【ラブライブ!】善子「ついにずら丸がヨハネって言ってくれたわ!!」
- 2020.04.24
- SS

誤字脱字や設定はガバガバだが勘弁してくれ
あと、大事な場面だけ地の文入ってます
善子「あ、ずら丸。この時間に、ここを歩いてるなんて珍しいわね」
善子「…いつまでたってもヨハネって呼んでくれないし、ちょっと驚かせてやるわ」コソコソ
花丸「~♪」
善子(あ、未熟DREAMER歌ってる…こんなに上機嫌で歩いてるのに、驚かせるなんて可哀想かしら…)
善子(まあ、ずら丸のことだし『ずら~』って驚くだけでしょ、たぶん)
善子「わっ!」
花丸「ずら~!!」
善子(こうも行動パターンが読める人間も、ずら丸ぐらいよね)
善子「ずら丸、おはよっ」
善子(お前は『なんだ、善子ちゃんかー。びっくりしたずら』と言う)
花丸「……なんだ、ヨハネちゃんかー。びっくりしたずら」
善子「だからヨハ…えっ!?」
善子「ずら丸、あんた今なんて言ったの?」
花丸「いきなりどうしたの?」
善子「いいから!質問に答えるの!」
花丸「えーっと、『驚いたのはこっちずら』?」
善子「その前よ!」
花丸「ほんとにどうしたの?…たしかー、『なんでヨハネちゃんが驚いてるの?』だったずらか?」
善子「ホントは更に前だけど、そこでもいいわ!」
善子「あなた、ついにヨハネって呼んでくれたわね!」
善子「やっと、…やっっとあなたにもリトルデーモンとしての自覚が出てきたようね!」
善子「あー!!今日はなんてすばらしい日なのかしら!」
善子「たとえ天界を追放されても、ヤハウェは私を見捨ててはいなかったのね!」
善子「ずら丸、あなたお腹空いてない?特別に、この堕天使ヨハネがのっぽパンをおごってあげるわ!」
善子「…あなた、私の話聞いてた?初めてヨハネって呼んでくれたからに決まってるでしょ!」
花丸「初めて?まるはヨハネちゃんのことは、いつもヨハネちゃんって呼んでるけど…」
善子「はあ?何言ってるの?あなた、入学式で再会したときからずっとあの名前で呼んでるじゃない」
花丸「あの名前って?」
善子「あーもう!じれったいわねー。善子よ!昨日までずっと善子ちゃんって言ってたじゃない」
花丸「……よしこちゃんって誰ずら?」
善子「……」イラッ
善子「はぁ…まあいいわ。ヨハネって呼んでくれたことに免じて、許してあげる」
善子「あっ、もうこんな時間!とりあえず教室に行くわよ!」
花丸「変なヨハネちゃん…」
善子「どうなってるのよ…」
善子「クラス全員はおろか、先生までが私のことをヨハネって言うなんて…」
善子「最初はからかわれてるのかと思ったけど、皆本気で私のことをヨハネだと思ってるみたいだし…」
善子「どう考えても普通じゃないわ…」
千歌「あー!ヨハネちゃん、まだこんなとこにいたー」
善子「千歌さんまで…」
千歌「どうしたのー?もうみんな屋上に集まってるよ!早く練習はじめよっ!」
善子「ねえ、千歌さん」
千歌「ん?どうしたの?なんか元気ないけど…」
善子「千歌さんは、津島善子って女の子…知ってる?」
善子「そっか…。ごめんなさい。悪いけど、今日は練習、休んで帰るわ」
千歌「え!?なんで?具合悪いの?」
善子「…うん」
千歌「だいじょーぶ?送ってこーか?」
善子「ううん、大丈夫。一人で帰れるから…」
千歌「そっか、分かった。みんなに伝えとくね」
善子「ええ、悪いわね」
千歌「じゃあ気をつけてね。お大事に」
善子「それじゃ…」パタン
果南「あれ?千歌ー、ヨハネは?部室に居なかったの?」
千歌「ううん、居たけど、具合が悪いって言って、帰っちゃった」
曜「え?千歌ちゃん、ヨハネちゃん大丈夫なの?」
千歌「私も送ってこーかって言ったんだけど。一人で帰れるからーって言って…」
梨子「風邪かしら…」
花丸「…ヨハネちゃん、今日は少し変だったずら」
ルビィ「う、うん。そうだよね」
鞠莉「変?なにが?」
花丸「そのうち、クラスの子全員に、『私の本名は?』って聞き始めて」
花丸「皆が津島ヨハネちゃんだよねって答えたら、すごい落ち込んでたずら…」
花丸「5時間目の数学の授業で先生が、『津島ヨハネ』って言ったら、『私は津島よしこよ!』って怒り出しちゃって…」
梨子「よく話が見えないんだけど、どういうこと?」
ルビィ「ルビィ達もよく分からないんです。ただヨハネちゃんの中では、自分は津島ヨハネじゃなくて、津島よしこらしくて…」
千歌「あたしもさっき、『津島よしこって子、知らない?』って聞かれた…聞いたこと無いって答えたんだけど…」
果南「よくわかんないなー。まあヨハネが悩んでるのは確かみたいだし、明日詳しく聞いてみよっか」
善子「はぁ…本当になんだっていうのよ…」
善子「やっぱり、みんなで私のことからかってるんじゃ…」
善子「でも先生までそんなことに加担してるとは、やっぱり思えないし…」
善子「…もしかして、違う世界線に迷い込んだんじゃ…」
善子「いやいや!あるわけ無いでしょ!そんなこと!…漫画やゲームじゃあるまいし…」
善子「本名を呼ばれないのが、こんなに辛いなんて…」
善子「……いつも私はヨハネって言ってたから、ばちがあたったのかな…」
善子「せっかく、パパとママから貰った大切な名前なのに…」
善子「…っ!そうよ!パパとママなら、きっと善子って呼んでくれるわ!」
善子「さっそくママに電話を!」サッ
善子「……でも、もしママにまでヨハネって呼ばれたら…」
善子「ううん!そんなことない!ママは絶対に善子って呼んでくれる!」ピッ
善子「………」プルルルルルルルッ プルルルルルルルッ
善子「早く出てよ、ママ…」プルルルル
善子「ママっ!わたしよ!」
善子ママ「あら、ヨハネ。電話してくるなんて珍しいわね。どうしたの?」
善子「っっっ!!!!」
善子ママ「?、ヨハネ?」
善子「~~~!!………」グスッ
善子ママ「一体どうしたの?…あなたもしかして、泣いてるの?」
善子「…マ…マ…」
善子ママ「どうかした!?誰かにイジメられたの!?それとも怪我!?」
善子「…ううん、平気よ、ママ。なんでもないの」
善子ママ「なんでもないって、あなた!なんでもない声じゃないわよ!」
善子「本当に大丈夫だから…。もう沼津駅に着いたから、もうすぐ帰るね」
善子ママ「本当に大丈夫なの?……わかったわ、待ってるから早く帰ってきなさいね」
善子「うん。…じゃあね、ママ」ピッ
善子「…ママも、あたしのことヨハネだと思ってる…」
善子「パパにも電話を……ダメ、怖くてかけれない…」
善子「善子って呼んでくれる人が居ないだけで、こんなに怖いなんて…」
善子「もう自分のことヨハネなんて言ったりしないから、誰か助けてよぉ…」
善子「ママは昨日のことで心配して、学校に行きたくないなら行かなくていいって行ってくれたけど…」
善子「これ以上ママに心配はかけられない…学校には行かないと…」
善子「それにどこに元の世界に戻るためのヒントがあるか分からないし、引きこもってるわけにはいかないわ…」
善子「幸いというか、なんというか…元の世界との違いは、私の名前だけみたいだし我慢すれば大丈夫…だと…思うし…」
善子「!!何いきなり弱気になってるのよ!しっかりするの!津島善子!絶対に元の世界に戻ってやるんだから!」
善子(とりあえず教室前までは来たけど…)
善子(昨日、クラス全員の前で先生に怒鳴っちゃったから入りにくいわ…)
花丸「あの…ヨハネ…ちゃん?」
善子「ずら丸っ!」バッ
花丸「教室…入らないの?」
善子「いや…昨日あんなことしちゃったから、入りにくくて…」
花丸「そのことなんだけど…」
善子「ん?」
善子「ずら丸…」
花丸「まるにとって、ヨハネちゃんはヨハネちゃんだけど…ヨハネちゃんが本気でそう呼んで欲しいなら…」
善子(私、自分のことしか考えてなかった…そうよね、この世界にとっての私は、津島ヨハネだもんね…)
善子「…ごめんなさい」
花丸「え?」
善子「昨日は…ちょっと気が動転してて…でも、もう大丈夫だから。いつもどおり、ヨハネって呼んでくれればいいわ」
花丸「ヨハネちゃん…」
善子「さ、教室に入りましょ」
善子「まったく…この学校は性格のいい子が多すぎよ…」
善子「あの後、全員からずら丸と同じことを言われるなんて…」
善子「でも……」
善子「はっきり分かったわ。ここは、私の居場所じゃない」
善子「一刻も早く、元の世界に戻らないと…」
善子「とりあえず、元の世界への手がかりを探すために校舎内を探してはいるけれど…」
善子「そもそも、手がかりなんてあるのかしら…」
ダイヤ「あら?善子さんじゃありませんか。珍しいですわね、こんなところでお会いするなんて」
ダイヤ「どうしたんですの?この先はゴミ捨て場しかありませんけれど」
善子「ダイヤさん…今…」
ダイヤ「?、なんですの?人の顔をそんなに見つめて…」
善子「今…私の名前…」
ダイヤ「ああ、そのことですの?言いませんわよ、私は。貴女は、『津島善子』さんでしょう。そもそも、私は一度もそんなこと…」
善子「うわぁあああああぁん!!!!!」ダキッ
ダイヤ「ちょっっっ!!!な、なんですの、いきなり!?ハ、ハレンチですわよ!!ちょっと!善子さん!!」
善子「ああぁああああ!!怖かった!!怖かったよぉぉおおお!!!」
ダイヤ「何を訳の分からないことを!…とりあえず離れなさい、善子さん!!」グイーッ
善子「ヤダヤダ!離れないぃぃ!怖かったんだから!怖かったんだからね!!」ガシーッ
ダイヤ「???……仕方ないですわね…事情はよく分かりませんが、とりあえず貴女が泣き止むまでお待ちしますわ」アタマポンッ
善子「………」グスッ
ダイヤ「そろそろ落ち着かれましたか?」
善子「…うん…」
ダイヤ「そうですか…では、離していただけますか?」
善子「離しても、私を置いてどっかに行ったりしない?」
ダイヤ「ええ、そんなことは致しませんわ。そもそも、今の貴女をほおっておけるはずないでしょう?」
善子「…わかった」スッ
ダイヤ「では、ここで話すのもなんですし、生徒会室に向かいましょうか。お茶くらいなら、出して差し上げられますわよ」
善子「…うん」
ダイヤ「粗茶ですが」
善子「ありがとう…ございます…」
ダイヤさんの淹れてくれたお茶は、今まで飲んだ中で一番優しい味がした。
生徒会室に向かう間も、着いてからお茶を淹れる間も、私がお茶を飲み干すまで、ダイヤさんは何も聞かなかった。
これが、いつもガミガミうるさいダイヤさんと同一人物だと思うと、ちょっぴりおかしかった。
ダイヤ「ゆっくりと、善子さんのペースでかまいません。話して頂けますか?」
善子「…その、信じて貰えないかもしれないけど…」
私は、昨日からの出来事を全て話した。
話を聞いている間、ダイヤさんは驚いてはいたけれど、決して私の話を遮ることはしなかった。
最後まで、私の話に優しく頷きながら、耳を傾けてくれた。
ダイヤ「そうですか…そんなことが…」
ダイヤ「怖かったでしょう。よく、頑張りましたね」
ダイヤ「私は、善子さんの話を信じますわ」
また、声をあげて泣きそうになる。
さっきあれだけ流した涙も、お茶で水分が補給されたのか、目頭の熱さとともに溢れ出そうとしていた。
でも一旦落ち着いてしまったので、気恥ずかしさが勝り、必死に涙をこらえた。
ちなみにダイヤさんの胸元は私のせいで、一目で分かるほどぐっしょりと濡れている。
夏とはいえ、まだ数分しかたっていないので乾くはずも無い。
しかしダイヤさんはそれには一言も触れず、ハンカチなんかで拭うこともしなかった。
きっと、というか、確実に私が気にしないように気を使ってくれている。
私は一人っ子だし、今まで特に姉妹が欲しいと思ったことも無かったけれど、ダイヤさんがお姉さんだとしたら悪くない。
当然の疑問。
私が逆の立場だとしたら、絶対に疑う。
そりゃあAquaorのメンバーにでも確認をすれば信じざるを得ないのだが、今はまだその確認をしていない。
私一人の説明だけなのだ。
私自身も当然、ダイヤさんは確認作業をしに向かうと思っていた。
でもダイヤさんはその作業をする前に、私を信じると言ってくれた。
なぜなのだろう。
ダイヤ「ええ、信じますわ。善子さんが、仲間が、信じてと言うんです。それだけで充分信頼できます」
今度は耐えられなかった。
大声で泣き叫ぶことは無かったけど、私は机に突っ伏してすすり泣きの声を漏らした。
ダイヤさんの手のひらが、私の髪の上を優しく撫でていく。
髪の上からでも伝わる、太陽のように暖かい手のひらだった。
私の両腕は水分にまみれ、顔はきっと、鏡で見たくないほどの惨事となっているに違いなかった。
ダイヤ「さて、これからのことを考えたいのですが、もうお昼休みも終わってしまいますわね」
言われて時計を見ると、もう3分ほどでチャイムが鳴る時間。
ダイヤ「本来であれば、授業に出ている場合ではございませんが、ここで授業を放棄してしまうと先生方に探されて、騒ぎになってしまうかもしれません」
ダイヤ「ですので、放課後また話し合いを致したいと思うのですが、如何でしょう。…善子さん?何かおかしなことでも?」
至極真面目な話をしているのに、授業をサボることを放棄なんていうもんだから、小さく噴きだしてしまった。
昨日、この事態に気づいてから初めて笑った。
ダイヤさんには悪いけど、笑うって大事なのね。
一気に緊張が解けた気がする。
本当はせっかく会えた理解者と離れるのは嫌だった。
ダイヤ「本当に大丈夫ですの…?無理はなさらなくてよろしいんですのよ。なんでしたら、何か適当な理由をつけて…」
そんな私の不安は、あっさりと看破されているようだった。
敵わないなあ、もう。
善子「確かに不安ですけど…。でも、ダイヤさんは居なくなったりしないと思うから…我慢できます」
それも私の本心だった。
ダイヤ「…わかりましたわ。では放課後、校門の前で」
ダイヤ「Aqoursの練習はさすがに休みましょう。何か適当な理由を、ルビィか花丸さんに話しておいてくださいませね」
善子「はい!」
クラスの皆は、私が一人で出て行ったことに対して、心配しているみたいだったけど、戻ってきた私の顔を見て安堵しているようだった。
この子達に、これ以上の心配はかけられないわね。
そう心に決めて、私は席に着いた。
放課後
善子「ずら丸、ルビィ。二日連続で悪いんだけど、今日も練習を休ませてもらうわ。みんなに伝えておいてくれる?」
花丸「ヨハネちゃん、また具合悪いずら?」
善子「違うわよ!昨日はそうだったけど、今日は違うの!」
善子「実はね、どーしても欲しかった衣装が、オンラインショップで先着100名まで購入できるから、パソコンの前に貼りつかなくちゃならないのよ」
昼休みが終わってから、心配をかけない休み方を必死に考えた嘘だ。
あいにく、ずら丸には理解出来てないみたいだけど。
花丸「どういうことずら?パソコンで服を買うずら?」
善子「そんなとこよ」
ルビィ「花丸ちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。ヨハネちゃんは、いつものヨハネちゃんだよ」
元の世界に戻ったら、ずら丸にネットで本の買い方でも教えてあげようかしら。
そう考えて、ふと、ある疑問に気づく。
善子(私が元の世界に戻れたとして、この世界の私という存在はどうなるわけ?)
善子(皆が津島ヨハネを知っているってことは、少なくとも昨日以前には、津島ヨハネはこの世界に存在していたはずよね…)
善子(じゃあ、その津島ヨハネは今どこに居るのよ?)
善子(今この場に、私と津島ヨハネは同時に存在していない…ってことは、私と津島ヨハネは入れ替わったってこと?)
善子(そう仮定すると、入れ替わったのは私と津島ヨハネだけじゃない。ダイヤさんも、この世界のダイヤさんと入れ替わっているはず…)
善子(確かめてみないと…)
ルビィ「ん?なあに、ヨハネちゃん」
善子「あなたのお姉さん、『ダイヤ』さんのことだけど…」
私はわざとダイヤさんの名前を強調して言った。
もしダイヤさんが入れ替わっているとしたら、私と同じように名前が変わっているかもしれないと考えたからだ。
ルビィ「おねぃちゃんがどうかしたの?」
善子(ダイヤさんの名前は変わってないの!?もう!訳わかんない!)
善子「えっと…ダイヤさんの好物って何だったかしら」
私は混乱しながらも、話を続けた。
ルビィ「おねいちゃんの好物…。プリンかなあ…。でもどうして?」
善子「いや、えっとそれは…。きょ、今日のお昼休みに少しお世話になったの!だから、お礼がしたくって」
とっさについた嘘にしては上出来ね。
お世話になったのは、本当だし。
善子「へえーそうなんだ。プリンね。わかったわ、ありがとう」
花丸「ヨハネちゃん、ダイヤさんに何をしてもらったずらか?」
善子(ず、ずら丸~!余計なことを~!嘘つくの苦手なのに~)
善子「た、たいしたことじゃないのよ。えっと…ちょっと探し物を手伝って貰ったっていうか…」
花丸「へぇ~そうなんだ」
善子「そ、そうなのよ……あ!もっ、もうこんな時間!早く帰らないと、販売が始まっちゃうわ!じゃあね!」
花丸・ルビィ「ばいば~い」
善子(ふう…なんとか怪しまれずにすんだかしら…)
善子(休むって伝えるだけだったのに、意外と時間を食っちゃったわね。早く校門に行かないと)
善子(…でもなんで私だけ名前が違うのかしら…)
善子(そこにヒントがありそうな気がするんだけど……だめ、わからないわ。とりあえず、ダイヤさんに相談しないと)
善子「ダイヤさ~ん」
ダイヤ「善子さん」
善子「ごめんなさい、遅くなっちゃって…」
ダイヤ「いえ、私も先ほど来たばかりですわよ。さっ、では参りましょうか」
善子「参るって…どこに?」
ダイヤ「私の家ですわ」
善子「はあ…」
ダイヤ「ここなら落ち着いて相談が出来ますわ」
善子「そうですね」
ダイヤ「私、善子さんのお話を聞いてから、現状を自分なりに調べてみましたの」
ダイヤ「そしたら、ある事実が浮かび上がりましたわ」
善子「えっ?事実って?」
ダイヤ「順を追って説明いたします。まず、あの後私は、果南さんと鞠莉さんに善子さんと私のことをさりげなく尋ねてみましたの」
ダイヤ「そしたら、私の知る限りではありますが、元の世界とこの世界の違いは善子さんのお名前だけでした」
善子「ダイヤさんも気づいてたんだ…実は私も、ダイヤさんの名前が変わっていないことを疑問に思ったんです」
ダイヤ「そうでしたか。あとこれは余談ですが、お2人とも、善子さんのことを心配してらっしゃいましたよ」
善子「心配?何を?」
善子「そっか、ずら丸達だけじゃなく、Aqoursの皆にも心配かけてたんだ…」
ダイヤ「落ち込むことはございません。善子さんの立場になれば、誰だって怖いに決まっています」
善子「そう…ですよね。……あれ?」
ダイヤ「どうしました?」
善子「いえ…ダイヤさんは、私が悩んでいるって、さっきまで知りませんでしたよね。なんでなの?」
ダイヤ「そのことですが、実は私、昨日学校を休んでおりましたの」
善子「そうなんだ。でもどうして?」
ダイヤ「風邪ですわ。熱はたいしたことありませんでしたが、ラブライブを控えた大事な時期ですから大事をとって休みましたの」
善子「そうだったんだ。で、今日は治ったから登校したってわけね」
ダイヤ「そうなりますわね。…話が逸れてしまいましたが、続けますわよ」
善子「あっ、はい」
善子「あっ…」
善子「確かに。アニメなんかだと、異世界に来た瞬間っていうのは、記憶してることが多いですよね」
ダイヤ「アニメ…?一体、何の話をしてるのですか?」
善子@アニオタ「……すいません、忘れてください」
ダイヤ「はあ…。まあいいですわ。とにかく、私にはこの世界に来たという実感はありませんでした。それこそ、善子さんのお話を聞くまでは…」
善子「私は…考えてみると、昨日の朝、登校中にずら丸にヨハネちゃんって呼ばれたときが最初な気がする」
ダイヤ「では、その前は?」
善子「えっ?」
善子「一昨日の記憶……あれっ??」
ダイヤ「思い出せませんか?」
善子「…えーっと……だめ、思い出せない…なんでよ……」
ダイヤ「私もですわ。3日前の火曜日、練習後帰宅をして、入浴した後で夕飯を頂きました。献立は、金目鯛の煮付けでしたわ」
ダイヤ「食後のデザートにプリン。その後、学校の予習復習をして夜11時には就寝致しました。」
善子(なんで3日前の行動を、そんなにこと細かく覚えてるわけ?)
ダイヤ「昨日の木曜日は、朝から風邪を引いていたため、学校を休み、本日、体調が良くなりましたので、登校致しました」
ダイヤ「ですが…一昨日、水曜日の記憶だけは全くもって、思い出せないのです」
ダイヤ「ええ。何を食べたのかというならまだしも、一昨日の行動の全てが思い出せないというのは、あまりにも不自然ですわ」
ダイヤ「私も一昨日の行動にヒントがあると思い、果南さんや鞠莉さん、そしてクラスの何人かにも一昨日の行動を聞いてみました」
善子「結果は!?結果はどうだったの!?」
ダイヤ「ダメでしたわ。皆さん、おかしいとは思いつつも、誰一人、一昨日のことは何も覚えておりませんでした」
ダイヤ「これが、私が発見した事実ですわ」
善子「じゃあ…結局は振り出しってこと…」
ダイヤ「いえ、そうとも限りません」
善子「どういうこと?」
善子「そうね…でも、それって何もわかってないってことと同じじゃないの?」
ダイヤ「ちがいます。一昨日に『何か』があってこうなってしまった…」
ダイヤ「つまり、その『何か』をつきとめれば、元の世界に帰れるかもしれない…ということですわ」
善子「っっ!!確かにそうかもっ!!……でも…誰も…ううん、私達でさえ、一昨日のことを何も覚えていないんじゃ…」
ダイヤ「『何か』をつきとめられるわけが無い…と?」
善子「うん…」
ダイヤ「では、諦めますか?」
善子「………」
ダイヤ「諦めて、津島ヨハネとして、この世界で生きていきますか?」
善子「それは…」
ダイヤ「……」
善子「!?」
千歌(よしこちゃ~ん) 曜(ヨーシコー!) ルビィ(よ、善子ちゃん…) 梨子(善子ちゃん) 鞠莉(Ohー!よしこ~☆) 果南(善子)
善子「みんな…だから…ヨハネょ…」グスッ
ダイヤ「決まりですわね」
善子「…はいっ!私は…元の世界に戻ります!」
ダイヤ「正直、助かりましたわ。私、貴女のことをヨハネさんなんて、呼びたくありませんもの」
善子「ダイヤさん…」
ダイヤ「さて、そうと決まれば、早速作戦会議ですわ」
善子「おーっ!!!」
善子「私達の記憶を取り戻すことと、一昨日の記憶がある人を探すことね!」
ダイヤ「……そうですわ」ニコッ
善子「でも一昨日の記憶がある人を探すって言うのは現実的じゃないわね…」
ダイヤ「その通り。すでに二日前の記憶ですし、なにより時間がかかりすぎます」
善子「そして探すのに時間をかければかけるほど、記憶は薄れていってしまう…」
ダイヤ「ですので、私達の記憶を取り戻す方を優先致しましょう」
善子「でも…一体どうするの?何も覚えていないんじゃ、探しようが…」
ダイヤ「私に考えがございます」
善子「どんな?」
善子「そうね」
ダイヤ「いつも通り学校に向かい、放課後を迎えます。ハイッ!善子さん!その後は!?」
善子「え!?いきなり何よ…放課後の後…普段と同じなら、練習…よね」
ダイヤ「正解っ!」
善子「なんなのよ、全く…」
ダイヤ「私は、その練習のときに『何か』があったのではないか、と考えています」
善子「どうして?」
ダイヤ「それは、私と善子さんの二人がこの世界に来ているからです」
善子「?」
善子「それは…そうね」
ダイヤ「私達は同じ浦の星女学院の生徒ではありますが、三年生と一年生。そして、家の場所も全然違いますわ」
ダイヤ「もし仮に、元の世界での一昨日に『何か』があったのだととしたら…」
ダイヤ「二人が、同じ時間、同じ場所に居るのは練習中だけ…ではありませんか?」
善子「!!」
善子「でも…練習中に『何か』あったんだとしたら、どうして私達二人だけが、こっちの世界に来ちゃったわけ?」
善子「もしかしたら、他のメンバーも元の世界から来た人がいるってこと?」
ダイヤ「昨日の練習の様子を、果南さんと鞠莉さんから伺いましたが、善子さんの話題が出たそうです」
ダイヤ「当然、ヨハネという名前も出たでしょう。であれば、もし他のメンバーの中に元の世界から来た人がいれば、その時点で異変に気づくはずですわ」
善子「もーっ!ますますわかんない!練習中に『何か』があれば、皆一緒にこっちに来てるはずじゃないの!?!?」
ダイヤ「推測でしかありませんが、練習中、私と善子さんの二人きりになったのではないでしょうか」
善子「!!!そっか!それなら説明がつくわ!!ダイヤさんすごい!!」
ダイヤ「褒めても何もでませんわよ…」
ダイヤ「とにかく、練習中に何か事情があり私と善子さんの二人きりとなった。そして、そのときに…」
善子「『何か』が起こったってわけね!」
ダイヤ「その通りですわ」
ダイヤ「ええ、何が起こったのかもわかるかもしれません。幸い、明日は学校も練習もお休みです。一日掛けて、その『何か』を探しましょう」
ルビィ「ただいま~」
ダイヤ・善子「!」
ダイヤ「今の声はルビィ!…もうそんな時間ですの!?善子さん!帰りのバスは…!」
善子「ダメね…もう完全に無くなってるわ…」
ダイヤ「そんな…」
善子「仕方ないわ、歩いて帰るわよ」
ルビィ「おねぃちゃん…大丈夫?」ガラッ
ルビィ「あれ?ヨハネちゃん…どうして家に?」
善子(あ!バカ!)
ルビィ「おねぃちゃん練習出てなかったし、心配で…それより今、善子さんって…」
ダイヤ「ぅえっ!?あ!あの!その!…今のは、どーしてもヨハネさんが善子と呼べとしつこくて…」
善子(ちょっと!!こっちに飛び火させないでよっ!)
ルビィ「そうなんだ…ヨハネちゃん…やっぱりルビィも善子ちゃんって呼んだほうが…」
善子「ち、ちがうのよ!ダイヤさんは…その…リ、リトルデーモン!そう!ダイヤさんは正式に私のリトルデーモンになったから、特別なのよ!」
ダイヤ(ちょっ!な、なんですの!それ!…しかし…ここは合わせるしか…)
ダイヤ「そ、そうですわ!善子さんというのは、正式にリトルデーモンの契約を交わしたものだけが呼べる、特別な呼び名なのですわ!」
ルビィ「そうなんだ…おねぃちゃん、そういうの興味あったんだね…」
ダイヤ「え、ええ。最近、詳しく知りまして…」
善子「!!…えっとー、ダイヤさんのパソコンを貸してもらって、無事買えたわ!!」
ルビィ「そっか、よかったね。あ、ルビィは先に着替えてくるね」
善子「そ、そう。じゃあまた…」
ダイヤ・善子「……ふぅ……」
ダイヤ「ちょっと善子さん!私が正式にリトルデーモンになっただなんて、どーいうつもりですの!」
善子「しょーがないじゃない!そもそも、ダイヤさんが善子って言うから悪いんじゃないのよ!」
ダイヤ「うっ…それは……。まあいいですわ、これで善子さんと呼んでも問題が無くなったと考えましょう」
善子「え!?いいわよ!歩いて帰れるわよ…」
ダイヤ「どれだけかかると思っているんです!10キロ以上あるんですのよ!?」
善子「うっ…」
ダイヤ「こんな時間に、あなた一人で帰らせるわけにはいかないでしょう」
善子「でも急に泊まるなんて、お家の人に迷惑かかるんじゃ…」
ダイヤ「大丈夫ですわ。お父様とお母様は、遠方の親戚の方の結婚式のために朝からおりませんの。ですので、お気になさらず」
善子「わかったわよ…。お世話になるわ」
善子「ええ、ちょっと話しすぎちゃったみたい。お世話になるわね」
ルビィ「じゃあ後で一緒にお風呂入ろうよ!おねぃちゃんと三人で!」
善子「かまわないけど…さすがに三人は狭いんじゃないの?」
ルビィ「大丈夫!家のお風呂、ちょっとおっきいんだ!いっつも、おねぃちゃんと一緒に入って、背中の洗いっことかしてるんだよ!」
善子「いつも…?洗いっこ…?」
ダイヤ「ちょっとルビィ!余計なことは言わなくてよろしい!」
ルビィ「ごめんなさい、おねぃちゃん…」
ダイヤ「ちょ!善子さん!?違いますわ!これは…そう!節約のためですわ!二人同時に入った方が、水資源の節約になりますので!」
善子「節約ねぇ~」
ダイヤ「もう!早く忘れてくださいですわ~!!」
ルビィ「がんばルビィ!」
善子「それで、何を作るわけ?」
ダイヤ「そうですね…。善子さんが泊まるということで色々考えましたが、カレーに決定致しましたわ!」
善子「なんか気を使ってもらって悪いわね」
ダイヤ「いえ、それには及びませんわ。お客様に、黒澤家の料理にがっかりして帰っていただくわけには行きませんもの!これは黒澤家長女として、当然の勤めですわ!」
善子「そう言われると、出てくるカレーにも期待しちゃうじゃない」
ダイヤ「ふふふ、どうぞ期待を膨らませてくださいませ。きっとその期待を上回る料理をお出しいたしますわ」ニヤリ
善子「たいした自信ね……」
善子「はぁ!?じゃあ色々考えたってくだりはなんなの?」コソッ
ルビィ「たぶん…」コソッ
善子「見栄ってことね…」コソッ
ルビィ「でも、カレーはほんっとうにおいしいんだよ!」コソッ
ダイヤ「二人とも、どうかしましたか?」
ルビィ「んーん!なんでもないよ、おねぃちゃん」
ダイヤ「そうですか?では、始めましょうか。いつも通り、ルビィはサラダの用意を」
ダイヤ「私はスパイスの調合から始めますので」
ルビィ「うん!わかった!」
ダイヤ「当然ですわ!スパイスはカレーにとっての命!源!DNA!よろしければ善子さんには特別に、私の秘伝の配合をお教えいたしましょうか!?」ンッフ!
善子「…また、今度にしておくわ…」
ダイヤ「そうですか…」シュン
善子「それで?私は何をすればいいの?」
ダイヤ「はい?」
善子「私だけ見てるだけってわけにもいかないじゃない。何か手伝わせてよ」
ダイヤ「お客様にそんなことをさせるわけにはいきません。善子さんはおとなしく待っていてくださいな」
善子「でも…」
ダイヤ「ルビィ!?」
ルビィ「ごめんなさい、おねぃちゃん。でも、三人で作った方が楽しいと思って…」
善子「そうよ。私も待ってるだけなんて気まずいし」
ダイヤ「…仕方ありませんわね。では、ルビィの手伝いをお願いいたしますわ」
善子・ルビィ「おーっ!」
ダイヤ「ふっ、当然ですわ!ですが、これで私のカレーを全てわかったと思わないでくださいませね。私のカレーレパートリーは、108式までございますので」
善子「…へえ…すごいのね…」
善子(なんでこの人、カレー以外は作れないのかしら…)
ルビィ「じゃあ、三人で食後のトランプでもしようよ!ちょっと部屋から取ってくるね!」ダダー
ダイヤ「ええ。私、これまではSFのような不確かなものは一切信じてきませんでしたが、この世界を見たら、パラレルワールドを信じざるを得ませんわ」
善子「信じるも何も、今私達が体験してるじゃない。それとも、この世界は夢って言いたいわけ?」
ダイヤ「夢…ですか…。であれば、どんなによかったか…」
善子「ほんとよ。夢なら早く覚めて欲しいわね。まあ、今日の朝起きた時点で、その望みは適わなかったわけだけど」
ダイヤ「………」
ルビィ「トランプあったよー。ルビィ、最初は七並べがしたいなぁ。ヨハネちゃんは?」
ダイヤ「善子さん、私と一緒に、出かけてくださいますか?」
善子「もちろんそのつもりよ。昨日、『何か』を探すって言ったじゃない」
ダイヤ「では、出かけましょう」
ルビィ「おはよう…おねぃちゃん、ヨハネちゃん。…あれ?二人とも、もう出かけるの?」
ダイヤ「ええ。ちょっと用事があるんですわ。ルビィ、留守番を頼みましたわよ」
ルビィ「えっと…ルビィも一緒に行きたいなぁ…なんて…」
ダイヤ「ルビィ、ごめんなさい。実はこれから、善子さんと堕天使の旅に出るんですの。リトルデーモンでない貴女を、連れて行くわけには行きませんわ」
善子「え?ちょっと…ダイヤさん…」
ルビィ「そうなんだ…わかった。気をつけてね…」
ダイヤ「はい。ルビィ、本当にごめんなさいね。お姉ちゃんは、貴女を愛していますわよ」
ルビィ「うん!いってらっしゃい!」
ダイヤ「さ、行きましょうか、善子さん」
善子「え、ええ…」
善子「なんであんなこと言ったわけ?」
ダイヤ「実は、昨日、ある考えが浮かびましたの。私の考えが正しければ、ルビィを連れて行くわけにはいきませんわ」
善子「考え?」
ダイヤ「バスが来ましたわ。乗りましょう。詳しくは車内で」
善子「このバス、沼津行きだけど…」
ダイヤ「わかっています。私達は、これから沼津に向かいます」
善子「でも、練習中のことを探るなら学校の方が…」
ダイヤ「それも含めて、車内でお話いたします。さあ、早く乗りますわよ」
善子「???」
善子「それで?詳しく教えてよ」
ダイヤ「昨日、善子さんがこの世界は、夢と言ったのを覚えていますか?」
善子「…ああ、夕食後に言ったわね」
ダイヤ「実は、それからずっと考えていたのですが、この世界は本当に夢の世界なのではないかと思ったのです」
善子「なんでよ。夢なら寝たら覚めるでしょ。現に、今朝起きても別に元の世界に戻ったわけじゃないじゃない」
ダイヤ「詳しいことは私にもわかりません。ですが、確認をしたいのです」
ダイヤ「その確認のために、沼津に向かい、沼津駅から二人が行ったことのない場所に向かいます」
ダイヤ「もし、仮にこの世界が夢の世界だとすれば、私達二人が見たことも無い場所に行けば、そこはどうなっていると思いますか?」
善子「さあ…さっぱりね」
善子「よく分からないけど、ダイヤさんがそこまで言うんなら行かないわけには行かないわね」
ダイヤ「ありがとうございます。そこで相談なのですが、これを見てください」スッ
善子「路線図ね」
ダイヤ「ええ。この駅の中で、行ったことも見たことも、できれば聞いたことも無い駅名を教えてください」
善子「東海道線は駄目ね。電車で通っただけだけど、流石に全部見たことがあるわ。…じゃあ…ここよ。身延線(みのぶせん)、沼久保駅!」
ダイヤ「身延線ですか、確かに普段乗る機会はありませんわね。私もこの駅は、正直初めて知りましたわ」
善子「手前の富士宮は、行った記憶は無いけど、流石にメジャーすぎてやめたわ。もしかしたら、テレビかなにかで見ちゃってるかもだし」
ダイヤ「ええ、私も同意見ですわ」
善子「じゃあ、ここに決定ね」
ダイヤ「はい」
ダイヤ「一応確認致しますわ。私達はこれから東海道線で富士駅まで行き、身延線に乗り換えて沼久保駅に向かいます」
善子「ええ。それで構わないわ」
ダイヤ「では参りましょう」
富士駅にて
ダイヤ「流石に、これまでの風景に変わった点はありませんでしたわね」
善子「まあ、あんまりこっちには来ないけど見たことがあるような景色だったわ」
善子「二人とも身延線は初めて乗るのよね。もしダイヤさんの仮説が正しければ、私達、いったいどうなっちゃうの?」
ダイヤ「わかりません……。危険なことにならないことだけ祈りましょう」
善子「そうね……」
だが私達の不安は、すぐに的中することになる。
富士駅から発車した電車が、富士駅から見えない場所に差し掛かったとき、異変は起きた。
善子「ちょっと!何よこれ!」
ダイヤ「これは……」
富士駅から見えなかった場所には、ただひたすら真っ白な空間が広がっていた。
いつの間にか電車も消え、私とダイヤさんの二人だけがその空間に取り残された。
しかし、そこまでの不安はない。
なぜなら、今まで見てきた景色は私達の後ろに見えていたからだ。
善子「よかった……」
ダイヤ「とりあえず、最悪の事態は避けられたようですわ」
ダイヤ「まるで、切り取られたかのような感じですわ」
善子「ここが線路や駅から見える限界なのね。つまりこの白い場所は私達の記憶に無い場所ってことね」
ダイヤ「そのようですわね。一応、現状は確認できましたわ。これなら沼久保駅に行くまでもありません。富士駅に戻りましょう」
善子「そうね。ここには居たくないわ。なんか不安な気分になるもの」
私達は足早に、富士駅に舞い戻った。
ダイヤ「私の想像以上でした。おそらく、他の場所もあのような真っ白な空間なのでしょう」
善子「………」ピョン ピョン
ダイヤ「善子さん?さっきから何をしていますの?」
善子「ダイヤさんの仮説通り、ここが夢の世界なら空を飛べるんじゃないかと思って。だけど全然浮かないのよ」
ダイヤ「さっきからやけに飛び跳ねていると思ったら、そんなことを……。まったく、呆れますわね」
善子「いいじゃない!でも、何で飛べないのかしら。明晰夢だったら飛べてもいいはずなのに…」
ダイヤ「メイセキム?なんですの、それ」
ダイヤ「なんと……。では、1,000人のルビィに囲まれる夢も……。はっ!」
善子「……」ジトー
ダイヤ「ゴホン!……た、確かに、ここは夢の世界の可能性が高いと思います。ですが、そうなるとまた別の疑問も出てしまいますわね」
善子「疑問って?」
ダイヤ「なぜ私と善子さんは同じ夢を見ているのか、ということですわ。夢なら普通、別々に見るものでしょう?」
善子「確かにそうだけど、他人が同時に同じ夢を見るって報告も結構あるらしいわよ。科学的に証明はされてないみたいだけど」
ダイヤ「そうなのですか?お詳しいんですのね」
善子「前に、明晰夢を見ようと思って色々調べたことがあるの。結局、一度も見られなかったけどね」
ダイヤ「そうですか。ではとりあえず、私と善子さんは同じ夢の世界にいる、という前提で調査を進めましょう」
ダイヤ「さ、何か水曜日に繋がるものを探しましょう」
善子「見つかるといいんだけど…」
ダイヤ「善子さん!これを見てください!」
善子「手がかりが見つかったの!?……って、カレンダーね。これなら私もさっき見たけど、水曜のところには何も書いてなかったわよ?」
ダイヤ「いえ、見るのは本日、土曜日です」
善子「今日?えっと……『衣装作り開始!』これがどうかしたの?」
ダイヤ「わかりませんか?この衣装というのは、当然、今練習中の新曲のものです。デザインはもう出来ていて、あとは作るだけだけでした」
善子「ええ、皆で決めたもの。覚えているわ」
善子「あっ!!作り始めてない!!」
ダイヤ「ええ。実は昨日の帰り際、果南さんに練習を休むと伝えた際、土曜日は練習が無いということを聞きました」
ダイヤ「善子さんとの約束で急いでおりましたので、あまり深くは考えなかったのですが、よく考えるとどうして本日は練習が無いのでしょうか」
善子「確かにそうだわ。いつもは土曜日も練習してるもの」
ダイヤ「そうです。しかも衣装作りがあるのであれば、なおさら皆で集まっていなければおかしいですわ」
善子「どうして今日、衣装を作り始めてないのかしら」
ダイヤ「確認致しましょう」ピッ
ダイヤ「……果南さん。ちょっとお聞きしたいのですが、今日は衣装作りの日ではありませんでしたか?」
善子「どうだったの!?」
ダイヤ「やはり、今日は練習も衣装作りもお休みとのことでしたわ。それどころか、何故今日がお休みなのかも、把握されておりませんでした」
善子「それって……」
ダイヤ「ええ。水曜日の記憶と同じですわね。……ですが、これで水曜日に私と善子さんが、二人きりになった理由もわかりましたわ」
善子「そうなの!?」
ダイヤ「はい。おそらく、私と善子さんは衣装の布を買いに行ったのでしょう……」
善子「衣装の布……?」
ダイヤ「衣装の布は、いつもじゃんけんで買出し班を二人選びます。善子さんは毎回じゃんけんで負けますので、残りは一人。それが私だったのでしょう」
善子「なんか、さらりとバカにされた気がするけど……まあいいわ。確かに、布の買出しは衣装を作り始める数日前に行ってるわね」
ダイヤ「ええ。布が売り切れている場合などの不測の事態に備えて、ですわ。それが水曜日だったのでしょう」
善子「じゃあ、私とダイヤさんが布を買いに行っている時に『何か』が起きた…」
ダイヤ「そうなりますわね」
善子「じゃあもう一度沼津へ行って、いつも行く布屋さんに行ってみましょうよ。何か思い出すかもしれないし」
ダイヤ(もしかすると……いや、まさか……)
ダイヤ「えっ?は、はい。何か言いましたか?」
善子「もう!何ボーっとしてるのよ!せっかく謎が解りかけてきたのに!沼津の布屋さんに行ってみようって言ったの!」
ダイヤ「そ、そうですわね。行ってみましょうか」
車内にて
善子「……あれ?」
ダイヤ「どうしました?」
ダイヤ「……!!」バッ!!
ダイヤ「善子さん!次で降りますわよ!」ピンポーン
善子「え?なによ急に」
ダイヤ「いいから早く!」
善子「ちょっとどうしたのよ、こんなとこで降りて」
ダイヤ「先ほどの壊れたガードレールの場所に行ってみましょう」
善子「??……はあ?……」
善子「うわー。バスで見たときも思ったけど、結構激しく壊れてるわね」
ダイヤ「やはりここで……」ボソッ
善子「それで?ここがどうしたの?」
ダイヤ「……」
善子「ダイヤさん?」
ダイヤ「善子さん。私の家に戻りましょう」
善子「はあ?何言ってるのよ。沼津に行くんじゃないの?」
ダイヤ「いえ、もう必要ありません……」
ダイヤ「……」
善子「もう!なんで黙るのよー!」
ダイヤさんはそれから家に帰るまで、一言も喋らなかった。
私は途中まで色々と話し掛けては見たものの、何も答えてくれそうになかったので諦めておとなしくついていった。
黒澤家に着くと、ダイヤさんは出迎えたルビィに一言だけ、『私の部屋にはいいと言うまで近づかないこと』と言って、さっさと部屋に戻ってしまった。
悲しそうなルビィを横目に、私も部屋に入り、ダイヤさんの対面に座った。
重い沈黙が流れる。
ダイヤさんはずっと何かを考えているようだった
不意にダイヤさんが口を開く。
ダイヤ「私達がこうなった原因は解りました」
非常に重い口調。
せっかく待ちわびた言葉も、このトーンでは素直に喜べない。
善子「そうなの?」
それでも頑張って、次の言葉を促す。
物事をはっきりと言うダイヤさんにしては珍しい態度だ。
ダイヤさんの態度を見ると、聞くのが怖くなってしまう。
だが、この状況では聞くしかない。
私にはダイヤさんが出した答えを聞く以外に、進む道が無いのだ。
それに、ある程度の予想は……。
しっかりするの!津島善子!
善子「大丈夫です。教えてください」
覚悟を決めるように、はっきりと口に出す。
ダイヤさんも私の覚悟を感じ取ってくれたらしい。
ダイヤ「……あの日、水曜日の放課後、私と善子さんは布の買出しの為、バスで沼津へ向かう途中でした」
ダイヤ「そしてあのカーブに差し掛かった時、対向車が道路を大きくはみ出してバスに向かってきたのです」
ダイヤ「バスはそれを避けるためにハンドルを切り、あのガードレールへ……」
善子「突っ込んだってわけね……」
ダイヤさんがゆっくりと頷く。
正直、似たような予想は頭にあった。
あの派手に壊れたガードレールを見てダイヤさんが黙った後、私もその原因を考えていたから。
さっきより更に重い沈黙が流れる。
答えはほぼ予想通り。
でも、それではまだ解決しない。
事故にあったということは……。
善子「私達……死んじゃったの?」
私は帰ってくる答えを知っていた。
それでも聞かざるを得なかった。
謝らせてしまった。
ダイヤさんは何も悪くないのに。
善子「こっちこそごめんなさい。ダイヤさんが悪いわけじゃないんです。でも、どうしても聞きたくて……」
ダイヤ「ええ、わかっていますわ」
自分だって怖いはずなのに、年上として気丈に振舞ってくれるダイヤさんの優しさに泣きそうになる。
でも駄目。
ダイヤさんに甘えてばっかりなんて、許されるわけない。
だからちゃんと考えないと。
死後の世界なんて見たこと無いんだし、あの真っ白な空間も私の名前が変わっていたのも、そういうもので済まそうと思えば済ませることは出来る。
でも、本当にそれでいいの?
だって体はこんなに元気なんだよ。
だったら、ちゃんと確認しなきゃ。
善子「確かめて……みませんか?」
ダイヤ「……確かめる?」
不意の質問に、ダイヤさんの顔が上がる。
私の中で、既に答えは出ていた。
ダイヤ「一体どうやって……」
だけど、口に出すのは怖い。
一生、この世界で過ごしてもいいと思えるくらいに。
でも……帰りたい。
津島ヨハネではなく、津島善子として生きていきたい。
だから……。
善子「あの……ガードレールから…………飛び降りて……みませんか」
それどころか、比較的交通量の多いはずの道にも一台も車は走っていない。
理屈はわからなかったけど、なんとなく理解していたから二人とも慌てなかった。
さっきの現場まで、二人で歩く。
二人とも一言も喋らない。
どちらともなく手を繋いでいた。
もちろん怖かったけど、右手の暖かさがそれを和らげてくれた。
たぶん30分もしなかったと思う。
さっき見たガードレールの場所に到着した。
そんな私を見て、ダイヤさんは私を抱きしめてくれた。
ダイヤ「大丈夫です。決して離しません」
そう言ったダイヤさんの体は、かすかに震えていた。
最後の最後まで、ダイヤさんにはかなわないなあ。
善子「ありがとうございます。もう大丈夫です」
ここから飛び降りても元の世界に帰れる保障なんてない。
でも、今の私達にはこうすることしか出来ないと感じていた。
善子「いきましょう」
ダイヤ「はい」
顔を見合わせて、頷く。
次の瞬間、二人の体は抱き合ったままゆっくりと大地から離れていった……。
善子「……」
目を開けると、知らない天井。
だけどすぐにここが病院だということがわかった。
すぐ隣で、みんなが泣き叫んでいたからだ。
ルビィ「おねぃちゃああぁああん!!怖かったよぉおおぉ!!よかったああぁああぁ!!!」
果南「本当に……よかった……」
鞠莉「もう!!本当に心配したんだからー!」
千歌「ダイヤさん……よかった……」
曜「よかったよー!ほんとによかった!!」
梨子「心配しました……ほんとに……」
花丸「ルビィちゃん……よ、よかったね……」
ダイヤ「みなさん、本当にご心配をおかけしました。ですが……あら?善子さん……」
みんなに囲まれているダイヤさんと、目が合った。
7人「えっ!?善子ちゃん!?」
7人が一斉にこちらに顔を向ける。その顔はみんなスクールアイドルとは思えないほどに目が真っ赤に腫れていた。
ダイヤ「善子さん、お帰りなさい」
善子「だから、ヨハネよ……。ただいま」
私とダイヤさんは精密検査の後、すぐに退院できた。
異常は何も無く、怪我もかすり傷だけだった。
かなりの大事故だったのにこれだけで済むなんてと、お医者さんも驚いていた。
あっちの世界の話は、私もダイヤさんもはっきりと覚えていた。
でも、みんなを心配させたくないから二人だけの秘密ということに決めた。
ダイヤさんとは、私が生徒会室に押しかけ、よく話す様になった。
ダイヤさんは生徒会の仕事が止まることに文句を言いながらも、毎回お茶を入れてくれる。
ダイヤ「またその話ですの?もういいじゃありませんか。帰ってこれたんですから」
善子「だって……」
ダイヤ「それに、善子さんの名前が変わってなかったら世界が違うことに気づかず、あっちの世界でずっと過ごすことになっていたかも知れませんわよ」
善子「うっ……確かに。うー、でも気になるのよねぇ」
ダイヤ「はぁ……。仕方ないですわね。おそらくですが、善子さんの願望が現れていたんじゃありませんか?」
善子「願望?」
ダイヤ「ええ。ヨハネと呼ばれたい願望ですわ。夢なんですから、そういった願望が現れても不思議ではありません」
善子「あーなるほど。そっか、それなら辻褄が合うわね」
善子「む……。わかったわよ。いいわよ、今日は津島サファイアになった夢見ちゃうんだから!」スクッ スタスタ
ダイヤ「サファイア?…………っっ!!!ちょっと!善子さん!?」
善子「ふふっ。じゃあね。お仕事頑張って、おねえちゃん」ガラッ
ダイヤ「まったく……。手間のかかる妹は一人で十分ですのに……。仕方ありませんわね」
あ、そうそう。
善子さんは恥ずかしがって報告しておりませんでしたが、私と善子さんは事故の際、抱き合っている姿で発見されたらしいですわ。
あの夢がなんだったのかは未だにわかりませんが、きっと悪夢ではなかったと、私は思いますわ。
おしまい
話も面白かったしオチもしっかりついて良かった
ダイよしは素晴らしい
ハッピーエンドで良かった。こういう雰囲気の好き
おつ
たいへん良かった
生きてて良かった
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