【ラブライブ!】海未「剣を抜きなさい、絵里」
- 2020.04.01
- SS

練習着の袴のまま、刀だけをもって追いかけてきた私に、軍服の襟を正しながら絵里が言った。
その声は聞き逃しというよりも、野雀に勝負を挑まれた鷹のように、明らかな嘲笑の意が込められていた。
「剣を抜けと、言ったのですよ」
私は今にも吹きこぼれそうな煮えたぎる感情を必死に抑え、声を震わせ、静かに、もう一度言葉を飛ばす。
「……私が? 海未のために?」
絵里は信じられないといった様子でクスリと笑い、
「笑わせないで」
続けて穏やかな殺気を私に向けた。
普段の私であるならば、相手が武器を取るまでは決して動くことはしない。
しかし、今の私はすでに鬼に囚われていた。
「拒むと言うなら、それはそれで良いでしょう。ですが、私は忠告しましたよ」
刀を抜き、鞘を投げ捨てる。初めて純粋な殺意のみで手にした刃は、いつもより重かった。
だけどもう、止められない。
「園田海未、参る」
期待していた感触とも音とも違う、固い反発と高い金属音が辺りに響いた。
「ちぃ……っ!!」
ギギギ、と心地よいとは言えない音が続く。
大きく舌打ちをした絵里の手には、しっかりと細剣が握られていた。
「なんだ、抜くんじゃないですか」
「……黙りなさい。侍風情が」
「まるで騎士が侍よりも高尚であるかのような言い方です……ねっ!!」
剣を強く押し、後方に飛び距離を取る。
悔しいが純粋な筋力では彼女の方が上。あのまま鍔迫り合いを続けてはこちらが不利だった。
「事実そうでしょう? そうでないならどうしてここに……」
心の中をざわと、不穏な風が通った。
絵里が細剣を向けた先にあるもの。
綺麗な橙の髪を朱に染め、折れた刀を手にした――。
「血まみれの穂乃果が倒れてるのかしらね?」
あまりの怒りに視界が白む。
命を奪うのみに飽き足らず、彼女の誇りまでも愚弄するというのか。
「……あなたはあああああああああああ!!!!」
基礎動作すら忘れ、ただ力任せに刀を振るう。
闇雲。そんな言葉が似合うような戦い方。
無論そんなものが絵里に当たるはずもなく、軽々と躱され続ける。
「あらあら、そんな力任せの太刀筋でいいの?」
絵里も激昂した私の姿に気分を良くしたのか、戦いのさなかに余裕からくる笑みを浮かべ、
「ほら、そこ」
そして、私の見せた小さな隙を細剣で突こうとし……大きく飛び退いた。
「……策士ね」
頬から血を流しながら悪態をつく彼女へと、私は冷静に微笑みを返した。
「私はあなたを殺したくて仕方ないのです。これくらいなんでもありませんよ」
絵里が駆ける。しかしその手に剣はなく、空高くに放られていた。
「な……っ!?」
それが私の注意を逸らすための行為だとわかっていても、一瞬身体は硬直し、視線は剣を追ってしまう。
次に絵里を視界に捉えたときには、すでに腹部を衝撃が貫いていた。
「かはっ……!!」
肺から空気が漏れ出、身体がくの字に曲がる。
絵里がその機を逃すはずもなく、二撃目は右手への強烈な回し蹴り。刀が遠くまで吹き飛ぶ。
追撃の顎への掌底を揺れる視界の中でなんとかいなし、急いで間合いから逃げ出した。
「ふふっ……」
絵里が革の手袋のつけ具合を確かめるように何度か拳を握って、息を荒げた私へと不敵な笑みを向ける。
「実は私、こっちのほうが得意なの」
その余裕を隠さない態度が、私の殺意を加速させた。
私から太陽を奪った罪は必ず償わせなければいけない。
そうやって心の扉を叩く情動に身を任せて勝てる相手ならばどれだけ良かったか。
骨が折られていないのは幸いだった。
「きなさい海未。日本武道って、興味があったの♡」
徒手格闘か……久しくやっていませんでしたね。
大きく息を吐き、ゆっくりと半身の構えを取る。
ただそれだけで、二人の間の空気がピンと張り詰める。
「その態度、すぐに改めさせてあげましょう」
それにしても、絵里の構えは初めてみたが、格闘術の方が得意というのは決して嘘ではないらしい。
教科書通りならば隙だらけの構え。しかし恐ろしいほど隙がない。
「流石は白月の騎士と言ったところでしょうか」
「その二つ名で呼ぶのはやめてと言ったでしょう。はっきり言ってダサいわ」
「ならば、赤い薔薇のように散らせてあげますよっ……!!」
「あなたがね……!!」
次いで絵里はそのまま回転し、再度右からのハイキック。上体を反らし、顔を通り過ぎたのを確認して反撃の構えをとる。
かと思えば、つい先程見送ったはずの右足が翻り、眼前へと迫っていた。
「くっ……!!」
反射的に顎を引き額で受け止める。鈍い衝撃が首に伝わり、思わず後ずさる。
痛む額を裾で拭い、相変わらず人を見下したような目をした絵里に尋ねた。
「……テコンドー、ですか」
「さあ、昔殺った相手のを真似ただけだから知らないわ」
絵里はどうでもいいことだとばかりに答えると、両手を組んで空へ向け、大きな伸びをした。
様子から察するに、恐らく他の格闘技も心得ているのだろう。
「ちっ、厄介な……」
「あら、お武家のお嬢様が舌打ちなんて、はしたない。みんなの前ではしちゃダメよ?」
「黙りなさいっ!今のあなたに私達のことをとやかく言う資格はありませんっ!!」
急に懐に飛び込まれた絵里は一瞬驚きに表情を染めるも、私の拳を片手で捌く。
「その程度っ!」
もう一度腰を回し、速さを重視したフックを撃つ。それすらも左手で阻まれるが、そこまでは想定の内。撃つは右のストレート。
そしてその目的は絵里のガードを上げるため。
本命は……。
「っだぁ!!」
渾身の上げ蹴りが鳩尾に決まり、絵里はくぐもった息を吐く。
腰を戻し、後ろ拳を放とうとするも追撃はさせまいと距離を取られる。
打撃としてダメージを与えるハイやミドルとは違い、上げ蹴りは内を破壊する技。一撃と言えど、小さくはない痛手にはなっているはず。
「どうです、私の蹴りも速いでしょう」
「ええ……。それよりも、あの踏み込みはなに? あれには……かふっ、驚いたわ」
「ただの剣道の応用ですよ。そんなことよりも絵里――」
「――余裕、なくなってますよ?」
「おや、高名な騎士様が舌打ちなんてはしたない」
「苛つくことばかり……!」
乗った。
「では、続きといきましょうか」
前拳のジャブを撃つ。先ほどまでの絵里ならば、弾くか、もしくは避けるなりして足技を返していたでしょう。
しかし絵里はその両者ともせず、弾く動作のまま手首を掴みにきた。
そう、もし私が苛立ちを覚えた相手を打ち負かしたいと思ったならば、大技で派手に仕留めるか、もしくは……
関節技で組み伏せる……!
「想定内ですよっ!!」
手首を返して、逆にこちらから絵里の手首を掴み、捻りながら右手で肘を取りに行く。
そして少しの間の後、
私が組み伏せられていた。
「……っ!!?」
「ふん、想定内よ」
気づけば絵里に背中に乗られ、左肩を極められていた。
「これも、誰かの真似事ですか」
「これはオリジナル」
「どうりで」
「さて、どうやって殺してほしい?」
「私がただで殺されるとでも?」
「……なら、やってみなさい」
「絵里、前にも言ったことがあったはずです。
侍は、長刀の他にもうひとつ、『脇差し』という名の短刀を持ち歩くのですよ。
私の右手を放っておいたのは失敗でしたね」
そう言って私が懐へ素早く手を入れるのと同時に、絵里は弾かれたように飛び退き、構えを取った。
それを見送り、ふうと一息ついてゆっくりと起き上がる。
静かに袴についた泥を払い、真剣な面持ちで絵里に向き直った。
「ハッタリですよ」
「…っ!!」
絵里が普段の冷静さを持ち合わせていないこと。
余裕もなく鍛錬の際に着ていた袴のまま飛び出してきた私が、脇差しを備えている訳がない。
それをさせたのは絵里自身。
それに、仮に持っていたとして、こうも激しく身体を動かし、幾度か拳を交えさえもした。
そんな中あの絵里が得物の存在に気づかないのはあまりに不自然。
逆に言えば、不存在に気づけぬほど、何かの要因が絵里に働いていたということ。
「絵里……もう、いいでしょう……?」
ついに、仮面が崩れ始めた。
「なんのことかしら」
「何があったのですか」
きっとあの余裕は、自信からくるものではなく、自らを騙し、偽るためのもの。
彼女は強い。だが、どうしようもなく”少女”なのだ。
「そう」
一瞬。
「もういいわ海未。おしまいにしましょう」
そう、ほんの一瞬。助けを求める顔をした絵里が私に突きつけたのは――
「私も、実戦で使うのは初めてだわ。あなたが”強い”からいけないのよ」
――一丁の拳銃。
「あなたが理解する必要はないわ」
「そうではありません!どうして、どうしてそこまで私を拒むのですか!」
「あなたには関係ない」
「関係あります!!」
絵里の眉が僅かに動いた。
「私たちは仲間でしょう……? きっと何か……いいえ、必ず、何かあったからこんなことをしたのでしょう……?」
絵里は応えない。ただ、唇を噛み締め、その桃色を僅かに赤に染めていた。
「でなければ何故!! 穂乃果を殺めたのですっ!!」
私が……間違えたとするならば、恐らくこの瞬間だった。
「答えなさい!! 絵里っ!!!」
今しがた発した声は、ぶつけた思いは、誰のためのものだったのでしょうか。
「こうするしかなかったのしょうがないじゃない!!!」
それに呼応するように、絵里も吼えた。
絵里の激昂を見たのは初めてだった。
「仲間を手にかけてまで果たす大義に何の意味がありますか!!!」
こんなこと、先ほどまでの肉弾戦よりもよっぽど無益。でも、止まらなかった。
やはり私も、とうに冷静ではなかった。
そしてようやく、我に返る。
「もう、いいの……」
今この場で、一番救われたがってるのは私ではなかった。
必死でせき止めていた涙と、ありとあらゆる哀しみに顔をぐしゃぐしゃに塗られた目の前の少女だ。
「ねえ、海未。私、悪い子の振りするの……疲れちゃった……」
一体いつから、絵里は孤独だったのでしょうか。
今にしてみれば、思い当たる節はいくつかあった。
絵里をこんな風にしたのは、もしかしたら私たちのせいなのではないでしょうか。
「…………まだ間に合います。だからどうか、私たちのところへ帰ってきてください」
今、私が手を差し伸べなければ、本当の本当に手遅れになる。予感よりも、確信。いや、もっと恐ろしいもの。
だけど絵里は……拒絶をやめなかった。
「遅いのよもう……。私はここで、あなたと……そして穂乃果を!殺さなければいけないの!!」
どうすれば私の想いが通じるだろう。
この、眼前にまで迫った死に対して、どんな抵抗ができるだろう。
頭の中で様々な考えが巡り、そうして出た言葉は、
「絵里!!私の目を見なさいっ!!」
「……っ!?」
絵里への信頼を示すものだった。
なにも口には出さない。ただ、瞳を見据える。私たちだから通じる言語。
「……わ……わた、しは……」
戸惑い、怖れ、安堵、迷い。
剥がれた仮面をつけなおそうとして、内側からくる波に壊される。
それを僅かな間に幾度となく繰り返し、絵里は必死に戦っていた。
実際として、彼女がどんなことに怖れ、何をもって抗い、どんな想いでこの場に立っているのか、私にはわからない。
それはこれから私が……いいえ、私たちが知るべきこと。
ただ、ひとつだけ確かこと。
「うわあああああああああ!!!!!」
その葛藤は、およそ独りの少女が耐えうるものではなかった。
そして、絵里は引き金を――――
絵里「……ふう」
海未「絵里、これで顔拭いてください」つハンカチ
絵里「ありがとう海未。それにしても流石海未ね。動きのキレが違うわ」フキフキ
海未「絵里こそすごいですよ。武術の経験がないのに、あの回し蹴りなんかとても綺麗でしたよ」
絵里「うふふ、沢山練習したもの」
凛「二人ともすごいにゃー……凛思わず見入っちゃった」
花陽「うんうん、かっこよかったねぇ!」
真姫「ちょっと希……」グイグイ
希「なんや真姫ちゃん?」
真姫「こ、このあとどうなるのよ」
希「えー?どうしよっかなー? そんなに気になるの~?」ニシシ
真姫「べ、別に気になるとかじゃないけど……!!」プイッ
海未「うわ、改めてみるとその血、嫌に凝ってますね……」
穂乃果「あ!海未ちゃん酷い!穂乃果は海未ちゃんのために戦って散ったのに!!」
海未「それは物語の中の話でしょう」
穂乃果「それで希ちゃん!穂乃果は死んだままなの!?」
希「穂乃果ちゃんは先にシャワー浴びてきた方がいいんとちゃう?」
穂乃果「た、確かに……これなんかベタベタするし……えへへ。いってきまーす!」
海未「待って穂乃果!!」
穂乃果「ん? どうしたの海未ちゃん?」
海未(あれ…? 私、今どうして引き止めたりなんか……)
海未「あ、いえ、なんでもありません」
穂乃果「変な海未ちゃん。じゃあいってくるねー!」タッタッタ
ことり「ねぇ、これ、本当に私が朗読係でいいのかなぁ。 すごくあってない気がするんだけど……」
希「そのミスマッチ感がいい味でてるんやん」
ことり「そうかなぁ……。やっぱり、きりっとした声とか練習したほうがいい?」
希「いいのいいの。ことりちゃんだけは、いつまでもみんなの癒やしで居てな」
にこ「ちょっと希!!いつまで待たせるのよー!!」
希「あ、にこっち」
にこ「せーっかくこのにこちゃんがわざわざイメージと正反対な悪役を引き受けてあげたっていうのに!」
にこ「待てども待てども誰もきやしない!」
にこ「暇すぎて10連にこにーを10回くらいやっちゃったわよ。合わせて100にこにーよ100に・こ・に・い!」
希「ごめんなにこっち。ホントはこのあとなんやかんやで海未ちゃん絵里ち花陽ちゃんで、にこっちに挑むお話のはずなんやけど……」
にこ「なんだけど?」
希「なんか、駄目みたいや」
真姫「なにそれ意味わかんない!」
にこ「うわっ!びっくりした!」
凛「それにしても、にこちゃんが悪役なんて、本当に似合わないにゃ~。凛が代わってあげようか?」
にこ「凛もそう思うぅ? やっぱりにこにはぁ、幸せ運ぶエンジェルとかがぴったりよね!」
凛「そうじゃなくて、にこちゃんってすごく小物っぽいから、にこちゃんには絶対荷が重すぎにゃ」
にこ「ぬぁんですって~!!」
凛「きゃー!にこちゃんが怒った~!あははっ!」
絵里「うふふっ。あの子たち、すごく楽しそうね」
海未「そうですね」
海未「……あの、絵里」
海未「ごめんなさい。痛かったでしょう」
絵里「なんだそんなこと? 全然大丈夫よ。私の方こそごめんなさい」
海未「いいえ、絵里に比べたら私の痛みなんて大したことありませんよ。それに、なぜだか全く痛くないんです」
絵里「…………本当?」
海未「ふふ、泣かないでくださいよ。私は嘘なんかつきません」
そう。不思議と、痛みがない。
絵里、あなたは悪くありませんよ。
あの時私が間違えなければ、あなたはきっと私の手を取ってくれたはずですから。
あなたは私を強いと言ったけれど、私はこんなに弱かった。それだけのことです。
だから、救ってあげられなくて、ごめんなさい。
嗚呼。
あなたは、今でも泣きじゃくり、私の手を握って謝罪の言葉を重ねる彼女を――絵里を救えずに力尽きる私のことを、どう思うでしょうか。
よく頑張ったねって、褒めてくれるでしょうか。
それとも、なんでもっと頑張れなかったのって、叱るのでしょうか。
なんでもいいです。とにかくあなたに会いたい。
今なら、恥ずかしくてあなたに言えなかったことも、簡単に口にできてしまいそうなんです。
きっと驚きますよ。
ですが、あなたは追いかけるようにあなたの元へ向かってしまう私を、許してくれるでしょうか?
それだけが、たまらなく心配なのです。
あなたを守れなかった私を、許してください。
あなたの意志を継げなかった私を、許してください。
だから穂乃果、お願いがあります。
もし、また会えたなら、私のことを抱きしめてください。
簡単には離れないように、きつく、きつく。
今度は、私も応えますから。
大好きですよ。穂乃果。
救えなかったか
テンポ良かったし面白かったわ
鬼気迫る様子が上手に書けてていいね
-
前の記事
【ラブライブ!】城下町のダンデライオンで海未ちゃんがメイドしててワロタwwwww 2020.04.01
-
次の記事
【ラブライブ!】にこ「」←どんな名言を入れてもしっくりくる 2020.04.01