【ラブライブ!】花陽「絵里ちゃん、私も連れていって」
- 2020.04.02
- SS

身体に対してほんの少し小さな袴を羽織り、扱いなれてないはずの刀を腰に差して、たった独りで家を出ていこうとしていた絵里ちゃんを、そう言って呼び止めた。
引き戸にかけていた手を降ろして私に向き直った絵里ちゃんの瞳は、とても透き通っていて。
「……危険、じゃあ済まないわよ」
覚悟のない人は踏み込むな、とか、あなたじゃ足手まといになるだけ、だとか、そういったことを全部飲み込んだように一言だけ述べてから、絵里ちゃんはただ、脇差しを私に差し出した。
「わかってる……でも、私がいかなきゃ」
私はそれを受けとることで絵里ちゃんの一言に込められた全ての言葉に応え、しっかりと着物の懐へしまった。
初めて身につけた刃は、自分の方が刺されてしまうのではと思うくらい鋭く、重く。
そして、空はまだ暗かった。
虫の奏でも、蛙の歌声も、そんなもの初めからなかったように途絶えていて、風の戯れと草木のざわめきだけが、私の耳に微かな安らぎと確かな恐怖を届けた。
絵里ちゃんは怯える私に構わずぐんぐん進み、私が慣れないあぜ道に躓いたときも、突然飛び立つ鳥に尻もちをついたときも、振り返ることはしなかった。
でもそれは絵里ちゃんが冷徹だからではなくて、私の覚悟に応えてくれてるから。
優しい絵里ちゃんは決して居なくなった訳じゃない。
泣きじゃくる人、責め立てる人。とにかく皆寄ってたかって絵里ちゃんを問い詰めた。
私は泣きすぎて過呼吸になってしまって、あまりはっきりとは覚えていないのだけど、みんな私が見たことのないような顔を絵里ちゃんに向けていたのだけは覚えてる。
そんな中、唯一ことりちゃんだけが、いつも通りの優しい声で「おかえりなさい」って、絵里ちゃんを迎え入れた。
たったそれだけでみんなは黙りこくってしまって。
ことりちゃんの真意はわからないけど、きっと、誰よりも恨むべきなのに、誰よりも絵里ちゃんを気遣ってたのはことりちゃんだったんだと思う。
みんなも、一番辛いはずのことりちゃんが言うならって、それ以上絵里ちゃんに問い詰めるのをやめて、大きな哀しみを抱えながらもいつも通り迎え入れた。
なにより、一度冷静になって絵里ちゃんのあの絶望一色に染まった顔を見たら、何かを言える人なんていなかった。
だけど、それは二人を殺めた絵里ちゃんにとってしたら、逆にどんな拷問よりも辛かったらしくて――。
途中の林道を抜けて広がった場所に出たとき、ふと絵里ちゃんが言った。
私は慌てて丸まった背中を正して、まだ行けるよって言ったけど、
「私が休みたいの」
なんて返されて。
やっぱりいつもの絵里ちゃんだって、少し安心した。
積み上げてあった丸太に腰掛けると、思わずふうと溜息が漏れた。
すぐそこに斧と少しの薪があった。
今は人の気配すらしないけど、きっとここらへんの木こりさんの作業場だったのかな。
そう思うと、妙に寂しくなって絵里ちゃんの方を向く。
絵里ちゃんは私の隣に座って、自分の左の頬を指先でゆっくり撫でていた。
ああ、絵里ちゃんも怖いんだ。
そうして見上げた星空は、月が居なくてみんな満天に輝いてたけど。
なんでかな。全然綺麗だと思えなかった。
何事かとみんなで顔を合わせて音の出処――絵里ちゃんの部屋へ走った。
にこちゃんが先陣を切って乱雑に開かれていた扉の先を行く。
そこにあったのは。
倒れた脚立。天井に括りつけられ、先の方が輪っかになった縄。崩れ落ち、左頬を押さえている絵里ちゃん。
そして、瞳に大きな涙の雫を貯めた――ことりちゃん。
「二度と……二度とこんなことしないでっ……!!」
ことりちゃんは本気で怒っていた。
あれから絵里ちゃんが一度も笑ってないこと。
毎晩毎夜、ごめんなさい、ごめんなさいってうなされてること。
みんなの柱のような存在だった絵里ちゃんが、一度触れれば壊れてしまいそうな砂人形のようになってしまっていたこと。
だから、もしかしたら……っていうのはみんなの心の中にあったはずだった。
でも、誰もその時がくるまで気づけなかった。
ううん、本当は……本当はみんな、心の何処かで絵里ちゃんのことを許しきれていなかっただけなのかもしれない。
そのことに気付かされたのは、きっと私だけじゃなかった。
でも、それがあってから絵里ちゃんは少しずつ良くなっていった。
あれだけ拒絶していた希ちゃんの介抱にも応じるようになってきて、みんなとも会話をしてくれるようにもなった。
ご飯だって、ほとんど手を付けてなかったのに残さず食べてくれるようになったりして。
絵里ちゃんは目に見えて回復に向かっていた。
このまま、またみんなで仲良く暮らせたらな。
そんな淡い希望が打ち砕かれるのに、あまり時間は掛からなかった。
絵里ちゃんがすっと立ち上がって私に手を差し伸べる。
「ありがとう」
お礼を言って手を受け取ると、不意にぐいと引っ張られ、胸に顔を押し付ける形で抱きしめられた。
「わぷ、絵里ちゃん……?」
戸惑う私をよそに、絵里ちゃんはただ黙って私を抱き続ける。
そこにあったのはやっぱり、草と風の歌声と、とくん、とくんと響く温かい音色。
「…………大丈夫。絵里ちゃんはちゃんと生きてるよ」
私がそう言うと絵里ちゃんは少しの間のあと、強く、確かめるように何度も頷いて、腕の力を僅かに強くした。
「ごめんっ……もう少しだけ……」
私は返事の代わりに、絵里ちゃんの背中に手を回し、ぎゅっと彼女の体温をより近づけた。
何の前触れもなく、突然に。
私たちは出掛けるときは、何処へ、何しに、いつ帰ってくるのかまで事細かに報告するようにしている。
それこそ――よほどの有事でもなければ、必ず。
だけどにこちゃんは誰にも何も言わずに、何か荷物を持ち出した形跡もなく、丸一日帰ってこなかった。
みんなで一日中、必死になって探したけれど、足取りすら掴めなくて。
埒が明かないから、帰ってくるのを待とうということになったんだけど、実際はみんな気が気でなかった。
「にこっちを探してくる。二日以内には帰ってくるつもりや」
と言ってにこちゃんを探しにいった。
何かあてがあるようだったけど、希ちゃんはそれについては誤魔化したまま出ていってしまった。
そして、約束の期日から二日過ぎた頃、二人は帰ってきた。
――物言わぬ骸となって。
対して、にこちゃんは首の頸動脈を斬るような深い切り傷がある他は、とても綺麗な身体をしていた。
そして、二人の顔にはとても濃く涙の痕跡が残っていた。
きっと、二人の間で何かがあって、にこちゃんは希ちゃんを殺してしまった。
そして――。
でも、そんなことはどうでもよくて。
理由がどうあれ、また大切な仲間を喪ってしまった。その事実だけが私達の心に大きな風穴を開けた。
こんなの、どうやったって慣れるものじゃない。
泣いた。みんな泣いた。涙は枯れるなんて嘘だった。
だけど、ことりちゃんだけは泣かなかった。
愛おしそうに二人の頭を撫でて、
「おかえりなさい」
って、いつもみたいに呟いていた。
ことりちゃんはいつもみたいに優しかった。
絵里ちゃんは気丈に振舞っていた。
凛ちゃんが居なくなった。
真姫ちゃんは――――
――――壊れてしまった。
濃紺の中に煌めく星空の下、凛ちゃんは鈴の音が鳴るように、静かに、だけどはっきりと言った。
「凛ちゃん!どうしてこんな……!ねえ、一緒に帰ろうよ!」
私が堪えきれずそう言うと、凛ちゃんは目を閉じてゆっくり首を振る。
「無理だよ。凛はもう”あてられてる”んだ」
あてられてる……?
私が疑問を返す前に、絵里ちゃんが口を開いた。
「そうね。だから私が終わらせにきた。今度は本当の意味で」
二人の話についていこうとしている内に絵里ちゃんが刀を抜く。
それを見た凛ちゃんは、少し微笑んだようだった。
「凛、それだとまるで、私に勝てるって言ってるように聞こえるわね」
「そうだよ。だって、真正面からなんて、そんな……海未ちゃんみたいな殺り方……絵里ちゃんには似合わないよ」
そうして最後に悲しげな表情を見せた凛ちゃんは、懐から何かを取り出して。
平手打ちなんかよりも、ずっとずっと大きな、耳をつんざくような破裂音が辺りに響いた。
続いて、隣で何かが崩れ落ちる音。
バクバクと、焦燥と恐怖に激しく脈を打つ心臓を感じながら、確信めいた予感を心の中で必死に否定して、隣に立っているはずの絵里ちゃんを見た。
その胸に、私たちにとって見慣れた朱が咲いていた。
「絵里ちゃんっっ!!!」
絵里ちゃんの名を叫ぶ。反応はない。
私は小刻みに呼吸を続ける絵里ちゃんの手を取り、繰り返し名前を反覆した。
しばらくして、虚ろな目をしていた絵里ちゃんが呟く。
「みゅ……ず…………」
次いで、一筋の涙を零した。
絵里ちゃんは一度はっとしたように目を見開くと、涙の粒は次第に大きく、そして数を増やして、止めどなく溢れるようになっていった。
「ごめっ……わたし、が……こ、んな夢……みちゃっ、かふ、いけなぃ、のに……」
「は、なよ……ごめ、んね……」
絵里ちゃんは何に対して謝ったのか。
私をここまで連れてきたこと?
穂乃果ちゃんと海未ちゃんを殺しちゃったこと?
三人揃って帰れないこと?
「やだ!!やだやだやだ!!」
なんでもいい。私は否定をするだけ。
「み……んな、に……あやっ……まらな……きゃ……」
だけど、そんなことはお構いなしに灯火は消えようとしていた。
「ごめ……なさい……ごめん…………なさ……い……」
絵里ちゃんはそのまま何かに対して謝り続けて、事切れた。
風も止んだ。
怒りでも、悲しみでもない。
ただこの身に降り掛かった理不尽に対して、精一杯心が抗おうと涙を流し、繋がれた手を離さないまま、言い表すことのできない想いを凛ちゃんにぶつけた。
「だから、言ったよ。凛はもう、あてられてるって」
凛ちゃんは淡々とそれだけ言った。
それはまるで凛ちゃんじゃないみたいだった。
「かよちん。凛はこれからかよちんに、とっても酷いことをお願いする。だからその前に、全部話すよ。凛たちに起こった全部を」
瞳には涙。口元には笑み。
泣き笑いでもなければ笑い泣きでもない。
凛ちゃんの中に、矛盾する二つの感情が同居していた。
馬鹿な私でも、凛ちゃんは”何か”と戦ってるんだとわかった。
「なんのことか、わからないよ」
「この世界に『殺し』が蔓延してることにだよ」
おかしい? 確かに、私の両親は知らない人に殺された。私だけじゃない。凛ちゃんも、ことりちゃんもそう。
とっても悲しかった。何で、どうしてって思った。だけど、仕方ないことだと割り切ってる自分もいた。
肉親が殺されるのなんて、ありふれていたから。
「でも、それは……」
「うん。だから凛たちは集まった。逃げてきた人。戦ってきた人。流れ着いた人。
凛たちは、殺しなんてしないし、殺されたりもしないって誓いあったよね」
凛ちゃんはどこか遠くを見つめるように言った。
私の返答を待たずに、凛ちゃんは続ける。
「答えは簡単だったよ。”こいつ”のせいだ」
凛ちゃんは自分の胸を押さえて、憎しみの篭った声を発した。
「凛にはこれがなんなのかはわからないけど、”こいつ”に呑まれると、とっても、人を殺したい衝動に襲われるんだ」
「凛ちゃん……?なにを、言ってるの……?」
「絵里ちゃんのことも、にこちゃんのことも、これのせいだったんだよ」
目の前の少女は笑っていた。
それで絵里ちゃんは、穂乃果ちゃんと海未ちゃんを殺しちゃった」
少女は笑って、とても嬉しそうに惨劇を語る。
こんなのが凛ちゃんと同じ人間だなんて信じたくなかった。
でも、それよりも、得も言えぬ恐怖。それが私の心をひたすらに巡り、絵里ちゃんの手を握る力を強くさせた。
「だけど、やっぱり海未ちゃんはすごいよ。一度呑まれちゃった絵里ちゃんを引っ張りあげたんだから。
凛はもう絶対に戻れないもん。
にゃははっ、でも海未ちゃん、その絵里ちゃんに殺されちゃったんだけどねぇ!!」
やっぱりそこに居るのは凛ちゃんじゃない。
その声で喋るな。その身体で息を吸うな。その顔で――
「笑うな!!!」
発してから、はっと口をつぐむ。
身体中がけたたましく警報を鳴らして『逃げろ』とただそれだけを私に命令する。
私はすぐに立ち上がり、震える手で脇差しを取り出して両手で確かに構えた。
そんな私の姿をみて、”凛ちゃん”は言った。
「かよちん、怖がらせてごめん。でも、凛頑張るから、負けないように頑張るから。聞いてほしい」
だけど、
『凛ちゃんが頑張ってる』
私が涙を堪えるのに、それ以上の理由はいらなかった。
凛ちゃんはお礼を言うように優しく微笑むと、続けた。
けど、にこちゃんはもっとすごい。にこちゃん、半年も前からずっと呑まれてたんだよ。
ホントに偶然だった。凛がご飯だよってにこちゃんの部屋に伝えにいったとき。
にこちゃん、暗い部屋の隅で『みんなは大切な仲間なの』『殺したくない殺したくない』って、ずっと呟いてた。
途中でにこちゃんは凛に気づくと、汗でびっしょりの顔で『みんなには黙ってなさい』ってそれだけ言った。
たまに、にこちゃんの部屋からドシンドシンて音がして、にこちゃんが汗まみれになって出てくることがあったよね。踊りの練習してたとかって言ってたけど、本当は違ったんだよ。
だけど、その時の凛には何が起きてるのかよくわからなかったし、とにかくにこちゃんは迫真に迫ってて、だからわかったって頷くしかできなかった。
その日ほど凛は自分の勘の良さを恨んだ日は無かったよ。
にこちゃんに、凛に何か手伝えることはないかって、少しでもにこちゃんの力になりたいって、そう言ったの。
そしたらにこちゃん、凛になにしたと思う?
凛の首を締めてきたんだよ。
そのときはにこちゃんがすぐに正気を取り戻して、なんともなかったけど。
次の日、にこちゃんは居なくなってた。
凛のせいだって思った。にこちゃんは凛たちに危害を加えないように出ていったんだって。
それで、希ちゃんに相談したの。希ちゃんも”これ”に薄々感づいてたみたいだったから。
あとはかよちんも知ってる通り。そう……二人は凛が殺したようなものなんだ。
そして凛は知ってた。順番が凛に回ってくるって。だからにこちゃんと同じように黙って出ていったの。
でも、凛はにこちゃんみたいに強くなかった。だからみて、こんなことになっちゃってる。
ねえかよちん。お願いだよ。
――――凛を殺して。
凛ちゃんが語り終える頃、空は黒よりも青が濃くなり、星達は次々に隠れ始めていた。
信じられない言葉が続いた。思うことは山ほどあった。
でも、最後の一言に全て塗りつぶされた。
殺す……?私が、凛ちゃんを……?
「でも、凛知ってるよ。かよちんは優しいから、凛を殺すなんて無理だよね」
凛ちゃんはまた、泣きながら笑っていた。
そして、銃口を私に向けた。
「ほら、早くしないと凛がかよちんを殺しちゃうよ」
目の前の少女を殺す。そして凛ちゃんを解放してあげる。
言葉にすればこんなにも簡単なのに。
自分が死ぬのは怖くない。凛ちゃんを救ってあげられないことのほうがよっぽど怖くて、凛ちゃんを喪うのはもっと怖かった。
「……っ……できないよぉ!!!!」
気づけば私はぎゅっと目を瞑って、拒絶の声をあげていた。
私の覚悟なんて、そんなちっぽけなものだった。
「やっぱり凛は、そんな優しいかよちんのことが――大好きにゃ」
さっきよりもずっと近くで凛ちゃんの声がして。
暗闇の中で、柔らかい感触が腕を伝った。
こんな柔らかさ、知りたくなかった。
私の両手は確かに短刀を握っていて。
凛ちゃんは私の頭を撫でながら、背中に手をまわしてきつく抱き寄せた。
私は声もあげられず、消えゆく星たちを眺めていた。
「凛ね。夢をみたんだ。ここじゃないどこかで、みんなで歌って、みんなで踊って、みんなで笑ってた」
凛ちゃんは泣いていた。
「とっても楽しい夢だったなぁ」
頷くこともできず、凛ちゃんを抱きしめ返すこともできず、私もただ泣いていた。
「ねえかよちん、どうして凛たち――――」
「あ、ごめんね真姫ちゃん。起こしちゃったかな」
「ううん いま おきたところよ ことり」
「ご飯、食べる?」
「いらない」
「でも真姫ちゃん、もう何日も食べてないよ」
「わたしのことは いいから ほのかたちに よういしてあげて にこちゃんとか のぞみとか いまごろ さわいでるんじゃない?」
「……大丈夫だよ。もうみんな仲良くご飯食べてるところだよ」
「そう ことりはいかなくていいの?」
「うん。真姫ちゃんとお話したいなって思ったから」
「 ことり」
「なあに真姫ちゃん」
「ありがとう」
「お礼なんていいよ」
「どんな夢?」
「わらっちゃうような ゆめよ みんなとてもかがやいてて たのしそうで きせきみたいなゆめ」
「それは嬉しい夢だね」
「ねえ ことり」
「うん」
「どうして わたしたち――――」
「「こんなせかいに うまれてきちゃったんだろう」」
「ことりにも、わかんないよ」
「……真姫ちゃん?」
「ねえ、真姫ちゃん」
「…………」
「……そっか」
「真姫ちゃんも、疲れちゃったよね」
「おやすみなさい。真姫ちゃん」
***
理由はわかってた。凛ちゃんは力無く両腕をぶら下げ、鼓動の奏でを止めていた。
ようやく動くようになった手で、凛ちゃんから短刀を抜き取る。
「ごめんね。痛かったよね」
真っ赤になった刀を放り、一度きつく凛ちゃんの身体を抱きしめた。
「こんなにくっついてるのに、もう会えないなんて……おかしいね凛ちゃん」
応えなんてあるはずもなく。
ゆっくりと凛ちゃんを地面に寝かせて、髪を撫でた。
「ごめん、ごめんね凛ちゃん」
私がちゃんと助けてあげなきゃいけなかった。
私の手で、しっかり終わらせてあげなきゃいけなかった。
私は、私は――――守られてばかりじゃないか。
どれだけ泣き続けても、嗚咽は漏れ、後悔は溢れ。
実は今までのは全部お芝居で、二人が笑って起き上がる。そんな情景を何度も描いた。
そしてそんなとき、暖かな光が私を差した。
太陽が夜を殺し、朝の訪れを告げていた。
どうして私を照らすんだろう。
このまま暗闇に閉じ込めてくれれば良かったのに。
どうしてそんなに綺麗でいられるの。
私たちはこんなに汚れてしまったのに。
今まであれだけ好きだったお日様が、
憎くて、憎くて、憎くて仕方なかった。
だけど、どれだけ叫んでも、どれだけ拒んでも、太陽は私のことなんか意に介さず、変わらぬ恵みをもたらし続けた。
耐えられなかった。
私は赤に染まった短刀を拾い上げ、首にあてがい、
そして――――私も夢をみた。
「……」
『穂乃果、ことりちゃんのおかえりが大好き!』
『そうですね。私も大好きです』
『帰ってきたぞって気持ちになるよねっ!』
『聞いただけで身体がふにゃ~ってなっちゃうにゃ~』
『なによ、なんかみんな大袈裟じゃない?』
『ことりちゃんことりちゃん、真姫ちゃんがもうおかえり言わなくてもいい言うてるで』
『ちょっ!そんなこと言ってないでしょ!!』
『わかった!真姫ちゃんはにこのおかえりをご所望にこね!?』
『気持ち悪いからいらないわ』
『ぬぁんですってー!』
『でも、ことりが迎えてくれると、本当に不思議と心が安らぐのよね』
『そりゃことりちゃんだもん!』
『意味がわかりませんよ穂乃果……』
『もし死んじゃっても、ことりちゃんが優しくおかえりって言ってくれたら生き返ったりしてな!』
『本当にそうかもって思えちゃうところが、ことりちゃんのすごいところだよねぇ』
『うふふっ、ことりはいつでもみんなの帰りを待ってるよ』
『だから、ちゃんと帰ってきてね。みんな』
『あったり前だよ!もし危ないことがあっても海未ちゃんが守ってくれるし!』
『穂乃果、他力本願はいけませんよ』
『え~、海未ちゃん守ってくれないの~?』
『そ、それは……守りますけど……』
『それもどうなのよ』
『かよちんは凛が引っ張って逃げるから大丈夫!』
『えへへっ、頼りにしてるね』
『絵里ちは強いから、もちろん心配いらへんな』
『ふふ、そうね。そこらの奴らなら片手で充分かも』
『おっ、頼もしいー!』
『もー、からかうのはやめてよ希』
『とにかく!私たちは絶対に誰も居なくならないよ!安心してことりちゃん!
ところでことりちゃん、今日のご飯はなに?』
『もう!台無しじゃないですか!』
「穂乃果ちゃん。ことり、独りになっちゃったよ」
「居なくならないって言ったのに」
「今、私独りだよ」
「でも、ことりは待ってるよ」
「ちゃんと、みんなのお家で待ってるから」
「だから――」
穂乃果「ことりちゃんに一人でお留守番させちゃって、大丈夫だったかなぁ」
海未「ですが、衣装作りに集中したいとも言ってましたし」
穂乃果「もうっ!にこちゃんが選ぶの遅いからこんなに遅くなっちゃったんだからねっ!」プリプリ
にこ「わ、悪かったわよぉ。ケーキなんて久々だから、つい目移りしちゃって」
希「でもあんなに全部キラキラしてたら迷うのも仕方ないと思うで。ウチも結構考え抜いたし」
絵里「花陽は随分冒険に出たわよね……」
花陽「お米を使って不味いものなんかないんだよ絵里ちゃんっ!!」
凛「それにしても、良い匂いだにゃ~。じゃんけんに負けて逆に得しちゃったかも!」クンクン
真姫「凛、扱いには気をつけなさいよね。崩れたりなんかしたら一大事よ?」
真姫「わああ! だから揺らしちゃ駄目って言ってるのよ!」
にこ「ちょっと凛!にこのケーキが壊れてたら承知しないわよ!」
凛「はーい!」ピョン
真姫「わああ! だからー!!」
希「あははっ、ホンマにほどほどになー」
花陽「お米っお米っお米っお米っ」
絵里「花陽、それちょっと怖いわ」
穂乃果「そうだね~!ことりちゃん絶対喜ぶよ!!」
海未「ふふ、瞳をキラキラと輝かせてることりが目に浮かびます」
穂乃果「さあて、帰ってきたぞ部室~!」
ガチャ
穂乃果「ことりちゃんただいま!遅くなってごめんねー!!」
ことり「あ、みんな!!」
ことり「おかえりなさいっ!!!」
ハッピーエンドであってほしかった
乙乙
乙いい威圧感だった
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