【ラブライブ!】海未「どうか(・8・)と発音して下さい。」
- 2020.04.14
- SS

天気がとても良かったので、私は登山に行きました。
海未「ああ、やっぱり山は最高です」
ガサガサ
海未「ん? なんでしょうか?」
海未「この山に熊が出たという話は聞きませんし」
海未「迷い猫かなにかですかね」
そう思い、私は茂みへと近づきました。
もしそうなら保護をしなければと考えたのです。
海未「大丈夫、私はあなたに危害を――」
(・8・)
そこには、(・8・)がいました。
海未「あ、あの――」
(・8・)Ξ タタタ
海未「ま、待ってください!」
信じられません。(・8・)です、山の中に(・8・)がいたのです。
私は無我夢中で追いかけました。
泥で靴やズボンが汚れることも、草葉が顔にかかることも忘れ、ひたすら走りました。
私にはもう、(・8・)の姿しか目に入っていなかったのです。
だから、地面に広がるあの巨大な穴へ真っ逆さまに落ちてしまったのかもしれません。
海未「ん……」
おそらく穴に落ちた時に気絶したのでしょう。
意識を取り戻した私は、自分がまずベッドに寝かされていることに気付きました。
そして、全身に広がる痛みも感じます。
海未「ここは……?」
(・8・) (・8・) (・8・) (・8・)
驚きました。たくさんの(・8・)が私のベッドを取り囲んでいます。
(・8・) (・8・) (・8・) (・8・) (・8・)
海未「あの、私は一体――」
もしかしたら(・8・)のおやつにでもされるのでしょうか。
そう考えたら、私は今にも叫び出しそうな恐怖に駆られました。
(・8・)ジリ
海未「ひっ!」
お母さま、穂乃果、ことり、みんな……旅立つ不幸をお許しください。
その途端、頭や体にひんやりしたものが当たります。
(・8・)ヌリヌリ
海未「これは……?」
恐る恐る目を開けると、(・8・)たちが薬のようなものを私に塗っていました。
するとどうでしょう。
穴に落ちた時にできた傷や痛みが嘘のように引いていきます。
海未「あ、あなたたち、もしかして……」
私は自分が恥ずかしくなりました。
(・8・)たちは傷ついた私を治療するため、ベッドに運んでくれたのです。
海未「ありがとう」
(・8・) (・8・) (・8・) (・8・) (・8・) (・8・)
海未「本当に、助かりました」
(・8・)たちは何も言わず、ただ私を見つめるだけでした。
一体、(・8・)の住む国に来てどれほどの時が経ったのでしょう。
元の世界へ戻る手段を見つけられずにいる私は、ただ途方に暮れるばかりの毎日です。
海未「はあ、ラブライブが終わってないといいですが」
(・8・)
海未「ん? ――ふふ、そうですね」
私は(・8・)と意思疎通ができるようになりました。
招かれざる客であった私も、今では立派な住民です。
(・8・)
海未「え? コンサートに招待してくれるのですか?」
(・8・)たちの国では、音楽は最高の芸術であると評判なので、
なかなかチケットは取れないのですが、特別に私を招待してくれるというのです。
きっと、心が張り裂けそうな私を気遣う、(・8・)の優しさなのでしょう。
海未「ありがとうございます」
(・8・)
海未「はい、もう大丈夫です」ニコ
・
・
コンサート会場は(・8・)で埋め尽くされていました。
海未「やはりライブはいいものです」
私はμ’sのことをどうしても思い出します。
みんな、どうしていますでしょうか。
作詞は誰がやっているのでしょうか。
気になって仕方がありません。
海未「早く、帰りたい」
(・8・) (・8・)
海未「ああ、そうですね。今はコンサートをじっくり楽しみましょう」
悲しい顔ばかりしていては、(・8・)に申し訳ないですから。
ブザーが鳴り、いよいよ幕が上がりました。
ト(・8・)ブ ト(・8・)ブ ト(・8・)ブ ト(・8・)ブ ト(・8・)ブ
海未「わぁ……」
何と素晴らしい音楽なんでしょう。
これに比べたら、人間の音楽家など素人にしか見えません。
気付けば涙が流れていました。
人は、真の芸術に触れた時、ここまで心が揺さぶられるものだと分かりました。
海未「……」グス
(・8・) (・8・)
海未「いえ、違いますよ。これは感動の涙です」
(・8・) (・8・)
海未「はい、来て良かったです」
我々の世界では、男性が女性を追いかけるっていうのが割と多いですが、
ここでは完全に(・8・)が(・8・)を追い回すようです。
(・8・)Ξ ダダダ (・8・)Ξ タタタ
(・8・)が教えてくれたところによると、(・8・)に捕まった(・8・)は、
必ず結婚しなければならないそうです。
ですから、結婚が嫌な(・8・)は必死に逃げるのですが、
(・8・)のみならずその友人や家族が連携して(・8・)を捕まえることもあるそうです。
海未「しかし、これは果たして恋愛と呼べるのでしょうか」
海未「一方的に求愛される(・8・)の身になって考えてみると……」
(・8・)
海未「なるほど、(・8・)の数が減ってきていると」
海未「生存のためには、それも致し方なしなのかもしれませんね」
しかし、何も浅ましいことばかりを目にしていたわけではありません。
実際、(・8・)の出産に立ち会わせてもらったことがあるのですが、
これなんかはとても感動的な場面でした。
海未「頑張ってください!」
(・8・)
海未「そうです、もう少しです!」
(・8・) (・8・)
海未「ほら、旦那さんも駆けつけてくれましたよ!」
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「生まれましたね……元気な(・8・)です……」グス
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「いいものですね、家族って」
海未「……」
海未「私も、早くお母さまとお父さまに会いたい」
海未「ここがそうなのですか?」
(・8・)
海未「すみませーん」
ガチャ
(・8・)
海未「(・8・)さんですか?」
(・8・)
海未「お邪魔します」
今日は、(・8・)に案内されて、詩人の(・8・)に会いに来ました。
詩人の(・8・)は、かなりの(・8・)嫌いらしく、滅多なことでは誰にも会わないそうですが、
私を案内してくれた(・8・)とは親友らしいのです。
海未「あなたは詩をおやりのようですが、実は私も詞を書くんです」
(・8・)
海未「え? い、嫌ですよ、そんな、恥ずかしいです///」
実際、(・8・)たちの曲に私が歌詞をつけるなど、おこがましいにもほどがあります。
所詮私たち人間には、音楽を理解することなどできないのですから。
(・8・)
海未「あ、お構いなく……そうですね、すみません」
その時です――
ドサ!
海未「! なんですか!?」
(・8・)Ξ
私もすぐに(・8・)の後を追いました。
そこで私たちは見てしまったのです。
海未「ど、どうして……」
(・8・)
詩人の(・8・)は、目を開けたまま血まみれで倒れていました。
彼は刃物で自らを貫いていたのです。
海未「そんな、そんな……」
初めて見る(・8・)の遺体に、私はショックを隠し切れません。
私ですらそうなのですから、友人の(・8・)の気持ちを考えると、胸が痛みます。
(・8・)つ(・8・)Ξ
(・8・)は友の亡骸を担いでどこかへ行きました。
私はついていきませんでした。きっと、今は一人になりたいでしょうから。
詩人の部屋に残った私は、同じ、言葉を紡ぐ者として詩人の部屋を興味深く眺めました。
私も読書家という自負があったのですが、彼に比べれば本嫌いに等しいと思い知らされました。
海未「おや、これは……」
詩人の机にはノートが広げてありました。
彼の遺作となった作品を、私は手に取ります。
するとそれは、詩ではなくアフォリズムだったのです。
ここに載せておきます。
※
・ 阿呆はいつも彼以外のものをぷわぷわーおと信じている。
・ 誰よりもスピカを愛した君は、誰よりもテリブルを軽蔑した君だ。
・ 我々はンミチャーよりも不幸である。ンミチャーは(・8・)ほど進化していない。
(この項目をみた時、私は思わず笑ってしまいました)
・ 醜女の九割強は一生ぶる~べりぃ とれいんに乗れぬものである。
・ 人生は一行のワンダーゾーンに如かない。
ここ最近、(・8・)が妙にそわそわしています。
なにかピリピリしてもいます。
何かが起こる、そんな予感がしました。
そしてそれは――やはり現実となったのです。
海未「なにがあったのですか!?」
(・8・)↑ (・8・)↑ (・8・)↑ (・8・)↑ (・8・)↑
(・8・)たちが槍を持ち、町の入口に整列しています。
海未「ま、まるでこれから戦争にでも行くような……」
(・8・)↑
海未「え? 敵が攻めてくる?」
なんということでしょう。
平和に見えた(・8・)たちの世界も、我々の世界と同様だったなんて。
カンカンカン
その時、町全体に鐘の音が轟きました。
(・8・)↑Ξ (・8・)↑Ξ (・8・)↑Ξ
おそらくこれが、敵が近くに来たという合図なのでしょう。
(・8・)は一斉に荒野へと飛び出して行きました。
海未「あれが、敵?」
(^8^)↑
どこかなく(・8・)に似ています。
しかし驚く事ではありません。
我々人類もまた、自分の同胞と争い続けてきたのですから。
ザッザッザッ (^8^)↑ (^8^)↑ (^8^)↑ (^8^)↑
(・8・)↑ (・8・)↑ (・8・)↑ (・8・)↑ ザッザッザッ
こうして、戦いの火ぶたが切って落とされました。
・
・
地獄というのは、こういう場所を言うのではないでしょうか。
(・8・)―(^8^)→ グサッ
グサッ ←(・8・)―(^8^)
海未「うう……」
(・8・)も(^8^)も、槍に突かれてどんどん倒れていきます。
なぜ彼らは争うのでしょう。こんな戦いに何の意味があるのでしょう。
私は、(・8・)の歴史を紐解こうともしなかった自分の愚かさを呪いました。
海未「!」
海未「ああ……ああ!!」
もう嫌です。(・8・)や(^8^)が死ぬのは見たくありません。
私はすぐに行動しました。
海未「やめてくださぁあああい!!!」
(・8・)↑
(^8^)↑
(・8・)―(^8^)→ グサッ
幸い、(・8・)も(^8^)も私に襲いかかることはありません。
彼らの敵は一つなのでしょう。
私は当てもなく戦場をさまよいました。
その時です。
(・8・)
海未「!?」
この世界に来たときから、何かと世話を焼いてくれた(・8・)を発見しました。
ですが、(・8・)はもう槍に突かれた後だったのです。
海未「し、しっかりしてください!」
もう絶望的なのは分かっているのですが、それでも私は必死に声をかけました。
海未「死んではいけません! うちに帰るのですよ!」
しかし、もう何もかも手遅れでした。
やがて(・8・)は息を引き取りました。
私は涙をぬぐい、(・8・)を抱きかかえました。
せめて、故郷のお墓に弔わねばと思ったのです。
その瞬間でした――
(・8・)…
(^8^)
海未「え……?」
なんと、(・8・)が(^8^)になったのです。
しかも(^8^)は私の腕の中で勢いよく動き始めました。
押さえるとこもできず、(・8・)だった(^8^)は地面に降り立つと、
そのままいずこへと勢いよく走り去って行きました。
海未「生き……返った……?」
よく見ると彼だけではありませんでした。
死んだ(・8・)は(^8^)に、(^8^)は(・8・)に生まれ変わっていたのです。
無限地獄です。彼らは一生戦い続けなければならないのです。
詩人の(・8・)が自ら命を絶った理由が分かる気がします。
戦争で死ねば、またいつの日か戦いに赴かされるのです。
今度は新たな自分として、未来永劫……。
いや、それともこの転生は戦争によるものではなく(・8・)の宿命なのでしょうか。
だとしたら、あの詩人は(・8・)ではなく(^8^)になりたかった?
(・8・)(^8^)(・8・)(^8^)(・8・)(^8^)
(^8^)(・8・)(^8^)(・8・)(^8^)(・8・)
海未「いやああああ!」
私は最初に(・8・)を見つけたとき同様、無我夢中で走りました。
もうこんな世界に居たくはない。
ところが、そんな私の前に――
(^8^)
海未「あ、あなた……」
それはさっきまで腕に抱いていた、あの(・8・)でした。
(^8^)
海未「はい。元の世界に、帰りたい……」
(^8^)
海未「ついて行けばいいのですか?」
当てもない私は、(^8^)を信じることにしました。
※
海未「こ、これは!」
いま、私の前には、天まで届くほどのエレベーターがありました。
私は穴に落ちてここまで来たのですから、確かに空へ昇るのは理に適っています。
海未「これに乗ればいいのですか?」
(^8^)
海未「分かりました」
いよいよ、(・8・)たちとお別れです。
現金なもので、先程まであんなに離れたがっていたのに、
いざその時が来ると躊躇ってしまいます。
ですが、私にはやらねばならないことが待っているのです。
それに、もしかしたら、待っていてくれる人たちが――。
(^8^)
海未「はい、後悔はしません」
海未「ありがとう。さようなら」
(^8^)
相変わらず最後の最後まで、表情を変えない方々です。
・
・
・
エレベーターに乗ってしばらくして、何なら室内に甘い匂いが漂ってきました。
すると私は突然、抗いがたい眠気に襲われたのです。
※
海未「はっ!」
意識を取り戻すと、そこは以前、私が登っていた山でした。
私は無事、人間世界へと帰ってくることができたのです。
(・8・)の国から帰ってきた後、私をまず悩ませたのは人間界の強烈な悪臭でした。
実際、(・8・)に比べたら、人間はひどい匂いを放ちます。
それにまた、(・8・)の可愛らしさに慣れた私にとって、人間の姿はとても醜く滑稽に思えました。
とりあえず家に帰った私ですが、両親は特に心配していた様子を見せていませんでした。
これは、親の心が冷たいからとか、そんなことではありません。
なんてことはない、ただ(・8・)の国と私たちの世界とでは時間の流れが違っていたのです。
私はその日の昼過ぎに(・8・)の世界に行き、その夜に人間世界へ帰ってきただけなのです。
ただ両親は、私が山に行った服と帰宅した時の服が違うことを不思議に思っていたので、
説明するのも面倒だった私はちょっと洋服屋に寄って来たと答えました。
※
帰国して次の日ほど、おかしい日はありませんでした。
私はアイドルをやっているとのことでしたが、そのグループの曲といったら、
(・8・)では絶対に作らないような、稚拙で何の面白味もないバカげたものなのです。
海未「もうやめましょう」
海未「感動できないんです」
皆が私を驚いた表情で見つめます。何人かは怒り始めました。
だから私は言ってやったのです。我々の音楽がいかに下らないものか力説しました。
海未「(・8・)を見習いなさい!」
海未「――なにって……(・8・)は(・8・)でしょう!」
海未「(・8・)であり(^8^)ですよ!」
アイドルたちがこぞって私の体を揺さぶります。
私は何度(・8・)のことを説明したでしょう。
しかし、誰も私の言うことを理解してはいませんでした。
所詮、人間に(・8・)は分からないのでしょう。
海未「もういいです!」
これ以上つき合っていられません。私は屋上を出ようとアイドルたちに背を向けました。
その時、髪にサイドテールをつけた人間とトサカをつけた人間が私を引き留めました。
彼女たちは泣きながら(いったい何が悲しいというのでしょう)私にまくし立ててきます。
その中でついに、あのことを口にしました。
穂乃果「一緒に、ラブライブに出るって――」ポロポロ
ラブライブ――
アイドルたちと踊りや歌を競う祭典。
そうです、人間たちはやはり――
海未「そうやって、他者と争い、つぶし、踏みにじり」
海未「それで満足ですか!? この悪党どもが!」
海未「あなたも馬鹿で、うぬ惚れきった、残酷な、虫の善い動物なんでしょう!」
私は(・8・)の国へ帰りたくなりました。
行きたいのではありません。帰りたいのです。
確かに(・8・)たちの世界もユートピアとは言い難いですが、
少なくともここよりは遥かにいい場所だと思います。
(・8・)はあんなに美しく、清らかで、高潔で、正直なのです。
我々は、比較するのもおこがましい。
ことり「海未ちゃん……」ポロポロ
トサカの人がなにか言っていますが、私はそれを無視して屋上を出ました。
・
・
・
海未「おかしい、確かにこの辺だったはず」
しかし、いくら探しても(・8・)の国へつながる大穴は発見できませんでした。
真っ白い、奇妙な部屋に入れられてから数日が経ちました。
ここの居心地は最悪です。
1日中ベッドに寝かされ、しかも外出は一切できないのです。
おまけに隣人はやたら「まきちゃん、まきちゃん」とうるさいのです。
穂乃果「海未ちゃん、聴いて」
ことり「私たちの新曲だよ」
この人たちはやたらと私に構ってきます。
以前は一緒にいるのが楽しかった記憶がありますが、今では鬱陶しいだけです。
シャカシャカ ♪
耳の穴につっこまれたイヤホンから流れてくる音楽は、雑音にしか聴こえません。
海未「ひどいものですね」
この人たちにも(・8・)の歌を聞かせてあげたい。
そうすれば、自分たちのやっていることがいかに低レベルか思い知るでしょう。
ことり「やっぱり歌と詞かな」
穂乃果「多分、誰かの歌声が足りないと思うんだ」
ことり「うん……私もそう思う」
2人はぶつぶつと何か言っていますが、よく分かりません。
ことり「でも、一番は詞だと思うの」
ことり「この曲ね、私が作詞したんだ」
ことり「やっぱり、私じゃ全然ダメだね」
ことり「……」
ことり「海未ちゃん」
ことり「また、海未ちゃんの詞で歌いたいよぉ」
海未「私には作詞なんてできませんよ」
穂乃果「そんなことない! 」
ことり「私たちはずっと海未ちゃんの歌詞で――!」
海未「くどいんですよ!」
海未「(・8・)の前では人間のつくる詞などゴミです!」
私は怒鳴って2人を追い返しました。
ここまですればもう来ないでしょう。
寂しくなんてありません。
だって私には――
海未「すみませんね、騒がしくて」
(・8・)
海未「今日はいつも以上の口論となりました」
海未「でも仕方ありません。あの人たちときたら」
海未「(・8・)は、いないと言うんですよ?」
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「ふふ、確かにここにいるというのに」
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「ええ、心配いりません。わざわざ会いに来てくれたあなたたちですから」
海未「ずっと一緒ですよ」
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「それにしても、どうして私をまた連れていってくれないのですか?」
海未「確かに一度は嫌気がさして戻ってきましたが」
海未「おかげで気付いたんです。やっぱり私の居場所はあなたたちの世界だと」
(・8・) (・8・) (・8・)
海未「……最近、だんまりが多いですね」
※
海未「それで、今度の大統領は(・8・)に決まったので――」
穂乃果「海未ちゃーん!」
海未「ふう、またあの人ですか」
海未「しかも、窓の外から非常識な」
ガララ
海未「もう来ないでと、何度言ったら――」
海未「!」
穂乃果「私、海未ちゃんの言う通り頭良くないから!」
穂乃果「言葉じゃ海未ちゃんのスランプをどうにかしてあげられないから!」
穂乃果「歌って踊ることしかできないから!」
ことり「海未ちゃん! 聴いてください!」
穂乃果「いくよ、みんな!」
穂乃果「『僕らのLIVE 君とのLIFE』」
8人のアイドルたちが歌っています。
こんなことで私が彼女たちと一緒に音楽をやると思っているのでしょうか?
海未「ふふ、見てください。なんて下手くそな――」
(・8・)
海未「ど、どうしたのですか?」
海未「どうして、そんな真剣に彼女たちを見て――」
(・8・)
海未「な、なんですその目は!?」
海未「あなただって酷いと思っているのでしょう?」
(・8・)
海未「私は、私は……」
彼女たちの歌が(・8・)ほど素晴らしいものだとは到底思えません。
ひどい歌詞です。雑な踊りです。汚い声です。心揺さぶらない曲です。
なのにどうしてでしょう。
なぜ、涙が流れるのでしょう。
海未「歌ってください、(・8・)」
海未「あなたの歌を歌い、あの人たちに分からせてあげてください!」
海未「そして私にも本物の感動を与えてください!」
(・8・)
海未「どうして……どうして歌ってくれないんですか!?」
(・8・)
海未「うう……」
(;8;)
海未「え?」
泣いています。(・8・)までもが涙を流して、彼女たちを見ています。
いや、(・8・)だけではありませんでした。
(;8;) (;8;) (;8;) (・8・) (;8;)
いつの間にか現れた大量の(・8・)たちが、彼女たちの間近でライブを眺めています。
しかし、相変わらずあの人たちにはその姿が見えていないようです。
穂乃果「海未ちゃん!」
穂乃果「確かに海未ちゃんの言う通りかもしれない」
穂乃果「私たちはスクールアイドルだから、本物の音楽なんてきっとできていないと思う」
穂乃果「でも!」
穂乃果「本物だとか上だとか、そんなものはどうでもいいの!」
穂乃果「私たちはただ、皆で歌って踊る時間が好きだから!」
穂乃果「海未ちゃんと一緒に歌うことが大好きだから!」
海未「!」
※
海未「……」
ガララ
海未「……」
(・8・)
海未「ああ、すみません、勝手に窓を開けて。寒かったですか?」
(・8・)
海未「ちょっと、眠れなくて」
海未「……」
海未「あの人の言ったことで、気付かされました」
海未「勝ちに一番こだわっていたのは、私だって」
(・8・)
海未「あなたたちの音楽は素晴らしいです」
海未「そして、そんなものを生み出せる(・8・)という方々も」
海未「ですが――」
海未「私がもっともっと聴いていたいと思ったのは」
海未「あの人たちμ’sの歌なんです」
海未「不器用で、泥臭くて、芸術性なんて欠片もないですけど」
海未「とても楽しい、あの歌なんです」
(・8・)
海未「すみません。気を悪くしましたよね」
(・8・Ξ・8・)フルフル
海未「ふふ、ありがとうございます」
海未「明日もまた来てくれるでしょうか、あの人たちμ’sは――」
(・8・Ξ・8・)フルフル
海未「……そうですよね。何度も追い返したのに、虫がいいですよね」
(・8・Ξ・8・)フルフル
海未「え? そうじゃない? では一体――」
(・8・)
海未「どうしたんですか? なぜ私を見つめ――」
海未「!」
そうでした。
なぜ今まで忘れていたのでしょう。
私は、私は――
―――――――
コンコン
ガチャ
穂乃果「失礼します」
ことり「失礼します」
穂乃果「サイドテールです」
ことり「トサカです」
穂乃果「海未ちゃん、また来ちゃいました」
海未「……」
ことり「寝てる?」
穂乃果「そっか、じゃあこのメロンだけでも」
海未「ふ……ふふ……」
ことほの「!」
海未「あはははは!」
穂乃果「う、海未ちゃん!」
ことり「どうしたの!?」
海未「だって、2人が変なこと言うからです」
海未「なんですか? サイドテールとかトサカとか」
海未「あなたたちは、そんな名前じゃないでしょ」
海未「穂乃果、ことり」
穂乃果「海未、ちゃん……」
海未「穂乃果とことりを始め、皆には散々迷惑をかけました」
海未「あれだけの暴言を吐いたんです。とても許してくれるとは思えません」
海未「だけど、だけど」
海未「もし、もしも、こんな私でいいのなら――」
海未「もう一度、仲間に入れてくれますか?」
ダキッ
穂乃果「海未ちゃああん」
ことり「海未ちゃーーん」
海未「ちょ、ちょっと、苦しいですよ2人とも」
※
μ’sのみんなは誰一人怒ることなく、私を温かく受け入れてくれました。
この仲間たちのためにも、今までサボっていた分、気合を入れなければいけません。
もちろん、目指すはラブライブ優勝です!
穂乃果「はい、海未ちゃん」ドサッ
海未「これは?」
穂乃果「もちろん、新曲の作詞ノートと、たまっていた生徒会の仕事だよ」
海未「こ、こんなに……」
穂乃果「今日中にお願いね」
海未「きょ、今日中!?」
海未「い、いえ、元はといえばサボっていた私が悪いんです」
ことり「そ、そんなことないよ。ほら、生徒会のは私も手伝うから」
海未「うう、ありがとうございます、ことり」グス
海未「さあ、やりますよ!」
穂乃果「ファイトだよ、海未ちゃん!」
海未「はい!」
海未「……!」
穂乃果「じゃ、私はこれで~」
ガシッ
穂乃果「!」
海未「待ちなさい、穂乃果」
海未「この書類は生徒会長の仕事ですよねぇ」
穂乃果「ヤバい、バレた……」
穂乃果「逃げろぉー」
海未「穂乃果!」
穂乃果「ご、ごめんなさーい!」
ことり「あ、海未ちゃーん、穂乃果ちゃーん」
※
(・8・)
(・8・
(・8
(^
(
※
あれ以来、(・8・)が私の前に現れることはありませんでした。
きっと自分の国へと帰ったのでしょう。
(・8・)の世界に行きたいという気持ちは、日に日に薄れていきました。
いいえ、たとえもう一度(・8・)の世界へ連れて行ってやると言われても、
私はそれを拒むでしょう。
だって、私が居場所はもう、ここにあるのですから。
(・8・)...
(^8^)
チュンチュン
おしまい
それとも(・8・)なの?
(・8・)(・8・)(・8・)
(^8^)
-
前の記事
【ラブライブ!】にこ「もう二度と三人で飲みになんかいかないからね…!」 2020.04.14
-
次の記事
【ラブライブ!】Aqoursのライブでやってくれたら嬉しいこと 2020.04.14