【ラブライブ!】凛「片思いチョコレート」
- 2020.04.23
- SS

また、自分が同性に恋をするなんて想定外だったから、気付いてもすぐには信じられなかった。
それに同性なんて気持ち悪がられると思ったので、恋であっても無視しようと決めていたけど、意識するほどかよちんへの恋は強くなった。
膨れる結ばれたいと思う気持ちは、次第に根拠もない妙な自信を作り出した。
小さい頃から今までいつだって一緒にいたし、喧嘩をした記憶がないほど仲が良いし、凛にしか見せない表情を知っている。
手を繋ぐことだって、「あーん」のしあいっこすることだってある。
仲の良い友達ならごく普通の行動に、都合の良い解釈を見出して、馬鹿げた期待をしてしまったのだ。
夢中な私にはそれに気付けずに、我慢できずに、とうとう、高2のバレンタインデーに告白をした。
かよちんは、困ったような辛いような表情をして、まずごめんと謝り、友達でありたいという意思を伝えた。
凛は真っ白になって、追ってくる声に振り返ることもせず、その場から逃げた。
悲しくて悲しくて、とにかく泣いた。
これが失恋なんだと思った。
──
それから一ヶ月くらい、かよちんと口を聞けなかった。
連絡も取り合えなかった。
なんとか元気を出させてくれようと頑張るかよちんを見るのがもっと辛くなって、三月は学校をほとんど休んだ。
告白してから会話をしたのは、だから高3の学校初日だったと思う。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と連呼し始め、巻き付ける腕を解いてくれないので、「ごめん」と凛は呟いた。
凛が何とか「かよちんは悪くないよ」と口にするなりかよちんが再び抱き付いてきて、心臓がドキドキ
してしまうから「あんまりくっつかないで」と言うと、かよちんは「そうだよね」って少し悲しい顔をした。
凛から見るかよちんは、ちょっぴり意地悪で、すっごく優しい、そんな人だった。
──
部活でもいつも通り話せるようになったし、登下校もほとんど一緒になった。
しかし、元通りになるに連れ、失恋したはずのこの感情もよみがえっていった。あるいは更に強くなったかもしれない。
視線が合うだけで鼓動は早まった。隣にいるだけで熱くなった。
二度目の失敗とわかっていながらも、恋は溢れるばかりで抑えきれず、自分の誕生日である11月1日に再び告白した。
ごめんね、と言われた。そして「私、少し離れたほうがいい?」と聞かれて、凛はそこまで悩ませている自分にはじめて憤り、かよちんに謝り続けた。
だが、かよちんがより気を遣うようになった。
凛は、惹かれ続ける思いと、迷惑をかけまいとする自分の抑止に悩み悩んだ。
心配してくれるかよちんが、嬉しく、一層辛かったが、どうしても心配しないでとは口にできなかった。
また我慢がきかなくなりそうだったから。
だから最近あまり休日に会う約束をしていなかったが、かよちんに誘われた。
その日の次の日がバレンタインデーだったので、避けたかったのだが、やはり迷った挙句断ることはできなかった。
昼前に会うなりかよちんは「義理チョコだけど、今日だけ本命チョコ」を私に押し付けた。
私は慌てながら「まだ1日早いよ、慌てんぼだにゃ」とか言ったけど無駄で、かよちんの半ば無理矢理なチョコを「いいよ」と受け取ってしまった。
だが受け取ると同時に、凛はハッとなって、かよちんは相当に無理をして、せめて一日でも恋人になろうなどと考えているのだとほとんど確信した。
凛は罪悪感をもって、この恋がどれだけ一方的な自己中心的な圧力になっているのが確信できた気がした。
いつも以上におしゃべりして、手を繋いで、くっついた。
映画を見たり買い物をしたり、恋人同士がやりそうなことをした。
一生の中でこれほどの幸せを感じたことはないってくらい幸せで、どうにかなりそうだった。
別れ際に、家に泊まっていくかと聞かれたけど断った。
その際の彼女の寂しそうな表情は、どれだけ私の事を心配してくれているのか伝えるに酷いほど十分な仕草だと思った。
凛は翌日、かよちんに「友チョコ」を渡した。
頭を下げて、「告白してごめんなさい」と言った。
──
凛はかよちんと絶対連絡を取り合うことを約束し、それぞれの大学に行った。
そこそこの頻度でやりとりを続けた。
他愛もない世間話は楽しかったし、相談事は支え合ってることが感じられて嬉しかった。
一ヶ月に一度は二人で出掛けた。
連絡をとったのは何週間前だろうか、一緒に遊んだのは4ヶ月ほど前だったか。
大学に入ってすぐは、毎日電話しても心苦しかった凛の心だが、時間の流れと共に薄くなっていった。
恋なんてこんなものなんだな、と寂しくなってみたりしたけど、ただそれだけだった。
周りでは恋人がいる人ばかりの中、かよちんにはいないから、もしかしたらと思ったのだ。
休日かよちんと遊ぶ約束をして、その時に、私の告白の事をしつこいくらい忘れるように言った。
かよちんも相変わらずすごく謝ってくれて、それから「本当にそれでいいの?」を4回くらい確認されたけど、私は全部頷いた。
そしたらかよちんも頷いた。
──
私もかよちんも無事卒業して、職に就いた。
連絡は滅多にとらなくなった。
二人で会うこともなくなり、今では一年に一度の元μ’sの九人の顔合わせの時くらいしか会う機会はなかった。
そんな中、就職してから二年ほど経った頃、かよちんから久しぶりの電話があった。
恋人ができたらしかった。
私は嬉しくてたまらなかった。
祝いするよ、いいよ恥ずかしい、駄目するのー、電話は盛り上がった。
全然寂しくなかった。
私は「これでいいのか」という自分の感情を鑑みて、しっかり考えたかとだけ聞いたが、自信ある返事が返ってきた。
数日後、結婚の報告があった。
喜びと、つかえが取れたような安堵の気持ちでいっぱいになった。
いっぱいだったから、全然寂しくなんてなかった。
寂しいとすれば、仕事で結婚式に参加できないことが辛いのだろうと思った。
お腹が大きくなっている気がするかよちんと一緒に駅へ歩いていて、感じる気持ち。
私は、もう恋なんてしていない。
私は、もう何も寂しくない。
なのに我儘な私は、寂しかった。
どうしても私の忘れられない思い出を、かよちんに忘れてくれるように頼んだ。
だから本望であって、それを蒸し返そうって言うことではない。
ただ、これで正しかったのか、私の選択は正しかったのか、いや正しい、こうなるのが普通でこれが
正しいのは分かり切っている筈の事だが、私はもう一度だけ、ここまで来たから、確かめたかった。
かよちんの口から。区切りをつけるために。私のために。
忘れたよって言ってほしい。
街の光に照らされる「親友」の顔を見れば、それは間違いなく本当だった。
今度こそ私も本当に安心して、嬉しくなって、気持ち良くなって、スッキリした。
これで良かったんだ、と初めて思えた気がした。
だから、頬をつたる一筋の雫は、闇に溶け込んでいった。
「かよちん、今、幸せ?」
「とっても幸せだよ」
「…そっか」
告白された時は断りづらかったので一、二度デートすれば良いだろうなどと考えていたが、次第に惹かれ、12月頃結婚に至った。
もちろんかよちんに相談したが「凛ちゃんの気持ち最優先だと思うよ!」とだけ言われて、付き合って半年で結婚って私と一緒だね、だとか無駄話ばかりに終わった。
かよちんも嬉しそうだと私は思った。
かよちんが結婚式に参加出来なかったのが、ちょっぴり残念だった。
結婚してから約二ヶ月、彼は大らかで朗らかな性格だから、何のトラブルもなく、後悔することもなく二人仲良くやっている。
──
2月14日。バレンタインデー。
夕方、私宛に郵便物が届いた。
段ボール箱を開けると、見覚えのある文字で「凛ちゃんへ」と書かれた紙と、リボンなどの装飾が施された箱が入っていた。
私は夢中でその二つ折りの紙を掴んで開いた。それにはただ「ごめんね。大好きだよ。」とだけ書かれていて、差出人の名前は見つからなかった。
にわかに溢れ出る涙の意味は、自分自身ですら理解できなかった。
丁寧に二つ折りに戻して、段ボール箱へ戻した。
甘い香り。手作りチョコレート。
一つ、口に入れた。
知っている味だった。
ちょっぴり意地悪で、すっごく優しい。
私は何もかも知らなかったんだと思った。
口の中に、複雑なそれは広がってゆく。
私は噛み締めた。
チョコレートの味は、片思いの味。
受取人の名前だけ書いて、一言、二言のメッセージカードを入れた。
私は私でいたら恋ができない。
だから、私は誰かになって、あなたへおくる。
結ばれることのない両思い。
そんな片思いチョコレートを、私は、彼女に送った。
かよちんは大人だにゃ~
乙です
こういうりんぱなもいいな
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