【ラブライブ!】にこ「そして最後の夢の中には」
- 2020.03.27
- SS

・書き溜めあり
・ツイッター上の通称ワンドロタグのテーマでpixivに上げたものを2chのSS形式に修正したものです
(お題:「門出」希 絵里 にこ)
※注意※
・地の文あり
次より始めます
見慣れない空間。
というか……明らかに普通じゃない。随分とメルヘンが入っている。
辺りには丸っこくてふわふわとしたよくわからないオブジェでいっぱい。
とてもカラフルだけど全体的に淡い色合いをしていて、上を向けば空模様が薄いピンク色だ。
浮かぶ雲はどう見たってリズムを刻んで揺れてるし、お菓子の汽車や船がそこら中を飛び交っている。
なんだここ?
見覚えなんてあるはずもないし、理解の及ぶ余地がないのに、不思議と落ち着いている。
おかしな風景だけど、どこか暖かく、優しい空気が流れているためだろうか。
よく見れば、見慣れない世界観の中にも見慣れたものが…………いや、やっぱり見慣れない。
にこ「えっと…………アンタ希なの?」
床に転がっている小さな生き物、もとい希みたいなのがいる。
みたい、というのは、明らかにサイズ感がおかしい。
小さい。μ’sの中でも小さい部類に入る私の何分の一のサイズだろう。顔つきも幼い。
謎の物体Xならぬ希もどきを目にしても冷静さを保つ私。そのことに何の違和感も抱かない。こんなものでしょ。
にこ「おーい、希なんでしょ? 起きなさーい」
服の背中の部分を掴むとやたら軽い。簡単に目の高さまで持ち上げられる。
掴んだまま軽く左右に揺らすと、ようやく希は目を覚ます。
希「…………にこっちおはようやーん」
にこ「おはよう。アンタ希であってる?」
希「ウチは、希ちゃんやーん」
にこ「そうよね。この変な場所に見覚えない?」
寝起きのためか、緩慢な動作で左右を見渡す希。
周囲を見やすいように、服を掴んだ手をくるくる回してあげる。
するとアトラクションとでも勘違いしたか、きゃはーとはにょみーとかよくわからない奇声を上げて希爆笑。
にこ「ほら笑ってばっかいないで、見覚えあるの?」
希「そんなんあるはずないやーん」
だと思った。
移動してみると余計に奇妙な場所だと感じた。
ちょっと歩けば空に昇っていた太陽は月へとバトンタッチして、同時に空模様は薄い青色が広がり、またちょっと歩けば太陽さんがこんにちは。
その太陽だってぐるぐる巻きの線みたいだし、月は子供が書いたような歪な三日月だった。
足元に転がっていたり、重力を無視してふわふわ浮いている淡いパステルカラーのオブジェは、大体どれも似た形をしている。
でもよく見たら全部どこか違う。ちょっと尖っていたり、ちょっと穴があいていたり、ちょっと大きかったり。
持ってみると案の定羽のように軽かったから、なんとなく色を揃えてみようと思いながら歩き続ける。
橙。白。青。緑。黄。赤。水。紫。桃。
全部揃ったら、それらを集めて一気に宙に解き放った。
オブジェたちはふわりふわりと舞い上がる。
周りの他のオブジェとぶつかったり、緩やかな風に煽られながら、やがて数あるオブジェの一部へと帰す。
希「にこっち、なんとかするんやーん?」
にこ「いつまでもこんなところにいられないでしょ。出口とか、そういう場所知ってる人とか、何かしら見つけないと」
希「人なら、おるやーん」
頭の上で希がもぞもぞと動く。
何をしているのかと両手で支えながら頭から下ろすと、希は斜め向かいを指差している。
確かに誰かがいる。
細長い棒をブンブン振り回し、オブジェを手当たり次第叩いては遠くに飛ばしているやんちゃが。
遠目から見ても頭の右に付いてるサイドテールで予想はついていたけど、案の定穂乃果、みたいなちっちゃいのだった。
にこ「アンタの名前はなに?」
穂乃果「穂乃果だよっ」
にこ「そうよね」
目線を合わそうと座り込んでも、まだ私の方が目線が高い。
穂乃果は私の目を覗き込み、何が面白いのかケラケラと笑う。
穂乃果「飛ばしっこだよっ」
にこ「でしょうね。それでね穂乃果、ここがどこかわかる?」
穂乃果「わかるよっ」
にこ「良かったわ。それで、ここはどこなの?」
穂乃果「部室だよっ」
部室?
部室って、私たちのアイドル研究部?
私が知ってる部室とここは大違いだ。
部室には変なオブジェなんてないし、こんなに広くないし、空なんて見えないし、床だってふかふかしていない。
だけど、穂乃果に部室だと言われると、なんとなくそうなのかなって思える。
穂乃果「いるよっ」
にこ「どこにいるの?」
穂乃果「あっちだよっ」
穂乃果は手にする細長い棒である方向を指す。
目で追うと、何メートルもある巨大なマカロンの家があった。
キャッキャッ、と楽しそうな声に振り向くと、細長い棒を放り出して穂乃果はどこかへ走って行った。
どうしたものかと少し迷ったけど、穂乃果が指し示したマカロンに家に向かった。
マカロンの家は間近で見れば見るほど大きな建物だったけど、扉はかなり小さい。
頭に乗せた希が引っかからないよう気をつけながら中に入る。
家の中にはマカロンがあった。マカロンしかなかったと言ってもいい。
とにかくありとあらゆる物がマカロンの形状をしている。
それぞれがどういう用途で使われるのかなぜか理解できるけど、それでも全部マカロンなのだ。
家主と思われる子供が一人、マカロンに座りながらマカロンを頬張っていた。言わずもがなことりだ。
にこ「お邪魔してるわ。アンタはことり?」
ことり「私はことりちゅん(・8・)」
にこ「その変な顔はなんなの?」
ことり「ことりの顔です(・8・)」
にこ「そう。なら仕方がないわよね。変な顔なんて言ってごめん」
ことり「気にしてないちゅん(・8・)」
その様子を見て、頭の上の希がお腹を鳴らす。
希「やーん」
にこ「なによ希、お腹減ったの?」
希「やーん」
ことり「その子もお腹が減ったの(・8・)?」
マカロンをパクつく手を止め、ことりは私と希を見上げる。
にこ「そうみたいね。人の食べてる姿を見て、ついお腹が減っちゃったんでしょ」
ことり「よかったらどうぞ(・8・)」
そう言ってことりはマカロンを差し出してくる。
私が返事をする前に、希は頭の上から飛び降り、ことりからマカロンを受け取った。
希「ありがとうやーん」
ことり「どういたしましてちゅん(・8・)」
二人してマカロンをパクつく。私は屈んでその様子を見守りながら、同じくらいの高さにある二人の頭を撫でる。
ことり「そうです(・8・)」
にこ「なんで全部マカロンなの? 不思議とどのマカロンが何の家具替わりかわかるんだけど、見た目は全部マカロンなのよね」
ことり「それはことりの好きなものがマカロンだからちゅん(・8・)」
にこ「そうなの。ここでは好きなものの形が好きなように現れるの?」
ことり「違うちゅん。好きなものが現れた世界がここなのです(・8・)」
にこ「へえ? 難しいのね」
ことり「簡単だちゅん(・8・)」
希はもうお腹いっぱいになったようで、満足そうにして私の頭の上によじ登る。
にこ「ありがとう、色々教えてくれたり、希にマカロンを分けてくれたり。もう行くわね」
ことり「わかったちゅん(・8・)」
にこ「あ、そうだ。他に誰かがどこにいるか、心当たりはない?」
ことり「この家の真後ろにいます(・8・)」
にこ「そう。ありがとうね」
ことり「さようなら(・8・)」
とは言えこのマカロンの家はとても大きい。中々反対側に着かない。
ぐるぐるとマカロンの周りを歩きながら、今周囲を回っているこれは、もうさっきまでのマカロンの家ではないんだろうな、などと考えたりする。
やがて、家の真後ろではないけど、ポッカリと何もない空間に出た。
横を見ても後ろを見ても、さっきまで周囲を回っていたマカロン疑惑の建物の姿はない。
建物を探すのをやめて、カラフルな色使いの床やオブジェが途絶えた無の空間を進む。
しばらくすると、こちらに背を向けて正座している小さな修行僧を見つけた。
にこ「そうね。この質素な感じはアンタにぴったりだわ」
体は小さいけど、表情はしっかりしている。
にこ「よくわからないけど、修業中とかだった? それなら邪魔してごめんなさいね」
海未「いえ。ただの瞑想なので。お構いなく。」
口調も雰囲気も大人びているけど、サイズ感だけはやっぱりちんまい。
そのギャップが、ここにきてようやく面白いと感じる。
海未「なにか。面白いですか。」
にこ「気にしないで」
それでも私の目線は海未の何倍も高いところにある。
にこ「ねえ海未、ここには何も物がないし、色もないけど、あっちのカラフルなところに行かなくていいの?」
海未「はい。求めればいつでも触れに行けます。それに。」
海未は片手を差し出す。と、ポンッという軽い音と少しの煙と共に、そこらにあるオブジェと同じような物が飛び出す。
海未「このように。思い描けば。いつでも近くに現れます。」
にこ「そうなんだ。私がやろうとしても何も出ないけど、やっぱり修行が必要なの?」
海未「そのようなことはありません。私がこの世界の住人であるだけです。」
にこ「住人、か。じゃあさ、他にここの住人に心当たりはある?」
海未「あります。向かいのカラフルな場所に出てしばらくすると。白い山が見えるので。そこにいます。」
にこ「そう、ありがと。修行頑張ってね」
海未「修行ではありませんが。頑張ります。」
海未は目を閉じ、瞑想とやらに戻る。
私は足音を立てないよう静かに歩きながら、海未の教えてくれた方に向かった。
そもそもこんな世界に正確さなんて求められているかは置いといて、それは山ではなく、白い米粒の集まりだった。
山盛りに積まれたご飯粒の麓に近づく。
これまた近づいてわかったことだけど、この米粒、一粒がかなりデカイ。
今まで出会った子供たちの体くらいあるんじゃないだろうか。
にこ「まあ、お米と言ったらね」
辺りを見渡すと、近くで花陽のミニサイズが一心不乱に白米を齧っていた。
にこ「花陽」
ビクンと、少し距離があるにも関わらず、見てわかるくらいに花陽の体が震えた。
花陽「あ…………あ…………」
にこ「もしかして驚かせた? それならごめん、そんなつもりはなかったのよ」
私から距離を取りたいのか、へっぴり腰になりながらも、足がすくんで動けない様子で花陽は立ち尽くす。
私は溜め息をついて、頭の上の希を口元に持ってきて耳打ちする。
希「やーん」
同意を示した希はちょこちょこと花陽に近づく。
希が近くにきたことで余計に震えている花陽の足元に落ちた米粒を拾い上げて、花陽に差し出す。
希「落ちたやーん」
花陽「あ…………あ……りが、とう……」
ヘラヘラと笑う希に緊張感を解いたのか、少しずつ花陽の震えも収まり、そのうち希と楽しそうに米粒を分け始めた。
にこ「もう平気? さっきは驚かせてごめんね」
花陽「あ……だい、じょうぶ、です…………私、臆病なので……」
にこ「そう。それよりありがとね、希にお米を分けてくれて。ほら希、ちゃんとお礼言ったの?」
希「ありがとやーん」
花陽「あ…………どう、いたしまして」
つぶらな瞳でこちらを恐る恐る見上げる花陽。私はそっと手を伸ばし、小さな頭を優しく撫でた。
花陽「あっ…………」
にこ「そんなに怖がらなくていいのよ。ここには怖いものなんてないでしょ?」
花陽は辺りを見回す。
淡い色のオブジェたち、空を縦横無尽に流れる星たち、隣同士くっついては離れてを繰り返す野花たち。
ここには楽しそうなものしか存在しない。そんな世界。
花陽「……ない、です…………えへへ」
ようやく花陽は笑顔を見せる。私もやっと一息。
花陽「あ……います……すぐそこに……」
にこ「すぐそこね。探してれば見つかるかしら」
花陽「きっと、見つかります……」
にこ「わかったわ、ちょっと探してみる。ありがとね」
立ち上がり、花陽に手を振る。
花陽も小さく手を振り返してから、手にした白米を食べる作業に戻った。
希を頭に乗せながら辺りを見渡す。
アタシはこっち、アンタはあっちと、見渡す方向を決めて歩き出す。
希「いたやーん」
希が見ていた方に目を向ければ、元気いっぱいにそこらを駆け回るチビがいた。
駆け回ると言っても、延々と同じ場所で八の字をなぞっているだけなので、わざわざ追いかける必要ななかった。
にこ「こんにちは。……こんにちはなの? まあいいわ。アンタは凛よね」
凛「凛は凛にゃー!」
返事をしながらも駆け回るのをやめない。
八の字をやめて、私の周りをぐるぐると回りだす。
私の膝くらいの位置で、凛の頭がくるくるくるくる。
凛「疲れないよ! ここではみんな疲れないにゃー!」
確かに凛の言う通り、ここまで随分と歩いてきた気がするけど、全く疲労を感じない。
にこ「凛は走るのが好きなのよね」
凛「大好き! 凛ずっと走っていたいにゃー!」
にこ「走ることが凛の一番好きなこと?」
凛「違うにゃー!」
ピタ、と、私の真正面で凛は立ち止まり、身長差のある私を思い切り見上げる。
凛「今の凛にはもっとやりたいことがあるよ! みんなと一緒にやることが!」
それだけ言って、再び私の周囲を回りだしたと思えば、やがてその勢いのまま遠くへ駆け出していった。
希「あっちにもいるやーん」
見れば、赤いオブジェのに体を半分隠すようにして、こっちをじっと見ている子がいる。
あの生意気な目つきは、選択肢が少なくなってきた今じゃなくたって区別がつく。
にこ「こんにちは真姫ちゃん。そっちに行ってもいい?」
伺いを立てると、真姫は頷き、真姫の方からこっちに近づいてきた。やっぱり小さい。
私は屈み込んで、極力目線を同じ高さに寄せる。
真姫「ナニガシリタイノ」
にこ「この世界は、一体なに?」
私は改めて周囲を見渡す。
あちこちに散らばってキラキラと輝く宝石たち。だけどどこか淡い色。
雲が小さくちぎれてゆっくりと落ちてくる。
同じくらいの速度で浮かび上がる風船状のオブジェは、途中なにかにぶつかるとポンッと音を立てて弾ける。
今、空模様は夕方。薄い赤。
にこ「不思議ね。こんな場所絶対に見たことがないのに、ずっと知っているような気がするの」
真姫「シッテルワヨ」
にこ「え?」
真姫に目をやると、いつの間にか頭から降りていた希を半分盾にするようにして私を見ている。
真姫「イチバンシッテル」
にこ「私が一番知ってる? ここにいる誰よりも? 真姫ちゃんよりも?」
真姫「シッテルワヨ」
そうか、と思う。穂乃果に言われて納得したように、やはりここは部室なのだろう。
それなら確かに、誰よりも私がこの場所を知っていることになる。
にこ「ここは部室なのね。でもどうしてこんな風に見えるんだろ。真姫ちゃん知ってる?」
真姫「シラナイワ」
にこ「へえ、意外ね。真姫ちゃんでも知らないんだ」
真姫「シッテルヒト」
希の後ろに隠れたまま、真姫は小さな指を伸ばして私の方を示す。
私は座ったまま背後を振り向くと、遠くにまた別の人影を見つけた。
にこ「わかった、じゃああっちに行って聞いてくるわね。ありがと、真姫ちゃん」
真姫「……フン」
真姫は盾にしていた希に一度抱きつくと、トテトテと駆け足で元のオブジェの陰に隠れて、そのまま姿を消した。
にこ「…………絵里」
呼びかけると、絵里はこちらを振り向く。
だけどさっきまでのみんなと違って、私を見上げたりはしない。むしろ逆に、身長差で私が見上げることになる。
絵里「あら。にこもここにいたのね。それに、なんだかちっちゃな希も一緒に」
ちょうど私の頭にしがみつく希と同じくらいの目線なのか、私の上のほうに視線を向けてふふっと笑う。
にこ「絵里は私と同じで小さくないのね」
絵里「そうね。きっと同じゲストだからよ」
にこ「ゲスト? この世界の?」
絵里「違うわ。元の世界のゲストよ」
何を言っているのかイマイチわからないけど、真姫が示した通り、確かに絵里は色々と知っていそうだ。
絵里「さあ、わからないわ」
にこ「え? アンタが知ってるんじゃないの?」
絵里「私は知らないわよ。知ってるのは、にこ、あなたよ」
どこか慈しむような瞳で私を見つめる絵里。やけに優しい視線に、少しむず痒くなる。
にこ「どうして私が知っているのよ」
絵里「わかるでしょう? よく考えてみて?」
絵里は私の頭のほうに手を伸ばし、小さな希を抱き抱える。
希は眠たそうに目を瞬かせながら、絵里に体を預ける。
にこ「……………………そうね、わかるわ。ここは私が見ている世界なんだから」
正解と言わんばかりに、絵里は口元に笑みを浮かべた。
絵里「隠喩的?」
にこ「そんな感じ。それだって、どうせ全部にちゃんと意味があることなんでしょ」
絵里「意味はあるわ。でもその意味を定めるのは、にこの仕事よ」
にこ「わかってる。私の世界なんだからね」
気が付けば、周りのオブジェや星や花や乗り物たちは、遠巻きながらも私たちの周りを大きな円を描いて回っている。
その輪に混じって、穂乃果、ことり、海未、花陽、凛、真姫も一緒になってくるくると駆け回る。
にこ「そう、意味を見つけるのは私の仕事。だから好き勝手に答えを決めるわ。私の答えがこの世界の答えよ」
絵里「その通り。そして、私たちの世界の答えでもあるのよ」
にこ「どうせアレでしょ。元々ここが部室だっていうんだから、触り心地がよくて見た目が綺麗なオブジェの正体なんて、思い出に決まってるのよ」
絵里「そうなの。じゃあここに無数に存在しているのはにこの思い出なのね?」
にこ「少し違うわ。私だけじゃなくて、絵里のも、希のも、それからあっちで走り回ってるみんなの思い出よ」
見ていて楽しい、触れて楽しい、感じて楽しい、不思議なオブジェたち。
通りで、この世界は居心地がよかったんだ。
絵里「いいじゃない、みんな可愛いわよ」
にこ「可愛いけど、そうじゃないの。幼い姿への切望は懐古主義の表れ、未来に進む恐怖心と逃避の表れ、って何かで見たのよ」
絵里「夢占いや哲学みたいな話ね」
にこ「私が見たんだからどうせ占いの方でしょ」
絵里「その方がにこらしいわ」
にこ「私じゃなくてみんなの方が小さいのは、みんなはまだ過去の世界に残っていて、私だけが成長していく暗示とかなのよ」
絵里「それはつまりどういうことなのかしら」
にこ「この時期、このタイミングなんだから、私たちの高校卒業のことね」
夢と希望が詰まったような世界に住まう一年生と二年生。
それは、この部室という天国にまだ留まっていられる証。
一人元の姿のままである私は、この世界に相応しくない格好をしていて、すなわちこの世界から離れていく未来を示す。
その現実を目の当たりにしながら、こうした幻を見ているということは、この場から去る必要性を理解していながらも心がそれを拒んでいるからに違いない。
私はここにきて、まだ、みんなのいるこの場所から離れる心構えができていないのだ。
にこ「さっき絵里が言ってたでしょ。私と絵里は元の世界のゲストで、希はホストなの」
絵里「別世界に連れてこられるのは、往々にしてそこに迷い込んだ外界の住人である、ということね?」
にこ「でも別の解釈もあるわよ」
私は自嘲気味に笑って、絵里と、絵里が抱く希を見比べる。
にこ「ここはあくまでも私の世界だからね、私の意識が基準になってる」
絵里「そうね」
にこ「だから私から見て、希は既にこの世界からの別れを受け入れてる。だから自然にこの世界に混じってる」
でも、と、両手で私と絵里を指差す。
にこ「私から見た絵里は、私と一緒で、まだこの世界から旅立つ踏ん切りがついていないのよ」
にこ「そうよ。未練たらしく、この世界に残りたいって心の底で足掻いてるのよ」
絵里「元の姿を保っているからこそ、もうこの世界とは区切りをつけてるっていう考えは駄目なの?」
にこ「ばっかねえ」
おかしくなって私は笑い出す。
にこ「自分だけ元の姿でこんなメルヘンな世界に迷い込んで、何の違和感もなく過ごしている一年や二年や希を見て、絵里はどう感じたの?」
絵里「…………羨ましかったわ」
にこ「でしょ」
笑うのをやめて、少し寂しい気持ちになる。絵里も私と似たような表情をしていた。
にこ「既に別れを割り切ってるなら、こんな世界、夢見たりしないでしょ」
絵里「……そうね」
絵里「さあ、そろそろ時間よ希。私たちを元の世界に戻してちょうだい」
希「わかったやーん」
にこ「戻るって、どうやって戻るの? 散々出口を探したけど、どこにも帰れそうな場所はなかったわよ」
絵里「ふふ、こういうのはね、異世界に紛れ込んだ時のお約束を利用すればいいのよ」
にこ「お約束?」
絵里「異世界に迷い込んだとき、その世界の物を決して口にしてはいけないという話があるの。なぜだか知ってる?」
にこ「ううん、知らない」
絵里「異世界の食べ物を口にすると、その世界の住人となってしまい、永遠に元の世界に戻れなくなるのよ」
にこ「え? それって駄目じゃない? もしこの世界の物食べたら、ずっとここから出られないってことじゃないの」
絵里「大丈夫よ。ここの住人は、願ったものをなんでも出すことができるんだから、私たちの元の世界の食べ物を出してもらえばいいのよ」
にこ「……ああ、なるほど。そう言えば海未が手品みたいになんか出してたわね。ホントに修行の成果じゃなかったんだ」
絵里「修行?」
にこ「なんでもないわ」
絵里「どうかした?」
にこ「ここって私の世界でしょ? なんで絵里の知識がこうして出てくるの?」
絵里「私の知識じゃないわ」
にこ「え?」
絵里「きっとにこがいつか触れた知識が記憶の奥に残っていて、それが今こうして私の口から語られているのよ」
そういうものか、と、割と簡単に納得できる。夢とは知識を整理する時間だという話だ。
絵里「さあ希、私たちの世界の食べ物を出してちょうだい」
絵里が希に話しかける。
でも希が応じる前に、私たちの周りに大人数が群がってきて、そっちに意識を持っていかれてしまう。
にこ「わっ! なんなのよ急に!」
何かがぶつかってきたと思い脇を見下ろせば、私の体に半分くらい隠れながら小さな真姫がこっちを見上げていた。
全く、私から隠れるために私の体で隠れるなんて、おかしな話。
真姫の頭を軽く撫でる。
真姫は頷くと、私の体を一瞬ギュッと抱きしめてから一歩離れた。
すると入れ違いに花陽がやってきて、白米を持ち上げて私に寄越そうとする。
にこ「え、私にくれるの? でもこれってここの世界の食べ物でしょ?」
花陽「あ……元の世界の、食べ物、です……」
オドオドとした態度ながらも、一心に私を見つめる花陽。
少し唖然としてから、私は微笑んで、白米を受け取ってから花陽の頭を撫でる。
にこ「ありがとうね、花陽」
くすぐったそうに身を揺する花陽だが、もう震えてはいない。
ドタバタ慌ただしい足音が聞こえると思えば、凛が私と花陽の周りをぐるぐると回っている。
にこ「まったく、アンタは本当に走るのが好きね」
凛「好きだにゃー! でもみんなと一緒に歌って踊るほうが好きだにゃー!」
ピタリを走るのをやめて、私ににっこりと笑いかけてくる。
にこ「……そうよね。これからも、みんなと一緒にやりたいことをするのよ」
凛「わかったにゃー!」
にこ「ちょっと、走り回らないの。頭撫でられないでしょ」
穂乃果「じゃあねだよっ」
ことり「さよならちゅん(・8・)」
海未「お元気で。」
絵里「ええ、ありがとう。楽しかったわ。この世界だけじゃなくて、今までのことも、ずっとね」
今までのことも、か。
確かに絵里の言う通り、今までのことも全部合わせて、とても楽しかった。
にこ「そうね。だからこそ、ここにはこんなに楽しそうなものがたくさんあるんだもんね」
積み上げてきた思い出が様々な形となって、部室という思い出箱に詰まっている。
感慨に耽っていると、二年生の三人も私のほうにやってきた。
にこ「なーに、アンタたちも挨拶にきてくれたの?」
ことり「いろんなことがあったちゅん(・8・)」
海未「怒ったり。泣いたり。忙しかったです。」
穂乃果「でも今はそれさえ笑い話だよっ」
三人の言葉に、ふっと笑みがこぼれる。
にこ「ええ、その通りよ…………」
そのフレーズは卑怯だわ、涙ぐむわ
そして聞き直したらパートその通りなのね
SSSは反則
絵里の手にも、きっとことりからもらったのだろう、大きな水色のマカロンが握られていた。
にこ「じゃあ、戻るわね」
私と絵里はそれぞれ白米とマカロンを口にする。
瞬間、微かな浮遊感と、世界の色が薄れていく喪失感を胸に覚える。
にこ「ねえ、絵里」
薄まっていくパステルカラーと並行して、消えゆく意識の中、共に元の世界の住人へと帰る絵里を呼ぶ。
にこ「アンタは、私が認識してる絵里なのよね」
絵里「そうよ。私は、にこが見ている私よ」
にこ「じゃあ本物の絵里は、私と違って、もう卒業への心構えができてるかもしれないってこと?」
絵里「さあ。それは、元の世界で私に聞いてみればいいんじゃない?」
にこ「そうね、それもそっか」
絵里「希にも聞いてみましょう。もしかしたらにこが勝手に思ってるだけで、案外一番未練があるかもしれないわよ?」
にこ「……そうね! 面白そうだわ」
景色の色合いは消え、光とも知れない無色と化す。そこに溶け込むように、私と絵里の姿も薄れてゆく。
浮かぶ。光に漂う。世界の全部と一体化したような広がり。
意識の混濁から、やがて覚醒が近づく予感を得る。
楽しそうにはしゃぐ六人の幼い声が、最後に聞こえた気がした。
見慣れない天井。
薄暗い部屋に、窓辺のカーテンから漏れた陽光が薄らと差し込んでいる。
私は床に敷かれていた布団から身を起こす。
横を見ると、眠っている希と絵里の姿がある。
一人暮らしの希の家に、絵里と一緒に泊まりにきたんだ。
昨夜は散々喋り倒して、その疲労で三人とも早々に寝入ってしまった気がする。
わざわざ自分のベッドがあるにも関わらず、家主である希もこっちの布団に潜り込んできてる。
きっとお泊りというイベントがさせる高揚感のせいなんだろう。
時刻は朝だが、お泊りの翌日にしてはまだ早い。
私は再び寝転がり、他人の家の天井を眺めながら、夢の世界に思いを馳せる。
抽象的な夢だったけど、その意味するところは、夢の中の自分自身が解き明かしていた。
私はその日までに、きちんとした心構えを持てるのか。
……案外大丈夫な気がする。
私がしっかりした姿を見せないと、後に残す後輩たちが不安がるに違いない。
そうさせないため、後に残す者たちのために、私は心構えを整えればいい。
もしそれも難しかったなら、ここにいる二人に聞けばいい。
夢の中の絵里も最後に言っていた。
横を見て、この一年間共に歩んできた仲間を思う。
もう少ししたら、二人を起こして、一番早く目覚めた私が朝食の支度でもしてあげよう。
そして三人でご飯を食べながら、私たちの卒業が迫る中、絵里と希は心構えができているのかどうか聞いてみるとしよう。
おわり
pixiv形式からの輸入、加えて不思議を強く意識した話なので
随分読みにくかったと思います
それでもお読みいただけた方には感謝致します
すごいクオリティ高いな
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