【ラブライブ!】花陽「名探偵ユリカ 怪盗ミナリンスキーの驚異空中歩行」
- 2020.03.31
- SS

幼なじみで同級生の星空凛ちゃんと遊園地に遊びに行って、白ずくめの女の人の怪しげな取り引き現場を目撃したんです。
取り引きを見るのに夢中になっていた私は、背後から近付いて来る、もう一人の仲間に気付かなかったの。私はその女の人に毒薬を飲まされ、目が覚めたら――体が縮んでしまっていたんです!
小泉花陽が生きているとあの人たちにバレたら、また命を狙われ、まわりのみんなにも危害が及んじゃう。
希ちゃんの助言で正体を隠すことにした私は、凛ちゃんに名前を聞かれて、とっさに久保ユリカと名のって、あの人たちの情報をつかむために、同居人が探偵をやっている凛ちゃんのシェアハウスに転がり込んだの。
西木野財閥――都内で大病院などを経営する、世界有数の大財閥。
そこの相談役である高坂穂乃果ちゃんは、世界各国でさまざまな偉業を成し遂げてきたの。
その偉業の数々はすべて、新聞の一面に取り上げられるほど。だけど――……。
矢澤にこちゃん――本名は、徳井青空ちゃん。にこちゃんは元白ずくめの組織の化学者で、例の毒薬・LOVELIVE2521を開発したんだって。
だけど、ただ一人の姉を組織の人たちに殺され、組織に反抗したの。そして自らの命を絶つため、その毒薬を飲んだところ身体が縮んでしまって、今は組織の人たちの目を逃れるために希ちゃんの家に住んでいるんです。
そしてもう一人――怪盗ミナリンスキー。
彼女との決着はいまだついていないけど、探偵として絶対に捕まえてみせる――……。
小さくなっても趣向は同じ。白米大好き名探偵。真実とご飯はいつもまっ白!
――真姫ちゃんに誘われて映画に行った帰り、私たちは穂乃果ちゃんと偶然にも遭遇。その後、いろいろあって穂乃果ちゃんの所有する数多くのコレクションを見せてもらうことになった。
凛「すごーい! トロフィーやメダルがいっぱいだにゃー!」
真姫「穂乃果……あなたまだこんなの集めていたの?」
穂乃果「だってだって、私の自伝はまだまだ埋まってないんだもーん!」
真姫「イミワカンナイ」カミノケクルクル
花陽「じ、自伝……?」
穂乃果「そうだよ、ユリカちゃん。私の自伝はまだ第99章までしか埋まってないんだよ!」
花陽(結構埋まってる……)
穂乃果「そして……記念すべき第100章目を埋めるもののエサが、あれだよ!」
花陽、凛、真姫「「「あれ?」」」
花陽「これが……エサ?」
穂乃果「そうだよ。その昔、海賊たちが群雄割拠していた大航海時代に、何度襲われても屈したなった不沈船、シーゴッデス号が船首に飾り付けていたという黄金の女神像だよ!」
穂乃果「右手に掲げているのは人魚の涙が宝石に変化し、海難を防ぐ力を秘めると伝わる伝説のアクアマリン……その名も大海の奇跡(ブルー・ワンダー)!!」
花陽「ブルー……ワンダー?」
凛「凄い名前だにゃー」
真姫「でも……これが一体、何を釣るエサだっていうの?」
穂乃果「……いかなる厳重な警備も、堅牢な金庫も魔法のように突破し……」
真姫「突然何よ」
凛「よくわかんないにゃー」
花陽(……なるほどね)
穂乃果「悠然と夜空に翼を広げて消え失せる白き罪人……」
花陽「……たしかに、エサみたいだね」
真姫「ちょっと、それってまさか……!」
凛「にゃあ?」
穂乃果「そう……彼女の名は!」
――後日、新聞に大々的に載せられていたその逆予告状を、シェアハウスにて絵里ちゃんが読み上げていた。
絵里「『貴女の所望するビッグジュエル「大海の奇跡(ブルー・ワンダー)」を汐留に在する我が大博物館の屋上に設置した……』」
絵里「『手中に収めたくば取りに来られたし……西木野財閥相談役、高坂穂乃果』」
絵里「……って、穂乃果ってこんな堅苦しい文章書いたかしら? ……もしかして、手紙の中だと性格が変わるタイプ……?」
花陽(誰かに代筆してもらっただけだと思うけど……)
花陽「それにしても、さすが穂乃果お姉ちゃん。やることのスケールが違うなぁ」
絵里「まさか朝刊の見開きを使ってこんな挑戦状を叩きつけるなんて……お金持ちのやることはいちいち派手ね」
凛「でもちょっとワクワクしちゃうにゃー」
絵里「でも……こんなことで本当に来るのかしら? 盗まれる側がわざわざ自信満々にこんな挑戦状を突きつけたら、絶対に何か罠があることは目に見えてる。そんな中に誰が好きこのんで……」
花陽(そうだよね……)
凛「でも、真姫ちゃん言ってたよ。ついさっき穂乃果ちゃんの所にミナリンスキーからOKの返事がメールで届いたって」
花陽、絵里「「えっ!?」」
花陽「う、うん……」
凛「なんだか今度の土曜日に下見に来るらしいにゃ……ほら、これがそのメール! さっき凛のスマホにも転送してもらったんだ!」
絵里「『貴女の提案、快く承ります……決行は10月12日20時、その前夜に下見する無礼をお許し下さい……怪盗ミナリンスキー』……たしかに本物みたいね。ちゃんとミナリンスキーマークもついてるし……」
花陽「ねぇ、その後にPSってついてるよ」
絵里「追伸? えっと……『BlueWonder(ブルー・ワンダー)の名の如く、歩いて頂きに参上しよう』……って、歩いてぇ!?」
花陽「……!?」
海未「チェックです、チェック!! この博物館に通じる全ての道に検問を敷いて不審な人間を一人たりとも通さないで下さい!」
海未「って、何ですか!? ……ミナリンスキーかどうかの見分け方がわからない? ……引っ張ればいいんですよ顔を!!! どうせミナリンスキーは変装しているんですから!!」
海未「「ギュ」じゃなくて「ギュー」ですよ!!」
絵里「……気合い入ってるわね、海未」
海未「あら、絵里。お久しぶりですね! ……あれ、凛たちは?」
絵里「え? ……しまった、見失ったわ……」
海未「絵里……」
凛「一体どこにいるんだろうね、真姫ちゃん」
花陽「そうだねー」
真姫「ここよ」
凛「にゃあっ!?」
花陽「ま、真姫お姉ちゃん……いつからそこに?」
真姫「さっきからいたわよ……」
凛「……あれ、穂乃果ちゃんは?」
真姫「あぁ、穂乃果ならあっちよ」
海未「ったく、穂乃果はいつもいつも勝手でそのくせ大事なことはすぐ人に追いつけて! だいたいこんなにヘリが飛んでいては警察のヘリが飛ばせないじゃないですか!」
穂乃果「いや、だって……ミナリンスキーは歩いて来るって予告してきたし……」
海未「それなら、どうしてヘリを飛ばしているのですか!?」
穂乃果「あれは私の自伝映画用の撮影ヘリだよ!」
海未「じ、自伝映画……?」
穂乃果「なんなら観てみる? あそこのワゴンの中で全ての映像がチェックできるよ!」
海未「……い、一応確認しましょうか」
穂乃果「こっちこっち!」タッタッタッ!
絵里「まるでTV局の中継車ね……」
穂乃果「ヘリからの映像だけじゃないよ! 博物館内に100か所に備え付けたカメラの映像もここで全て把握できるんだ!」
海未「ちょっと待ってください! 館内には誰もいないじゃないですか!?」
穂乃果「今までがい過ぎたんだよ! これなら彼女が誰に変装して侵入したとしても一目瞭然でしょ?」
海未「た、たしかに……」
穂乃果「それに、博物館の全ての扉の開け閉めはここから操作可能だから、女神像のある最上階に彼女がたどり着いても閉じ込められるのが関の山だよ……まぁ、彼女が予告通りに来ればの話だけどね!!」
花陽(……あっ)
花陽「来たみたいだよ……」
真姫「え?」
――モニターの映像を見据え、私は呟いた。そこには鳥のようにハンググライダーという名の翼を広げ、その白き姿を月に重ねる一人の女性がいた。
花陽「……怪盗ミナリンスキー!!!」
係員「な、7番機です!! 場所は博物館の裏手かと……」
海未「裏ですか!?」タッタッタッ!
花陽(私も!)
凛「あ、ユリカちゃん!?」
係員「相談役! どうします? 念のため、例の仕掛けを作動させて女神像を中へ……」
穂乃果「ダメだよ、うろたえないで!! 今夜はただの下見、取られはしないよ!!」
係員「ですが……」
穂乃果「それに彼女は歩いて来ると予告した……見せてもらうよ、月下の奇術師と謳われた大泥棒の出方を……」
海未「ちょっと! ミナリンスキーはどこですか!?」
警官「そ、それが、ビルの間を横切った後出て来なくて……」
花陽(さぁ、出てきて、怪盗ミナリンスキー……!! 地上に降りないと歩けないよ!!)
ポンッ!
花陽(えっ……上のほうで、音が……?)
――そこには、本来あってはならない光景が文字通り浮かんでいた。
花陽(な、何……っ!?)
――白きマントを翻しながら、彼女は……
花陽(一体、どういうことなの……ッ!?)
――空中に佇む、怪盗ミナリンスキーはニヤリと笑ってを見せた。
――モニターを見ながら、私たちは驚愕していた。
真姫「う……浮いてるの?」
凛「そ、そうみたいだにゃ……」
凛(嘘……信じられない……!)
絵里「ハラショー……!」
海未「そ、そんなバカな!? ありえません!」
花陽(生身の人間が重力に逆らって……宙に浮けるわけがない!!)
――穂乃果ちゃんの一喝が車内に響いた。
穂乃果「上だよ!! 近くのヘリは彼女の頭を撮って確認して!!!」
ヘリパイロット『7番機、了解しました! これより、怪盗ミナリンスキーの頭上へ移動します!』
真姫「ちょっと穂乃果!! 本当にそうなら、ワイヤーがヘリのプロペラにからまって大変な事になるんじゃない!?」
穂乃果「大丈夫だよ。彼女だってそのぐらいの事はきっと想定しているよ……どうせ、ヘリが近づいたらワイヤーを切って飛ぶ気なんだよ。得意の白いハンググライダーで……」
穂乃果「えっ!?」
――モニターには、ミナリンスキーのちょうど真上からの映像が流れていた。だが、ミナリンスキーが飛ぶ気配はない。
ヘリパイロット『こ、こちら7番機!! ミナリンスキーの頭上には何も……』
穂乃果「な、何だって!?」
海未「上じゃないって事は……横!?」
花陽(そうだ! ビルの間にワイヤーを通して体を吊ってるんだ!)
海未「よし、私は左のビル、あなたは右のビルの屋上に行ってワイヤーを見つけ出してください!!」
警官「は、はい!!」
海未「ここが屋上ですね」
海未「所詮手品は手品……タネさえわかってしまえば……」
――だが、ミナリンスキーに伸びる糸など一本たりとも存在しなかった。
海未「な、ない!? ワイヤーなんてどこにもないじゃないですか!?」
警官「園田警部!! こっちのビルからも何も出ていませんが……」
花陽(そんな!? じゃあミナリンスキーは一体どうやって……どうやって宙に……!?)
――すると、ミナリンスキーが一度咳払いをした。そして――
ミナリンスキー「Ladies♡ and……Gentleman!!」
――今宵のショーは開演した。
ミナリンスキー「さあ、今宵の前夜祭……私の肢体が繰り出す奇跡を……とくと御覧あれ」
――そして――ミナリンスキーは足を一歩前に踏み出した。
海未「えっ?」
――コツン、という足音と共に……。
真姫「く、空中を……」
凛「……す、凄いにゃー!!」
絵里「なるほど……歩いて盗りに来るとはそういう事だったのね……」
穂乃果「そんな事より、教えてよ絵里ちゃん……天地の定めをないがしろにするこのからくりを……」
ヘリパイロット『こちら3番機!! ミナリンスキーは現在汐留公園上空をほ、歩行中……このままですと1分足らずで、西木野大博物館屋上に設置された……『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』の元へ……』
海未「み、ミナリンスキーめ……!」
花陽(こんなの……ありえないっ!)
穂乃果「……」
係員「相談役!!」
穂乃果「……やむを得ない、か」
ミナリンスキー「……」ニヤリ
花陽(よし、このキック力増強シューズで……)カリッ……パチパチィッ!
ミナリンスキー「……さて、前夜祭はここまで……明晩20時、再び同じ場所でお会いしましょう……」
ポンッ!
見物人「き、消えたぞ……」「空中で消えやがった……」「す、すげぇ……」
花陽「……っ!」
海未「だから言ったじゃないですか!? ミナリンスキーを侮ると痛い目に遭うと!! 最初から警察のヘリを張り込ませておけばこんな事には……」
穂乃果「なら、穂乃果ちゃんには予測ができたの? 彼女が中天を闊歩して来るって……」
海未「そ、それは……」
穂乃果「それに今夜は下見、彼女が予告状を出したのは明日だよ……彼女のやり口がわかっただけでも善しとしたらいいよ……」
海未「ですが……」
穂乃果「大丈夫、盗られたりはしないよ……」ガチャッ
穂乃果「私が世界中を駆け巡ってやっと手に入れた……あの『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』はね!!」
穂乃果「こういう仕掛けだよ……」ピポプパッ
ガコッ、グイィィィ……ィィィイン、ガコンッ!
絵里「なるほど……回転して本物と偽物がスリ替わるようになってるのね!」
海未「でも……このような小細工、ミナリンスキーにすぐに見抜かれて……」
穂乃果「もちろんこれで彼女の目をたばかれるとは思ってないよ……」
海未「でしたら、明日は私たち警察に全て任せて、穂乃果のところのヘリなんて飛ばさずに大人しく……」
穂乃果「その逆だよ……」
海未「逆?」
穂乃果「彼女は明晩、同じ場所で会おうって言って消えた……なら、待ち構えようよ」
穂乃果「この周辺一帯の建造物を全て借り切り、今夜の何倍ものヘリと警備員を張り込ませてね!!」
穂乃果「わ!? あ~っ!! みんな動かないでね、絶対だよ!!」
絵里「きゅ、急にどうしたのよ……」
穂乃果「えっと、えーっと……あ、あった!」
凛「コンタクト?」
真姫「穂乃果って目が悪かったっけ?」
穂乃果「ま、まぁね……」
穂乃果「知ってるでしょ? 私が今までに築き上げてきた栄光の数々を……」
海未「えぇ、まぁ」
穂乃果「その栄光たちは、いつも新聞の一面を飾ってきた……たった一度を除いてね!」
絵里「も、もしかしてそれが……」
穂乃果「そうだよ!! あの盗賊に一面どころか二面まで取られて、「」っていう私の大快挙が三面の片隅に追いやられたんだよ!! それが悔しかったんだよ! わかる!? この切ない気持ちが、海未ちゃんに!?」
海未「え、えぇ……」
海未(わからないですよ、そんな気持ちは……)
穂乃果「彼女を捕まえた暁には、この高坂穂乃果が再び一面に返り咲いてみせる!!!」
絵里「ハハ……」
凛「おっきい目標だにゃ……」
花陽(お金持ちの……道楽?)
凛「ほんと、凄い数のヘリコプターだにゃー」
絵里「それより私はこの野次馬の数のほうに驚きよ! 立ち入り禁止にすればいいのに……」
真姫「穂乃果がわざと入れたのよ。ミナリンスキーの逮捕シーンの映像にはリアルなエキストラが必要だってね」
花陽(そういえば、あの大博物館のお披露目のCMや特番も派手な空撮をやっていたような……)
真姫「さて、もうすぐよ」
真姫「ありがとう」
黒服「お飲み物は何かお召し上がりになりますか?」
真姫「任せるわ……」
絵里「だけど、さすがにミナリンスキーが現れたそばのビルの屋上だけに、警備員だけしか入れてないみたいね……」
花陽(それにしてもわからない……一応あの後、ヘリが撮った映像を見せてもらったけど、妙な物は何も写っていなかった……)
花陽(しかもミナリンスキーは空中で姿を消してしまった……一体、どうやって……!?)
凛「きゃっ!」ヒュッ
――突然、風が吹いて凛ちゃんの帽子が後方へ飛んでいってしまった。
花陽「私、取ってくるよ!」
凛「ごめんにゃー!」
絵里「何とかならないの? このヘリの風!」
花陽(……あれ? 傷? 何かが引っかかったような……)
花陽(しかもまだ……真新しい傷だ!)
女性リポーター「御覧くださーいっ!! 空を覆わんばかりのこのヘリコプターの数と、数多くのカッコいい・かわいいミナリンスキーファンたぁ――ゲフンゲフン、失礼しました」
女性リポーター「そして、この周辺一帯に配置された無数の警備員!! これらは、まさに西木野財閥が威信をかけて終結させた精鋭部隊!!」
女性リポーター「こんな警戒の中、はたして彼女は本当に来るのでしょうか? 西木野大博物館屋上に飾り付けられた『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』を盗むと予告する……あの怪盗ミナリンスキーちゃんは!」ハァハァ……
花陽(このリポーターさん……ちょっと興奮してる……)
絵里「でも、この尋常じゃない警備態勢も無理ないわね……昨夜、下見だと予告して、このビルの真横に体を浮かべて現れ、そのまま空中を歩いてあの博物館の側まで迫り、突然消えたあの大怪盗を捕まえようってことだし……」
凛「ほんと、タネも仕掛けもございませんって感じで歩いてたもんね……」
花陽「タネや仕掛けはあるんじゃない?」
花陽「だって、そんなに簡単に人が空を歩けたら、鳥さんたちがビックリしちゃうでしょ? だからぜーったい、何かあるはずだよ!!」
真姫「と、鳥さんって……」
凛「ユリカちゃんかわいいにゃー!」
花陽(ちょっと……子どもっぽ過ぎたかな?)ハズカシイ……
――と、屋上の出入り口が開き、希ちゃんとにこちゃんが入ってきた。
希「こんばんは~!」
凛「あ、希ちゃん!」
希「にこちゃんもいるで~」
にこ「……」プイッ
真姫(いつ見ても感じ悪いわね、あの娘……)
希「ちょっといろいろあってな~。それで、ミナリンスキーは?」
真姫「まだ来てないわよ」
希「ふーん。そういえば何か話してたようやけど、何話してたん?」
凛「ユリカちゃんが可愛かったんだにゃー!」
花陽(は、恥ずかしい……)
絵里「違うでしょ。ミナリンスキーの空中歩行のトリックの話よ」
凛「あ、そうだった。でも、一体どうやって浮いてたんだろうねー?」
花陽「そのトリックはまだわからないけど、それを仕掛けた跡なら見つけたかもしれないよ!」
絵里「跡?」
花陽「うん。ほら! あそこの壁についた何かが引っ掛かったような傷! あれってまだ新しいからミナリンスキーが残した傷だったりして……」
真姫「本当ね……すぐにあっちのビルにも確認してもらうわ」
警備員『はい! 真新しい引っかき傷が……』
真姫「ありがとう」ピッ
希「これは、面白い展開になって来たで……」
真姫「面白い?」
希「そや。名探偵vs大怪盗の、世紀の対決の幕開けやん」
凛「絵里ちゃんvsミナリンスキーってこと?」
希「まぁ、そんなところやね」
花陽(……なぜ希ちゃんは私にウィンクをしてくるのかな?)
にこ「頑張りなさいよ、名探偵さん」ボソッ
花陽(あ、やっぱりそういうことなんだ……)
凛「うーん、もしかしてワイヤーをこっちとあっちのビルに渡してあったんじゃないかな? きっとそれを使って、ミナリンスキーは宙を浮いてるように見せかけたんだよ!」
絵里「それはないと思うわ。昨夜向こうのビルに登った海未が言ってたわ、屋上にはワイヤーなんてなかったって! それに、ワイヤーなんかで吊られていたら歩けないでしょ?」
凛「あ、そっか!」
真姫「ねぇ、もしかして立体映像を映し出す機会を取り付ける跡だったりしない? ほら、こっちとむこうの二か所から映写すれば……」
絵里「無理ね。今の技術じゃ何もない空間にあんな鮮明な動く立体映像を映す事なんて不可能よ! 昨夜ミナリンスキーを目撃した人間が全員3D眼鏡をかけていたわけじゃあるまいし……」
凛「なら、絵里ちゃんはあのトリックわかるの?」
絵里「まあね。人間はそんな物あるわけないと思い込むと、たとえそこにあったとしても先入観で見えなくなるものよ」
真姫「それで?」
凛「何なの? そんな物って……」
絵里「そう、たとえば……」
希「たとえば?」
凛「……」
絵里「海未が気づかなかったのは、まさかガラスが乗ってるなんて思ってなかったからよ!」ドヤァ
真姫「……」
絵里「つまりこの傷は、そのガラスを固定した器具を取り外した時にできた……」
希「エリチ……」
真姫「そんなガラスがあったらいくらなんでも誰か気づいてるわよ!」
凛「だいいち、そんな物どうやって運んでどうやって片付けたっていうの?」
希「名探偵とは思えん推理やね~」ニヤニヤ
にこ「……ポンコツ」ボソッ
絵里「だ、だからたとえばの話だって……」
花陽(……あれ?)
絵里「ま、まぁとにかく! ミナリンスキーがここに何かを仕掛けていたのは間違いなさそうね……」
凛、真姫、希、にこ((((あからさまに逃げた……!))))
花陽(……先入観で……見えなくなる?)
海未「そのたとえはよくわかりませんが……わかりました。暴動でも起こされたら面倒なので、ノーチェックで通しても結構です! どうせミナリンスキーは空から来ますから!!」ピッ
海未「ッ! ……穂乃果のおかげで警察の警備態勢はメチャクチャです!」
女性リポーター『こんばんは~!! 『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』の所有者(オーナー)の西木野財閥相談役、高坂穂乃果さんですね!!』
穂乃果『その通り! 私が高坂穂乃果だよ!』
女性リポーター『予告の時間まであと1時間ですが、ミナリンスキーちゃん対策は万全なんでしょーかッ!?』
穂乃果『……昨夜はなんだかマジックショーがあったみたいだけど、今夜は私がみなさんにお見せするよ……』
穂乃果『ハリウッド映画顔負けの、大捕り物劇をねッ!!』
女性リポーター『なるほどぉ! では、自身がおありなんですねッ!』
穂乃果『おありどころか大有りだよッ!』
女性リポーター『では一旦CMです!』
ナレーション『……汐留にできたニュースポット! 歴史と文化の香りが漂う西木野大博物館! 貴方もぜひ一度……』
絵里「ハハ……CMまであの博物館なのね……」
真姫「タイアップらしいわよ。こういうところ、抜け目ないのよ穂乃果は……この空撮だって特番で撮ったものの切り貼りだし、ああ見えて意外とちゃっかりしてるのよ……」
絵里「ハラショー……」
希「ほんとやな~」
花陽(……風?)
にこ「……? どうしたのよ、花陽?」
花陽(……もしかして!)
花陽「ちょっと私、穂乃果お姉ちゃんのところに行ってくるね!!」
凛「えっ? ちょっとユリカちゃん――」
花陽「面白い事に気づいたから!」
希「……面白いことってなんやろな?」
絵里「……さぁ?」
真姫「――ったく、これからディナーが出て来るっていうのに……」
絵里「え、こんなところで食べる気なの……?」
凛「食べにくそうだにゃ……」
にこ(花陽……)
花陽「うん! どうしても観て来いって絵里お姉ちゃんが……」
係員A「お嬢ちゃん、昨夜穴が開くほど観たじゃないか!」
係員B「それに、もう相談役の自伝映画の製作スタッフの元へ送っちゃったよ」
花陽「え~っ!」
海未「まぁその映像は全て、後程、我々警察に提出してもらう事になりますよ……」ガチャッ
海未「なにしろ怪盗ミナリンスキーがあんな派手な下見をやるなんて、今までになかった事ですからね……」
花陽(そういえばそうだ……何でミナリンスキーは、あんなデモンストレーションを……)
穂乃果「……来ないよきっと」
海未「えっ?」
穂乃果「ショーを始める前からステージに客を上げ、自分の周りを囲ませるマジシャンなんてまずいない……トリックのタネがバレちゃうからね……」
海未「……たしかに」
穂乃果「ありえないよ……あそこに姿を現すなんて……まぁ彼女が天狗や仙人の類なら話は別だけどね……」
ポンッ!
海未「……えっ?」
――だけど、その白き衣を天で纏し罪人は――
穂乃果「……嘘、でしょ?」
――再び、暗き中天に姿を現した。
海未「か……」
穂乃果、海未「怪盗ミナリンスキー!!!」
真姫「嘘……!」
絵里「信じられないわ……!」
凛「ほ、ほんとに浮いてるよ!」
希「……ワイヤーが伸びてるようにも見えへんね」
にこ「……っ!」
海未「そんなバカな!? 一体ミナリンスキーはどこからどうやって姿を!?」
ポツッ……
花陽「!」
花陽(この音は……雨!)
真姫「ちょっとやだ、雨!?」
絵里「何でこんな時に!?」
係員「ん? ……おい! どうした7番機!! おい!?」
穂乃果「な、何!?」
係員「急に7番機からの映像が途絶えまして……」
ヘリパイロット『こちら7番機、特に異状はありませんが……恐らく、この雨の影響で一時的に映像が乱れているのでは……』
海未「いえ……あるいはミナリンスキーが手下に妨害電波を流させて、何か企んでいるのかも……」
花陽「えっ? ミナリンスキーに手下なんているの?」
海未「? えぇ、いますよ。老人とか若い女性とか色々報告はありますが……一人いる事は確かです!」
花陽「……ありがとうね、海未お姉ちゃん」
海未「いえいえ……さて、周辺を警戒中の閣員、聞こえますか!? 園田です!!」
海未「野次馬の中に電波を出すような機械を持った人間がいないか今すぐチェックしてください!! その方がミナリンスキーの手下かもしれません!!」
女性リポーター『歩いています!! ミナリンスキーが昨夜と同じように歩き始めました~ッ!』
係員「相談役! 早く指示を!! このままでは今度こそ本当に……」
穂乃果「ッ! そう易々と盗らせはしないよ! 『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』を一旦館内に取り込んで! 彼女との知恵比べだよ!」
花陽(傷……)
花陽(先入観……)
花陽(風……)
花陽(手下……)
花陽「!!!」
花陽(なるほど……そういう事だったんだ……)
花陽(読めたよ、ミナリンスキーちゃん……貴女が空中に現れ歩き、消えたトリック!)
花陽(そして、これから『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』を掠め盗る……その手口もね!!)ニヤリ
女性リポーター『何度見ても信じられません!! 雨の中、ミナリンスキーちゃんが空中を歩いてます!! 歩いちゃってますッ!!!』
海未「ミナリンスキー……ッ!」
女性リポーター『本当にこのまま、西木野大博物館屋上に飾り付けられた『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』はミナリンスキーちゃんの手に落ちてしまうのでしょうか~ッ!?』
ガコッ、グイィィィ……ィィィイン、ガコンッ!
係員「相談役! 『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』の館内への取り込み、完了しました!」
穂乃果「よーし、これから先手を打つよ! すぐに館内の全ての照明を消して!!」
係員「え? 消すんですか?」
穂乃果「うん……彼女が館内の映像を傍受してる可能性もあるからね!」
海未「ちょっと待ってください穂乃果……そんな事をすれば、逆にミナリンスキーの思う壺に……」
穂乃果「ならあるの? 海未ちゃん……」
穂乃果「まるで仙人のように空中を闊歩して迫り来る、あの大泥棒を阻止する名案が、他に何かあるっていうの!?」
海未「で、ですが……宝石を明かりを消した博物館の中に取り込んで一体何を……?」
穂乃果「要は彼女に盗ませなければいいんだよ……『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』が彼女の手に届かなければ穂乃果の勝ちだよ……」
穂乃果「そこで相談なんだけど、ここの指揮を海未ちゃんに任せる代わりに、信用のおける部下を数人貸してほしいんだ」
海未「部下を……ですか?」
穂乃果「うん。受けるんだよ……昨夜私が寝る間を惜しんで考えた秘策でね……」
花陽「……」
希「そう? ウチは逆かな」
凛「最高ってこと?」
希「うーん、まぁそんな感じ。なんていうか、ワクワクしちゃうやん、こういうの!」
絵里「希らしいわね」
凛「ほんとだにゃー……」
凛(……あれ?)
女性リポーター『さぁ、ミナリンスキーちゃん! 標的の『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』までついに100m切りました~ッ!!』
海未「館内に向かわせた捜査員の方々! そちらはどうなっていますか?」
警官『完璧です、園田警部! この作戦ならさすがのミナリンスキーも裏をかかれて……』
穂乃果『しーっ! それ貸して』
警官『え……』
穂乃果『彼女が盗聴してるかもしれないからおしゃべりはここまで……大丈夫、心配しなくてもいいよ。細工は流々だから! 後は結果を見ろってね!』ブツッ!
海未「ちょ、ちょっと穂乃果!」
係員「け、警部さん! 何か変ですよ、今夜のミナリンスキー……」
海未「それ、本当ですか?」
係員「は、はい。それが何だか、歩いているというより……なにか揺れているような……」
絵里「え? 糸のような物が見えたですって!?」
希「それ、ホンマなん?」
凛「う、うん。たしかに見えたよ。ミナリンスキーの肩口からキラっと光る細い糸が……」
真姫「ちょっと、もしそれが本当なら……ミナリンスキーは歩いてるんじゃなくて……」
にこ「……ヘリコプターに吊られてるってことね」
希「となると……やっぱりあれはマジックってことやね」
真姫「そうなるわね」
凛「うん……」
凛(……って、自然と聞き流してたけどにこちゃんが喋った……!)
野次馬B「足は動いてるけど……」
野次馬C「何かに吊られてるみたい……」
海未『ミナリンスキーの頭上にいる7番機! 応答してください!! 7番機!? 7番機!!!』
ヘリパイロット「……」ニヤッ
ピッ
――7番機の操縦士がスイッチを押した瞬間、その真下にいたはずのミナリンスキーの周囲に唐突に煙幕が現れ、そして――姿を消した。なぜか、ヘリのサーチライトが左にそれた一瞬のうちに。
女性リポーター『き、消えちゃった!? ミナリンスキーちゃんが博物館の目の前で姿を消しちゃいました~ッ!!!』
海未「やっぱり7番機でしたか……7番機に乗ったミナリンスキーの手下が、煙幕に紛れて機内に回収したのですね!!」
海未「あの、貴方たちのヘリには当然番号は振ってありますよね?」
係員「あ、はい! 尾翼のところに……」
海未「上空を警戒中のヘリ全機に告ぎます! 聞こえますか!? 警視庁の園田です!! ミナリンスキーは手下と共に7番機の中にいます!」
海未「ただちに7番機の位置を報告! 警察のヘリが到着するまで取り囲んで逃さないで下さい!!」
ヘリパイロットA『こちら14番機! 博物館正面玄関上空で待機中の7番機視認!!』
海未「では、見失わないようにそのまま追跡を……」
ヘリパイロットB『こちら35番機! 7番機はただいま汐留公園の真上に……』
海未「ちょっと待ってください! 汐留公園は博物館の裏じゃないですか!」
ヘリパイロットC『こちら28番機! 現在7番機は汐留から大きく離れて……』
ヘリパイロットD『こ、こちら9番機! 汐留公園手前で7番機を2機発見!』
海未「えっ!? 一体、何がどうなっているんですか!?」
ヘリパイロットA『そ、それが……』
海未「な、何ですってぇっ!?」
ヘリパイロットC『お、恐らくミナリンスキーがあらかじめ……』
海未「そ、そんなわけないでしょう! いくらなんでも乗る時に誰かが気づくでしょう!?」
係員「け、警部さん!」
係員「博物館の玄関前に妙な人影が……一人や二人じゃありませんが……」
海未「えっ?」
係員「まさか中央の刑事さんが持っているケースの中に『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』が……?」
海未「何を考えているんですか!? あれじゃあ運んでますよって言ってるようなものじゃないですか!!」
警官「……あ、警部! どうしたんですか、そんなに慌てて?」
海未「当然です! 何をしているんですか!? 早く中に入れてください!!」
警官「大丈夫ですよ!!」
海未「どこがですか!」
警官「どうせこの中は空! 我々は囮ですから……」
海未「囮……ですか?」
警官「はい……『大海の奇跡(ブルー・ワンダー)』は清掃員に扮した高坂穂乃果さんがゴミ袋に入れて博物館の裏口から……」ボソッ
海未「えっ?」
穂乃果「フッ……フフフ……アハハハハハ!」
?「何がおかしいの?」
穂乃果「!?」
?「怪盗……」
花陽「……ミナリンスキーちゃん?」
穂乃果「な、何を言ってるのかな……私が笑ったのはミナリンスキーからその宝石を守り通せたからで……」
花陽「嘘。貴女が今日、博物館にこのハーレーで乗り付けた時点で見抜いていたよ……」
花陽「今もそうだけど、あの時貴女はゴーグルを付けていなかった……コンタクト使用者がゴーグル無しでバイクに乗るのはかなり辛い……」
花陽「風が瞳に当たって痛くて涙が溢れ、たとえ風除けがついても、とても乗っていられないらしいから……」
花陽「まぁ、大金持ちなのにボディーガードもつけずに、こんな派手なバイクで駆け回ってる娘だから……どこかで眠らせてスリ替わる機会(チャンス)はいくらでもあったんじゃないかな……」
穂乃果「アハハハハハッ! 私がミナリンスキーなわけがないよ!! 現に私はさっきミナリンスキーが現れた時にユリカちゃんのそばにいたじゃない!! 昨夜も彼女が見せた中空を歩くあの奇跡の瞬間にね!!」
花陽「あれは奇跡でもなんでもないよ! 手品の助手がいれば容易にできる単純なトリックだよ……」
花陽「西木野財閥の精鋭部隊といっても、警察や軍隊じゃない! 臨時に雇われた熟練者(プロフェッショナル)の中に手下を紛れ込ませるのはそう難しくはないだろうから……」
花陽「確かに貴女は昨夜、ビルの間の空中に突然姿を現し、ヘリが頭上に来る事によって上から何かで吊ってるんじゃないかという疑いを消し……」
花陽「その後ビルの屋上に駆け上がった私や警察に、ビルの間にワイヤーなんか渡してない事を確認させれば、本当に空中に浮いてるように見えるけど、あの頭上のヘリの操縦者が貴女の手下なら奇跡は途端――奇術になる!」
穂乃果「……」
花陽「続いてすぐに手下のヘリを頭上に向かわせ、ヘリから飛び立つ前にヘリと自分をつないでおいた釣り糸のような細いワイヤーをピンと張るまで巻き上げさせる!」
花陽「その後で体から滑車を外し、ビルに渡したワイヤーを素早くヘリに回収させれば……上からも横からも吊られていない事になって、空中浮遊が完成する!」
花陽「後はヘリが前進するのに合わせて、貴女が歩く振りをするだけ……ポケットに忍ばせた大音量の出るレコーダーからコツコツコツと足音を出しながら、小さく揺れたら小股で、大きく揺れたら大股で……」
花陽「吊られている事を気づかせないような絶妙なボディーパフォーマンスでね!」
穂乃果「……」
花陽「まあ、今夜のミナリンスキーは警察の目を引き付けるただの足の動く人形……それも煙幕でヘリに出し入れしたんだろうけど、ただ吊ってるだけだからバレバレだったよ……」
穂乃果「だけど、ユリカちゃんもミナリンスキーのそばのビルに登ったんでしょ? その時にヘリから吊るされていたのなら、いくら細い糸でも見えると思うけど……」
花陽「先入観と風だよ!」
花陽「情けない話だよ……貴女の頭上にヘリが来た時点で上から吊るされてないと思い込んじゃった上に、屋上にワイヤーがない事に動揺して、ヘリの風で見にくかった事も影響して、その糸を発見できなかったんだからね……」
花陽「だけど、その爪痕は二つのビルの屋上に残ってたよ……ヘリにワイヤーを回収した時に先に付けていたフックが引っ掛かった傷がね……」
穂乃果「だけどユリカちゃん……ユリカちゃんは昨夜のミナリンスキーの映像を何度も観たんでしょ?」
花陽「解像度にもよるけど、釣り糸ぐらい細い糸なら近くで肉眼で見ないと大概のモニターじゃほとんど見えないよ……」
花陽「唯一映っているとしたら、糸が手前に来るミナリンスキーの俯瞰の映像だけど、それが撮れるのは手下が乗ってる7番機……」
花陽「あの映像が、前の博物館の特番で使われていた空撮にミナリンスキーを合成した物を7番機からの映像として流していたんなら糸が映ってるわけがない……」
花陽「だから雨が降って来た時、貴女の手下は映像を流すのを止めたんでしょ? あの特番の空撮には傘を差す人たちは映ってないからね!」
花陽「そう……昨夜の派手なデモンストレーションも……空から来ると見せ掛け、地上の検問を緩めて、穂乃果ちゃんに変装してノーチェックで来るための伏線だったんでしょ?」
花陽「でも、迂闊だったね……ゴーグルを付けずにハーレーで乗りつける貴女がTV画面にバッチリ映ってたよ?」
穂乃果「……ううん、ゴーグルを付け忘れたんじゃなくて、付けられなかったんだよ……」
――そして、穂乃果はゴーグルを付けると――
ビリッ!
――一気に顔の変装を引き破った!
ミナリンスキー「変装が崩れちゃうからね!」
ミナリンスキー「平気だよ、警察の人たち、きっと大混乱してるだろうから……大量に貼られた7番のステッカーに惑わされてね!」
花陽「大量に? ……なるほど、さては7番のステッカーの上に、もう一枚本当の番号のステッカーを貼ってたんだね……飛び立つと風ではがれるように軽く糊付けして……」マスジュウカチャッ……
ミナリンスキー「うん……おかげでヘリの操縦者(パイロット)は誰も気づかずに乗り込んでくれたよ……後で私の仲間のヘリとして追い回されることも知らずにね! そして混乱に乗じて仲間は逃げる……」
ミナリンスキー「まさにブルー・ワンダー! 大空の奇跡の脱出ってわけだよ!!」
花陽「大空? ブルー・ワンダーのブルーは大海のブルーだよ?」
ミナリンスキー「同じでしょ? 海のブルーは空のブルーが写ってるんでしょ? 探偵や怪盗と一緒だよ……天と地に別れているようで、元を正せば人がしまい込んでいる何かを好奇心という鍵を使って開けてしまう無礼者同士……」
花陽「違うよ……空と海の色が青いのは、色の散乱と反射……全く性質が異なる理由によるものだよ……一緒にしないで! その証拠に水たまりは青くないでしょ!」
ミナリンスキー「ユリカちゃん……夢ないね」
花陽「な、夢くらい私にもあるよ! ただ、それとこれとは話が違うし……そもそも、夢ばっかり語ってたら真実は見抜けないんだよ!」
ミナリンスキー「そうなんだ……まぁそれはいいとして、本当にその麻酔銃で私を捕まえる気? このスピードで私が寝ちゃったら、大クラッシュだよ?」
花陽「大丈夫だよ。このバイクが止まるまで撃たないし、貴女の身柄は私の連絡でこっちへ向かってる海未ちゃんが……」
ミナリンスキー「このハーレーにはね……ちょっとした細工がしてあるの」
花陽「えっ?」
ミナリンスキー「このハーレー、実はスピードアップできるんだよ!」ポチッ!
ガコッ!
――その瞬間――サイドカーの固定部が一気に外された。
花陽「えっ? ……ええええええええええええっ!?」
花陽「だ、ダレカタスケテー!」グルグルグルッ!
ミナリンスキー「じゃあね、名探偵ちゃん! その宝石は預けたよ! 結局、目当ての宝石じゃなかったし、今回は挑戦状を受けただけだからね!」
花陽「ま、マッテヨー!」ガガッ!
ミナリンスキー「……?」
花陽「……」ニヤッ
ボワッ!
ミナリンスキー「えっ?」
ミナリンスキー(嘘っ!? まさかユリカちゃん、ハーレーのタンクに穴を……)
ミナリンスキー「うわあああっ!?」
ミナリンスキー(このままじゃ、追いつかれ――)
ボワァンッ!!! ……ゴォォォッ!
花陽「……ミナリンスキーは……」タッタッタッ……
花陽「……空を、飛んでる?」ハァ……ハァ……
――白い翼を広げた人影が、空を舞っていた。
花陽「……今回は捕まえられなかった、か」
ウーウー……ウーウー……
凛「ユリカちゃーん!」
花陽「凛ちゃん……!」
ガチャッ、タッタッタッ!
凛「ほんとに心配したんだよー」ギュッ!
花陽「……う、うん」
ことり「……ゲホッ」
――爆発地点から少し先の草陰で、ボロボロになりながらその場を後にしていた……。
――翌日、シェアハウスにて……
凛「えっ? 穂乃果ちゃん、今度はユリカちゃんに怒ってるの?」
真姫「そうなのよ」
凛「どうして? 宝石を守ったのはユリカちゃんだよ?」
絵里「……原因はこれね」
花陽、凛「「?」」
絵里「大々的に載ってるわよ。『またまたお手柄小学生!!』って、一面にね」
花陽(そういえば……一面を狙ってたんだっけ……?)
穂乃果「ユリカちゃんめ……私の取るはずだった一面を……!」
真姫「……はぁ」
おしまい
キャスト
江戸川コナン(工藤新一)……小泉花陽
毛利蘭……星空凛
毛利小五郎……絢瀬絵里
鈴木園子……西木野真姫
鈴木次郎吉……高坂穂乃果
怪盗キッド(黒羽快斗)……南ことり
中森銀三……園田海未
阿笠博士……東條希
灰原哀……矢澤にこ
[了]
次もお願い
この配役だとそのうち真姫ちゃんが「ミナリンスキー様~!」って言うかな
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