【ラブライブ!】絵里「愛すべき日々」
- 2020.04.16
- SS

目の前には靄がかかっているようで、視界がはっきりしない。
それはさながら蜃気楼のようで。
ここはどこ?
と、問いかける私の声も虚空の果てへ消えていった。
でも――
なんだか懐かしい。
何が懐かしいのかはよく分からない。
ただ、身体が覚えている。
脳が、皮膚が、この懐かしさの正体を覚えている。
もう少しで、この正体がつかめる。
そう思った瞬間、目の前の視界が開けた。
何度も何度も足を踏み入れ、大切な時間を過ごした大切な場所。
音ノ木坂学院の、アイドル研究部の部室だった。
そしてそこには2人の少女の姿があった。
1人はことりだった。
そしてもう1人。
金髪で髪を後ろに束ねている人物が机に突っ伏している。
見間違うはずもない。
この人物は、絢瀬絵里……私だ。
そして、私はこのシーンを覚えている。
いつだったか、部室に早く来すぎて皆を待ってる間に眠ってしまったことがあった。
そこにことりがやってきて、しばらくの間部室で2人きりになったのよね。
ほら、もうすぐことりは席を移動するわ。
ことり『う~ん、暇だなぁ。皆はまだ来ないし、絵里ちゃんは寝ちゃってるし』
ことり『あ、そうだ♪』
私の隣の席に移動してきた。
この後ことりは寝てる私に色々ちょっかいを出してくるんだけど
なるほど、それを思いついた時のことりはちょっと悪い顔してたのね、クスクス。
えっ?
なんでそんなに覚えてるのかって?
実はね、この時の私ってことりが入ってきてすぐにはもう目が覚めてたのよ♪
まぁ、なんか起きるタイミング逃しちゃったからしばらく狸寝入りしてたんだけどね。
絵里『……ンフ』
ことり『つんつーん。それにしても絵里ちゃんの肌すべすべだなぁ』サワサワ
絵里『……っ///』
そしたらこんな事になっちゃったんだけどね。
ほら、私も耳たぶ真っ赤になってる。
凄い恥ずかしかったし、ていうか夢とは言えまじまじとこんなの見せつけられたら更に恥ずかしいじゃない!
ことり『全然起きてくれないよぅ。絵里ちゃ~ん? 起きて~」フー
絵里『……っ!?』
流石に私もここで起きなきゃことりにこれ以上何をされるか……
と思って反撃に出たのよね。
ことり『も~、起きてくれないともっと凄いことしちゃうよ?』
絵里『凄いことってどんなことかしら?』クイッ
ことり『ふぇっ?』
わ~、何か凄いキメ顔してる。
でも確かにあの時の私も決まったと思ってたわ。
それがね……
絵里『こ、ことり?』
ことり『絵里ちゃん、ふふっ、顔、顔が、あはは』
絵里『か、顔!?ていうかことり笑いすぎよ!』
ことり『ご、ごめんねぇ。でもおかしすぎて……はい、鏡』
絵里『ありがとう……って何よこれ!?』
起きていたとは言え、ずっと机に突っ伏していたわけだから
顔に変な跡がついていたのよね。
でも確かに、こんな跡をつけてキメ顔してたら笑っちゃうわ。
凛『遅れてごめんにゃー!』
海未『もう、2人とも廊下を走っちゃ駄目ですよ?』
ことり『あ、穂乃果ちゃん、凛ちゃん、海未ちゃん』
穂乃果『まだことりちゃんと絵里ちゃんだけだったん……絵里ちゃん!?』
絵里『なによ!』
凛『ぷっ、くくく、何か顔に跡ついてるにゃー』
穂乃果『何をどうすればそんな跡がつくのさ……ぷぷぷ』
絵里『そんなに笑うことないじゃない!』
絵里『ねぇ、海未?』
海未『えぇっ!? いや、でも……ふふ、すいません絵里』
絵里『う、海未にまで笑われた……』ガーン
花陽『何かあったのかな?』
穂乃果『あ、真姫ちゃんに花陽ちゃん』
真姫『笑い声が部室の外まで聞こえてたんだけど』
穂乃果『あぁ、それはね、絵里ちゃんが』
絵里『ちょっと、穂乃果!?』
絵里『うぅ……』
花陽『その、なんていうか……』プルプル
真姫『駄目よ花陽、堪えるのよ』プルプル
絵里『笑いたければ笑いなさいよぉ』シクシク
希『おぉ~これは中々豪快に跡をつけたやん』
絵里『の、希!?』
にこ『全く、アイドルにとって顔は命なのよ? もう少し気をつけなさい』
絵里『にこまで!』
結局この日は練習にならなかったのよね。
海未は渋い顔をしてたけど、なし崩し的に練習はオフになっちゃって。
ふふ、夢とは言え目の前で繰り広げられているやり取りを見てると
私も頬が緩んでしまう。
こんな楽しい夢ならいっそ覚めなければ良いのに――
なんて考えていたらまたも目の前の視界が霞んできた。
と思ったけど、どうやらまだ続きがあるみたい。
次第に視界がクリアになっていくとさっきとは違う景色が広がっていた。
ここは……ラーメン屋さん?
ということはもしかして。
私は慌てて辺りを見渡す。
席に座っている3人の姿。
1人はもちろん私。
そして私の前に座っているのは凛と花陽だった。
そうそう。
練習がオフだったある日の休日。
久々に買い物でもしようかしらと
街を歩いてたら凛と花陽とばったり会って
そのまま一緒にラーメンを食べに行ったのよね。
今まで友達とラーメン屋さんに行ったことなんてなかったし、
その時の私は凄い緊張していたのを覚えている。
ラーメンを食べたことはもちろんあるわよ?
μ’sの皆と練習後に食べに行ったこともあったわ。
でも、凛と花陽の3人でラーメン屋さんに行くというのは
今までとは違った“特別感”がある気がして。
それでガチガチになっていたのを凛と花陽に見抜かれてたのよね。
絵里『へ、な、なにが?』
凛『お店入ってからずっと遠くの方見てるし……もしかして体調でも悪いの?』
花陽『それとも実は他に用事があるのに無理に付き合わせちゃってるとか?』
絵里『そ、そんなことはないわよ!』
凛『もしかして……ラーメン本当は嫌いだった?』ウルウル
絵里『それもないから安心して。凛のお勧めしてくれるラーメンはどれも美味しかったわよ』
絵里『元気がないというか……ちょっと緊張しちゃってて』
りんぱな『緊張?』
絵里『えっとね、友達とラーメン屋さんに入るのって私初めてで……』
凛『μ’sの皆とよく食べに来てたよ?』
絵里『うーんと、それとはまた違うというか……』
絵里『ほら、μ’sの練習の後に皆と行くのと違って』
絵里『今って完全プライベートの時間じゃない?』
絵里『ましてやラーメン屋さんなんて凛のフィールドでしょ?』
絵里『だから、一緒にラーメンを食べれる仲に私はなれたのかなって思っちゃって……』
ギュッ
凛『まったく、絵里ちゃんはおバカさんだにゃ』
花陽『本当です!』
絵里『え、えぇっ!?』
凛『凛たち友達でしょ?」
花陽『友達と一緒にご飯食べに行くのにそんなに難しく考える必要ないよ!』
凛『もしそれでも、絵里ちゃんがまだ壁を感じてるなら……』
花陽『花陽たちがそんな壁壊しちゃいます!』
絵里『凛……花陽……』
絵里『ごめんなさい、また私の悪い癖が出てしまったみたいね』
絵里『2人ともありがとう』ニコッ
りんぱな『えへへ』
絵里『わ、私の?』
花陽『わぁ~きっとお洒落なお店とか知ってそうです!』
絵里『そ、そんなことないわよ』
絵里『でも、そうね……』
絵里『行ってみたいお店とか結構あるから、今度一緒に行きましょう?』
りんぱな『わ~い!』
絵里『ふふ、それなら花陽もどこか美味しいご飯が食べられるお店教えてね?』
花陽『任せてください!』
凛『うわ~、何だか楽しみだにゃー!』
花陽『どんどん一緒にご飯に行く約束が増えていくね!』
絵里『約束……そうね。でも先ずは凛のお勧めのラーメンを頂きましょう?』
りんぱな『うん!』
あの日以来、私たちは各々のお勧めのお店でご飯を食べる機会が増えていった。
凛や花陽だけではなく、他のメンバーともご飯に誘ったり誘われたりするようになった。
私の中で、私だけが作っていた小さな小さな壁を壊してくれた
凛と花陽の優しさ、そしてあの時食べたラーメンの味を私は一生忘れない。
……ちなみに。
外食が増えたことでちょっとばかし女の子にとってデリケートな問題が発生して
私と花陽が海未に怒られたのは内緒よ。
でも同じだけ食べてるのに全然変わらない凛って何なのかしら。
友達とのラーメン屋もその一つ。
他にはそうね……。
あぁ、そうそう。
あの日もこんな秋風が涼しい日だったわね。
私が思い出そうとしていた景色が目の前に広がっていて
そういえば今は私は夢を見ているんだったと再確認出来た。
そういう意味では夢って便利なものね。
目指す場所はゲームセンター。
いつの日か、皆とプリクラを撮ったりして遊んだことがあったわね。
実はあの時が私のゲームセンターデビューだったの。
だから初めて見るものばかりでとてもワクワクしたわ。
その日以来ね、私はゲームセンターに興味津々で
また行ってみたいと思っていたのよ。
いざ入ろうとすると中々1人じゃ入りにくくて……。
そうやってゲームセンターの前でうろうろしていたら、声をかけられたの。
にこ『あら、絵里じゃない』
穂乃果『絵里ちゃんやっほー!』
遊びの達人たちに。
穂乃果『絵里ちゃんも遊びたかったんだね!』
絵里『遊びたかったというか……』
絵里『今までゲームセンターなんて行ったこともなかったから』
絵里『純粋にどんなところなのか興味があるのよ』
絵里『前回はそこまで長居出来なかったし、じっくり見てみたいなぁって』
穂乃果『むふふ~』ニヤニヤ
にこ『絵里も可愛いとこあるじゃない』ニヤニヤ
絵里『なによ』
穂乃果『そうだね!』
絵里『えっ?』
にこ『今日はにこたちが絵里をエスコートしてあげるわ!』
穂乃果『徹底的に遊び倒すよ! 絵里ちゃん!』
絵里『な、なんか大ごとになってきちゃったわね……』
そうは言いつつ、心の中は凄くドキドキしていた。
だって、こんなこと初めてだったから。
穂乃果『DANCE EXPLOSIONだね!』
絵里『これは見たことあるわ!』
にこ『画面に流れてくる矢印に合わせてステップを踏めば良いのよ』
穂乃果『同時に踏むとこもあるからね』
絵里『分かったわ、やってみる』
絵里『ほっ、ほっ、はっ、ほっ』
穂乃果『おぉ~流石だよ絵里ちゃん』
にこ『バレエやってただけはあるわね。初心者でここまで出来る人も中々いないわよ』
絵里『とっ、よっ、ほっ、これで~フィニッシュ!』
HIGH SCORE!!
ほのにこ『おぉ~』
絵里『ハラショー!』
にこ『凛もだけど初見でアポカリプスモードエキストラをクリアするって何なのよあんたら……』
絵里『きゃあっ!ぞ、ゾンビ!?』
穂乃果『任せて、絵里ちゃん!』
バンッ!バンッ!
絵里『た、助かったわ穂乃果』
にこ『ほら、回復アイテム落ちてるから獲っておきなさいよ』
絵里『分かったわ』
バコンッ!バコンッ!
にこ『外すんかい!』
ガンシューティングゲームでは穂乃果に助けられつつなんとかクリアしたり
穂乃果『ふふーん、穂乃果の後ろにいるのが悪いんだよ!』
にこ『あんたがにこの前で邪魔してるんでしょーが!』
絵里『2人ともお先に!』ピューン
にこ『いつの間に!?』
穂乃果『させないよ!』
絵里『ああっ!? タライぶつけられた!?」
穂乃果『よーし、これで穂乃果がいっちば……ってうええええ!?』
穂乃果『何でこんなとこにバナナがあるのぉ!?』
にこ『いつまでもやられっぱなしのにこじゃないわよ!』
穂乃果『うえ~ん、にこちゃ~ん』
にこ『悪いけど1番はもら……』
バゴーン!
絵里『私だってやられっぱなしじゃないんだから!』
絵里『さっきのタライのお返しよ!』
にこ『タライは穂乃果なんですけどぉ!?』
FINISH!
絵里『やったわ! 1番よ!』
レースゲームでは紆余曲折ありながら私が1番を取ったり
にこ『ふふん、にこにかかればこんなもんよ』ガコッ
にこ『ほら、取れたわよ穂乃果』
絵里『流石にこね』
穂乃果『うわ~ありがとうにこちゃん!』
穂乃果『このランチパックのぬいぐるみ前から欲しかったんだよね~』
にこ『はいはい、どういたしまして』
にこ『それで、絵里は何か欲しいものないの?』
絵里『へっ?』
にこ『にこは自分の狙ってたもの取れたし、穂乃果の欲しかったものも取ってあげた』
にこ『これで絵里だけ何もなしってのは流石に……ね』
にこ『にこの気が済まないって言ってるの!』
にこ『ほら、なんかあるでしょ!』
絵里『え、えぇ~』
絵里『そんなこと急に言われても……あっ』
ほのにこ『?』
絵里『じゃ、じゃああれをお願いするわ』
にこ『これは……うさぎのぬいぐるみ?』
穂乃果『まるでにこちゃんみたいだね!』
にこ『それにオレンジのリボン巻いてるわね』
にこ『……絵里、もしかしてこれ』
絵里『……』モジッ
絵里『今日のことをいつでも振り返れるかなって』
ほのにこ『絵里(ちゃん)……』
穂乃果『にこちゃん! これは絶対取って帰るしかないよ!』
にこ『そうね! 寂しんぼの絵里の為にもね~?』ニヤニヤ
絵里『なっ、別にそういうわけじゃ!』
にこ『そうと決まれば100円投入よ!』
穂乃果『いけいけにこちゃーん!』
絵里『あぁ、もうっ!』
ポトッ
穂乃果『あ~ん、持ち上がったのにぃ!』
にこ『うーん、この台中々設定厳しいわね』
にこ『持ち上げるのがやっとって感じかしら』
穂乃果『どうするの?』
にこ『普段なら手を引いてるところなんだけど、このぬいぐるみこの台にしか無いしそれに……』チラッ
絵里『……』ハラハラ
にこ『はぁ、腹くくるしかないわね』
穂乃果『穂乃果もついてくよ!』
にこ『あんたは横で見てるだけじゃない……』
ウィーン
ガコッ
穂乃果『と……』
ほのにこ『取れたーーー!』
絵里『ハ、ハラショー!』
にこ『どうよぉ絵里?』
絵里『ありがとうにこ! ずっと大切にするわね』
にこ『あったりまえよ!』
穂乃果『これで絵里ちゃんも寂しくならずに済むね』
絵里『もう、だから違うってばー!』
クレーンゲームではにこが必死になってぬいぐるみを取ってくれた。
何かお金を使わせちゃったみたいで気が引けるけど……
普通の女子高生が普通に過ごすような放課後。
きっとこれはμ’sに入っていなかったら経験出来なかったこと。
そんな奇跡みたいな毎日を過ごせた証として、
あの時取ってもらったぬいぐるみと一緒に撮ったプリクラは
今でも私の部屋に大切に飾られている。
希と海未のつきっきりの勉強会から逃げてきたんだって。
まぁクレープを食べてるところに希と海未にバッタリ出くわして
大変なことになったのだけれども。
海未の鬼のような形相はちょっと今は見たくないし、私はここで退散しよっと♪
本当は海未も可愛い一面がいっぱいあるのに。
例えばあの時なんか……。
そう考えたところでまたも景色が変わる。
ほんと夢って都合良いわね。
なんて考えるうちに私の目の前に広がっていたのは音楽室だった。
この時は確か、海未と真姫の曲作りにお邪魔していたのよね。
それで途中から衣装の試作が出来たことりが合流して……
ふふふ、先に思い出しちゃうのも風情がないわよね。
折角あの時の光景をこの目でまた見れるんだから、そっちを楽しみましょう。
ことり『えぇ~まだ何も言ってないよぉ』
海未『いいえ私には分かります!』
海未『どうせその布面積が著しく少ない衣装を私に着せようと言うんでしょう!』
ことり『正解♪』
海未『正解じゃありません! 大体ことりはいつもいつも……』
絵里『あはは……』
真姫『折角来てもらったのにごめんなさいね』
絵里『良いのよ、私が無理言ってお邪魔させてもらってるんだし』
絵里『それにしても、いつもこうなの?』
真姫『いつもじゃないわよ』
真姫『ただ、そうね。もう見飽きたくらいには見てるかしらね』
絵里『それただ現実逃避してるだけじゃ』
真姫『うるさいわね、それよりも曲作り進めましょう』
真姫『と言っても私の方はほぼ完成してて』
真姫『あとは歌詞の方とすり合わせつつ、衣装の方も曲のイメージに合わせて形にしてく感じね』
真姫『ここに海未の作詞ノートがあるから私たちだけで先に進めておきましょ』
絵里『えっ、勝手に見て良いのかしら』
真姫『ノート開きっぱなしでどっか行っちゃったんだから別に良いでしょ』
真姫『えーっとなになに……恋へのボタンがほしい、押してぽちr』
海未『読まないでください! というか何で読んでるんですかぁ!』
海未『それとこれとは別なんです!』
海未『全く、油断も隙もない……』
絵里『押してぽちり』ニヤニヤ
海未『なっ!?』
絵里『いやねぇ、普段は恋愛ものの映画とか見て破廉恥ハレンチ言ってるのに』
絵里『こんなロマンティックな歌詞を考えてるなんて思わなかったからつい』ニヤニヤ
海未『絵里っ!』
ことり『ねぇねぇ、海未ちゃんが恋のボタン押しちゃったのって誰なの!?』
ことり『誰に押してぽちりしちゃったの!?』
海未『こ、ことりまでぇ……』
絵里『う、海未?』
海未『なんなんですか。寄ってたかって』
海未『私が何をしたって言うんですか』プイッ
真姫『ど、どうするのよ絵里。海未いじけちゃったわよ』
ことり『ちょっとやりすぎちゃったかもぉ』
絵里『わ、私の方見ないでよ』
海未がこんな態度を取るとこなんて初めて見たから
ちょっぴりドキドキしてしまった。
あ、人のいじけた姿見てドキドキするなんて変な趣向持ってるように思われたくないから
誤解のないように言うと、海未って凛々しくてしっかり者のイメージが強かったから
こんな一面もあったんだって、私の知らない海未を知ることが出来たことに
心臓が高鳴ってしまったというか。
うーん、我ながら苦しい言い訳ね。
でも、いじけてる海未はやっぱり見たくなかったから。
絵里『うーみっ』ギュッ
海未『えええ絵里!?』
絵里『良い子だから機嫌直して、ね?』
海未『知りません』ツーン
絵里『そう言わずに~』
絵里『みんな海未が可愛すぎてついついちょっかい出しちゃうのよ』
海未『かかかか可愛いだなんてそんな///』
ことり『真姫ちゃんもそう思うよね?』
真姫『ヴぇええ? わ、私に振らないでよ』
絵里『まーき?』
ことり『真姫ちゃん?』
真姫『……か、可愛いと、思う、わよ』
真姫『海未の書く歌詞だって、いつも素敵だと思ってるし』
真姫『私のイメージに合わせて曲の世界観を広げてくれて感謝もしているわ』
絵里『あらあら、そこまでは聞いてないんだけども』クスクス
真姫『なっ……///』
海未『その、ありがとうございます///』
真姫『ふ、ふんっ!』プイ
海未『えぇっ!?』
真姫『いつの間にそんな時間になったのよ……』
ことり『えっとね、海未ちゃんはことりの作る衣装をすっごく褒めてくれるの』
ことり『恥ずかしいって言ってても最後はちゃんと着てくれて』
ことり『しかもそれがとっても可愛いの♪』
ことり『だからことりも衣装の作りがいがあるんだぁ』
絵里『じゃああの試作衣装も着ちゃうのね♪』
海未『あれは本当に無理です!』
絵里『それはここに居ない他のメンバーも思っているはずよ』
海未『わ、分かりましたから! 恥ずかしいのでもうやめてください!』
海未『私も……少し意地になりすぎました』
ことり『じゃあこの衣装を……』
海未『それはダメです』
ことり『そんなぁ』ガーン
絵里『ふふ、じゃあ仲直りの意味も込めて』
絵里『私たち3人から可愛い可愛い海未ちゃんに何か甘いものでもご馳走しようかしら』
ことり『さんせ~い♪』
真姫『何で私まで……』
絵里『他の子たちが探しに来た時に誰も居なかったら』
絵里『余計に手間かけちゃうでしょ?』
海未『え、あ、はい。分かりました』
絵里『安心して、変なのは買ってこないから』
海未『余計に心配になります!』
ふふふ、私からすると2人きりなんだけどね。
1人になった海未が何をするのか監視してるみたいで
なんだかイケナイ気分になってくるわね。
あら?
でも私はこの時1人になった海未が何をしてたかまでは見てないのよね。
となるとここからの光景は全部私の想像、ってことになるのかしら。
それはそれでちょっと危ない夢を見てる感じね。
まぁ1人きりになった海未がこの後何をするのかは大体分かってるけど。
音楽室に戻ってきたら私もことりも真姫も目が点になったものよ。
んん?
ちょ、ちょっと待って。
これって結構まずいんじゃ?
海未『少しだけ……少しだけなら……』
海未『折角ことりが作ってくれたのですし……』
そう言って、ワイシャツのボタンをぷちぷち外していく海未。
だ、駄目よ。
いくら夢の中とは言え海未の着替えシーンを見ちゃうなんて完全にアウトよ!
というか他人の着替えシーンの夢を見るとか変態みたいじゃない!
そんな風にモンモンしていたら、いつの間にか海未は着替え終わっていて、
私は夢の中でげっそりと疲れてしまった。
海未『うぅ……やっぱり恥ずかしいです……』
そんなことないわ、とっても似合ってるわよ。
ま、この海未には私の声は届かないんだけどね。
ふふふ、そういえばあの時は言えなかったけど。
私ね、しっかり者で頼りになれる海未と
実はこういうアイドルアイドルしたことに興味を持っていて、
時折それが爆発しちゃう海未ちゃん。
あなたのそういう二面性が凄い可愛いと思ってるのよ。
すっかり満足しちゃったわ。
もう少しであの子たちも戻ってくるし、私はそろそろ退散するわね、海未ちゃん♪
海未『……?』
海未『今、何か……』
ことり『海未ちゃんお待たせー♪』
真姫『留守番させて悪かったわね』
絵里『ちゃんと海未の分も甘いもの買ってきた……わよ?』
海未『』
海未『ち、違うんです』
絵里『ん~何が違うのかしら?』
海未『これには訳があって』
真姫『何よ、着たいなら着たいって言えば良かったじゃない。面倒な人ね』
海未『そ、そういうわけでは!』
ことり『やっぱりことりの見立て通り海未ちゃん似合ってるよ~!』
絵里『そうね。ハラショーよ海未』
真姫『ま、悪くはないんじゃない』
絵里『もう、真姫ったら。素直に似合ってるって言えば良いのに』
真姫『別に良いでしょ!』
ことり『ねぇねぇ! 今度はこっちの衣装おねがぁい!』
海未『うぅ、やっぱり無理ですー!』
あんなことあったなぁとか、こんなことあったなぁとか。
全てが懐かしく、そして愛おしい私の宝物のような日々。
そんな思い出巡りも、いつしか終着を迎えようとしていた。
漠然とそんな風に、今目の前に広がっている光景がそう思わせた。
私の前には公園のベンチに座る私と海未の姿があった。
今だからこそ、笑い話にも出来るかもしれない。
――でも、私は認めない
だけど、あの時の私はもがいていて。
廃校をどうにかしたい気持ちは一緒なのに。
素直になれずにいた。
――私にとっては、スクールアイドル全部が素人にしか見えないの
――1番実力があるというA-RISEも、素人にしか見えない
だから厳しいことも言ってしまった。
辛かったわよね。
うん、辛かった。
でもね、“絵里”
もしも過去に戻れるのなら、あなたに教えたいことがあるの。
もうすぐで、あなたは心の底から笑顔になれるわ。
もう少しで、あなたの氷を溶かしてくれる、太陽のような子があなたに手を差し伸べてくれるの。
あなたが1人じゃ出来なかったこと、
あなたが立ち止まってしまったところを軽々飛び越えていくような……
そんな、“やりたいからやってみる”を体現した子がね。
そして、その子の手を取った時。
あなたの心の中で燻っていた熱い想いを、皆が受け止めてくれた時から、
運命の歯車は廻り出す。
想像も出来なかった世界、見たこともない景色があなたの前に広がるの。
――絵里先輩、μ’sに入ってください!
あの時握った手のぬくもり、1歩前に踏み出せた高揚感は
絶対に忘れないわ。
今まで見てきたものと違うところが2つある。
1つは私の姿が見えないこと。
いや、“私”はここに居るのだけれど、『私』が居ない。
そしてもう1つ。
私はこの光景を知らない。
夕方の教室なんてシチュエーション、何度も見てきたはずだ。
でも、私の記憶の中に、この景色は存在していなかった。
今までと違う感覚に少し戸惑っていると、不意に声をかけられた。
――絵里ち
この3年間で多分、1番耳にしていた声。
私はその声の主の方に向き直した。
……希。
希『やっほー絵里ち』
どうしたのよ一体……。
希『いやね、絵里ちに聞いてみたいことがあってな?』
聞いてみたいこと?
希『凛ちゃんに花陽ちゃんとラーメンを食べに行ったり』
希『にこっちと穂乃果ちゃんとゲームセンターで遊んだり』
希『海未ちゃんとことりちゃんと真姫ちゃんの曲作りの手伝いをしたり』
希『絵里ちの過ごしてきた大切な時間』
希『改めて振り返ってみて、どうだった?』
今目の前にいる希が現実の希とは一切関係なくて
私の夢の中の希でしかないことは分かっているけど
どこにいたって希は希なのね。
でも、そんな希に妙な安心感を覚えてしまう私がちょっぴり悔しいわ。
希『まぁまぁ。で、どうだったん?』
本当にあっという間だったわ。
こんな時間を過ごすことが出来るなんて想像すら出来なかったもの。
こうやって思い出を巡っていくことで
再確認することが出来たわ。
ううん、本当は確認するまでもない。
ずっとずっと私の胸をいっぱいにしていた気持ち。
私ね……
みんなといるあの時間が、大好きだった――
時にはぶつかり合って涙を流すこともあった。
でもそれはみんなが同じ方向を向いて、同じ目標に向かって
がむしゃらに、真剣に、全力で駆け抜けていたからで。
誰かが道に迷ってしまったら、誰かが手を差し伸べてくれる。
誰かが立ち止まってしまったら、誰かが背中を押してくれる。
そんなみんなのことが
みんなと過ごしてきた時間が、愛おしいくらいに大好きだったわ。
希『でもね、絵里ち』
希『それは絵里ちだけじゃなくて、他のみんなも……』
希『穂乃果ちゃんにことりちゃんに海未ちゃん』
希『凛ちゃん、真姫ちゃん、花陽ちゃん、にこっち』
希『それから勿論ウチも』
希『みんな気持ちは一緒やと思うよ』
きっと何年先も忘れない、一生の宝物よ。
希『ふふ、じゃあ最後にもう1つだけ聞かせてな?』
希『絵里ちは、この3年間楽しかった?』
3年間……ね。
確かに、μ’sとして過ごした1年に比べて
その前の2年間はどこか息苦しかったかもしれないわ。
でもね。
希と出会えたというのもあるけど、
あの2年間だって私にとっては大切な思い出の1つなのよ。
3年間楽しかったかって?
そんなの――
楽しかったに決まってるじゃない!
徐々に覚醒していく意識。
とても長い夢を見ていた気がする。
枕元に置いてある時計の日時を確認して、私は現実に戻ってきたことを実感した。
201X.05.XX
もう1ヶ月経ったのに今更こんな夢を見るなんてね。
新しい生活を始める上で、桜の木が見える所が良いなと借りた部屋。
つい1ヶ月前は満開だった桜並木もすっかり緑色が鮮やかになっていた。
嫌でも季節が進んでいることを感じられる。
でも今はそれさえも心地良い。
寝る前に充電していたスマホを取り出し、LINEを起動する。
急にあの子たちと連絡を取りたくなった。
先ずは希とお喋りしようかしら。
それともことりと海未と真姫を誘って洋服でも見に行こうかしら。
穂乃果やにこを誘ってゲームセンターに行くのも有りね。
もしくは凛と花陽を誘ってラーメンを食べに行ったり。
“μ’s(9)”
9人揃って、よね。
そうだ。
改めて言うのも恥ずかしいけど、あの子たちに会ったら伝えよう。
きっと皆変な顔をするでしょうね、今更どうしたのと。
でも、あの夢を見たらどうしても伝えたくなった。
私の愛すべき日々を一緒に駆け抜けてくれたみんなに、
「ありがとう」と。
旬は過ぎてるけど書き切りたかったので
simple feelingsは良いですぞ
とても良い雰囲気だった
いい詩だよね
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