【ラブライブ!】ダイヤ「待ってて愛のうた」
- 2020.04.16
- SS

寄せては返し、満ちては引く。
生まれた頃よりいつも耳に響いて止むことのない。
私たちの心音にも似た、生きていることの証の音。
そう。私たちは、ここで生きている
都会の華やかさも、人々の熱気も。流行が散らす火花のような鮮烈な儚さも。
富も、権力も。悪意すらも。
進歩も、発展も。
私たちの、未来さえも。
すべてを持たず、緩やかに途絶えていくだけの死んだ土地だと。
そう、思っていた。
すべての始まりは、伽藍堂の校舎に木霊した、あの少女の長声一発。
免れ得ぬ廃校の決定に沈む抜け殻の安普請を満たしたのは、底抜けに明るい決意の声だった。
何もせず、何も為したことのない子供が。
正体も自覚できない無名の感情に駆られ、明確な展望も持たずに。
勢いだけで転ぶように叫んだ中身のない言葉なんて、聞く価値もない。
私たちは────いえ、あなたたちは。
未来より以前に、居場所さえ失ったと言うのに……。
つまり、私は。
その声を、無視できなかったのだ。
いつまでも消えない、この街の浜辺から届く波の音のような、その声を。
いつしかその声は増え、合わさり、重なって。
私のすぐ足下では、もう波がたゆたっていた。
冬の始まりの海は、想像を超えて冷たくて。
あと幾ばくもない夕暮れを待たずして、私は耐えられず陸(おか)へと踵を返すだろう。
しかし、私はこの波に────。
返す波が足下の砂を攫い、閑却に耽る人を引き倒すように。
気が付けば私も、無謀を声高に唱えては波間に砕けるこの波頭の列に、加わっていた。
誰かが仄暗い海の底で。私の手を取り、静かにそう囁いた気がした。
瞬間。周囲の視界が晴れ、水底に広がる煌びやかな風景が目に飛び込んでくる。
海には、運悪く引きずりこまれただけだと思っていた。
波達は、ただ虚しくさざめいているだけだと思っていた。
知らず、目を細める。
ここにも、あったのだ。
こんなにも心奪われる風景が。
誰かを迎え、傍らで何も言わずに見つめ続けていたくなるような、そんな場所が。
ここにも、ここにも。こんなところにも。
胸が高鳴り、瞳は輝き、足は先を求めて勇んでゆく。
見慣れたはずの街角は、魅力に溢れた別天地だった。
幼い日。
親に内緒で妹と夢中になって駆け抜けた、この街のきらめきを。
ふとした光景に目を奪われ足が止まった、お稽古事への道すがらを。
いつからだろう。
この街から色が失せ、鈍い光しか感じなくなってしまったのは。
全部、ぜんぶ。
私が勝手に、決めつけていたことだって。
私にもう一度この街の輝きを教えてくれたのは、彼女たちの止まない波のような歌声と。
無視することのできない、燃える夏の陽射しのような熱意だった。
一年。いや、半年を少しまたいだ程度の時間だったが。
私たちは夢中になってその瞬間を駆け抜けた。
何を為せたかは、正直まだよくわからない。
でも、私たちはせいいっぱい。
この街と、この海と、この学び舎の輝きを形にして、誰かに届けようと足掻き続けた。
そして多くの人々の心に永遠に残る輝きとなって旅立った、あの光に焦がれるように。
耳を澄ませば、波音に混じり。私たちが歌ってきた曲の旋律が、断片のように聞こえてくるような気がした。
私は、自分の内にこんな感情を持て余したことなど、今までなかった。
前触れもなく。口を突いて、メロディーが溢れ出した。
歌を、歌っているのだろうか。
この私が。情感に流されるまま。
心に浮かぶ言葉を、即興の旋律に乗せて。
恋に溺れる乙女のように。
屈託のない子供のように。
私は、今の私も嫌いではない。
たくさん歌を歌った。
数え切れないほどのステップを踏んだ。
ずっとひとりだった私の隣で、いつも誰かが笑っていた。
私は、これまでの日々が。狂おしいほど愛おしかった。
みんなで歌い、遊び、お喋りするだけで。
こんな時間があっていいのか不安になるくらい、楽しかったのだ。
何故かこの歌は、そんな記憶すら呼び起こしていく。
旋律は止まらずに、素直な言葉が裸の心に突き刺さる。
届けたい人などいないはずないのに、溢れ出る歌はあてどなく宙をさまよい。
耳を傾けてくれる誰かを探し、切なく風に消えていく。
そして私も、成りたいと思ったのだ。
誰かに想いを届けるため、歌と踊りにすべてを賭して打ち込み。
一瞬のきらめきを味方に、人の限界を超え────時と場所すらも超えて、繋ぎ……微笑みをもたらす……そんな存在に。
かつて侮蔑を隠さずあからさまに笑った、正体のわからない感情にただ突き動かされているのだとしても。
この感情こそが尊いのだと、今ではもう知っているのだから。
私の歌をいつか聞いてくれる、名前もわからないあなたへ送る。
そう。これは、一度きりの愛のうた。
想いをがむしゃらに、取り留めもなく形にしただけの、不格好で未熟なうた。
今の私では歌いきれないから。
今の私では届けられないから。
────それでも、この想いだけは形にしたくて。
ちゃんと歌ってあげられない私で、ごめんなさい。
────だからせめて、私から零れるこの熱にだけは誠実に。
いつかかならず、この歌をあなたに届けるために。
今はただ口ずさむ。
私だけの、ラブソングを……
「……千歌さん」
「もーぅ!探したよ!せっかく今日は習い事も家の用事もないって言ってたから一緒に帰ろうって思ってたのに、ダイヤちゃん先行っちゃうんだもん!」(ぷりぷり)
「それは……ごめんなさい。少し、ひとりになりたかったものだから……」
「……いいえ」
「じゃあ……寂しくなっちゃってた?」
「いいえ」
「でもでも……」
「全部違います。夕日が綺麗だと思ったから、少し浜辺に降りていただけですわ」
「ふーん……」
「……千歌さん……?これはいったい何かしら」
「んー?私がダイヤちゃんを抱き締めたいなって思ったから、そうしてるだけだよー……」
「……」
「……」
「……ふう……」(テクテク)
「~♪」(ぎゅー)
「でも、こうしてるとあったかいよねー。最近めっきり冷え込んできたし」
「まったく、もう……」
「ふふふっ、ダイヤちゃんとの帰り道~♪」
「どうせみんなも合流するんでしょうに……」
「じゃあ、みんなでの帰り道だねっ、あははははっ」
「~~~っ(ほんと……話の通じない……)」
「あら……その曲、また……」
「えへへ、なんだろう。なんの曲か、どこで聞いたか……そもそも本当にこんな曲があるのか、全然わかんないのに。
こういうとき、ついつい口ずさんじゃうんだよね」
「……千歌さんは……」
「んー?」
「千歌さんは……その曲を”もう、歌える”んでしょうか」
うーん……歌詞がある曲だって思ったこと、ないんだけどなぁ……」
「いえ、そういうことではなく────」
「────ないんだけど」
「え……?」
「いつかみんなで、歌えたらいいなって思ってる」
「みん……なで……」
「みんなでだったら、どんな歌でも歌えて。その歌を、どんな人にだって届けられる」
「そんな気が、するんだ……」
「……ダイヤちゃん」
「……?」
「ダイヤちゃんはね、ひとりなんかじゃ……ないよ……」
(ぎゅーっ)
「……これだけくっついておいて、何を……」
「えへ♪」
『あ!マルちゃん、お姉ちゃんたち来たよ!』
『ほんとだ。おーい!千歌ちゃーん、ダイヤちゃーん』
『まったく!ダイヤったらひとりでエスケープしちゃって!』
『まあまあ、約束してたわけじゃないんだから』
『知ってて……?悪魔は時間には厳格なのよ?』
『よっちゃん……今日目覚まし壊れたって朝練遅刻してたよね……』
『何はともあれ全員集合完了だねっ。それじゃ────帰ろっか!』
(そうでしたわね、千歌さん)
(……ごめんなさい、みんな)
(そして……ありがとう……)
(やっぱり、あの歌をきちんと歌えるようになるには、もう少し時間がかかりそうだけど)
(でもそれは、遠くない未来)
(あなたが教えてくれたように)
(みんなでなら、きっと歌えるはずだから)
(……さっきよりもっと、明るい意味と願いを込めて────)
「待ってて……愛のうた」
【おしまい】

まさかあのダイヤさんが夕暮れの浜辺でひとり熱唱しちゃうくらいスクールアイドルにハマってて、その瞬間がきちんと形になってて。
しかもこの歌とこんなにシンクロしてくるなんて思ってなかったから、その衝撃と歌への感動を勢いで。
最近こればっかり言ってる気がしますが、アニメまであとちょっとですね。
作中で彼女たちに、どうか素敵な出会いと発展が訪れますように。
ダイヤ姐さんのAqoursのメンバーを想う気持ちが伝わってきました
ダイヤ姐さんの眩しい笑顔が遂に見られるアニメが待ち遠しすぎる
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