【ラブライブ!】果南「鞠莉、誕生日おめでとう」
- 2020.04.16
- SS

果南「嵐の一夜に」鞠莉「あなたとともに」
鞠莉の誕生日に間に合わなかったorz
だからだろうか。悪天候で島に帰れないくらいでは、慌てることも騒ぐこともない。
鞠莉「帰らないといけない場所がないって、ソーケアフリーで、ライフイズベリーイージーよ」
そんなことを言っていたことがある。
この日も海は荒れ、内浦から島までの、たかが数分の海路を越える手段を失っていた。
そして、私と鞠莉は学校泊まりだ。
学期ごとに数回はこんなことがある。そんな日は、私と鞠莉は「帰宅困難」という扱いで学校に留まる。
いまでは災害時の避難者収容施設として維持されている旧寄宿舎の一室。
私が浦の星女学院に入学して以来、幸いにも住民の避難が必要になる災害は起こっていない。
だから、ここは私と鞠莉が、「帰宅困難」な日に使う定宿みたいになっていた。
そこに枕をならべて、二人で、裸で、同じ布団にもぐりこんでいた。
いつも通り、鞠莉が右側、私が左側だ。
はじめて「帰宅困難」になったときから、ずっとそうしている。
寝間着も、持ち込んだ宿泊セットの中にに入れているけれど、消灯前と起床時に行われる点呼のときだけ着るものに成り下がっていた。
カーテン越しに、雨が窓を叩く音、外の木が揺れる音、そんな騒がしさもいつものことだ。
鞠莉と一緒に布団に潜り込んで、リモコンで部屋のあかりを消して、常夜灯だけにする。
そうすると、ここはもう、明日の朝まで二人だけの世界になる。
押しつけられた鞠莉の唇から、柔らかい舌が入ってくる。
それを受け止めて、自分の舌で応えて、しばしそうしてから、唇が離れる。
鞠莉と抱きあったままで、
果南「おやすみ、鞠莉」
でも、今日は少しだけ違った。
あの日にはだいぶん早いけれど、これが最後のチャンスになるかもしれない。
そして、鞠莉の左手を取ると、その薬指に毛糸を一巻きした。
緩んで輪の大きさが変わると困るので、舫い結びにして、指からそっとその輪を抜いた。
鞠莉の左薬指の大きさの輪になった毛糸を、また枕の下に隠した。
鞠莉「かなんー?ワッドゥーユードゥー?」
果南「うわあ」
ああそうだった。鞠莉は寝付きがいいけど、実は、何かされるとすぐに起きる。
果南「なんにもしてないよ」
鞠莉「ファイナルアンサー?」
そこはリアリィ?とか聞こうよ……いや、もしかして鞠莉って、わざと怪しい英語で言ってるのかな?
果南「ファイナルアンサー」
鞠莉の瞳が、私の目を覗き込む。
鞠莉「オーケー、じゃあ今度は果南からグッナイキスして」
果南「改めて、おやすみ、鞠莉」
今度は私からキスをした。
お休みのキスだから、舌は入れなかった。
帰宅一声、私はおじいに聞いた。
果南「おじい、どこかで夜光貝の大きいの、手に入らないかな」
「食うんなら沖縄まで行った方が安く付くぞ。こっちじゃ高級食材の珍味扱いだからな」
おじいはつまらなそうにそう言った。
屋久島の貝がなまって「夜光」という字があてられたもので、夜中に光るわけではない。
はしょって説明すれば、サザエを大きく、殻をやたら丈夫にしたような貝。
沖縄あたりではサザエ程度には普通の食材だけれど、生きたまま輸送するのが大変なので、こちらでは高級食材になっている。
「千歌ちゃんのところに入ってないか聞いてみたか?」
千歌ちゃんの家は、海沿いに建つ高館だ。お客さんに出す料理も海産物を使うことが多い。
それなので、以前に、千歌ちゃんにはそれとなく聞いていた。
果南「この辺で取れるならまだしも、南海の珍味をわざわざ取り寄せて出したりはしないみたい」
「それもそうか」
おじいは、何かに気がついたような顔をした。
「心当たりに当たってみるが、あまり期待はするな」
「手に入っても時間がかかるだろうから、サザエの殻ででも切る練習をしておくといい」
「電ノコでもサンダーでもリューターでも好きに使え。防塵マスクを忘れるなよ」
おじいは、すっかりお見通しのようだった。
私と鞠莉は、3年生になっていた。
それはね、鞠莉の誕生日だよ。
なんと鞠莉は、私より半年ほど年上で、実はスクールアイドル部でも、誕生日で並べれば一番年上だった。
鞠莉「グッモーニン、チャオ、果南」
果南「おはよう、鞠莉」
島の小さな港、連絡船乗り場でいつものように待ち合わせる。
でも、今日はいつもと少しだけ違う。
制服のスカートの右ポケットに、鞠莉への小さなプレゼントを忍ばせていた。
そして、その反対側のポケットに、自分へのお守りを忍ばせていた。
サイズと乗員数的には、二級小型船舶操縦士の免許を持っている私が操船できる大きさだ。
ただし、小さくても旅客船なので、特定操縦免許という別の免許も必要になる。
曜ちゃんは、客船搭載の救命艇サイズだね、と言う。
定員も20人程度。
島の水族館に多くの人が訪れる休日は、時刻表無視でピストン輸送をする船だった。
内浦の港から学校の下まで乗る、路線バスよりも小さい。
朝のこの時間、島からの乗客は、通学で内浦に向かう私と鞠莉の二人だけだ。
余談ながら、鞠莉がいるホテルの宿泊客は、専用の送迎船で別の港から運ばれる。
顔見知りの、連絡船の船長のおっちゃんが客室(定員分の椅子が並んでるだけだ)に顔を出した。
船の前後に沿っている4人掛けのロングシートに、贅沢にも、私と鞠莉の、二人だけで座っている。
果南「おっちゃん、大丈夫だよ」
鞠莉「レツゴー」
おっちゃんが舫い綱を解く。すぐにエンジン音が響いてきた。
船が動きはじめる。
これから内浦まで5分間の船旅だ。
そして、その5分間が今の私の持ち時間だ。
誰よりも先に、鞠莉にハッピーバースディを言うための5分間だった。
横にいる、鞠莉にそう言った。
鞠莉「サンキュー、覚えててくれたのね」
果南「そりゃね」
本当は数ヶ月前から準備をしていた。でも、それが顔に出ないように気をつけながら。
果南「他の誰よりも先に、鞠莉におめでとうって言いたかったからね」
鞠莉「そうね、パパとママからメールでメッセージは来たけど、ダイレクトは果南がさいしょ」
鞠莉のご両親はいま、日本と時差が大きい場所にいるらしい。
鞠莉「学校のランチタイムぐらいにテレフォンコールしてくると思う」
一呼吸した。
スカートのポケットの中の、小さな箱をたしかめる。
ポケットから箱を出した。
手のひらに収まる小さなサイズ。
リボンは掛けていない。私がリボンを掛けると、ロープワークになってちょうちょ結びにならないからだ。
鞠莉にそれを渡す。
鞠莉「ありがとう、果南」
鞠莉が、小箱を受け取った。。
鞠莉「オープンしてもいい?」
果南「もちろん」
鞠莉が、箱のふたをあけた。
鞠莉「これは……リング?」
外側は碧と白、内側は真珠の銀色。
断面も揃った形になっているし、表面もちゃんと磨き上げた。
果南「そうだよ。指輪……鞠莉のサイズで作ってる」
鞠莉「シルバーじゃないようだけど、マテリアルはなに?」
果南「これは、夜光貝の指輪なんだ」
そして、中は、真珠層になっている。つまり、真珠の銀色。
こんなふうに殻が綺麗なこと、そして、厚くて丈夫なことから、古来から工芸の材料として使われてきた貝だ。
それを縦に切ると、巻き貝の螺旋の断面が、ほぼ円形の穴として現れる。
なので、夜光貝は指輪の材料としても利用される。
穴の大きさがちょうど指に会うところで切り出して、あとは表面がなめらかになるまで磨く。
材料が天然物だけに、穴が指のサイズになる、ちょうどいいところで切り出すために、何度もトライアンドエラーを繰り返す必要がある。
それに、貝は熱をもつと割れるから、切り出して磨くときも気を遣わないといけない。
船の修理用の電動工具が家にあってよかったと思ったよ。
サイズ的には失敗作なものは磨きの練習につかったりもしたけれど、まあなんとか、最終的には鞠莉のサイズのものをつくることができた。
果南「鞠莉へのプレゼントだと、自分で手間を掛ける方しか思いつかなかった」
お金で買えるものでは最初から勝負にならない。そんな気がしていた。
貝を使う工芸品はとにかく手間がかかる。
製品が店頭に並ぶときの値段は、ほとんどが工賃になるらしい……って結局お金の話になっちゃったか。
鞠莉「ママが、お金で買えないものが世の中にメニーメニーあるのはドンフォーゲットね、って言ってたの。そういうものはは大事にしなさいって」
鞠莉「そんなサムシングをもらったわけね。本当にありがとう、果南」
サンキューでなく、日本語でありがとうと言われたのに気がついたのは、後のことだ。
鞠莉が、左手を差し出す。
鞠莉「果南がつけて」
……なんで、左手の指のサイズで作ったって知っているのだろう。
鞠莉「3学期に帰れなくて学校にステイしたとき、私の左手のリングフィンガー(薬指)のサイズ測ってたでしょう」
鞠莉が寝てる間に、毛糸を巻いて指のサイズを測ったのは本当だ。
果南「鞠莉、気がついてた?」
鞠莉「イエース。だから、このリングはリングフィンガーのサイズで作ってくれたんでしょう」
言い逃れはできないみたいだった。
果南「そうだよ、これは鞠莉の左手の薬指に合わせて作ったんだ」
観念した。
鞠莉が差し出す左手をとると、そのリングを薬指につける。
婚約指輪をつけてあげるのって、こんな感じなのかな、そう思って、慌ててかぶりを振った。
鞠莉「エンゲージリングを付けてもらったみたい」
果南「それ、思ったけど言わなかったのに」
そんな中、鞠莉が改めて口を開いた。
鞠莉「ねえ果南……」
鞠莉が、薬指の指輪と、私の顔を交互に見ながら言った。
鞠莉「ワンモア、欲しいものがあるの」
なんだろう。いまなら、何を求められても応じてしまいそう。
果南「何が、欲しい?」
鞠莉「いつか帰る場所が、欲しいの」
それは、あまりにも意外な言葉だった。
目の前にいるのは、世界中のどこにでも住めると豪語した時の鞠莉ではなかった。
鞠莉「国籍だって、日本とアメリカどっちを取るかもまだ決めてない。4年後、アメリカ人になってるかもしれない」
鞠莉はイタリア系アメリカ人と日本人のハーフだ。今は、日米両方の国籍を持っている。
でも、日本は多重国籍を認めていないので、22歳になるまでのあと4年以内に、国籍を決めなければならない。
どうしてそんなことを知っているかって?
鞠莉のことが気になって、前に調べたことがあるんだ。
鞠莉「でもね、今の私には、果南のいる場所が、帰りたい場所になっている」
鞠莉「この世界のどこに行ったとしても、果南がいるところに帰ってきたい」
私の顔を、鞠莉はじっと見ていた。
時間がどれくらい経ったのかも、わからなかった。
そして、鞠莉が日本語だけで喋っていたことに、その場では気がつかなかった。
果南「鞠莉、私」
さっきまでのシリアスな空気はどこかに失せていた。
マーキングって……キスマークみたいなものを連想してしまうのは、自分でもどうなのかと思う。
鞠莉「果南のリングはないの?」
そう聞かれて、思わず左のポケットをおさえる。
小さなお守りのかたい感触が、スカート越しにつたわってくる。
果南「どうしてそう思った?」
鞠莉「果南のハンドメイドなら、ペアリングがあるかなってシックルをかけてみたの」
鞠莉的には、この指輪はすでにペアリングになっているらしい。
ところで、かまをかけるをシックルをかけるって言ったみたいだけど、鞠莉、無理に訳してない?
さっきポケットを手で押さえたのを、鞠莉は見逃していなかったようだ。
私はもう一度観念して、ポケットの中の「お守り」を出した。
それをくるむハンカチを開く。
鞠莉「やっぱりペアリング」
中にあったのは、鞠莉にプレゼントしたのと同じデザインの指輪。
ただ、サイズは少し大きい。
いくつか切り出したものの一つが、私の薬指のサイズだった。磨きの練習を兼ねて、自分用として作ったものだ。
でも、着けるつもりも、鞠莉に見せるつもりもなかった。
こっそりペアで持っていられればいいと思っていたから。
出せと言いつつ、鞠莉は自分から私の左手を取った。
果南「え?」
鞠莉「ペアリングは、私が果南に付けるね」
鞠莉が、もうひとつのリングを私の左薬指につける。
鞠莉「これできっと、果南がどこにいても、マリーは果南のところにたどり着けるわ」
果南「そうだね」
満面の笑みを浮かべる鞠莉を前に、言葉がそれだけしか出なかった。
なぜ私の方が言葉を失うのだろうか。
……鞠莉に、あげちゃったってことでいいかな。
5分間の船旅なんて洒落た言い方だけれど、実際に5分なんてあっという間だ。
それからすぐ、連絡船が内浦に着いた。あとは船長のおっちゃんが船を繋いで、乗客の私達が下船する。
船長のおっちゃんが舫い綱を持って岸壁に飛び移っていた。
すぐに、客室の扉が開く。
いつもとおなじように、船長のおっちゃんが声をかけてくる。
果南「おっちゃん、今日もありがとう」
鞠莉「サンキュー、キャプテン(船長)」
先に連絡船をおりていた私が、鞠莉の手をとった。
鞠莉が、私の手を頼りに、桟橋に飛び移る。
全く変わらないいつもの光景。
でも、今日は、その光景の中に、一組のペアリングが加わっていた。
(おしまい)
オフィシャルでなく本作のオリジナルです。
補足ですが、夜光貝の指輪は作中の方法で作られます。
実際にはすごく手間がかかる職人芸で、必然的にワンオフの工芸品となるらしいです。
またまりかなで書いてくれると嬉しい
また同じ世界観で新しいお話が読みたいです!!
今後もまりかなのSSよろしくです
今後ともよろしく!
鞠莉が両親と一緒に住んでないなら、そこもまりかなの共通点になるからおいしいよね
-
前の記事
【ラブライブ!】花陽ちゃんの兄役が似合いそうな他作品の男キャラ挙げてけ 2020.04.16
-
次の記事
【ラブライブ!】QOHみたいなゲームをμ’sでやりたい 2020.04.16