【ラブライブ!】曜「キスがしたい」
- 2020.05.03
- SS

曜(私は静かに頬杖をつく)
曜(隣の席に目をやると、小さなくせ毛が揺れていた)
曜(6時間目の自習時間、隣の千歌ちゃんはぐっすり寝ている)
曜(窓から入る昼風が、小さな頭に桜を乗せた)
曜(私はこっそりそれをつまんで、机の端にゆっくり置いた)
曜(千歌ちゃんは静かに寝息を立てて、伏せた頭をこちらに向けた)
曜(少しびっくりしてたけど、彼女はぐっすり眠ってる)
曜(そういえば、顔に風が当たるとくすぐったいて、少し前に、話してた)
曜(私は1人でそっと笑って、隣の席の子を見る)
曜(キスがしたいと思った。)
曜(最近桜が咲いている)
曜(朝に登校するときに、千歌ちゃんはぱたぱた走ってく)
曜(海から光が反射して、桜の裏側も光ってる)
曜(花の隙間から差し込んだ、朝の日差しに目を細めた)
曜(風が吹いて桜が舞うと、千歌ちゃんは笑って振り返る)
曜(「みてみて曜ちゃん、風みたい!」、両手を広げてくるりと回る)
曜(「かわいいね」と私が言うと、「次の衣装は桜だね!」と千歌は言う)
曜(「そっちかぁ」と私は言うけど、千歌ちゃんは気づかず走り出す)
曜(私は、自分のセリフを飲み込むと)
曜(片手をパタパタあおいで、熱い頬を風で冷ました)
曜(国語のワークをぱらっとめくって私ははっと目をさます)
曜(眠ってたことに気がつくと、私はワークをぱたんと閉じた)
曜(静かに息を吸い込むと、冷たい風が、喉を冷やした)
曜(昨日前髪を切ったせいか、おでこがやけに涼しい)
曜(隣の席をちらりと見ると、千歌ちゃんは静かに寝息を立てた)
曜(晴れ日和)
曜(くるりと部屋を見渡すと、クラスのみんなもウトウトしてる)
曜(1つ前の梨子ちゃんも、こくりこくりと揺れている)
曜(私は窓の外を見る)
曜(視界に入る千歌ちゃんの唇が、はむはむと動いた。)
曜(チーム分けはじゃんけんで、私と千歌ちゃんは、別チーム)
曜(千歌ちゃんは「勝つぞー!」と意気込んで、小さな両手でボールを持った)
曜(私は、はじめは外野に回ってる)
曜(その日もはじめは外野に出てて、2回に1度は当てていた)
曜(相手のチームは少し弱くて、はじめて5分で残りは1人)
曜(私はそのとき内野にいて、みんなの壁になっていた)
曜(千歌ちゃん1人、相手のチームは負けそうだった)
曜(「当てるよ!」と、千歌ちゃんは笑顔でボールを握り、私に向けて投げてきた)
曜(少し後ろでむっちゃんの、「いてっ」の声がこだました)
曜(後であやまる、ごめんむっちゃん)
曜(千歌ちゃんは悔しそうに後ろに下がった)
曜(私の目を見てにへっと笑う)
曜(私は千歌ちゃんを知っていた)
曜(弱気を出すと、怒るって)
曜(対等でなくてもかまわないから、なるべく本気でぶつかりたいと)
曜(昔の千歌ちゃんが、そう言っていた)
曜(外野がそれを受け止める)
曜(私は外野に目配せをして、上からそれを投げてもらった)
曜(千歌ちゃんは私の目を見て後ろに下がり、「さあこいっ」とその場に立った)
曜(私は右手でボールをつかみ、千歌ちゃんに向かって本気で投げた)
曜(千歌ちゃんは一瞬目をつぶったけど、すぐに開いて、ボールを止めた)
曜(外野がわっ、と、ざわめいて、千歌ちゃんは嬉しそうに、握り直した)
曜(私はその場に立ち止まり、千歌ちゃんはぶんっ、とボールを投げた)
曜(私はそれを受け止めて、今度も本気で投げ返す)
曜(千歌ちゃんは左に避けたけど、肩にかすって、笛がなった)
曜(千歌ちゃんは「あーっ」と倒れこみ、私に向かってにまっと笑った)
曜(私もにまっと笑い返す)
曜(おぼせは伊豆の方言で、春に吹く風をみんなそう呼ぶ)
曜(「だね」と返して隣を見ると、くせ毛に桜が咲いていた)
曜(くすっ、と笑って少し見て、風が止んでから手を伸ばす)
曜(千歌ちゃんはすーすー寝てるから、たぶんまだ目を覚まさない)
曜(机の端に花を置き、腕で風をさえぎった)
曜(私も伏せて、目を閉じる)
曜(人差し指で自分の唇に触れると、乾いたそれは、普通の肌とは違う感触を指に伝えた。)
曜(「すっきりしたねー」って千歌ちゃんが言って、刈られた上を歩いてた)
曜(風が吹くと、草の青い匂いが、私の鼻をツンとつく)
曜(「夏の匂いだ」と、千歌ちゃんが大きく深呼吸する)
曜(「まだ春だよ」と、私は返した)
曜(草の青い匂いをかぐと、昔のことを思い出す)
曜(空が一番高い時期、まだランドセルも持ってなかった頃)
曜(「秘密基地だ」ってはしゃぐ千歌ちゃんと、背の高い草むらに入ってく)
曜(背高草をかきわけて、たまに見える青い空を仰いで、空いてる場所を見つけたら、周りの草を上の方で結ぶ)
曜(秘密基地の完成だ)
曜(ただの狭いテントだけど、千歌ちゃんと私はくすくす笑って中に隠れた)
曜(「まくらとか持ってくる!」ってはしゃぐ千歌ちゃんに、「楽しそう」ってつられちゃって)
曜(でも実行したことはなくて、遠くの蝉の声を聞きながら、草の隙間から海を見た)
曜(水筒の蓋にお茶をそそいで、2人で少しづつまわし飲み)
曜(ただのぬるいお茶なのに、2人で飲むと、どんなお茶より美味しかった)
曜(バッタがテントに入ってくると、私はそれを捕まえる)
曜(千歌ちゃんと交代で観察して、隙間から外へ出てもらう)
曜(不思議と、昔は触れたのに、今は何故だか触れない)
曜(今では5分で歩ける道も、あの頃は今よりずっと長く感じた)
曜(向こうが見えないくらい高い堤防に、どっちが早く登れるか競争してた)
曜(結局どっちが先に登れたのか、もう覚えていないけど)
曜(波の音を聞きながら、2人で後ろを振り返る)
曜(影がぐぅっと長く伸びてて、背伸びをした千歌ちゃんが、「わたしのほうがたかーい」って喜んだ)
曜(あのころは、私のほうが少し身長が高かった)
曜(今ではもう、肩を並べるくらいになっちゃったけど)
曜(太陽の影が見えてるうちは、わたしたちはめいっぱい遊んでた)
曜(刈ったばかりの、青い匂いを覚えてる)
曜(だから私は、昔のことを思い出す)
曜(今日の宿題だけでもやっておこう)
曜(一度閉じたワークを開いて、国語の小説を読む)
曜(なかなか頭に入ってこないから、同じ文章を何度も読み返す)
曜(小説の主人公の名前が、要だった)
曜(こういうとき、少しはっとなる)
曜(自分の名前が文章にあると、少し気恥ずかしさと不思議な感覚を覚える)
曜(この場合はかなめ、なんだろうけど、私は自然によう、って読んでしまう)
曜(……千歌ちゃんが、家で宿題するとき、これ読んで、私のこと思い出すのかなぁ)
曜(そう考えていると、自然と頬が上がっていることに、遅れて気づいた)
曜(左手でほっぺたを挟んで、にやける頬を下にさげる)
曜(頭をさげると、昨日切りすぎた前髪が視界に入らないことに、違和感を覚えた)
曜(一昨日だったっけ)
曜(練習のとき、いつもと違う髪留めを、千歌ちゃんが嬉しそうにつけてきた)
曜(見覚えのある髪留めだった)
曜(千歌ちゃんは走って寄ってきて、「みてみて曜ちゃん、似合ってる?」)
曜(私は思い出したけど、「昔あげたやつ?」)
曜(自分の選んだ髪留めよりも「うん!」って、嬉しそうな千歌ちゃんの表情が、目に入った)
曜(練習中、落ちないように気を使っている千歌ちゃんを見て、可愛いなぁって思った)
曜(私は大きく伸びをした)
曜(ギィ、ときしむ音がして、焦って隣を見るけれど、千歌ちゃんはぐっすり眠ってた)
曜(机の端に並べた桜に、なんとなくふーっと息を吹きかける)
曜(桜は少し上に舞って、それから一枚、千歌ちゃんの頭の上に乗った)
曜(もう一枚は、床に落ちた)
曜(また取ろうかな、とも思ったけど、なんだかそんな気分じゃなくて、私はそのまま桜を眺めた)
曜(……そういいながら、視界に千歌ちゃんが入っていることに、気付いていた)
曜(頬に机を感じながら、私は自分の唇に指で触れる。)
曜(行きしに猫とじゃれあった)
曜(私が呼ぶと寄ってきて、それから千歌ちゃんに甘えてた)
曜(猫がにゃーと見上げると、千歌ちゃんも「にゃー」と返事する)
曜(私がクスッとわらうと、千歌ちゃんは恥ずかしさを誤魔化すように頬を膨らませた)
曜(たぶん、自然と口をついたんだろう)
曜(私が、「猫は指を出すと鼻をくっつけてくるらしいよ」と言うと、千歌ちゃんは細い人差し指を差し出した)
曜(猫は少し近づくと、右手でそれをはたいた)
曜(「ネコパンチ」と私が笑うと、千歌ちゃんは「だまされたー!」と頭を抱えた)
曜(猫より、千歌ちゃんを可愛いと思った)
曜(好きなのは、猫より……)
曜(なんでキスしたいんだろう)
曜(千歌ちゃんを見る)
曜(眠っている顔も綺麗で、少し見とれる)
曜(どうしてだろう)
曜(別に、女の子が好きなわけじゃない。昔からそうではなかったはず)
曜(でも、私の好きな人は……)
曜(私の好きな人は、千歌ちゃんだ。)
曜(いつからだろ。覚えてないや。)
曜(一緒にいて楽しいから、尊敬になって、いつの間にか好きだった)
曜(いや、好きなのかどうかわからない。本当に人を好きになるのなんて初めてかもしれないし、これは違うのかもしれない)
曜(でも、キスしたいと思う。)
曜(先生はこないから、みんな勝手に自習を終えて、カバンに荷物をしまう)
曜(今日は掃除はないから、すぐに放課後)
曜(千歌ちゃんはまだ寝てる)
曜(私はぼーっとそれを眺める)
梨子「曜ちゃん、まだ行かないの?」
曜「……うん、先行ってて」
曜(千歌ちゃんお願いね、と、梨子ちゃんは部室に向かった)
曜(教室から次々と人がいなくなる)
曜(最後に残った人は、窓閉めていかないと)
曜(そんなことを考えて、2人きりの教室で、少し胸が高鳴る)
曜(私は静かに頬杖をつく)
曜(隣の席に目をやると、小さなくせ毛が揺れていた)
曜(寝てる千歌ちゃんの頬を、少しためらいながらつつく)
曜(「ん……」と声をあげて、千歌ちゃんは静かに目をさます)
曜「おはよう」
千歌「ん……おはよ……」
曜(私は立ち上がって、教室の前の方の窓を閉めた)
曜(千歌ちゃんも立ち上がって、近くの窓に手を伸ばす)
曜(居眠り後の千歌ちゃんは、やけに寝起きがいい)
曜(私は風を浴びながら目を細める千歌ちゃんに、ぼーっと見惚れていた)
千歌「あれ、曜ちゃん」
曜(眠たいであろう目をこすりながら、千歌ちゃんはこっちを向いた)
千歌「前髪、切った?」
曜「うん。」
曜(キスがしたいと思った。)
曜(ぼーっとしてる私の顔を、千歌ちゃんが下から覗き込む)
千歌「よーちゃん」
曜(名前を呼ばれて、不思議と気持ちが軽くなる)
曜(閉めかけの窓から風が入って、千歌ちゃんの前髪を撫でる)
曜(目を細めて、耳に髪をかける千歌ちゃんをみて、好きだと思って、心臓が跳ねた)
曜(その場に根が張ったかのように動けなくなって、私は少し震えるのどで、名前を呼ぶ)
曜「ちかちゃ……」
曜(なんでもない、と言おうとして、私は言葉を飲みこんだ)
千歌「?」
曜(代わりに、ずっと言いたかったことを、声に出そうと思った。)
曜「……ねえ、千歌ちゃん」
曜(その後の顛末は、語るべきではないと思う)
曜(……みかんの味がした。)
乙
良かった
よかった
-
前の記事
【ラブライブ!】梨子ちゃんと結婚したら家に帰ったら梨子ちゃんが晩御飯作って待っててくれるって事だよね? 2020.05.03
-
次の記事
【ラブライブ!】ハイボールを飲む高槻かなこさんかわいい 2020.05.03