【ラブライブ!】鞠莉「ダイヤ号で」ダイヤ「どこまでも」
- 2020.04.23
- SS

蝉たちも声を潜め始める。
広がる空は一面のオレンジで
今日1日を終わらせる準備を始めていた。
オレンジ…か。あの子ならみかん色、なんて言うかしら。
ようやく一つの壁を乗り越え、みんなの願いや想いが集まって
Aqoursは9人揃った。
訪れた平穏な日々。
大変ではない、と言ったら嘘になるけれど。すごく充実している。
今日も無事に生徒会の仕事と練習を終え、
穏やかな1日に終わりを告げる…はずだった。
…はずだったのだけれど。
…嫌な予感がする。
――ピンポーン!
こんな時間に訪ねてくる知人は
お父様・お母様に御用のあるお客様を含めても
あまり思い当たらない。
――ピンポーン!ピンポーン!ピンポンピンポン….
この非常識なチャイムの鳴らし方。
おおかた犯人は1人しか思い浮かばない。
無視を決め込んでいると
聞きなれた甲高い声が耳に飛び込んできた。
「ダーーーーイヤーーーーーーー!!チャオーーーーーーーー!!」
…やっぱり。
声の主はAqoursのメンバーであり、浦女の理事長であり、
そして…旧友でもある、金髪のアイツ。
見た目を裏切らないその破天荒ぶりは
昔からいつだって波乱を連れてきた。
私の”不変の日常を過ごしたい。”という願いは
もう何度打ち砕かれたことか…。
「ダーーーーーイヤーーーーーーーー?いないのーーーー?アブセーーーンス?」
「…なあんだ。せっかく松月で新作のみかんプリン買ってきたのに…」
“プリン”という単語にぴくり、と耳が反応する。
ダメよダイヤ…軽率に食べ物に釣られるなんて…
「おまけに抹茶シュークリームも付けたのに。今日もひとりで間接照明しかない、暗いホテルの部屋で食べるのね…マリーってやっぱりロンリーガールなのね…ぐすっ。」
不覚にも少し寂しそうにしている顔が浮かんでしまった。
ダメよダイヤ…お茶くらいなら…なーんて考えたら。
「…いないならしょうがないね。かえろ…」
両手いっぱいに紙袋を下げた、いつもより小さくなった背中が見えた。
黄昏時の空はよりいっそう切なさを加速させる。
今日ばかりは本当に私に会いたくて来てくれたのかも…、
なんて思ってしまったのが最後だった。
「…鞠莉さん。」
門を後にする鞠莉さんを呼び止める。
振り返った彼女は….
ここ数年で一番のしてやったり顔で勝ち誇った笑顔をしていた。
――また罠にかかってしまいましたわ!!
「なーんだダイヤ。いるんじゃない。居留守なんてひどぉい。」
「わ、悪かったですわよ。また妙なものでも持ってきたのかと思ったので…」
以前にもこうして手土産を持って遊びに来てくれたことがあった。
大きな箱にいっぱい入った、カラフルで可愛らしいマカロン。
二人でお喋りしながら一緒に口に運んでいく。
これはイチゴ…こっちはパッションフルーツ?あ、こっちは抹茶…
おやつは和菓子が多かった私にとっては最高のおもてなし。
…のはずだった。
「か、辛!!なんですの!?これぇ!?」
「ふふ、ダイヤ。ひっかかったわね!これはロシアンルーレットマカロン!略してRRMだったのよ!」
「はぁ!?ふざけないでくださいます!?か、辛ぃ…」
涙目になった私をけたけたと笑いながら水を差し出してくる。
本当にこの女は…
それからというもの、鞠莉さんが我が家に来るときは
常に警戒をしている。――
「ほら、ダイヤ!スイーツ買ってきたから一緒に食べよう?」
「ありがとうございます。お茶、淹れて来ますわね。」
「レモンティー濃いめでオネガイ♡」
「おだまらっしゃい!うちは麦茶しか出ませんからね!」
滅茶苦茶な注文は無視して、透明なグラスにお茶を注ぐ。
お皿と…それからスプーンも持っていかなきゃね。
「いただきます。…よかった。辛くない。」
二人でみかん色のプリンを口に運ぶ。
程よい酸味と鼻を抜けるみかんの香り。
やっぱり洋菓子は断然松月ですわ。…なんて考えていたら。
「…ダイヤ、食べたね?」
「ええ。食べましたけど。」
「…お願いがあるの。」
「はぁ!?私を嵌めましたわね!?」
――やっぱり家に上げるんじゃなかった!!
一瞬の甘えが命取りになるのよ、ダイヤ…
「まぁ…話だけなら聞いてあげますわ。お土産を頂いてしまったのは事実ですし。」
自分の律儀な性格がイヤになる。
「あのね、マリーの、教官になってほしいの!」
――あぁ、また今回も、”何か”が始まってしまうみたい…
少し立っているだけでじんわり汗ばんでくるような快晴の日曜日。
家の目の前にある小さな公園で鞠莉さんを待っていた。
遊具という遊具といえば、ジャングルジムに、ブランコ二つ。鉄棒くらい。
幼い頃に幾度となく足を運んだここも、ちゃんと来るのは久しぶりかもしれない。
おでこに張り付く前髪を気にしていたら
遠くから近づいて来る異様な人影。
やだ、知り合いだと思われたくない…。
「ダイヤ〜チャオ〜♪あ、今日は教官だったわね。4649〜♪」
「その呼び方やめてくださる!?というか、その格好は何ですの…親が見たら泣きますわよ。」
現れた彼女は
補助輪付きのド派手なパープルのロードサイクルに乗っていた。
膝には分厚いサポーター、頭には安全第一と書かれたヘルメットを身につけて
上機嫌な顔で立っている。
どこから取って来たんですの、そのヘルメット…
「どう?どう?マリー、カタチから入るタイプなのよね♪もちろんこの愛車もおニューよ♪教官へのリスペクトを込めて”ダイヤ号と名付けたわ!」
よく見るとボディの部分に”Dia “とマジックで書かれていた。
すぐそばにはラクガキみたいな似顔絵。
あとで絶対に消してやりますからね…
「乗れもしないくせにロードバイクに乗るバカがいてたまりますか!
というか、どうして馬には乗れるのに自転車には乗れませんの…」
「パパが危ないからって乗せてくれなかったの。移動はヘリと船だし、私と自転車の接点はゼロね。
だから、ダイヤ号がマリーの初ジテンシャ♡イエーイ♡」
そういえば、鞠莉さんが自転車に乗っているところは見た事がない。
長年一緒にいても気付かないことってあるものなのね…
「まあ、いいですわ。私に頼んできたからには厳しく指導させて頂きますからね。覚悟なさい。」
「えー。お手柔らかにオネガイイタシマスワ!!」
「こら!真似はやめなさい!!」
鞠莉さんにものを教えるなんて、考えただけで頭が痛い。
自転車に乗って軽く走るよう促した。
もともと運動はできるタイプのようだし、特段問題はなさそうですわね…
「ところで、どうして私に頼もうと思いましたの。他にも得意そうなメンバーがいるでしょう?」
「だって一番ヒマそうだし」
「むっかーーーー…帰りますわよ!?」
「It’s joke♪ダイヤならルビィちゃんにも教えたことあるだろうし、上手かなって!」
「はぁ…」
一応、信頼はあった上で頼んできているのね…
「それにしてもこの公園、狭いわね。ダイヤのこと轢いちゃいそう」
笑いながらこっちへ向かって漕いで来た。
「ちょっと!追いかけないで!!もう!!」
本当にこの金髪は.!!.
こっちの体力がもたないわよ!!
「次は〜黒澤駅〜黒澤駅〜降り口は〜ホクロのある方〜♪」
「やかましい!!早く降りなさい!!」
律儀にも私の右側に自転車を止めて降りる。
「まずはバランスを取る練習からですわね。」
「はい!!私!教官が乗ってるとこ見たいデス!!」
「…人のを見ても何の参考にもなりませんわよ。ほら、ペダルと補助輪をはずすから、ダイヤ号を貸しなさい。」
不覚にもバカみたいな自転車の名前を口にしてしまって
自己嫌悪。
ぶーぶー言う鞠莉さんを尻目に、自宅から持ってきた器具で
練習の準備をする。
一応、効率的な方法もネットで調べてきた。
どうして私ここまでしてるのかしら…
「ほら、この状態で乗ってみて。バランスが取れるようになるまで地面を足で蹴って進む、を繰り返してください。」
「はーい!」
意外にも素直に指示に従った彼女は
慣れない状態で漕ぐ自転車に四苦八苦している。
「oh…前に進まない〜〜」
蹴っても蹴ってもなかなか思うように進まないその様は
少し前の私たちみたいで苦笑する。
したたかで策士。そんな風に見えて実はすごく不器用。
私の知ってる小原鞠莉はこういうとこでも垣間見えるのね…
「オーケー!とーーーう!!」
「あ!ちょっと!!」
…しまった。
彼女のリミッターを外した時の勢いを侮っていた。
想定していた数倍くらい力強く地面を蹴った彼女は
自転車を一緒に一直線に私のもとを離れていってしまった。
前方にある砂の山を避けようとしたところで
バランスを崩して転倒。
やってしまいましたわ…
「いったーーーい!ダイヤの嘘つき!!」
「ごめんなさい。まさかあんなに勢い良く進むなんて…。ほら、手当てしてあげるからそこに座って。」
幸いにも肘を少し擦りむいたくらいで澄んだみたい。
こんなこともあろうかと、用意していた救護グッズが役に立つ時がもう来てしまった。
「ダイジョーブ!ダイヤ、こうして見るとお姉ちゃんみたいね。」
「みたい、じゃなくて一応姉なんですけどね…」
さっと消毒液を塗って上からガーゼを貼る。
彼女の真っ白な肌に傷が残ってしまわないか、ちょっと心配。
「…ダイヤ、ゴメンね。悪いのは私だから気にしないで。」
私としたことが、顔に出てしまっていたみたい。
不安そうにこちらを見る鞠莉さんは”マリー”ではなくなっていて。
いつもこれくらいしおらしくしてくれていれば…と思う反面
調子が狂うように感じるのもまた事実。
私もすっかり彼女のペースに乗せられているみたい。
でもダイヤなら上手く扱ってくれるかなって思って、今日はお願いしたの。」
曇った彼女の表情をかき消すように
ふっと微笑む。
「…まったく。私も鞠莉さんを乗りこなす練習、必要みたいですわね…」
目が合った鞠莉さんとくすくす笑い合う。
子供のような笑顔を浮かべてる彼女を見て、素直に可愛い、と思った。
「教官!練習の続きオネガイシマス!!」
すっかり元気を取り戻した鞠莉さんが立ち上がる。
「ここからは手加減なしですからね。ちゃんとついてきなさい?」
「ふふ。ダイヤはそうこなくっちゃ♪」
さっきの暴走が嘘のように、バランスを取って前進できるようになった。
これ、私がいなくても乗れてたんじゃ…
「どう?どう?上手くなってる?」
「ええ!上達が早すぎて、ちょっと驚いたわ。次はペダルを付けて乗ってみましょうか。」
「イエーイ!やっと鬼教官に褒められた♪」
「誰が鬼ですってぇ!?」
聞き捨てならない言葉に反応しつつ
ペダルを取り付ける。
朝はぴかぴかだったダイヤ号も
よく見ると、彼女の頑張りを映し出すかのように
細かい傷や砂の跡がたくさん付いていた。
あとで綺麗にしてあげよう…仮にも私の名前の乗り物ですからね。
乗りたくてたまらないという顔をした彼女を跨らせる。
「私が後ろを持ってますから、鞠莉さんはバランスを取ることに集中して漕いでください。」
「らじゃー!まかせて!!」
サドルの後ろを軽く支えながら、彼女の運転をサポートする。
いつだってそう。
特殊な家柄、理事長、スクールアイドル、そして破天荒な性格…
何かとアンバランスになりやすい彼女を
ずっと後ろから見ていた。
必要なときは手を差し伸べて、背中を押して。
いらなくなったら手を引く。
そうやって彼女の背中をまっすぐ立たせるのが私の役目。
自転車だって、きっと一緒。
鞠莉さんはただ前を向いて走っていればいい。
最後はいつだって自分の力で進んでいくことを、私はよく知っているから…
そっと、手を離した。
「…鞠莉さん。おめでとう。」
「ホワッツ!?」
「気づかなかった?あなた、もう一人で進めてますわよ。」
「エキサイティーーーン!気持ちいい!!自転車ってサイコーね!!」
屈託のない無邪気な笑顔を見ていると、自分の頬もふっ、と緩むのが分かる。
彼女が旅立っていくのを見るのは今日で三回目かしら。
一度めは留学のとき、二度めはAqoursに仲間入りするとき…。
手放すのは、もう慣れっこだけど、毎回すこしの寂しさを連れてきた。
…でも
「ダイヤーーーー!!」
私の元へ戻ってきた鞠莉さんが
自転車を放り投げて思い切り抱きついてきた。
「…おかえりなさい。」
そう、いつだって少し成長した彼女が
幸せを連れて帰ってくる。
だから、安心して送り出せること、あなたは知ってるのかしら…
「ダイヤ、ありがとう。ダイヤにお願いしてホントによかった!」
「私も最初は乗り気じゃなかったけど…楽しかったですわ。」
鞠莉さんと顔を合わせて笑いあう。
こんな瞬間が訪れるなら、私どんなことでも乗り越えられますのよ…?
ふと、彼女に手を引かれブランコの方へ連れていかれる。
「今度はマリーがダイヤの背中を押す番ね!」
….何そのセリフ。まるで私の考えを見透かしているような…
と、背中をすごい勢いで押される感触。
どんどん高くなるブランコから見上げた黄昏時の空は
すっかり赤紫色に染まっていて
二人の小さな思い出に幕を閉じようとしていた。
…のだけど。
「あれ?お姉ちゃん?」
「ルビィ!?あなた出かけてましたの!?」
「花丸ちゃんと沼津まで行ってたんだぁ。ってあれ?あの自転車すごいね。鞠莉ちゃんの?」
「イエース!私の愛車、ダイヤ号よ♪今日はダイヤ教官に自転車の乗り方を教わっていたのデース♡」
「えっ!?お姉ちゃんに!?」
「?何かおかしい?」
「ちょっと、ルビィそれいじょ…」
「お姉ちゃん、自転車乗れないんだよ…」
「ホワーーーーーーッツ!?」
鞠莉さんの顔が見れない。
きっと最っ高に悪い笑顔でニヤニヤしているんでしょうね…
「…何よ。何か言いたいことがあるなら言いなさいよ。」
そう言って見上げた彼女は
今にも泣きそうな優しい笑みを浮かべていた。
「ダイヤ、ホントのホントにセンキューね…。ダイヤのことだから、私が乗れるように、いっぱい調べてくれたんでしょう?」
「もう。スナオじゃないダイヤには、マリー教官から自転車レッスンのプレゼントね!」
「はぁ!?!?」
「来週またここに集合ね!!マリーが手取り足取り教えてあげる♡」
そう言ってブランコから飛び降りた彼女は
チャオ♪と言い残して自慢の自転車に乗って帰っていく。
来週…か。また今日みたいな一日を過ごせるのなら悪くないかも。
なんて思いつつルビィと一緒に公園を後にした。――
「もう。スナオじゃないダイヤには、マリー教官から自転車レッスンのプレゼントね!」
「はぁ!?!?」
「来週またここに集合ね!!マリーが手取り足取り教えてあげる♡」
そう言ってブランコから飛び降りた彼女は
チャオ♪と言い残して自慢の自転車に乗って帰っていく。
来週…か。また今日みたいな一日を過ごせるのなら悪くないかも。
なんて思いつつルビィと一緒に公園を後にした。――
鞠莉さんのレッスンの甲斐もあり、私も自転車に乗れるようになった。
肝心のレッスンはハチャメチャすぎて、不満の一つでも言いたくなるような内容だったけど
結果オーライということにしておいてあげましょう。
――ピンポーン。
…嫌な予感がする。
「おはようございます。って!どうしたんですの、それ!!」
玄関のそばに置かれていたのは
ダイヤ号の色違い、真っ赤なロードバイク。
「ダイヤにはお世話になったからお礼よ!ダイヤにぴったりなレッド♪カワイイでしょ♡」
「ほんっと、あなたって人は…」
「果南にもターコイズの同じモデルをプレゼントしておいたわ!3人で地球の裏側までサイクリングするわよ!!」
「…もう。でも、今回はありがたく受け取りますわ。」
ボディのすみっこにあったのは小さく書かれた”Mari”のサイン。
仕方ないから、これは消さずに残しておいてあげる。
目の前の乗り物から広がっていく世界、紡がれる思い出に
心が踊る。
ハチャメチャだけどいつだってドキドキをくれる彼女の、
今度は後ろじゃなくて隣を走ってみたい。
いつか別々の道を歩く日が来ても
彼女が「ただいま」と言える存在でありたい。
そんなことを願っていた。――
…その後、
学校に遅刻しそうになって。
“マリー号”で登校してみんなに笑われたのは、また別のお話…。――
-END-
お見苦しい点等あったらすみません。
乙です
雰囲気めっちゃ好き
優しいダイヤ様とってもいいです!
やっぱりダイマリなんだよですわシャイニなぁ…
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