはいなくなった。
警察の人たちも探してくれたけど少しも手掛かりがなくて、神隠しにあったみたいだって。
海未ちゃんは…
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃんは…どこに行っちゃったのかな…?」
ことり「……」
穂乃果「もう…海未ちゃんには会えないのかな…?」
ことり「大丈夫だよ穂乃果ちゃん、海未ちゃんはきっと帰って来るから…」
穂乃果「うん…」
だって、海未ちゃんは音ノ木坂で生まれて…
私は海未ちゃんのお母さんから借りた写真を見つめた。
やっぱり、赤ちゃんの海未ちゃんがお父さんお母さんと一緒に写ってる。
あれ……?
ことり「うそ……」
写真の海未ちゃんの後ろに、小さくカレンダーが写ってることに気づいた。
空に浮かんだ大きな塔と、小さな塔と黄色い風車。海未ちゃんから聞いた通りの、ウクバールの町のイラストが描いてあるカレンダーが。
でも、もしかしたらウクバールはどこかに本当にあって…海未ちゃんはやっと、そこに帰れたのかもしれない。
ことり「海未ちゃんには…ウクバールが必要だったのかなぁ……」
穂乃果「ウクバール…?ことりちゃん、この間から言ってるけど、ウクバールって何なの…?」
ことり「……」
ことり「遠い町…かな」
おわり
好み過ぎる
ツッコミどころの無さつまり完成度の高さは殆どトップレベル
面白かった
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