【ラブライブ!】穂乃果「星の王子さま」
- 2020.03.28
- SS

とある日の夜、自分の部屋で本をぱたんと閉じ、そうつぶやいた。
この本の登場人物のセリフの一部だ。
普段本を読まない私が、いきなり本を読み始めたのにはもちろん理由がある。
穂乃果「よーっし!今日もいい天気!練習張り切って頑張ろう!」
海未「やる気なのは良いですけれど、あんまり張り切りすぎないでくださいね穂乃果。ライブも近いのですから」
真姫「そうよ。いつかみたいにまた倒れられちゃたまんないわ」
穂乃果「あれ、真姫ちゃん心配してくれてるの?ありがとう!」
真姫「べ、別にそんなんじゃないわよ!ライブが中止になったりしたら迷惑だって言ってるの!」
凛「真姫ちゃん照れてるにゃ」
真姫「なっ……!りーんー!」
凛「わー!真姫ちゃん怖いにゃー!」
ライブも近くなり一層練習に身が入るけれど、海未ちゃんや真姫ちゃんの言う通り無茶は禁物だ。
でも、心配してくれるのは素直にうれしい。
当たり前すぎて忘れがちなことだけれど、素晴らしい仲間がいるんだって、改めて実感できるから。
そんな、いつもと変わらない日常のはずだった。
絵里「ほらみんな、そろそろ練習を――」
ピンポンパンポーン
「2年生の高坂穂乃果さん。理事長室まで来てください。繰り返します――」
穂乃果「えぇっ!?私何もしてないよ!しいて言うなら授業中居眠りしてたくらいだよ!」
花陽「そ、それもマズイと思うけど……」
海未「ことり、理事長先生は何か仰っていましたか?」
ことり「ううん。私は何も聞いてないよ」
希「まぁとりあえず行ってみるしかないんやない?」
絵里「そうね。私たちは先に始めてるから、早くいってきなさい」
穂乃果「う、うん!みんなごめんね!すぐ戻るから!」
突然の呼び出しに戸惑いながらも、私は希ちゃんの言う通りとにかく理事長室に足を向けた。
なにかマズイことしちゃったかなぁ……μ’sのみんなには迷惑をかけたくないけど……
穂乃果「し、失礼します!高坂です!」
軽くノックをして理事長室に入る。
ここにいるのは当然理事長先生……つまりことりちゃんのお母さん。
見知った人だから少し気が楽だけれど、理事長には変わりないのでふさわしい対応をしなきゃ。
理事長「練習中急に呼び出してごめんなさい。それと、二人だけなんだから固くならなくても大丈夫よ?」
穂乃果「は、はい……それで私が呼び出されたのって……」
理事長「ええ。実は今回あなたにコンサートの出演依頼が来てるの。市が主催するものなんだけれど」
穂乃果「それって、μ’sでライブをするってことですか?」
今もライブが近いけれど、ひとつでも多くライブができるのは嬉しい。
もちろんスケジュール的な問題もあるから、みんなと相談してからになっちゃうけれど、みんなきっとやろうと言ってくれるはずだ。
そう考えると胸が弾んだ。とっても楽しみだなぁ!
そんなことを考えていたけれど、次の理事長先生の言葉はその私の期待とは違うものだった。
理事長「いいえ穂乃果ちゃん。今回はμ’sにではなく、あなた一人に出演依頼が来てるってことよ」
穂乃果「え……」
全員「ええぇぇぇぇぇぇ!?」
ことり「ほ、穂乃果ちゃんが単独で……」
にこ「コンサートって、どういうことよ!」
穂乃果「いやぁ、実は私もまだうまく状況を飲み込めてなくて……」
海未「それに、どうやら私たちが想像しているような普通のコンサートとは少し違うみたいですよ」
海未ちゃんは私が理事長先生からもらった資料に目を通していた。
コンサートの依頼はμ’sではなく私ひとりだけへのものだった。
今まで私たちはどんなときもμ’s全員で活動してきたからこんなことは初めてだ。
海未「『大人のためのヒーリング・朗読コンサート』とあります。つまり、普段から私たちがやっているような歌と踊りではないようです」
絵里「朗読ってことは本を読むってことよね?」
海未「ええ。『星の王子さま』を朗読するようです。その合間にクラシック曲やポピュラー曲を歌う、という趣旨のコンサートみたいですね」
真姫「サン=テグジュペリね。穂乃果は読んだことあるの?」
穂乃果「中学のころにね。童話みたいでスラスラ読めて楽しいよね」
ことり「歌っていうのは?」
穂乃果「いろいろあるみたいだけど、あのなんとかと雪の女王のやつとか」
ことり「へぇ~穂乃果ちゃんがあれ歌うのかぁ……聴いてみたいかも!」
穂乃果「なんでも、今この地域で活躍してて話題性のあるμ’sから私が目に留まったらしいんだけど……」
希「穂乃果ちゃんの声は聴いてると元気をもらえる感じがするからかな。ヒーリングって点では穂乃果ちゃん、確かに適任かもしれんなぁ」
花陽「プロの人が穂乃果ちゃんを選んだってことでしょ?それなら大丈夫なんじゃないかな」
絵里「それで、穂乃果はこの依頼を受けるの?」
穂乃果「みんなと相談してから決めようかなって思って、保留にしてもらってるよ」
私もいきなりこんな依頼を受けて戸惑っている。
歌を歌うのはともかく、朗読なんて思ってもみなかった。
私自身どうすればいいのかわからなかったから、みんなの意見も聞いてみたかったんだ。
でもやっぱり、文学作品の朗読なんて私には合わないかなぁ。それにμ’sの活動もあるし、何よりライブも近い。
この本、ちょっと好きだったからやってみたかったんだけど……
穂乃果「ことりちゃん?」
ことり「私、穂乃果ちゃんの声好きだから。もっと多くの人に穂乃果ちゃんの声が届いてほしいな。
穂乃果ちゃんの声で、素敵な物語と歌を届けてみてほしい。私は応援するよ!」
穂乃果「でも、ライブも近いし……」
海未「もうダンスはほぼ完璧なので大丈夫でしょう。あとは本番まで調整するだけですから」
絵里「そうね。今までにない自分を試してみるいい機会じゃない?」
希「朗読する穂乃果ちゃんってのもなかなか新鮮やね。ウチも興味あるかも!」
真姫「わ、私だって興味ないわけじゃないし……」
凛「凛も見てみたいな!かよちんも見てみたいよね?」
花陽「うん。ことりちゃんが言ったように、私も穂乃果ちゃんの声好きなんだ。μ’sにさそってくれた時みたいに、勇気をもらえる気がするから」
にこ「まっ、やってみればいいんじゃない?みんなもいつもと違うアンタを見てみたいって言ってるわよ?」
穂乃果「みんな……」
でもそれ以上に不安もあった。
ちゃんとできるだろうか。
私には合わないことなんじゃないか。
私だけ予定を増やして、みんなに迷惑をかけちゃうんじゃないか。
そんな考えばかりが頭の中を巡っていた。
にこ「遠慮するなんてアンタらしくないのよ。やりたいことやっちゃいなさい!」
でもこうしてみんなが応援してくれたら、そんな気持ちは吹き飛んじゃった。
興味をもったらなんだってやってみる。μ’sはそうして前に進んできた。
今だってそう。みんながあたらしい私に期待してくれている。
だったら、私がやるべきことはひとつだよね。
穂乃果「……うん!みんなありがとう!私やってみるよ!」
みんなとの相談でコンサートに出ることに決めた私は、練習後に理事長先生に返事をし、早速「星の王子さま」を読むことにした。
ほどよく読みやすく、意外にもそんなに時間もかからずあっさり読み終えてしまった。
小さな王子さまは様々な星を旅し、様々な大人に出会う。
無力な王様、大物気取り、酒浸りや自称有能な実業家。休むことができない点灯夫、「確かなこと」にしか興味がない地理学者。
王子さまが最後に行きつくのは地球。そこで出会うのは、全てが解けるというヘビ、まったくなんでもない花、そして絆を結びたいキツネ。
そこで王子さまは、キツネに秘密を教えてもらう。それは、とても簡単なこと。
心で、見なくてはいけない。目で見えるものだけ見ていては、大切なことを見落としてしまう。
なにかを大切に思うためには、そのために時間を費やさなければならない。
しかし、私たちは大人になるにつれて、時間に追われるようになる。
だから人間は、大切なものを忘れてしまった。
穂乃果「私にとって、大切なもの……」
本のあらすじを思い返しながら考えてみる。大切なもの。大切な人達。
家族は当然だ。生まれてからずっと一緒の時間を過ごしてきたんだから。
それ以外で考えると、やっぱり一番最初に出てくるのはあの二人だ。
ことりちゃんと海未ちゃん。
二人はいつだって私のそばにいて、私についてきてくれてた。
――あはは……でも穂乃果ちゃんらしいなぁ
そんなことを言いながら、ずっと私を支えてくれていた。
いつも私の無茶に付き合ってくれて。それも笑顔で。
いつだったか、私が大きな木に登ってみようと言ったときもそうだった。
ことりちゃんはあっけにとられて、海未ちゃんは「無理ですー!」ってあたふたしていたっけ。
いい眺めが見れると思って言い出したことだけど、予想以上にいい眺めで自分でも驚いた。
三人で見たあの風景を、今でもちゃんと覚えてる。私たちの、私たちだけの思い出。
大切なもの。
自然と言葉に出てしまう。改めてそう言わずにはいられなかった。
二人が居なかったら、きっと私は何もできなかった。
今こうしてμ’sで活動できているのも、そもそも二人の協力があったから。
いつものように、私の無茶についてきてくれたから。
こういうことはともすれば忘れてしまいがちなことだけど。
一緒にいるからわからない。
一緒にいるから見えなくなる。
忘れてしまって、いた。
でも、一緒にいるから、わかってなくちゃいけないんだ。
大切なものだから、目には見えない。
忘れちゃいけない大切なこと。
このお話のおかげで思い出すことができたから。
私から二人への大切な気持ち。
いや、海未ちゃんとことりちゃんだけじゃない。
μ’sのみんなだっておんなじだ。
勇気を出して入部してくれた花陽ちゃん。
いつも元気に私についてきてくれる凛ちゃん。
初めて会ったとき、私の無理に付き合って曲を作ってくれた真姫ちゃん。
誰よりも強い想いでアイドル活動に向き合うにこちゃん。
ダンスを教えてくれて、いつもみんなを見守ってくれている絵里ちゃん。
μ’sのことを影から支えてくれる希ちゃん。
私の無茶に付き合ってくれてありがとう。
私をいつも支えてくれてありがとう。
私と一緒にアイドルをやってくれてありがとう。
……この気持ちに気づくことができてよかった。
みんなをもっと大切に思うことができる。
そう考えたら、早くこの思いを伝えたくてうずうずしてきちゃった。
待っててねみんな。明日になったらちゃんと伝えるから。
穂乃果「海未ちゃーん!ことりちゃーん!」
その日は珍しく朝早く目覚めて、いつもより早く登校することができた。
海未「おや、今日は珍しく早いですね穂乃果。おはようございます」
ことり「おはよう穂乃果ちゃん」
穂乃果「えへへ。まあたまにはね。二人ともおはよう!」
二人はいつものように笑顔で私を出迎えて、そして三人で通学路を行く。
穂乃果「ねえことりちゃん。海未ちゃん。私、二人に言っておきたいことがあるんだ」
ことり「なあに?穂乃果ちゃん」
海未「どうしたんですか?改まって」
変わらない毎日。変わらない親友。
でもだからこそ、愛おしく思えるもの。
そんな二人に私は口を開いた。
ことうみ「え?」
穂乃果「思えばさ、小さいころからずっと、二人には迷惑かけっぱなしだったよね。
突然木に登ろうとか言ったり、探検しようとか言って、知らない場所まで連れまわしたりさ」
ことり「ふふ……そんなこともあったね」
海未「いつも唐突になにかやろうとするんですから。困ったものでした」
穂乃果「あはは……でもさ、なんだかんだ言いながらも、二人は結局最後には私についてきてくれてさ、その時私、心強かったよ」
ことり「穂乃果ちゃん……」
穂乃果「それだけじゃない。今までずっと私を支えてきてくれて、私、感謝してるんだ。だから二人に改めて言わなきゃいけないと思ったの」
穂乃果「迷惑かけてばっかりだけど、それでも一緒にいてくれて、本当にありがとう」
でも、これが私の本心だ。
大好きな二人に、ありがとう。
私が伝え忘れてきた大切なこと。
海未「穂乃果」
穂乃果「うん?なあに?」
海未「……どうしたんですか急に。頭でも打ったんですか?」
穂乃果「海未ちゃんひどいよ!」
海未「まったく何を言い出すかと思えば……穂乃果はそれでいいんですよ」
ことり「うん。穂乃果ちゃんが穂乃果ちゃんだからこそ、私たちはついていったんだよ」
海未「その通りです。穂乃果はいつだって私たちの先を走っていてくれないと。あなたを追いかけるのが、私たちの役目です」
穂乃果「……」
ことり「穂乃果ちゃんが何か落とし物をしたら、私たちが拾ってあげる。忘れてきちゃったものは、私たちが届けてあげる。つまずいて転んじゃっても、私たちが起こしてあげるよ」
穂乃果「……っ!」
ことり「私たち、穂乃果ちゃんについてきてほんとに良かったって思ってる。迷惑だなんて思ったことないし、後悔もしてないよ」
海未「それどころか、感謝すらしています。穂乃果はいつだって私たちを新しい場所に連れて行ってくれるのですから」
穂乃果「ことりちゃん……海未ちゃん……!」
ことり「ほ、穂乃果ちゃん!?」
海未「穂乃果!?い、いきなり何を……!」
私は二人の肩を抱き寄せた。
何故だかわからないけど、そうしたかったんだ。
ぎゅーって。力いっぱいぎゅーって。大切なものを離さないように。
海未「ふふふ、穂乃果ったら……!」
穂乃果「ありがとね……!二人とも大好きだよ!」
二人を抱きしめて、改めて思う。こんなに温かい存在だったんだ。
全然知らなかった。いや、気づかなかった。こんなに近くにいてくれたこと。
こんなに私を想ってくれていたこと。
ありがとう。私の大好きな親友。いつでもそばにいてくれる、永遠の友達。
いつまでも一緒だからね。
凛「やっぱり真姫ちゃんすごいにゃー!」
花陽「真姫ちゃんのピアノ、私も好きだな」
真姫「こ、これくらい普通よ……」
昼休み。一年生の三人が音楽室で一緒に居るのを見つけた。
海未ちゃんは弓道部の用事、ことりちゃんは保健委員の集まりがあり珍しく一人になってしまったので、他のみんなを探していたところだった。
真姫ちゃんがピアノを弾きながら歌う傍らで、凛ちゃんと花陽ちゃんも歌っている。
曲は「愛してるばんざーい!」。真姫ちゃんが大好きな曲だ。
私と真姫ちゃんがここで初めて会ったときも、この曲を歌っていたっけ。
三人が歌い終わったのを見計らって、私は拍手をして音楽室に入った。
花陽「穂乃果ちゃん!」
真姫「珍しいわね。いつもはことりと海未と一緒じゃない?」
穂乃果「今日は二人とも用事があって……そこで歩いてたら三人を見つけたんだ」
花陽「そうなんだ。今ね、真姫ちゃんがピアノ弾きたい気分だからって三人で音楽室にきてたんだ」
凛「凛たちもついていって一緒に歌ってたの。真姫ちゃん歌も上手いから、一緒に歌ってて楽しいにゃ!」
真姫「ま、まあこのくらい私なら当然よ!でも、二人もちゃんと声が出てるし上手よ」
花陽「えへへ、褒められちゃった」
凛「歌を教えてくれた真姫ちゃんのおかげにゃー!」
勇気を出して、あこがれのアイドルへの一歩を踏み出してくれた花陽ちゃん。
それを見て迷いへの踏ん切りをつけてμ’sに入ってくれた凛ちゃんと真姫ちゃん。
ことりちゃんと海未ちゃんと三人だけだったところに入ってきてくれて、ようやく仲間が増えたって思って嬉しかった。
この気持ちは、やっぱり……
穂乃果「三人とも、ありがとね」
突然の私の言葉に三人はあっけにとられていた。まあ、いきなりだったから当然か。
花陽「突然どうしたの?穂乃果ちゃん」
穂乃果「昨日ね、ちょっと考えたの。μ’sのみんなと当たり前のように毎日を過ごしてるけど、これって実はすごく素敵なことなんだって」
穂乃果「感謝してるんだ。三人が入ってくれて、ようやくμ’sが動き出した感じがして、ここから全部始まるんだって、ワクワクした!」
毎日点呼して喜んだりもしてたし、楽しくなる予感に胸が高まっていた。
穂乃果「最初は花陽ちゃんが入ってくれたよね。今でもちゃんと覚えてるよ。勇気を出して屋上に来てくれた日のこと」
花陽「あれは……真姫ちゃんと凛ちゃんが勇気づけてくれたから……」
凛「そういえばそんなこともあったねー。凛と真姫ちゃんが無理やり引っ張っていったんだっけ」
真姫「なんかもう懐かしく思えるわね。でも最終的に入部したいって言ったのは花陽なんだから」
花陽「ううん。やっぱり私が今こうしてμ’sに居られるのも、二人の応援があったからだと思う。私ひとりじゃできなかったことだよ」
凛「でもでも、かよちんの入部宣言を聞いて凛も入ろうって思えたから、そこはおあいこだよ」
穂乃果「そうだったの?」
凛「うん。それ以前にかよちんに『一緒にやってくれる?』って言われてて。
その時はアイドルなんてかわいらしいもの、凛には無理だって思ってたの。でも、かよちんを焚き付けた凛が勇気を出さないのはずるいなって思ったんだ」
真姫「そんなことがあったのね……」
真姫「自信持ちなさい凛。あなたはちゃんと女の子らしいわ」
凛「なんだか照れるにゃー……でもありがとう真姫ちゃん!」
凛ちゃんも花陽ちゃんも、アイドルになるために勇気を出していたんだ。
あこがれだけで終わらないために。なりたい自分になるために。
夢見ていたアイドルに。
かわいらしい自分に。
凛「とりあえず、かよちんのおかげでここまで来れたようなものだから!かよちん!凛からもありがとー!」
花陽「うん!これからもがんばろうね!」
凛「もちろん、穂乃果ちゃんにもありがとうだよ」
穂乃果「わ、私も?」
私たちがμ’sを作って、そして二人が入って、何か変われたのだろうか。
勇気をあげられただろうか。
もしそうなら、どれだけうれしいだろう。
あの時の私たちの気持ちは、ちゃんとこうして伝わっていたんだ。
穂乃果「……こちらこそだよ。ありがとう」
少しだけこみあげるものがあって、ごまかすように窓の方へ目をそらした。
変わらない風景。変わらない青空。私たちが始まった日と同じだ。
ああ、確かあの日は……
真姫ちゃんの歌を初めて聞いた日。海未ちゃんに「アイドルは無しです!」といわれて落ち込んでいるときに、あの歌声に誘われた。
言葉にできないくらいきれいな歌声で、私ではすごい!としか表現できなかった。
歌であんなに惹きつけられたのは初めての経験で、きっとすごく興奮していたと思う。
真姫「本当にいきなりだからびっくりしたわ。『アイドルになってみない?』なんていわれると思わなかったもの」
穂乃果「あはは、あのころはちょっと気持ちが高ぶっててさ、結構強引だったよね。ごめん」
真姫「でも……そうね。今は感謝してるわ」
穂乃果「感謝?」
真姫「……あの時まで私は、将来は医学部に行って、パパの跡を継いで医者になって、
そのために今は一生懸命勉強しなきゃって、余計なことをしてる時間は無いって思ってたの」
真姫「でも、穂乃果に出会えたおかげで、今しかできないことを見つけられた。最高の思い出を作ろうって思えたの」
真姫「いい機会だから言っておくわ。穂乃果。あの時、無理やりでも私を誘ってくれてありがとう」
穂乃果「あ……」
――すごいすごいすごい!感動しちゃったよ!
真姫「私の歌と、ピアノを褒めてくれてありがとう」
――歌上手だね!ピアノも上手だね!それに、アイドルみたいにかわいい!
真姫「今までちゃんと言えなかったけど、私すごく嬉しかったのよ」
ただそう感じただけだった。本当に歌が上手だって、キレイな声だって思ったし、ピアノもすごく上手だって思った。
アイドルみたいにかわいいのだって、全部全部本当だ。
思ったことをそのまま言っただけ。それだけだったけど、真姫ちゃんにとってはそれだけじゃなかったんだ。
ありがとう。
私が言うはずの言葉。私が言いたかった言葉。私が言えなかった言葉。
私が、言わなきゃいけなかった言葉。
……きっと同じなんだ。
私がみんなにありがとうって言いたいように。
みんなもありがとうって、言いたいんだ。
伝えたいことはたくさんある。言葉にして伝えたいこと。
大切なこと。目で見ることはできないから、言葉にする。
言葉にせずに伝えられたらどんなに楽なことだろう。
でも、だからこそ言葉にしなきゃいけない。
大切なものは、いつだって目には見えないものだから。
穂乃果「ごめんね。私、全然気づかなかったよ」
真姫「なんだか恥ずかしいわ……でも、私も自分の気持ちを素直に言えるようにしなきゃね」
凛「凛は素直な真姫ちゃんも好きだにゃー!」
真姫「な、何言ってるのよ!からかわないで!」
花陽「真姫ちゃん。凛ちゃんはからかってないよ。『素直に』自分の気持ちを言ってるだけだよ」
真姫「う゛ぇぇ……」
花陽「もちろん私も好きだよ!真姫ちゃんはどう?」
真姫「あーもう!いっつも仲良くしてくれてるんだから大好きに決まってるでしょ!」
花陽「あはは!嬉しいなあ!」
凛「い、いきなりそんなこと言われると照れるにゃー」
簡単なようで、誰もができることじゃない。
いつの間にか忘れてしまっていること。
それができるだけで、こんなにも満たされるんだなぁ。
見ていて微笑ましい。そして、ちょっと羨ましい。
穂乃果「なんかみんなずるいなー。私だけ除け者みたいじゃん!私もみんなのこと大好きだもん!」
だからちょっといじけてみる。みんなを抱き寄せながら。
愛すべき後輩たち。こんなダメな先輩についてきてくれてありがとう。
μ’sに先輩後輩はナシだけど、こういうふうにかわいがるくらいならいいよね?
花陽「わわ……!穂乃果ちゃんごめんね……!もちろん穂乃果ちゃんも大好きだよ!」
凛「よーし!じゃあ気を取り直して、穂乃果ちゃんも一緒に歌っていこうよ!」
穂乃果「えへへ、なんか楽しいね!」
真姫「もう、しょうがないわね」
愛してる、ばんざーい!
みんなと出会えたのがここで、μ’sで良かった。
私たちの日々は、まだ始まったばかり。
明日も、これからもずっと、よろしくね?
絵里「穂乃果、今後のスケジュールは決まってるの?」
穂乃果「とりあえず、週末に詳しい話を聞きに行って何回かリハーサルして、一か月後に本番って感じだよ」
希「ライブはもう来週やし、あんまり負担もかからなそうでよかったやんな」
にこ「まっ、無理し過ぎないようにしなさいよね」
放課後、今日は練習は休みだけれど、なんとなく部室に向かうと三年生のみんながいた。
絵里ちゃんと希ちゃんはお茶を飲み、にこちゃんはパソコンをしている。
絵里「何か協力できることがあったら遠慮なく言ってね?」
希「初めてのことだから不安かもしれんけど、ウチらがついてるからね?」
穂乃果「うん!みんなありがとね!」
三年生のみんなはいつも私を気にかけてくれる。
絵里ちゃんと希ちゃんは言わずもがな、にこちゃんもツンツンした態度を取っているけれど、なんだかんだみんなのことを心配してくれている。
私はこのやさしさが大好きだ。
三人がいるから、私はある程度無茶ができる。いや、ほんとは無茶なんかしちゃったらいつかみたいに倒れちゃうからだめなんだけど。
でも、そうならないように私を見守ってくれている。
……改めて考えてみると、私は本当に、μ’sのみんなに支えられているんだなって思う。
みんながこうして集まってくれて、助けてくれて……
ここまで、来れたんだよね。
絵里「どうしたのよいきなり改まって」
穂乃果「私、いつもみんなに助けてもらってるなって、昨日ちょっと思ってさ……言っておかなきゃなって」
にこ「ま、まあ私は部長だし?部員の管理は当然だけどね!」
絵里「仲間同士だもの。助け合うことにお礼なんかいらないわ」
希「でも、大事なことかもしれんね」
絵里「そうかしら?」
希「えりちの言うことはもっともなんやけど、当たり前のことだから大事にしないといけないって、穂乃果ちゃんは思ったんやないかな」
絵里「それは……どうして?」
希「当たり前だから、忘れがちになってしまうんよ。そうやろ?穂乃果ちゃん」
穂乃果「うん。今希ちゃんが言ってくれたことが、大体私が考えたことだよ」
いや、正確にはメンバー全員のことをよくわかっている。
いつも影ながらμ’sのみんなを支えている希ちゃんだからこそ、なのかも。
あまり表には出さないけれど、希ちゃんはμ’sが大好きで、本当に大切にしているんだなってつくづく思う。
穂乃果「絵里ちゃんはどう思うかな?」
絵里「私は……」
絵里「みんなのおかげで、本当にやってみたかったことができた。真っ直ぐに、楽しそうに活動するあなたたちに惹かれて、でも素直になれなかった」
穂乃果「……」
絵里「そんな私に手を伸ばしてくれたのは、μ’sのみんなだった。そして、どんどん前に進んでいく穂乃果の姿に勇気をもらったわ」
絵里ちゃんと希ちゃんが入ってくれて、私たちが9人になった時のあの気持ちは、今でも鮮明に覚えてる。
どこへだって行ける気がした。なんだってできる気がした。
私たちはきっと、まぶしい明日へ行ける、全部叶えられるはずだって、どこまでも前に進もうと思えた。
絵里「……だからそうね、穂乃果の言ってること、わかる気がする。そういう気持ちは大事にしなきゃね」
希ちゃんに代弁してもらう形になってしまったけれど、これで絵里ちゃんにも、そして希ちゃんとにこちゃんにも私の思いは伝わったと思う。
もしかしたら、希ちゃんは私よりもずっと前から、こういう気持ちを持っていたのかもしれない。
μ’sができる前から。この9人が集まる前から。
みんなが大好きだった希ちゃんだから。
穂乃果「希ちゃんも?」
希「うん。あのね穂乃果ちゃん。ウチらを、この9人をつないでくれてありがとう」
私はその言葉を聞いて少し納得できなかった。
だって、私たち9人を今のμ’sという形にしてくれたのは他でもない希ちゃんだ。
私たちがうまくいくように、最初からずっと影から支え続けてくれていた。
私が何かをしたわけじゃないから。今のμ’sがあるのは、希ちゃんのおかげといってもいいくらいだ。
希「夢だったんや。友達と一緒に楽しく毎日を過ごすことが」
穂乃果「夢……」
希「ずっと一人だったウチがこの学校に来て、ようやく見つけられたんや。最初にえりち。次ににこっち」
絵里「希……」
にこ「……」
希「そして3年生になって、穂乃果ちゃんたちを見つけた。そこからみんなが集まって……ウチにとっては、これは奇跡みたいなものなんや」
穂乃果「それが希ちゃんの、夢?」
希「うん。こんな友達がずっと欲しかった。もう、一人じゃないから。寂しいのは終わったんよ」
私たちが集まって、こうしてスクールアイドルをして。
楽しいこと、辛いこと、ほんの数か月だけどいろんなことがあって。
そんな思い出を一緒に作ることができた。
それは希ちゃんにとっての夢。そして、奇跡。
穂乃果「……うん!」
力いっぱい返事をした。嬉しかったから。
希ちゃんの本心を聞けたこと、ありがとうって思ってくれていたこと。
そして、ちゃんと伝えられたから。心は晴れ渡っていた。
絵里「にこは?ちゃんと言っておかなくていいの?」
にこ「えぇ!?わ、私?私は別に……」
希「いい機会なんやから、言っといたほうがええんちゃう?」
にこ「私は!改めてお礼いうことなんかないわよ!」
希「にこっちは素直じゃないなあ……真姫ちゃんそっくりやね」
にこ「なんで真姫が出てくんのよ!意味わかんない!」
絵里「ごめんね穂乃果。にこは改めてお礼言うのが恥ずかしいのよ」
穂乃果「ううん。にこちゃんの気持ち、ちゃんとわかってるから。大丈夫だよ!」
にこ「だからぁ……!」
私だって気が付いたのは昨日のことだ。
にこちゃんもいつかはこの気持ちに気づいてくれるはず。
大切なものは、目には見えないって。
その時にもう一回いってくれればそれでいい。
ありがとうって、伝えてくれるのなら。
穂乃果「え……」
にこ「感謝してるって、ありがとうって言ってるの!」
2度も言わせないでよね、とそっぽを向くにこちゃん。
にこちゃんからも言ってもらえた。
ありがとうって。
にこ「あんたは、一度失敗してくすぶってたあたしを引っ張りあげてくれた……あんたが、もう一度あたしにアイドルをやらせてくれた……!」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「私ができなかったことを、あんたがやってくれたのよ。あんたのおかげで、もう一度夢を見ることができた」
にこ「私だけじゃない。穂乃果はいつだって、みんなの光であり続けた。あんたのおかげで、みんな前に進むことができた。だから……」
穂乃果「……」
にこ「だから……私の夢を、叶えてくれてありがとう。」
誰よりも強い心を持ってるにこちゃんに、何度救われたことか。
いつだって真正面に向き合うにこちゃんに、私も勇気をもらった。
μ’sをやめるって言ったときも、本気で私に怒って、そして向き合ってくれた。
穂乃果「……私も、にこちゃんのおかげで、諦めないでここまで来ることができた。みんなと一緒に、ここまで……!」
みんなと出会えて、みんなと一緒にアイドルをやれて。
こんなに素晴らしい日々は、きっと奇跡だ。
絵里「穂乃果……!」
希「穂乃果ちゃん!」
にこ「穂乃果!」
絵里ちゃんが私の頭を撫でる。
希ちゃんが私を抱きしめる。
にこちゃんは恥ずかしそうに私に微笑んだ。
絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん。
あなたたちは、最高の先輩です。あなたたちと出会えて、私は幸せでした。
残された私たちの時間、μ’sが終わってしまうまで。
一緒に、喜びを唄いましょう。
一緒に、こころ踊る場所を探しましょう。
そして、いつだって、どんなときもずっと。
一緒に、笑っていましょう――
穂乃果「き、緊張するなぁ……」
迎えた本番当日。数回に渡るリハーサルを終えて、私は控え室で座って出番を待っていた。
μ’sのライブとはまた違ったコンサートだから、いつも以上にそわそわしていた。
お客さんを喜ばせることができるだろうか、とか、本当に私にこんな役が務まるだろうか、とか。
そんなふうに不安になっていると、ノックの後に控え室の扉が開いた。
絵里「穂乃果?準備は大丈夫かしら?」
ことり「差し入れとか持ってきたよ~」
海未「緊張したりしてませんか?」
穂乃果「みんな!」
一人で心細かったからみんなの顔を見るとほっとした。
みんなが来てくれるだけでこんなに安心できる。
花陽「それにしても穂乃果ちゃん、なんか……」
凛「……すごく、きれいだにゃー」
海未「なんだかおしとやかな感じですね。いつもと違って」
穂乃果「むっ。海未ちゃんひどい言い草だなー……」
今回は内容が内容だから、いつものアイドルみたいな衣装じゃなくて、かなり落ち着いた感じの衣装を係の人に用意された。
白を基調とした、ところどころにツタの模様が施されたワンピースだ。
さらに「髪型も変えてみてはどうか」と提案されたので、今日はお下げをおろし、髪の先端に若干ウェーブもかけてもらった。
にこ「ま、まあ!ギャップ狙いとしてならアリなんじゃない!?」
希「にこっち素直じゃないなあ?普通にかわいいって言ってあげたらいいやん。こんなに素敵な衣装なのに。なあ真姫ちゃん?」
真姫「そうね。結構絵になってるわ。素敵よ穂乃果」
穂乃果「うん!みんなありがとう!嬉しいよ!」
こういうおしとやかな格好はあんまり似合わないかな、と自分で思っていたけれど、みんなの反応は意外に良かった。
ただやっぱりなれない格好は疲れるというか落ち着かない。多分これが最初で最後だろうなぁ。
にこ「なーに言ってんのよ。人前に立つのはアイドルにとっては当たり前なんだから、そんなの今更よ」
穂乃果「でも、今まではみんなと一緒にステージに立ってたけど、私ひとりでっていうのは初めてだからさ、なんというか心細いなっていうのはあるよ」
いつもみんなでステージに立つときは、楽しく笑顔で歌って踊って、そんなふうに一瞬で時間が過ぎていくから、緊張とかを感じる暇もなかった。
でも今回は少し違う。朗読は穏やかな雰囲気でやらなければならない。
どんなことも明るく元気に乗り切ろうとする私にとっては慣れないことで。
まして一人でやるのだからなおさらだ。
にこ「前にも言ったでしょ?アンタはμ’sの代表として今日ステージに立つの。そして、いつものように、お客さんを喜ばせなきゃいけない、期待に応えなきゃいけないの。
ステージに立つ以上、そこは意識してもらわないと困るわ」
穂乃果「う、うん……がんばるよ……」
海未「にこ、そんなプレッシャーをかけるようなこと……」
にこ「それにね……」
にこ「アンタは一人じゃない……私たちが、ついてるっての」
穂乃果「にこちゃん……」
にこ「だから胸張ってやりなさい。アンタは大丈夫。やると決めたことは最後までやり遂げる。私の知ってる高坂穂乃果は、そういうやつよ」
にこ「大切なものは、目には見えない。だから、あんたがちゃんと伝えてきなさい」
穂乃果「……うん!私、やるよ!やるったらやる!」
こういうときのにこちゃんはとても心強い。
自分の中の芯がしっかりしているから、いつだってブレずに物事に向き合う。
そして誰よりも強い心を持っている。
だからこそにこちゃんは部長で、そして誰よりもアイドルなのだと思う。
海未「さすがにこですね」
にこ「まったく、世話が焼けるったら……」
真姫「とか言って、にこちゃんたらまんざらでもない顔しちゃって……」
にこ「ほっときなさいよ!」
穂乃果「あはは……でも、にこちゃんは、そういうのが似合ってるよ」
いつもみたいに、みんなとこうして笑いあうことができて、いつの間にか不安な気持ちは無くなっていた。
私らしく、私のままでやればいい。それだけなんだ。
恐れることなんかなにもない。できることを精一杯やって、お客さんを喜ばせる。いつものライブとおんなじだ。
大きく息を吐き、高ぶる気持ちを抑えて、私は勢いよく立ち上がった。
ことり「楽しみにしてるよ、穂乃果ちゃん!」
海未「期待してますよ」
花陽「が、がんばってね……!」
凛「ファイトだよ!穂乃果ちゃん!」
真姫「ちゃんと見てるからね?私たちも一緒よ!」
絵里「穂乃果ならできるわ。がんばって」
希「あんま肩肘張らんで楽しんでな」
にこ「……行ってきなさい!」
みんなに背中を押されて私は控え室を出る。
やっぱり私は、μ’sのみんなが大好きだ。
こんなに素晴らしい仲間と出会えて、私は幸せものだ。
――ありがとう。
心の中でそう言って、私はただ一言、力強く返事をした。
穂乃果「うん!」
スタッフの人の合図があって、私はステージへと歩き出した。
ライブの時の昂揚感とはまた違う、穏やかな緊張。
私を迎えてくれたのは、会場の温かな拍手だった。
いつもはみんなと一緒にステージに立って、大きな歓声に包まれて、自分の体中が熱を帯びていくのを感じていた。
今、私は一人。スポットライトを浴びて、会場の視線を一身に浴びている。
もう不安はない。みんながついていてくれるって、わかってるから。
深呼吸をひとつして、私は口を開いた。
本日、本公演を務めさせていただきます、高坂穂乃果です。私はこの地区でスクールアイドルをやっていて……」
緊張を感じながらも、何とか最初の挨拶と自己紹介をこなす。
私を知っている人、私を知らない人、いろんな人がいる。
その人にはその人の人生があって、そしてたくさんの人に出会ってきて、大切な人達を見つけてきたのだと思う。
ここにいる人たちにも、私と同じ気持ちを知ってほしい。
この本に出会って、私が見つけた大切な気持ち。
穂乃果「……公演を始める前に、一つだけ私からお話をさせてください」
開演前にスタッフの人にお願いして、少しだけお話する時間をもらった。
私はあまり頭がよくないし、うまく考えて話すことはできないから、長いことは話せないし大したことは言えない。
思ったことを、伝えるだけ。
「『大切なものは、目には見えない』。この本の有名なセリフです。私はこの言葉を聞いて、考えることがありました」
「大切なものってなんだろう。どうして目には見えないんだろう。お恥ずかしい話ですが、私はあまり考えることが得意じゃないので、正直今でもよくわかりません」
「でも、気づいたことがあります。きっとそういうものは、身近にあるものだってこと。当たり前に感じているからこそ、見えなくなってしまうということ」
「そして、私にとっての大切なもの、それは私の友達です」
「私はスクールアイドルとして、8人の仲間と活動をしています。みんなはいつも私のことを助けてくれて……なんというか、迷惑をかけっぱなしです」
「だから、みんなに伝えてみました。いつも私を支えてくれてありがとうって」
「皆さんにも、大切な人はいると思います。家族、友人、恋人、幼馴染み。みんな、私たちを支えてくれる、大切な存在です。
近くにいてくれるのが、当たり前だと感じるかもしれません」
「だからこそ、忘れてしまいます。そんな人たちへの感謝の気持ちを。長い時間を共に過ごしてきたのに、私たちはたくさんのことを忘れてしまいます」
「忘れてしまったこと、忘れたくないこと、忘れちゃ、いけないこと」
「私たちの思い出を、胸を張って、大切だと思うために」
「今日は私と一緒に、王子さまの冒険についていきましょう」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち――
想像もしていなかった、会場からの大きな拍手。うれしさと恥ずかしさで、私はすこしだけ笑ってしまう。
いろんな人に、たくさんのことを思い出してほしい。
大切な毎日、大切な人、大切な気持ち。
私たちは誰かと出会う。お互いに出会って、そして気づく。
私たちは、ずっと共に生きていくんだと。
大切な人と触れ合うことで、私たちは幸せを感じられる。
たったそれだけ。
たったそれだけのことで、笑顔になれるんだ。
私たちが歌って踊って、みんなに笑顔を届ける。
お客さんと私たち。その場限りのライブ。その場限りの出会い。
だけど、それだって私たちにとって大切なものだ。
見てくれている人たちにとっても、大切な瞬間になっていて欲しい。
この物語も、そして、私たちも。
ことりちゃんと出会って
――私も大好き!
海未ちゃんを見つけて
――やるなら、三人でやらないと
花陽ちゃんが来てくれて
――μ’sのメンバーにしてください!
凛ちゃんがついてきてくれて
――本当はなってみたかったんだ、アイドルに
真姫ちゃんが心を開いてくれて
――私、すごく嬉しかったのよ?
にこちゃんが教えてくれて
――アイドルは、笑顔にさせる仕事なの!
絵里ちゃんが手を取ってくれて
――私はあの時、あなたの手に救われた
希ちゃんが、見守ってくれていた。
――9人や。ウチを入れて
今ここで出会えた奇跡。
μ’sのみんなと過ごした、夢を見て、笑って、泣いた日々。
素晴らしき日々。
どんな宝石よりもまぶしい宝物。
胸を張って、大切だって思える。そんな思い出たちを語りたい。
だから、まずは始めよう。
今日という日も、素敵な思い出にするために。
私は手に持っていた台本を開き、そして最初の言葉を紡いだ。
「それでは、物語を始めましょう」
穂乃果「星の王子さま」 おわり
前のスレでも指摘している方がいましたが元ネタは2月にあったえみつんのコンサートです
それに行ったときに思いついたので勢いで書いてみました
今回初めてSS書きましたが大変でした
とにかく読んでくださった皆さん本当にありがとうございました落としちゃってすみませんでした
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