【ラブライブ!】凛「かよちんの源氏物語」
- 2020.03.23
- SS

凛は、近所の菜園に、ヒョウタンみたいな草が生えているのに気がついた。
今まで気づかなかったけど、おもしろい形だな。
何ていうのかわからないので、凛は、かよちんに訊いてみた。
かよちんは何でも知っているんだ。
花陽 「凛ちゃん、あれはね、夕顔っていうんだよ」
凛 「ユウガオ?
アサガオの仲間かにゃ。
でも、かわいらしいアサガオと違って、どこにも花なんて咲いてないけど」
花陽 「まだ昼だから、咲かないかもね。
でもね、夕方になると、夕顔はきれいな白い花を咲かせるんだよ」
凛 「え? どこから?」
花陽 「実の脇にくっついている、クシャクシャした白いものが見えるでしょ。
あれは、ホントは花びらなの。
夕方になると、あれが咲いて、朝になると、またしぼむの」
夕方に咲いて朝にしぼんだら、誰にも見てもらえないじゃない」
花陽 「そうだね、せっかく可愛らしい花なのに、もったいないよね。
でも昔から、夕顔の花の美しさに気づく人はたくさんいたの。
たとえば、源氏物語にも『夕顔』っていう章があるんだよ」
凛 「ゲンジモノガタリ?
凛、知ってるよ。千年前のウルトラスーパーロリコン紳士のお話だよね」
花陽 「うん、まあ、煎じ詰めれば、そういうことなんだけど……
キレイなお話も、いろいろあるんだよ。
凛ちゃんの好きな少女漫画も、もとをたどれば源氏物語に行きつくの」
凛 「わー、かよちんはやっぱり物知りだにゃー。
ねえ、今日も少女漫画、貸してくれるんだよね!
さあ、あがってあがって!
お礼においしいおむすびをごちそうするから!」
かよちんは、お米マイスターであるだけでなく、少女漫画マイスターでもあるのだ。
かよちんは、代価のおむすび(梅干し、味噌漬け)を喜んで食べてくれた。
「ウワァー」とか「ウヒョー」とかいう、かよちんの歓喜の声が、しばらく続いた。
おむすびを平らげたところで、人心に戻ったかよちんは、話をはじめた。
こんなに少女漫画が好きなんだから、買って揃えればいいのに」
凛 「いやー、でも、自分で買うのは恥ずかしいの。
凛みたいな女の子っぽくないヤツの部屋には、甘々な少女漫画は似あわないよ。
もっとこう、『弓道士魂』とか『柔道一直線』とか『六三四の剣』とか、
そういうのがいいよ」
花陽 「凛ちゃん、その漫画の趣味は、誰の影響なの?」
凛 「海未ちゃん!
海未ちゃんのおかげで、最近はすっかり希ちゃんもスポ根漫画に夢中で。
海未ちゃんが貸してくれる漫画を、希ちゃんと凛はいつも楽しみにしてるの。
読み終わったあとは、あふれでるパトスを発散するために、
三人でチャンバラごっこをするんだ」
花陽 「(そうかそうか、リリーホワイトの最近のトレンドは、武道系スポ根漫画なのか)
ねえ、凛ちゃん、スポ根漫画もいいけど、もっと少女漫画について語り合おうよ!
プランタンは、毎週金曜の夕方、穂乃果ちゃんの家で『少女漫画の夕べ』を開いてるの。
凛ちゃんにも、ぜひ来てほしいな!」
今週の金曜は、絵里ちゃんの家で、『天才バカボンの夕べ』に参加する約束があるの。
凛のほかには、にこちゃんと真姫ちゃんが参加するみたい」
花陽 「(そうかそうか、ビビの最近のトレンドは、ナンセンス系ギャグ漫画なのか)
ねえ、凛ちゃん、『天才バカボンの夕べ』では、どんなことを語り合うの?」
凛 「古今東西の偉大なギャグ漫画について語り合うんだけど、論争はしちゃいけないの。
どんなギャグでも受け入れ、最後は、絵里ちゃんの音頭とともに、
みんなで『これでいいのだ』を三唱して、おひらきになるんだ」
まあ、それはそれとして、凛ちゃん、少女漫画のヒロインに、憧れたりしない?」
凛 「えー、だって、ああいう漫画のヒロインは、
たいてい髪が長くて、フリフリのスカートを履いてるじゃない。
凛はそういうカッコ、似あわないよ」
花陽 「そんなことない!
凛ちゃん、小学校のころからずっと、私服でスカート履いてないよね。
でも、ぜったい似あうよ!
だから今日は私、凛ちゃんにスカートを履いてもらおうと思って、家からもってきたの!」
凛 「うーん、かよちんがそこまで言うなら、ちょっと履いてみてもいいけど……」
こうして凛は、脱衣所で白いフリフリのスカートに着替えてから、部屋で待つかよちんの前に登場した。
凛の姿を見たかよちんは、身をくねらせて喜んだ。
花陽 「うわぁー、凛ちゃん、かわいいよぉー」
凛 「かよちんが、なんかアブナイ人みたいになってるにゃー」
花陽 「ほら、凛ちゃんも、鏡の前に立って、見てごらんよ!」
アハハ。何だかおかしいにゃ。
ズボンからスカートに履き替えただけなのに、なんだか別の自分になったみたい。
でも凛は、新しい自分になってこの部屋から出る勇気が出なかった。
「あれ、いつもはズボンなのに、スカート履いてる!」
外に出たら、こんなふうに言われるかもしれない。
言う人に悪気がないことは、分かっている。
でも、そう言われるのは、怖い。
凛はあまりにも長い間ズボンを履きすぎたみたいだ。
だから、スカートを履いた自分を見ても、どうも違和感をもってしまう。
その違和感を、他の人に見抜かれるのが、怖いんだ。
何だか居たたまれなくなって、凛は鏡から顔を背けた。
そうだ! 今度みんなで買い物に行くとき、そのスカートを履いて行かない?
そして今度は、凛ちゃんが自分でスカートを選んで買って、それで……」
凛 「ううん、ヤだよ!」
花陽 「凛ちゃん?」
凛 「かよちん、せっかくもってきてくれたのに、ごめんね。
凛にはやっぱり、このスカートは似合わないよ。
かよちんに『かわいい』っていってもらえて、すごく嬉しかった。ありがとね。
でも、それでおしまい。
部屋の中でかよちんに見てもらうのはいいけど、
外で皆にこれを見せるのは、凛には無理だよ」
そういって凛は、するするスカートを脱いで、ズボンに履き替えた。
足もとに落ちた白いスカートは、昼間の夕顔の花のように、ぺちゃんこになってしぼんでいる。
私、つい、はしゃぎすぎちゃった。
スカート、もちかえるね」
ああ、あやまらなきゃいけないのは凛のほうなのに。
かよちんは、いつもそうだ。
押しが弱くて、悪くないのに、すぐあやまる。
かよちんは、少女漫画のヒーローとは正反対の性格なんだ。
花陽 「じゃあね、凛ちゃん。また明日!」
凛 「うん、また明日!」
かよちんを見送ったあと、ふと菜園を見ると、いつのまにか夕顔の花が開いていた。
凛は、こっそり夕方にスカートを履くけど、朝になったら、もう着替えている。
夕顔は、こっそり夕方に花を咲かせるけど、朝になったら、もうしぼんでいる。
凛と夕顔は、似た者どうしなんだな。
凛たちは講堂での二度目のライブのために、練習に励んだ。
そして、ライブ当日。
凛 「ねーねーかよちん、緊張するけど、すっごく楽しみだね!」
花陽 「そうだね。でもまだ開演まで時間があるから、落ち着いて。
私、おむすびとお茶を持ってきたから、おなかがすいたら、いつでも言ってね」
かよちんと凛は、舞台裏で、そんなおしゃべりをしていた。
そこに、真姫ちゃんが嬉しそうな顔で私のところに駆け寄ってきた。
真姫 「凛! あなたにプレゼントが届いてるわよ!」
凛 「いやいや、真姫ちゃん、何を言ってるのかにゃ。
校内だから、プレゼントの受けとりは禁止だったはずでしょ?」
真姫 「そうなんだけど、私がちょっと目を離しているときに、
だれかが舞台裏に置いていったみたい。
せっかくなんだから、受けとってあげなさいよ」
小包の上に、カードが挟まっている。
スカートをはいたあなたの姿を見るのを、とても楽しみにしています。
だからあなたも、鏡に映る自分の姿を、もっとよく見てあげてください。
寄りてこそそれかとも見め黄昏れに
ほのぼの見つる花の夕顔
後半の文は、ロシア語かにゃ」
真姫 「凛、これはロシア語じゃないわ。和歌よ。
なかなかシャレてるじゃない。
源氏物語の一節ね」
凛 「和歌か。ずいぶん古風なことをする人だにゃ。
それと、この小包の中は何だろう……
わあ、すごい!
カンピョウ巻きが入ってるよ!」
にこ 「和歌とカンピョウ巻きとは、なかなか不可解な取り合わせね。
これは何かのメッセージかもしれないわ」
凛 「あ、にこちゃん!
そういえば、カンピョウって、何からできてるんだっけ」
にこ 「夕顔の実よ。
お味噌汁に入れたりしても、おいしいのよ」
隣で、おむすびを食べていたかよちんが、ゲフンゲフンと咳きこんだ。
まるで、こっそり隠したメッセージがあっさりバレて焦る人のように。
にこ 「うーん。夕顔の和歌と、夕顔の実か。
凛、あなたのファンは、夕顔によほど思い入れのある人物と見えるわ。
誰か心当たりはない?
たとえば最近、誰かといっしょに夕顔を見たとか……」
隣で、お茶を飲んでいたかよちんが、「ピャア」と言ってお茶をこぼしそうになった。
今日のかよちんは、ずいぶん挙動不審だ。
でも、凛にプレゼントをくれた人の正体は、けっきょく分からずじまいだった。
ひとまず凛は、この人のことを、「ミスターかんぴょう巻き」と呼ぶことにした。
姿を隠して応援してくれるなんて、まるで少女漫画のヒーローみたいだ。
そんな人が凛の前に現れるなんて、考えたこともなかった。
ああ、ミスターかんぴょう巻き、あなたはいったい誰なのかにゃ?
※ すみません。つづきます。
謎のミスターかんぴょう巻きとは、いったい何よちんなのでしょうか。
ミスターかんぴょう巻き…一体何泉さんなんだ…
穂乃果「さあ、『少女漫画の夕べ』、開催だよ!」
ことり「でも穂乃果ちゃん、まだ金曜日じゃないよ?」
穂乃果「えー、でも、こんなことが起きたら、もう集まるしかないじゃない?
そんなわけで、ゲストの凛ちゃん、どうぞお入りください!」
凛 「おじゃましまーす!
わー、やっぱり穂乃果ちゃんの部屋は女の子らしいにゃあ!
少女漫画も、こんなにたくさん!」
ところで、ことりちゃんと花陽ちゃんも、もう知ってるよね?
きのうのライブで、謎の王子さまが凛ちゃんにプレゼントをこっそり贈ってくれたの。
ねえねえ、こういうのって、すごく少女漫画っぽくない?」
ことり「そうだよねー!
メッセージカードを挟むなんて、ステキだなあ。
ねえ凛ちゃん、もらったカード、私たちにも見せてもらっていい?」
よく分からないところもあるから、
少女漫画マイスターである三人の意見が聞きたいの」
そう言って凛は、この前もらったカードをテーブルの上に置いた。
スカートをはいたあなたの姿を見るのを、とても楽しみにしています。
だからあなたも、鏡に映る自分の姿を、もっとよく見てあげてください。
寄りてこそそれかとも見め黄昏れに
ほのぼの見つる花の夕顔
穂乃果「わー、和歌がついてるなんて、古風でなんだかステキ!
凛ちゃん、ヒューヒュー!」
ことり「いまどき珍しいよね!
きっとこれを書いたひとは、超、超ロマンチストなんだろうね!
……あれ、かよちゃん、顔が赤いし、すごい汗だよ?
まるで、自分の書いたラブレターをみんなの前で朗読されてる人みたい」
花陽 「ハハハ。ソンナコトナイヨ」
花陽 「ソウカモネ」
穂乃果「では、カフェー・プランタン名物、ほむまんをどうぞ」
凛 「カフェー?」
ことり「むかし銀座にあった、日本初の喫茶店の名前だそうだよ」
凛 「おまんじゅうが出てくるなんて、ハイカラなカフェーだにゃ。
ところで、凛はこのカードに書いてある和歌の意味がよく分からないの。
わけがわからないという点では、英語も古典も同じようなもんだよ」
私なんか、古典って聞くだけで、眠くなってきて、机に頭をぶつけそうになるの!
ぶつけたら、どんな音が鳴ると思う?」
ことり「コテン!って言いたいのかな?
穂乃果ちゃん、ひねりのないダジャレを言うヒマがあったら、
いっしょに和歌の訳を考えてね。
たぶん訳は、こんなふうになると思うんだけど……」
寄りてこそそれかとも見め黄昏れに
ほのぼの見つる花の夕顔
訳:
夕暮れのなかで、夕顔の花がぼんやり見えたの。
でも、もっと近づいて見ないと、それはよく見えないよ。
それでこれは、何を歌ってるの?」
ことり「もともとの源氏物語では、ここでの『夕顔』は光源氏のこと。
つまり、さっきの和歌を意訳すると、こんなかんじかな」
ことり語訳:
オレの姿をハッキリ見たければ、もっと近くまでおいで、子猫ちゃん。
ことりのおやつにしてやるぜ?
いや、プレイバード!
でも、小鳥さんは、猫さんに、逆におやつにされちゃうんじゃないかな」
凛 「つまりこの歌は、『おじょーちゃん、ヘイ、カモン!』ってことが言いたいの?
ミスターかんぴょう巻きが、そんなチャラチャラした奴だとは知らなかったにゃ 。
ちょっと怖いかも……」
花陽 「ちがうよ凛ちゃん!
ミスターかんぴょう巻きは、そんなチャラチャラした奴じゃないもん!
確かに、もともとの源氏物語では、そういう訳になるかもしれないけど……
ほら、カードの文をよく見て。
『鏡に映るあなたの姿を、もっとよく見てあげてください』って書いてあるでしょ?
だから、和歌の中の『夕顔』は、ここでは、鏡に映る凛ちゃん自身のこと。
夕顔の花は、きっとスカートを喩えているんだよ。
だから、あの和歌を意訳すると、こんなふうになるんじゃないかな?」
かよちん語訳:
ねえ凛ちゃん、鏡の中に、スカートを履いた自分の姿が見えたでしょ。
あのとき凛ちゃんは、恥ずかしがって顔を背けていたよね。
でも、もっと鏡に近づいて、もっとよく見てごらんよ。
スカートを履いた凛ちゃんは、かわいいよ!
ことり「あたかも自分の気持ちを述べているかのような、心のこもった訳だね!
かよちゃん、すごいよ!」
凛 「でもどうして、ミスターかんぴょう巻きは、
凛がスカートを履いたときのことを知っているの?
ミスターかんぴょう巻きは、どこからそれを見ていたの?」
花陽 「えーと、それは、その……」
穂乃果「まさか、これ、ストーカーってやつ?」
ことり「プライベートの凛ちゃんまで、ずっと見ているという宣言か。
これはけっこうアブナイかも」
凛 「うう……
ミスターかんぴょう巻き、やっぱり怖いひとなのかな」
ごめんなさい、私の解釈、どうせ当てずっぽうだから!
そうだ、私の考えは、どうせ間違ってるんだよ。
だからそんなに怖がらないで、凛ちゃん!」
けっきょく、ミスターかんぴょう巻きの正体は、さっぱり分からなかった。
ミスターかんぴょう巻きは、とてつもなくチャラい奴か、とてつもなくアブナいストーカーのどちらかかもしれない。
あとに残ったのは、そんな懸念だけだ。
なぜか意気消沈しているかよちんとともに、凛はカフェー・プランタンを後にした。
穂乃果「またのお越しを、お待ちしております!
メニューは、ほむまんとお茶しかないけどね。
もっと色んなお菓子を用意したいんだけど、今月はちょっと苦しくて。
カフェー・プランタンだけに……」
ことり「貨幣足らん足らん、って言いたいのかな?
穂乃果ちゃん、そのダジャレ、百年前にもう言われちゃってるからね」
凛 「ねえ、かよちん。
ミスターかんぴょう巻きは、どんな人だと思う?」
花陽 「凛ちゃんのファンだよ」
凛 「でも、凛はそんなに人目をひくようなタイプじゃないと思うんだけどな。
いつからファンになったんだろう?」
花陽 「凛ちゃんを、はじめて見たときから、ずっとだよ」
凛 「うーん、そうかなあ。
でも凛は、ミスターのことをよく知らないから、ちょっと不安だよ」
花陽 「ねえ凛ちゃん、きっとこれからも、ミスターかんぴょう巻きは、
凛ちゃんの応援をしてくれるよ。
だから凛ちゃん、ミスターと文通してみたらどうかな?」
花陽 「私の推理が正しければ、次にミスターかんぴょう巻きの手紙が届くのは、
凛ちゃんの靴箱の中だよ。
だから凛ちゃんは、靴箱の中に、
ミスターへの質問用紙を入れておけばいいと思うよ。
そうすれば、手紙を入れに来たミスターは、回答してくれるんじゃないかな」
凛 「なるほど。かよちんは名探偵だにゃあ。
でもどうして、次に手紙が届く場所が分かるの?」
少女漫画マイスターのかよちんは、不敵に笑ってこう言った。
花陽 「ラブレターが届くのは、いつも靴箱の中なんだよ。
少女漫画の常識だよ、凛ちゃん」
かよちんがそう言うなら、きっと間違いないのだろう。
凛は、ミスターかんぴょう巻きに聞きたいことを便箋に書いて、靴箱の中に入れた。
凛 「すごいよ、かよちん!
ほんとに、ミスターかんぴょう巻きからの手紙が、靴箱の中に入ってた!
ほらみて、これ!」
親愛なる星空凛 さま
かってに靴箱に手紙を入れてしまい、ごめんなさい。
私はものすごく不器用なのです。
だから、こうでもしないと、自分の思いが伝えられないのです。
私はあなたのファンです。
あなたをはじめて見たときから、ずっと。
もしよければ、これからも、私のカンピョウ巻きを、受け取ってもらえますか?
あなたのミスターかんぴょう巻き より
心をこめて
凛 「あれ? かよちん、どうして顔が赤いの?」
花陽 「ナ、ナンデモナイヨ。
それで、ミスターは凛ちゃんの質問に答えてくれたの?」
凛 「うん、質問用紙に回答してくれた!」
Q1. ラーメンは好きですか?
A1. 好きです。ライス付きなら申し分ないです。
Q2. 凛よりも、かよちんのファンになったほうがいいよ。
A2. 凛さんがそう言ってくれるだけで、花陽さんはきっと満足だと思いますよ。
Q3. チャラい奴ですか? それともストーカーですか?
A3. チャラくもないし、ストーカーでもありません。
お願いします。信じてください。この通りです。
稲穂のように頭を垂れて、あなたに赦しを乞います。
花陽 「凛ちゃん、この回答を見て、どう思う?」
凛 「かよちんの扱いがぞんざいなところはケシカランと思うけど、
それ以外の点では、それほど悪い奴ではなさそうだにゃ」
凛 「うん。
手紙をいちいち入れるのは大変だろうから、ノートを用意しておくよ」
花陽 「えへへ、よかった!」
凛の返事を聞くと、かよちんが嬉しそうに笑った。
ヘンなかよちん。
凛はその日から、ノートを靴箱の中に入れておいた。
ミスターかんぴょう巻きと凛は、そのノートを使って交換日記を始めたんだ。
かんぴょう:
凛さんは、花陽さんのことをどう思っているのですか?
凛:
凛はかよちんの一番のファンだよ。
はじめて会ったときから、ずっと。
かんぴょう:
花陽さんは、それを聞いたら、「ウヒョー」と言って喜ぶと思いますよ。
それに、花陽さんも、たぶん凛さんのファンだと思いますよ。
はじめて会ったときから、ずっと。
凛:
そんなことないよ。
凛のファンになってくれる人なんて、ミスターかんぴょう巻きだけだよ。
だって凛、かよちんのお願いを聞いてあげられなかったから。
何かあったのですか?
凛:
このまえ、かよちんが凛にスカートを履かせてくれたの。
でも、凛は、それを履いて外に出ることができなかった。
かよちんは、あれから、凛にスカートを履いてってお願いしなくなった。
たぶん、かよちんは、凛に無理矢理スカートを履かせようとしたことを気にしてるんだよ。
でも悪いのはかよちんじゃない。凛なんだ。
凛にスカートを履く自信がないから、かよちんを困らせちゃうんだ。
かんぴょう:
どうしたら、スカートを履く自信がつくのでしょう?
花陽さんが「凛ちゃん、かわいいよ」と言うだけでは不十分なのですか?
うーん、かよちんは優しすぎるから、凛を慰めるためにウソをついてるのかもしれない。
凛は、鏡に映った自分が「かわいい」っていうことを、自分で信じることができないよ。
だから、かよちんが「かわいい」って言ってくれても、その言葉を信じることができないの。
かんぴょう:
自分の姿を信じられない人は、他人の言葉を信じることができないのでしょうか。
でも凛さん、逆かもしれませんよ。
他人の言葉を信じることで初めて、自分の姿を信じることができるようになるのかもしれませんよ。
凛:
でも、世界中のみんなが、凛にウソをついてるのかもしれないよ。
かんぴょう:
ウソなんかついていませんよ。
私だって、スカートを履いた凛さんのこと、かわいいって思ってますよ。
凛:
えー、そんなのウソだよ!
文字の上では、どうとでもいえるもんね!
まあいいや、この話はおしまい。
ねえ、ミスターかんぴょう巻き、今度のライブにも来てくれる?
こんどのライブは、穂乃果ちゃんがセンターで、すっごくキレイなドレスを着るから、楽しみにしててね。
かんぴょう:
楽しみにしています。
カンピョウ巻きをもって、見に行きますよ。
ライブが近づいたある日のこと、練習が終わったあとで、絵里ちゃんが慌てて部室にやってきた。
絵里 「たいへん! 修学旅行の帰りの飛行機が欠航になったそうよ。
残念ながら、穂乃果たちは、ライブに間に合わないわ」
希 「残念だけど、六人でやるしかないね。
ただ、穂乃果ちゃんのかわりにドレスを着てくれる人を決めないと。
できれば、穂乃果ちゃんに体型の近い人がいいんだけど……」
にこ 「そーすると、一年生のうちの誰かということになるわね」
きっと凛ちゃんなら、ドレス似あうと思うよ。
だって凛ちゃん、すごくかわいいから」
凛 「いやいや、かよちん、何を言ってるの?
ドレスを着るのはもっと女の子らしい人がいいよ!
かよちんとか、真姫ちゃんとか」
真姫 「あら、女の子らしいということなら、凛が適任なんじゃない?
だって凛、すごくかわいいから」
凛 「なんでそうなるの!そんなわけないよ!
もー、かよちんも真姫ちゃんも、ウソをつくのはやめて!」
花陽 「凛ちゃん、どうして信じてくれないの……?」
凛 「だって、かよちんも真姫ちゃんも、凛の友達だもん。
友達の言う『かわいい』という言葉は、ただの慰めの言葉かもしれない」
真姫 「じゃあ、ファンの人が言えば、信じてくれるの?
ほら、凛にいつもカンピョウ巻きをくれる、あの人がいるじゃない。
あの人も、凛にかわいいって書いてくれたんじゃない?」
凛 「ううん、それでも無理だよ!
だってミスターかんぴょう巻きは、
いつまでたっても、顔も本名も明かしてくれないんだもん。
そんな謎の人が書いた言葉を見ても、凛はやっぱり信じられないにゃー」
花陽 「ねえ凛ちゃん」
凛 「なに? もう凛には何を言っても……」
花陽 「ミスターかんぴょう巻きの正体、知りたい?」
外は秋風が強く吹いている。
窓がガタピシと音をたてた。
凛 「ううん……怖いから、いい」
そう言って、凛は部室から逃げ出した。
帰ったあと、ひさしぶりに、交換日記の続きを書いた。
凛:
ねえ、ミスターかんぴょう巻きさん。
今日、かよちんが、あなたの正体を教えてくれそうになったよ。
でも、怖くなって、聞かずに逃げてきちゃった。
あなたと交換日記をして、凛、あなたが怖いひとじゃないって分かった。
凛、あなたのことを、少女漫画のヒーローみたいなステキな人だって想像してるの。
でも、だからこそ、正体を知るのが怖い。
だって、少女漫画のヒーローは、女の子の夢をペンで写しとっただけの絵だもの。
おなじように、凛が思い描いているあなたも、凛の夢をペンで写しとっただけの文字なのかもしれない。
正体を知ったら、今までのことがぜんぶウソになって、あなたは消えてしまうかもしれない。
それが怖いの。
かんぴょう:
なるほど。私の正体を知って、幻滅しちゃうのが怖いのですね。
確かに、凛さんに幻滅されるのは、私も怖いです。
ねえ凛さん。
どんな私だったら、あなたは幻滅しないでいてくれますか。
凛:
そうだにゃー、理想のミスターかんぴょう巻きには、
この四つの条件を満たしてほしいな!
(1)少女漫画のヒーローみたいなタキシードを着ていて、
(2)光源氏みたいにオシャレに花を贈ってくれて、
(3)かよちんみたいに優しくて、
(4)それから、凛にホントのことを言ってくれる人。
まあ、そんな人、いるわけないけどね!
たぶん、かよちんは、私に気をつかって、ドレス役を引き受けてくれたのだ。
凛、かよちんに悪いことをしちゃったのかな。
ところで、かよちんは、最近ナニゴトかを思いつめたようすで、「理想のカンピョウ、理想のカンピョウ……」とつぶやいている。
かよちん、いったいどうしちゃったんだろう?
そうこうしているうちに、すぐ本番の日が来てしまった。
あまり悩んでも仕方がない。
とりあえず、今日は全力でかよちんを応援しよう。
そう思って控え室のドアを開けると、巻き巻きタオルで全身を包んだかよちんが登場した。
プールの授業でよく使う、あのタオルだ。
凛 「おはよう、かよちん!
台風で飛行機がとばないのが恨めしいからといって、
なにも自分がてるてる坊主にならなくても……」
花陽 「おはよう、凛ちゃん!
このタオルは、アレだよ、私はまだまだ青い果実ってことだよ」
さあ、もう時間もないし、着替えないと……」
花陽 「うん。凛ちゃんの衣装は、こっちだよ!」
かよちんに言われるがままにカーテンを開けると、そこには真っ白なドレスがあった。
凛 「かよちん、違うよ、これは……」
そう言って振り返ろうとすると、うしろから声が聞こえた。
「それはキミの衣装だぜ、子猫ちゃん」
振り返ると、ミスターかんぴょう巻きが凛の前にひざまずいていた。
ミスターかんぴょう巻きは、タキシードの胸ポケットから夕顔の花を取り出した。
そして、夕顔の花を凛の前に差し出し、微笑みながらこう言った。
「夕顔みたいな純白のドレスは、キミにいちばんよく似あう」
(1)少女漫画のヒーローみたいなタキシードを着ていて、
(2)光源氏みたいにオシャレに花を贈ってくれて、
(3)かよちんみたいに優しい……
……というか、この人、かよちんだ。
凛ちゃんが信じてくれるまで、何度でも言ってあげる。
凛ちゃんは、かわいいよ」
理想のミスターかんぴょう巻きには、もう一つだけ、満たしてほしい条件があった。
(4)凛に、ホントのことを言ってくれること。
目の前にいるミスターかんぴょう巻きは、この条件も満たしてくれている。
だって、凛のためにここまでしてくれる人が、ウソをついてるわけがないじゃないか。
ずいぶん時間がかかってしまったけど、ようやく分かった。
かよちんは、凛にぜったいにウソをつかないのだ。
だから凛は、かよちんの言うことをすべて信じる。
凛 「ありがとう。
かよちんを信じたら、自信がわいてきたよ」
はじめてカンピョウ巻きをもらった日、
かよちんは凛とずっとおしゃべりをしていたじゃないか。
かよちんには、アリバイがあるのだ。
凛 「かよちん、どうやってカンピョウ巻きを贈ってくれたの?」
するとそこに、同じくタキシード姿の真姫ちゃんが、颯爽と登場した。
真姫 「私が共犯だったのよ」
花陽 「私、はじめは、正体をばらさずにメッセージを贈ろうと思っていたの。
私が言うだけでは、凛ちゃんは信じてくれないって思ったから。
だから、真姫ちゃんに協力してもらって、私が疑われないようにしてもらったの。
でも、交換日記をしているうちに、分かったんだ。
凛ちゃんには、正面からホントのことを告げる人が必要なんだって思ったの。
だから、ミスターかんぴょう巻きの正体を隠すのは、もうおしまい」
真姫 「フフフ。
花陽がここまでする気持ちも分かるわ。
だって私も、花陽と同じことを思ってるもの。
だから、私にももう一度言わせて。
あなたは、かわいいわよ」
ドレスに着替えたあとで、鏡に映る自分の姿を見つめた。
もう、スカートを履いても、ドレスを着ても、自分に違和感をもつことはない。
だって、ホントのことしか言わない二人の友達が、凛のことを「かわいい」って言ってくれたんだから。
絵里 「ありがとう。
凛のおかげで、ライブは大成功よ」
希 「会場のお客さんもみんな、凛ちゃんに見とれてたよ」
にこ 「無事に終わったら、何だか急におなかが空いてきたわね!」
花陽 「そう思って、差し入れを持ってきました」
こうして凛たちは、ミスターあらためミスかんぴょう巻きの差し入れをいただいた。
メニューはもちろん、手づくりのカンピョウ巻きである。
凛ちゃんはかわいいし、カンピョウ巻きはおいしいし、私、幸せ!」
凛 「ねえかよちん、凛はどれくらいかわいいの?」
花陽 「カンピョウ巻きにして、食べちゃいたいくらい!」
凛 「なるほど。かよちんが言うなら間違いないにゃ。
凛は、かよちんの言うこと、ぜんぶ信じるからね!」
希 (ほかの三人に耳打ちする)
「今の花陽ちゃんの発言は若干アブナい気がするんだけど……
これでいいの?」
絵里 「これでいいのだ」
にこ 「これでいいのだ」
真姫 「これでいいのだ」
もともとの源氏物語が結末を迎えたかなど、かよちんの前では些細な問題にすぎない。
ミスかんぴょう巻きにかかれば、夕顔だって幸せになれるのだ。
凛 「ところで、かよちんのアリバイ作りのトリックは、誰が思いついたの?」
真姫 「もちろん、知性あふれるこの私よ。
花陽に、凛とおしゃべりしていてもらう。
その最中に、私が「あれ? プレゼントが届いてるわよ」と言う。
これにより、花陽はミスターかんぴょう巻きの容疑者から外れる。
まあ、よくある心理トリックといったところね。フフフ」
凛 (クリスマスによくやる手口だよね。
パパに、真姫ちゃんと遊んでいてもらう。
その最中に、ママが「あれ? プレゼントが届いてるわよ」と言う。
これにより、パパはサンタクロースの容疑者から外れる。
ああ、真姫ちゃん、たぶん同じトリックに引っかけられてるよ)
花陽 (どうか、真姫ちゃんがクリスマスまでにこのトリックを忘れてくれますように)
読んでくれた物好きな方、ありがとうございました。
乙
乙乙
シュールだけど心が暖かくなる文章が好きだ
また気長に新作を待ってるよ
俺も>>1の書くもの好きだけど
ハンコテ化しちゃってて不憫に思う
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